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当社ではバーチャルシンガー『初音ミク』の世界ツアーシリーズ「HATSUNE MIKU EXPO」(通称「MIKU EXPO」)を、2014年から展開しております。
初めての「MIKU EXPO」は今から10年前の今日、ここ札幌のオフィスから約6,500kmも離れたインドネシアのジャカルタにて開催されました。
「HATSUNE MIKU EXPO 2014 in Indonesia」会場の様子
そこで今回は「MIKU EXPO」の記念すべき10周年を祝して、当社代表の伊藤と「MIKU EXPO」の企画・運営に携わってきたギヨーム・布施の3名に、この10年の振り返りと今後の展望について語ってもらいました。
写真は左から順に、伊藤・布施・ギヨーム
伊藤博之:クリプトン・フューチャー・メディア株式会社代表取締役。北海道大学に勤務の後、1995年7月札幌市内にてクリプトン・フューチャー・メディア株式会社を設立。DTMソフトウエア、音楽配信アグリゲーター、3DCG技術など、音を発想源としたサービス構築・技術開発を日々進めている。2013年に藍綬褒章を受章。
ギヨーム:2014年入社。長きにわたって海外に関する業務全般を担当した後、持ち前のプログラミングスキルを活かすべく念願のシステムチームに異動した。「MIKU EXPO」の無料サブイベントで使用されている、初音ミクの3Dモデルにオリジナルの着色ができるWEBアプリ「Let's Paint」の開発者。
布施美侑:2017年新卒入社。2023年に新設された国際ビジネスチームのチームマネージャー。初音ミクをはじめとしたキャラクターの海外ライセンス展開や、自社制作サービスの翻訳作業など、海外に関する業務全般を取りまとめている。約5年間にわたる業務実績が評価され、最年少でチームマネージャーに抜擢された。
最初の開催地はファン投票で決定した。
―「MIKU EXPO」10周年ということで、まずは当時を振り返ってみたいと思います。そもそもどうして「MIKU EXPO」を展開するようになったのか、伊藤社長から当時のお話を伺いたいです。
伊藤:世界中の人々がアクセスできるインターネット上に『初音ミク』の作品がたくさん投稿されたことで、初音ミクは早い段階から海外でも認知されるようになりました。そのため、海外在住のファンたちから「自分の地元で初音ミクのコンサートを開いて欲しい」という要望が届くことも多く、その声に応える方法として、初音ミクのコンサートと創作文化や技術に関する展示を組み合わせたイベント「MIKU EXPO」を企画しました。当時の日本には海外イベントの経験を有する方がそもそも少なく、どこかに頼ることもできなかったため、会場の手配からVISA申請、ケータリングまで、全て自力でやっていましたね。慣れないことも多くて色々苦労しましたが、そのかいあって、どの都市も大勢のファンが集まってくれたので、今ではエージェントと契約できるまでになりました。あの時、思い切って挑戦しておいて良かったです。
―最初の開催地は、ジャカルタでしたね。それも投票で決定したと聞いておりますが……?
伊藤:その通りです。当時運営していた海外向けのコミュニティサイト内で「Help Us Find You!」キャンペーンを行い、「『初音ミク』に来て欲しい」と望むファンの声を投票という形で全世界から集めました。投票数は10万を超え、最多得票数を集めた都市がインドネシアのジャカルタでした。3公演実施して、約15,000人を動員したと記憶しています。私も現地まで赴きましたが、会場の敷地の外まで待機列がはみ出すくらいに、たくさんのファンが集まってくれました。初音ミクのブルーグリーンの髪色とお揃いの色をしたTシャツを被ってミクのコスプレをした方や、インドネシアの民族衣装を初音ミク風にアレンジしたコーデの方など、皆さんが想い想いの表現をされていたのが嬉しかったですね。
布施:”海外ファン”と言うと欧米圏やアジア圏の方を想像する人が多いかもしれませんが、初音ミクの英語facebookのフォロワー層を見てみると、今でも東南アジア圏の割合が高いんですよ。初音ミクの作品はネット環境さえあれば誰でも無料で視聴・閲覧できるため、新興国にも受け入れてもらいやすい存在なのだと思います。
ギヨーム:ちなみに当時の投票結果は、その後もしばらく次の開催都市を選ぶ参考にしていましたよ。2014年5月にジャカルタで開催した後は、同年10月にロサンゼルスとニューヨークで開催し、2都市合わせて30,000人以上を動員しました。
「HATSUNE MIKU EXPO 2014 in NEW YORK」観客の様子
―その後も世界中の色々な都市を巡り、現時点での公演数は、偶然にも通算39都市100公演になりましたね! 色々な思い出があると思いますが、特に印象に残っている公演はありますか?
伊藤:報告を受けて私も驚きましたが、10年間に公演した都市が39(ミク)都市で、公演した数がちょうど100とは、神がかってますね!私はこれまでの全ての世界ツアーに足を運んでいるので、それぞれに思い出がありますが・・・今は、つい先日まで開催していた「HATSUNE MIKU EXPO 2024 North America」のアリゾナ州のフェニックスで行った公演が印象が強く残っています。アリゾナ州での公演は今回が初だったにもかかわらず満員御礼の大盛況で、多くの方々に集まっていただけたことに、あらためてインターネットの力を感じました。
ギヨーム:私は2016年にメキシコで初めて開催されたモンテレイ公演で、一曲だけ特別にスペイン語で用意していた曲が演奏され始めた瞬間、観客から高いピッチの歓声が上がったのが印象的でした。他の公演よりも若いファンが多く、非常に強いエネルギーが伝わっていました。
布施:私にとっての印象深い公演は、やはり入社後はじめて参加した「MIKU EXPO 2017 in Malaysia」です。この公演は非常にユニークで、なんとコンサート本編で5ヵ国語の楽曲が披露されていました。マレーシアという多言語文化の地域性を表しているなと思いますし、公演の演出自体も大変華やかでした。企画展会場に設置していた"ピアプロの壁"(来場者が自由に書き込める壁)にも、様々な言語の書き込みが集まっていたのを憶えています。
「HATSUNE MIKU EXPO 2017 in Malaysia」に設置していた"ピアプロの壁"
ローカライズと創作支援の両立を意識した。
―当社が主催するイベントは他にもいくつかありますよね。他のイベントとは異なる「MIKU EXPO」ならではの工夫について教えていただけますか?
ギヨーム:開催地の言語によるMCを取り入れるのは、世界ツアーである「MIKU EXPO」ならではの工夫だと思います。2024年5月現在、ソフトウェアとしての『初音ミク』は日本語・英語・中国語バージョンしか存在しませんが、「MIKU EXPO」では最新の音声合成技術を活用して各開催地の言語を話すミクのライブMCを用意しています。
布施:あとはイベントで使用するビジュアルの制作を依頼するイラストレーターさんに関しても、なるべく現地の方に依頼するということを意識しています。例えば2019年に開催した「HATSUNE MIKU EXPO 2019 Taiwan & Hong Kong」では、2種類のサブビジュアルを台湾の方と香港の方にそれぞれ依頼しました。こちらから細かい指定は特に入れておらず、いずれのビジュアルも現地の方が考えた現地らしさがそのまま反映されたデザインになっています。
「HATSUNE MIKU EXPO 2019 Taiwan & Hong Kong」サブビジュアル(左:台湾/右:香港)
伊藤:直近ですと、「HATSUNE MIKU EXPO 2024 North America」では、ライブのバンドメンバーに現地のバンドを起用するという試みも行いました。とてもパワフルな演奏とパフォーマンスで、日本からお越しになっていたファンの方々は驚いたかもしれませんね。
―そうした工夫は全て「ファンのため」でしょうか?
布施:もちろんファンのためでもありますが、合わせてクリエイターのためでもあります。当社はクリエイターのためのクリエイター(メタクリエイター)として活動をしておりますので、初音ミクを通じて少しでも多くのクリエイターの皆さまに活躍のチャンスを与えたいという想いがありました。そのため、楽曲コンテストや衣装コンテスト、及びご当地ビジュアルの発注にて現地のクリエイターを起用することにより、ローカライズとクリエイターへの活躍の場の提供を並行して実現しています。日本文化が好きで初音ミクが好きというファンの方も多くいらっしゃいますので、そのバランスを取ることが難しく、チームでディスカッションを重ねながらベストな着地点を常に模索しています。
伊藤:ローカライズはただ現地に合わせて言語を変えればいいといったことではなく、その地域ごとに本当に求めていることを汲み取り、どのように適応させていくかという考え方が重要なポイントになります。これからも広い視野で各地の文化・価値観に目を向け、世界中のクリエイティブな皆さんが初音ミクを取り巻く創作文化に興味を持ってくださるようなイベントを届けていきたいですね。
「HATSUNE MIKU EXPO 2024 North America」で起用したイラストレーターの一人は、過去に実施したイラストコンテストに参加してくれた現地クリエイター・・・という裏話の最中
初音ミクのライブは「一緒に創るもの」。
―ところでライブでは日本語の曲も多く歌われますよね? 言語の壁で反応が悪い……といったことはないのでしょうか?
ギヨーム:言語のせいで反応が悪いと感じたことはありませんね。「MIKU EXPO」に来てくださる海外ファンの皆さんは普段からネット上で日本語の楽曲をそのまま聴いているため、日本語のままでも十分盛り上がってくださいます。コンサート中も「ミクさん、かわいい!」と日本語の歓声が聞こえてきますよ。
伊藤:初音ミクはもともとスクリーンの中にいるバーチャルシンガーなので、人間の歌手のようにそのシンガーだけの力でステージを盛り上げることはできません。初音ミクの音楽を奏でる最高の生演奏や、雰囲気を盛り上げる照明演出等も欠かせない要素ではありますが、最も重要なのは観客の皆さんの反応です。初音ミクのライブは、観客の皆さんが想い想いに楽しみ、その楽しさを表現してくださることで、一緒に創り上げているものだと考えています。
―「一緒に創り上げる」と言えば、コロナ禍に開催したオンライン企画ではファンがライブ演出に携われる機会なども用意していましたよね。
布施:「HATSUNE MIKU EXPO 2021 Online」と「HATSUNE MIKU EXPO 2023 VR」のことですね。どちらのオンラインコンサートも「ファンの皆さまと一緒に創り上げるコンサート」を目指してクラウドファンディングを実施した企画で、ライブで演奏する楽曲を提案できる権利や、演出オブジェについて提案できる権利など、ファンの皆さまが様々な形でコンサートに携われるメニューを用意しました。
過去のイベントに参加するファンの様子なども盛り込まれていた「HATSUNE MIKU EXPO 2021 Online」の演出
ギヨーム:オンラインコンサートでは、ファンがオリジナルの着色をした初音ミクの3Dアバターがステージに登場する演出なども行いましたよ。「MIKU EXPO」では2014年のプロジェクト始動時からファンが集まって一緒にクリエイティブな体験を共有するアクティビティを色々と提供していて、その一つに「MIKU EXPO」恒例のサブイベントと化している色塗りワークショップがあるんです。初音ミクのシルエットが印刷された紙に色を塗ったり、初音ミクを模した白いビニールフィギュアに色を塗ったりと形を変えながら提供していて、最近ではWEBアプリ上で初音ミクの白地の3Dアバターにオリジナルのデジタル着色ができるようなりました。2021年と2023年のオンラインコンサートでは、ファンの皆さんがそのサブイベントに参加して制作した3Dアバターがステージにも登場し、初音ミクとファンの一体化を象徴する感動的な瞬間となりました。
「HATSUNE MIKU EXPO 2023 VR」でファンが着色した個性豊かな3Dアバターたちが登場した際の演出
伊藤:オンラインコンサートでは、コンサート最後のエンドロールクレジットで初音ミクに名前を読み上げてもらえる権利、というのもなかなか好評でしたね。「MIKU EXPO」は今年からリアル開催に戻りましたが、オンラインコンサートにはオンラインならではの良さがあるので、いつかまたファンの皆さんと創り上げるオンラインコンサートを企画するのも楽しそうだと思っています。
―それでは最後に、今後の展望と意気込みについてお聞かせください!
伊藤社長:「MIKU EXPO」は初音ミクがもたらした創作文化を、日本だけでなく世界にも広めてゆきたいと思って始めました。10年続けてきて、多くの国や地域で「MIKU EXPO」を開催できたことを、本当に誇らしく思います。10年経って世界の状勢は随分と変わりました。その間コロナもありましたし、我々のライフスタイルも様変わりしましたよね。次の10年は、おそらくさらに世界の状勢が変化するものと思いますが、「MIKU EXPO」はこれまでと変わらず、世界の皆さんがミクたちを通じて自己表現したり他者とわかりあえる世界を目指していけたらいいなあと思います。世界には「MIKU EXPO」を届けるべき場所がまだまだ多くあると思っていますので、引き続き「MIKU EXPO」の活動に注目していただけらた嬉しいです。
ギヨーム:私は「MIKU EXPO」開始当初から初音ミクの海外展開に携わり、2年前にシステムチームに異動して海外ライセンス業務から離れましたが、今でも皆さんが楽しんでいただける「MIKU EXPO」が続くことを心から願っています。今後もサブイベントの開催に協力するなど、違う形で貢献していきたいと思います。
布施:「MIKU EXPO」は、初音ミクを取り巻く創作文化、つまりは世界中のファンやクリエイターの皆さまがいてくださるからこそ成り立つものだと考えております。これからも皆で一緒に盛り上がれる「MIKU EXPO」を、少しでも多くの方にお届けできるよう、チーム一丸となり試行錯誤を重ねていきます。今まで行ったことのない地域にも積極的に展開を広げ、「移りゆく世界に初音ミクの歌を届け続けて」いきたいです。10周年アニバーサリーイヤーははまだまだ始まったばかりですので、今後の展開にもどうぞご期待ください!
-皆さま、ありがとうございました!
クリプトン・フューチャー・メディアは今後も国内外のクリエイターの創作活動を応援し、海外展開にも力を入れてまいります。ご興味をお持ちいただけた方はぜひお気軽にエントリーください!
(英語版はこちら:https://mikuexpo.com/10th/images/ME10th_anniversary_240528eng.pdf)