来たる9/25(日)、「初音ミクシンフォニー」がパシフィコ横浜国立大ホールで開催されます!
2016年から毎年、ボーカロイドとオーケストラの融合を楽しめる公演を展開している「初音ミクシンフォニー」。その斬新な組み合わせで美しいハーモニーを聞かせてくれるイベントには、運営に関わる皆さんのどのような思いや工夫が織り込まれているのでしょうか。
今回は「初音ミクシンフォニー」の立ち上げ・企画運営を行っているButai Entertainment代表取締役の池田さんをお招きし、ミクシンフォニーの企画・選曲・演出などプロデュースに携わってきた当社スタッフを交えオンラインでのクロストークを行いました。
<経歴紹介>
池田俊貴氏:Butai Entertainment株式会社 代表取締役。EXIT TUNES/ワーナーミュージック在籍時からCD制作やアーティストマネジメントに携わる。2016年に「初音ミクシンフォニー」、2021年には「セカイシンフォニー」を立ち上げ、企画運営を担当している。
安達直輝:2013年入社。セガ(Project Divaシリーズ)・グッドスマイルカンパニーの担当を経て、「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク」の立ち上げに参加。企画戦略からライセンス管理/契約まで幅広く担当している。
宇惠野亜純:2013年入社。『初音ミク「マジカルミライ」』や鏡音リン・レン初の単独3DCGライブ『鏡音リン・レン Happy 14th Birthday Party「Two You☆★」』の進行管理などを担当。現在は主に音楽事業に関する案件とその調整に勤しんでいる。
<聞き手>
佐々木渉:初音ミク/鏡音リン・レン/巡音ルカの企画立案・制作を手掛ける。セガから発売された「Project DIVA」「Project mirai」シリーズや、セガとColorful Paletteよりリリースされた「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク」や「初音ミクシンフォニー」「セカイシンフォニー」立ち上げにもクリプトンのプロデューサーとして参加。
佐々木:最初に自己紹介をお願いします。まずは2016年の「初音ミクシンフォニー」(通称:ミクシンフォニー)の立ち上げからプロデューサーを努めてくださっている池田さんよりお願いします。
池田:2008年にEXIT TUNESに入社し、ボカロコンピレーションやアーティストアルバム制作、アーティストマネジメントに携わっていた関係で、クリプトンさんとご一緒にお仕事をさせていただいておりました。2013年にワーナーミュージックへ入社し、2016年に「初音ミクシンフォニー」の企画立ち上げを行いました。現在はButai Entertainment 株式会社を設立して、引き続き「初音ミクシンフォニー」と「セカイシンフォニー」を手掛けさせてもらっています。
佐々木:レーベル時代に関わられていたボカロPさんはどんな方々がいらっしゃいますか?
池田:そうですね、ジミーサムPさんや、cosMo@暴走Pさん、40mPさん、ピノキオピーさん、そして、ひとしずく×やま△さんや悪ノPさん、keenoさんは自分がワーナーミュージックへレーベル移動した際もアルバム制作に関わらせてもらっていました。他にも多くのアーティストさんとお仕事をさせて頂きました。
佐々木:ありがとうございます。続いて安達くんに伺いたいのですが、ミクシンフォニーに携わっていたのはいつ頃、どの期間になりますか?
安達:2016年の立ち上げから2020年までですかね。ミクシンフォニーは立ち上がりからセガさんにご協力いただいたり、グッズとしてフィギュアを販売したりしているので、その辺の調整を行っていました。
ステージの内容はプロデューサー兼ディレクターの佐々木さんが全てコーディネートされる形だったので、僕はその他小間使いのような雑務をやっていました(笑)
佐々木:いやいやそれは言い過ぎですよ(笑)じゃあ、2020年のサントリーホール公演からはもう宇惠野さんに担当を引き継がれているんですね。
安達:そうだと思います。なので僕はサントリーホール公演を観に行けてないんですよね。いつか行きたいなぁと思っています。
佐々木:なるほどですね。では続きまして、宇惠野さんはいつから携わっているんでしたっけ?
宇惠野:徐々に引き継いでもらって2020年くらいからメインでミクシンフォニーに携わっています。
佐々木:ちなみにミクシンフォニー以外で普段はどんな業務をされていますか?
宇惠野:そうですね…。これまでいろんなタイプのライセンス業務を担当させていただいたんですが、今は主にKARENTの音楽配信やライブイベントのテーマソングの制作などに関わったりしています。
佐々木:マジカルミライや先日開催されたリン・レンライブも手掛けられていますよね。
鏡音リン・レン Happy 14th Birthday Party「Two You☆★」
宇惠野:はい、リン・レンライブにおいてはイベント全般を担当していました。
過去にはマジカルミライの企画展における展示やワークショップ、ステージ制作など色々担当してきて、今はライブ関係やBlu-ray&DVDの担当など、音楽メインのところに落ち着いている感じです。
佐々木:ありがとうございます。では、今日の本題であるミクシンフォニーにフォーカスしてお話を進めたいと思います。
まず、池田さんが「初音ミクシンフォニー」を立ち上げられたきっかけをお聞かせください。
池田:「初音ミクシンフォニー」を企画するちょうど1年前くらいに、同じ部署で『テイルズ オブ』シリーズの楽曲を演奏するオーケストラコンサートがワーナー/バンダイナムコさん共催で立ち上がりまして。
それを見て「初音ミクでもできないかな」と思い立ったのがきっかけです。あとは、プライベートで「ディズニー・オン・クラシック」のような様々な音楽をオーケストラカバーするというコンサートにも足を運んでいたので、それらもヒントにしながらご提案させていただきました。
佐々木:なるほどですね。ミクの楽曲もオーケストラアレンジにハマるんじゃないかと。
池田:ボカロとオーケストラとでは一見してかけ離れているような印象が強いと思うのですが、ボカロ曲は良曲が多く、アレンジを工夫して豪華にオーケストラで演奏することでその楽曲の良さを再認識できるいい試みなんじゃないかなと考えました。
佐々木:当時のボカロといえばロック色が強くラウドなテイストのものが多かった中、オーケストラで様々な楽曲を取り上げることで、従来とは異なるコンセプトで楽曲を紹介できるのではと思われたんでしょうか。
池田:そうですね。オーケストラ特有の解釈やアレンジがマッチして面白くなりそうだなと思ったりしました。立ち上げ当初からアレンジや楽器編成、演出に関しては特にこだわっています。
(写真提供:国府田利光)
佐々木:安達くんが当時池田さんたちから「初音ミクシンフォニー」のアイデアを伺った際、どういう印象を受けましたか?
安達:ご提案いただいたのが2016年で、ミクがまもなく10周年を迎えるというタイミングだったと思うのですが…その10年間でファンの方々の中から「音楽をリッチに楽しみたい」というような需要も確かに出てきているのかなと思いました。
当時、ゲーム音楽のオーケストラコンサートは展開され始めていたのですが、そもそもゲーム楽曲や劇伴って生音やオーケストラが使用されているものが多かったと思うんですよね。
それらに比べて、ボカロは打ち込み音源が多いし、ソリッドな質感の楽曲が多いのでオーケストラとかけ離れているというか、性質的に真逆に感じられると思うんですよね。もちろんハマる曲もあるだろうとは思いつつ、「『ゴーストルール』をオーケストラでやったらどんな感じになるんだろう」なんて思う部分もあって、ワクワクと不安とが重なり合うような感覚でした。
佐々木:そうですよね。私もそれまでのミクのファン層というか、「マジカルミライ」だとかに来場してくださるファンの方々に対してオーケストラを主軸としたこのイベントをどのようにアピールするか、当時少し悩んだ記憶があります。
ボーカロイドの音声や曲想と、有機的なオーケストラ演奏を混ぜ合わせる試みは難しかったと思いますし、オーケストラの皆さんや指揮者の方からしてみても、きっと不思議な感じですよね。演奏者の方々には、すんなりと受け入れてもらえたものなんでしょうか。
池田:ちょうどお声掛けした時期、東京フィルハーモニー交響楽団さんはゲーム音楽のコンサートなどいわゆるザ・クラシック以外のコンサートにも取り組まれていて、指揮の栗田博文さんもまた様々なジャンルの演奏の指揮をされていたこともあり、とても柔軟に対応してくださいましたね。ゲーム音楽や劇伴のコンサートが人気を博していたこともあり、興味を持ってやってくださった印象がありました。
佐々木:そうなんですね。初めてだらけのシンフォニーを立ち上げ、試行錯誤しながら1年1年積み重ねてきたと思います。宇惠野さんが担当されるようになった2020年からは、全曲オーケストラのみで演奏する形式でのコンサートも始まりましたが、お客さんの反応にどのような印象を受けましたか?
宇惠野:まずは、ボカロ音楽そのものがボーカロイドのキャラクターなしでも成立して愛されているんだなとひしひしと感じました。
また、ミクシンフォニーを芸術的で素晴らしい音楽体験を提供する場として運営側も毎年積み重ねてきたからこそ「絶対に聞きに行きたい!」と思ってくださるファンのみなさんの熱量に繋がったんじゃないかなと思いました。
ただ、初開催だった2020年のサントリーホール公演は新型コロナウイルスの関係で一度延期になってしまったので、会場に足を運んで聞きたいと思ってくださった全ての方々に届けることはできなかったように感じ、心残りでした。でも、ファンの方々が待ってくれていたおかげで、今年もう一度サントリーホール公演を行えて、ザ・シンフォニーホールという大阪の素敵なホールでも披露できるということに繋がったので、ジャンルの垣根を超えて純粋に音楽を楽しむことを続けてきてくださったみなさんがいてくれてありがたいなと思います。
佐々木:シンフォニーはもちろん、コロナ禍で音楽レーベルさん自体が大変だった時期と思うのですが、それでもシンフォニーを続けて来られた池田さんの想いを伺えますでしょうか。
池田:コロナ禍の2020年、サントリーホールでのコンサートをご提案した際は、クリプトン伊藤社長からもキャラクターが全く出演しないコンサートは初めてで、当時懐疑的に思う部分があったとお聞きしていましたし、僕自身にとってもサントリーホール公演はかなりチャレンジングな試みではありました。
それでもクラシック専用ホールで公演を開催するのは、オーケストラコンサートの企画立ち上げ時からの目標の一つでしたし、オーケストラのみで構成することで改めて楽曲の良さを伝えられるはずだと、長い間ボカロに関わってきたからこそ自信がある部分もあったような気がします。
今回の横浜公演オフィシャルパンフレットの取材で、指揮者の栗田さんにインタビューさせて頂いたのですが、やはり2020年はオーケストラコンサート界隈も中止や延期が続き、困難な時期を迎えていたなか開催された「初音ミクシンフォニー」が指揮者や演奏者にとっても久々の公演だったそうで一体感が凄かったとお聞きしました。
僕らスタッフもそうですけど、演奏者・指揮者も含めあのサントリーホール公演はかなり思い出に残っているんだと思います。
コロナ禍の大変な中で、ああいったコンサートができたというのは、これからもミクシンフォニーをずっと続けていきたいという意思を改めて持ち直すきっかけになりましたし、今後オーケストラオンリーの公演と、映像演出ありの公演の2パターンで開催したいと思うきっかけにもなったかなと思いますね。
佐々木:今までの公演を振り返って、印象深かった楽曲や演出はありますか?
池田:書き下ろし楽曲は印象深いですね。初年度のテーマ曲であるMitchie Mさんの『未来序曲』、5周年テーマ曲のジミーサムPさん『舞台』、ふわりPさんのオールキャスト曲『たいせつなこと』、今回のkeenoさんの横浜公演書き下ろし曲『青を焚べて』など…
あとは、初年度の公演で『ぽっぴっぽー』(ラマーズP)が始まった瞬間に、客席からどよめきが起こったのは忘れられません(笑)そこで観客の皆さんや演者側の緊張も解けて良い公演になっていったところも含め、かなり印象的でした。
佐々木:そういうお客さんの反応も踏まえて、悪ノリでミクダヨー(※)を登場させるような流れを取り入れたこともありますよね(笑)
演奏者の方々にも会場に流れる独特の雰囲気を楽しんでもらえたところはあったのかなと思います。
音楽面以外でも、キービジュアルやグッズで「シンフォニーならでは」なものが作られてきた印象もありますが、安達くんの方でビジュアルの調整やグッズのラインナップを考える際、どういう感じで意識されてきましたか。
※ミクダヨー 『初音ミク and Future Stars Project mirai』の公式プロモーションキャラクターとしてセガが作成した『ねんどろいど版 初音ミクの着ぐるみ1号』の通称。
安達:そうですね。多分、ファンのみなさんがミクシンフォニー開催決定を聞いて、最初に思われたのは「いつも法被を着ている俺たちは、今回何を着ていけばいいんだ」みたいなことだと思うんですよね。カジュアルな服装でOKですよというメッセージも公式で出しつつ、フォーマルな格好で会場に行きたいと思われるお客さんもいらっしゃるだろうと考えたので、今までのイベントでは作ってこなかったネクタイとかカフスのような綺麗めなアパレルの展開を行ったりしました。実際、評判も良かったので嬉しかったですね。
佐々木:ですね。そして近年ボカロがオーバーグラウンドで聞かれるようになり、メジャーで活躍するボカロPさんも増えている中で、客層の移り変わりもあるのかなと思うのですが、宇惠野さんから見て、昨今のライブに来てくださるお客さん層の変化は感じますか?
宇惠野: そうですね。例えば「マジカルミライ」はファミリーや若い女性、あとは企画展だけ観に来てくれるようなフランクな層も多いです。「初音ミクシンフォニー」に関しては比較的男性が多いですが、 以前よりも若い年齢層の方が増えている気がします。
ガチガチの痛バを持ってきてくれる女性の方、スーツでビシッと決めてきてくれる男性の方など様々な装いのみなさんがいらっしゃって、他のイベントとはまた違った形で楽しんでくれているんだなと、そこもシンフォニーならではの魅力だなと思いますね。
佐々木:池田さんには、ミクシンフォニーで培った経験を活かしさらに幅広い年代の方、特にデジタルネイティブ世代の関心が強い『プロジェクトセカイ』を応用したイベントである「セカイシンフォニー」も企画運営いただいていますが、楽曲編成や内容はどのように考えられているんでしょうか?
池田:「セカイシンフォニー」の編成は、「初音ミクシンフォニー」よりもバンドやライブ色を強くしてあります。プロセカのそれぞれのユニットの再現を重視しながら、ビッグなオーケストラサウンドを融合させたコンサートとして展開しようという考えのもとです。ボカロに触れるきっかけがプロセカという若い人たちも多い今、自分としては「初音ミクシンフォニー」と同じく、10代20代で初めて生のオーケストラサウンドを体感するきっかけになればいいなと思っています。
同時にボカロ曲に慣れ親しんでいる方にも様々なボカロ曲の素晴らしさを再認識してもらうきっかけになるコンサートであればと思っているので、是非一度足を運んでいただきたいです。
佐々木:ありがとうございます。
今日インタビューが行われているのは2022年8月31日です。ミクがリリースされて15年が経ちますけれども、その長い時間で培われてきた・楽しまれてきた楽曲と寄り添っている、初音ミクシンフォニーはまだまだ発展性のあるイベントだと思います。バラードやエモーショナルな曲をじっくり聴けますし、どんな楽曲でも繊細かつダイナミックな表現を組み込めるのは感動的です。これからも強みを活かして進化し続けていただきたいです。
最後に、シンフォニーに対しての想いやファンに向けて、そして今後について思うところを池田さんからお願いしてもよろしいでしょうか。
池田:はい。初音ミクの公式イベントとして毎年開催させていただいているのは関係各社様および「初音ミクシンフォニー」を楽しんでくれるファンの皆さんのおかげです。
おかげさまでイベント自体の10周年も目指せるところになっているので、これからもファンの皆さんが初音ミクシンフォニーという特別な空間や時間を堪能していただくためにはどうすればいいか、長く愛されるコンサートになるように日々試行錯誤しながら企画運営を行いたいと思っています。
また新型コロナの蔓延が収まった暁には、海外公演の展開もクリプトンさんと一緒に行いたいというのをひとつ目標として持っております。
安達:現在膨大な数のボカロ曲がある中で、自分が出会う楽曲って限られてくると思うんですよね。
僕が「初音ミクシンフォニー」ですごく印象的だったのが、リン・レンにフィーチャーした2017年にひとしずくPさんの『四季折の羽』という楽曲を演奏させていただいたときのことでして。
会場で曲を聞いているみなさんがすすり泣いていらっしゃって、SNSでも「この曲初めて聞いたけど、 なんていい曲なんだ」みたいな反響がものすごくたくさんあって。オーケストラというすごく力強い音楽で楽曲が再定義されるというか、オーケストラの解釈で提示することで楽曲の良さやキャラクターの良さが、それまで伝わっていなかった方々にも伝えられる機会になっているのはすごく価値があることだなと思っています。
宇惠野:「初音ミクシンフォニー」は楽曲のバラエティーの豊富さが大きな魅力の一つだと思っています。
クリプトンが主催している他のイベントとは違った着眼点からのオリジナリティ溢れる選曲で、これからもファンのみなさんに楽しんでいただきたいですし、クリエイターのみなさんにとっても曲が選ばれることが嬉しいイベントの一つとして認識してもらって、10年、20年…と続いていくならとてもいいなと思いますね。
先日サントリーホールで『神っぽいな』が演奏される時に、ピノキオピーさんが来てくださって、「自分の曲がこんな風に演奏されるとは想像していなかったので、本当に面白かった」と仰ってたんですね。そういう刺激がクリエイターさんの創造性を掻き立てて、巡り巡って作品に還元してもらえたらいいなぁなんて思いながら楽しくお話を伺いました。
DTMサウンドとはまた違ったアプローチで様々なボカロ曲を聴ける貴重な機会だと思うので、是非楽曲が採用された方でもそうでない方でも、フランクに遊びに来ていただきたいです。
佐々木:みなさん、ありがとうございました!
(※「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です)