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”自社内製"で様々な分野において業務を推し進めている弊社ですが、もちろん他社との協業も多く発生しております。今回は、Google Chrome✕初音ミクのCMから、東京の魅力を国内外にPRする"TokyoTokyo"や東京150年祭でのクリエイティブ、昨今の日清カップヌードルのプロモーションまで、長年に渡り初音ミクの企画でご一緒している博報堂関連スタッフの方々と、多くの案件を担当してきた弊社 佐々木による対談を、博報堂が立ち上げた創造性の研究機関 UNIVERSITY of CREATIVITY(以下UoC)を舞台に、前後編にわたりクロストークをお届けします。
<経歴紹介>※ヘッダー写真左より紹介
辻恭平氏:広告代理店勤務、週刊漫画のチーフアシスタントを経て2006年にCrossing Inc.を設立。広告ディレクター、プランナー、プロデューサー、映像制作など。ニコニコ動画にMMD PVを投稿したことがきっかけで、初音ミクの企業コラボ案件に様々な形で関わるようになる。主な仕事は「Google Chrome : Hatsune Miku 」「LUX スーパーリッチ」「東京150年祭ウォータープロジェクション」「ポカリスエットアンバサダー」など。
佐々木渉:2005年クリプトン・フューチャー・メディア株式会社入社。初音ミク/鏡音リン・レン/巡音ルカを企画立案。セガから発売された「Project DIVA」「Project mirai」シリーズや、セガとColoful Paletteよりリリースされた「プロジェクトセカイ」の立ち上げなどにも積極的に参加。
須田和博氏:株式会社博報堂 BID/UoC/スダラボ エグゼクティブ・クリエイティブディレクター
1990年、博報堂入社。2005年インタラクティブ制作へ志願異動。2009年「ミクシィ年賀状」でTIAAグランプリ。2014年「ライスコード」でアドフェスト・グランプリ、カンヌ・ゴールド。2016〜17年 ACC賞インタラクティブ部門・審査委員長。2021年よりUoC複属。著書「使ってもらえる広告」
木下敦雄氏:UNIVERSITY of CREATIVITY プロデューサー 。1989年生まれ。横浜出身。学生時代は、水上スキーに熱中し、学生日本一を経験。2012年慶應義塾大学を卒業後、博報堂に入社。 営業職として、飲料メーカー、保険・金融、不動産、文具メーカーを担当し、企 業ブランディングにおける、 コミュニケーション領域から新規事業開発まで幅広いプロデュース業を経験。 社内プロジェクト、“恋する芸術と科学“に参画。 現在はUNIVERSITY of CREATIVITYにてプロデューサーを務めている。
佐々木:本日は、赤坂の博報堂本社23階にあるUoCにお邪魔しています。自分はコロナ以前だと多いときは3週に1回のペースで博報堂さんにお伺いしていたのですが、最近はもっぱらここUoCでミーティングやブレストなどをさせていただいています。UoCのプロデューサーである木下さんから簡単にUoCのご説明をお願いできますでしょうか?
木下: UoCは、「We are All born Creative」を理念に、創造性を教育・研究・社会実装する研究機関です。創造性を人類最大の資本と捉えなおし、「社会のためのクリエイティブ」をつくり出していこうとしています。
須田:UoCは「創造性の港」というコンセプトを掲げていて、「越領域」の出会いを大事にしていますね。自分は昨年度の春から複属で着任したんですが、最初は何をやろうとしてる場所なのか?なかなか捉えづらかったです。
佐々木:広告会社としての博報堂さんのイメージと、UoCのフロアの雑然としたイメージとでは結構ギャップがありますね。
須田:ギャップあると思います。UoCはフロアのアートディレクションの絶妙な感じが面白いんですよね。散らかっているように見せながら、良いバランスで発想の刺激を与えているっていうか...はたまた、ほんとに散らかっているだけかもしれないですけど(笑)
佐々木:広告会社さんって、合理的に物事を整理したりまとめたりといった方針が多い中、UoCは散らかったところからインスピレーションを受けて、繋がりのバラエティを広げていくような方向性に見えます。
(博報堂本社 UoCフロア入口)
須田:そうですね。アメリカの学術論文を引用した記事で読んだことがあるんですけど、散らかっている部屋に住む人と整理整頓されている部屋に住む人とで、どちらがアイディアの量が多いかという研究があって、散らかってる部屋の人の方がアイディアの量が多いという研究結果だったそうです。
カオスの効果って、本来繋がらないはずのものが、場所が近いだけで繋がったりするじゃないですか。例えば、スピーカーと紙コップだとか、お茶とボールペンだとか。意味的な繋がりはないんだけど、たまたま近くにあったからアッサンブラージュしちゃえ!みたいな。きっとそういう効果を意識して空間デザインしてるんでしょうね。
木下:このUoCのフロアは非言語的な情報を増やすことを意識して作ったと言ってましたね。本とかももっとたくさん置いた方がいいんじゃないかみたいな意見もあったんですけど、それらも一定以上置いてしまうと結局権威的に見えてしまう。だから適当に減らして、バランスをみていたりします。
須田:本のラインナップ、いいですよね。火の鳥があったり、ドラえもんがあったり。
辻:SF百科図鑑までありましたね。
須田:そうそう!SF百科図鑑という1978年にサンリオから出てる分厚い本で、なかなか手に入れられない約40年前の本なんだけど。UoCの本棚のセレクトは素晴らしいですよ。
佐々木:本や雑誌、アートブックならではの価値ってありますよね。なんとなく手にとってパラパラと開いて、何か引っかかるものがあったら情報を拾ってみる…みたいな感じで気楽にタッチできるから、目的がはっきりしているネット検索よりも気軽に触れられると思います。
木下:UoC自体、カジュアルに見せられるようにあえてぼかしているところはありますよね。研究機関としてUniversityを謳いながら、クリエイティビティの港になろうとも言っていて。どちらの性格も大切にしようとしているんだと思います。
辻:UoCのサイトにあるカタリストさんのラインナップを見るだけだと、どういう集まりかさっぱりわからないんですよ(笑)
須田:UoCのコンセプトの1つに「越領域」があって。トークセッションなどを企画する際に、一つの業界のメンバーだけで構成しないでなるべく混ぜるようにと言われています。全然違う領域に知見がある人たち同士がディスカッションすることで衝突がおこることに重きをおいているというか。衝突は司会者的にはつらいんだけど(笑)、いい意味での「異物混入」を大事にしたいんですね。
以前行われた細田さん・佐々木さん・吉藤さんのセッションも、異なる業界の方々で構成させてもらって、そういう越領域性をいつも意識していますね。
佐々木:UoCのセッションって、広告代理店さんの取り組みとしては、非常に実験的でオープンな場所ですよね。博報堂でお勤めの皆さんは、博報堂としての業務と、UoCの実験性の二面性については同じ感覚で楽しめるものなんですか?
木下:人によって分かれますね。
須田:僕も複属から半年間くらい、よくわかりませんでした。もっと正確に言うと、いきなり複属って言われたけど僕は何をやればいいの?っていう感じ。
木下:クライアント・ワークはやらない。かといって何か明確にコレを開発しろってミッションがあるわけでもない。と言って、ただ好きなことをやってればいいってわけでもない。じゃあ、なんなんだ、みたいな(笑)
須田:(笑)でも、半年経って馴染んだらここは得難い場だなと感じるようになりました。本属の仕事のフロアもあるんですけど、佐々木さんが仰った「二面性」というのは、自分はなんだか楽しめるなと。
佐々木:自分からしてみると、すごく懐かしい雰囲気を感じるんですよ。
実はミクを作るとき、ビジネス的に良い売上を立てたいとかではなく、これが面白いものであり、使い手が楽しく遊んでくれるといいなと思って始めたので、みんなが仕事をしているいつものフロアでは作りたくなかった。それで「倉庫貸してくれ」って申し出たんです。
辻:あれはわざとだったんですね!
佐々木:もちろんもちろん。僕、結構人嫌いで、倉庫のほうが集中できました(笑)
というか、人と一緒にいるとその影響を受けやすいんですよ。いつものフロアでは取引先と通話している声とか、カリカリ仕事をしている雰囲気とかがあって、その中で自分もモードを切り替えてやり取りしなきゃいけなくて。ミクみたいなものを作るにあたって大事にしたい遊び心みたいなのを、周りのみんなには絶対に理解してもらえないだろうという卑屈な精神もあり、「倉庫だ!」って言って。
デスクの上にガチャガチャ物を広げながら、ジャズにちんどん屋を混ぜてぐちゃぐちゃにしたような音楽をかけて作業してたら、仕事してるように見えないって怒られたんですけど(笑)
そういうプライベート空間みたいなところで開発していたので、UoCの雰囲気はしっくりくるなと。
博報堂さんを訪れる際は、案件の予算の話とかいわゆるきちんとしたビジネスのやり取りをさせてもらうことが多かったんですけども、そういう日勤に対して、UoCは放課後って感じですよね。
須田:確かに、放課後感ありますね。
佐々木:仕事だと結局、取引先同士で予算とかビジネスの立てつけどうするっていうやり取りになっちゃうわけですよ。それに対して、こういう風に放課後的な場所が存在するよって言えたら、楽になる人はきっといると思うんですよ。
須田:そのとおりだと思います。僕は7年前から部活と称して「スダラボ」というのを立ち上げまして。要は、任意参加だけど、行くと何か楽しいことがある、できることがあるっていう場所や取り組みを作っていかないとまずいなと感じたんですよね。
むしろ、なぜ会社にはそういうものがなかったんだっけ?と思ってしまって。例えばもし、自分が高校生のときに、美術部と映画研究同好会に入ってなかったら、高校にきちんと3年間通えなかったと思います。それらの放課後活動があったからこそ、できたことがいっぱいあったし、出会えた先輩もいたし、それがなかったら美大に進学もしてなかったと思う。高校の授業で行き詰まって終了!ってなっていたかなと。
なのでそういう放課後の時間だったり部活みたいな場所だったり、サークルの部室みたいなのが、職業の場にもあった方が絶対いいし、ないと危ういんじゃないかって。そういう自主活動の場が会社には意外とないと思うんですよ。
木下:学校の部活は学校の看板をしょってますもんね。会社の部活は趣味活動の一環に近いところがあるかも。
辻:そうか。部活動は学校活動の一環ですよね。
須田:例えば、野球部がすごいからその学校行きたいみたいなもので。勉強できる子も野球できる子もいるし、どちらもちゃんと受け入れられている。ビジネスの場というか、会社という構造においてもそういう機構があった方がいいと思うし、今後ますます必要になるんじゃないかっていう。
佐々木:今でこそクリプトンも業務範囲が拡大して、いろんなタイプの人が会社にいるんですが、もともとは音の商材の輸入販売がメインだったこともあり、みんな音楽が好きで。でも、昼間に仕事で音楽のことをずっと考えているが故に、家に帰って音楽聞いたりやったりすることを嫌になっちゃう人たちもいたんですよね。せっかく音楽が好きでクリプトンに入ったのに、仕事で音楽関連のリアルに触れているうちにエネルギーを吸い取られてしまうというか。
同じようなところで辻さんって、博報堂さんとのお仕事にGoogle Chromeのときからいろいろ関わられていた部分と、趣味でMMDとかボーカロイド周りのクリエイターとして活動されていたのと、どういう風に折り合いをつけていて、どういう風に混ざり合っていったんですか?
辻:入社4年目の1997年からインターネットの仕事をしてるんです。
その頃は誰もわからないからとりあえずお前やっとけみたいな感じだし、誰も内容のチェックもできないし、「これでいいのかな…」と戸惑いながら仕事を終える、みたいな(笑)悪く言えば乱暴、良く言えば自由な時代で。なので、自分が面白いと思うものを片っ端から仕事にしていきました。ニコニコ動画への投稿は、技術開発やフィールドワークみたいなつもりでした。それがあまりに面白かったもので、須田さんに「ニコニコ動画アツいっすよ!」などと話していたら、初音ミクとニコニコメッセのコラボの仕事(※)に呼んで頂けたんです。
僕の場合は、あんまり仕事と遊びの境界を作らないスタイルですね。おかげで儲からないんですよ(笑)
※ニコニコメッセ…ニコニコ動画とMicrosoft Windows Live メッセンジャーを連携させたサービスで、2008年実施の本件が初音ミク初の企業コラボ案件となった
須田:でも、実地調査を兼ねてニコ動に投稿っておっしゃってたけど、あの時代のWebの仕事においては自分がいま何に触れているのかを感覚的にわからないと、おっかなくて入っていけないようなところがありましたよね。当時新しかったネットの要素を取り入れていくのって、そのコミュニティにいるユーザーに叩かれてもしょうがないって覚悟で進めないといけない感じだったから、「現地の感覚」がわかっている辻さんが必須だったんだと思います。
佐々木:感覚値をわかってるかどうかって、ニコニコ動画のコミュニティの人達にもなんとなく伝わるんですよね。他社さんにお伺いしたのは、ネット系のクリエイターさんに楽曲制作依頼をすると、「自分たちとはジャンル違いの営利企業」とみなされてかなり警戒されてしまうことが多いらしく。クリプトンだったら名前が知られてるから、比較的容易にお願いできる案件とかが頓挫しちゃうような状況は依然あるみたいなんですよ。
例えば、最近お仕事したナショナルクライアントさんの宣伝チームの方々が、どうしてもボカロやそれらに関連する動画コンテンツのネットでの価値とかノリとかトンマナが理解できなかったらしく…。上層部へのプレゼン作成にあたって「こんなに少ない情報じゃプレゼンできないから、もっと資料を持ってきてくれ」と。結局、企画実施の20日前ぐらいまで上層部に対してプレゼンしてくれなかったということがありまして。
我々がやってることは、(初音ミク発売から)15年経っても、非常にわかってもらいにくい。 でもZ世代の子たちがトレンドリーダーとして出てきている、昨今、彼らとこういう話をしていると、スムーズにニュアンスが通じる感じがするんですよね。 なので自分の肌感としては、クリプトンのやっていることもUoCのこの雰囲気も、上の世代より、より下の世代に通じやすかったり刺さりやすかったり、気楽に構えて参加してもらえたりするんじゃないかなと。
須田:そういえば、一昨日(2022年6月6日)、細田守さんとN高の中学生や高校生たちとのセッションをやってまして。
彼ら自身、憧れの監督が目の前にいるから緊張はしてるんですけど、このUoCの場に対する違和感は全くなかったように見えました。
木下:むしろ馴染んでましたよね。
須田:そうそう。カメラが回ってるし、細田監督と一対一で話して、そういう意味では緊張はしてたんですけど、この場に対するドギマギ感は全くなかった。佐々木さんがさっきおっしゃっていた「もっと資料を持ってきて欲しい」的なご担当の不安感も、すごくよくわかります。でも… 持っていっても理解度は上がらないんですよね。住んでいる人の感覚なので。
ミクさんとの最初のお仕事のときは、クライアントのキーマンがミクさんの大ファンだったので、そもそもそこが出発点で。むしろミクさんについてよくわかっていないスタッフが怒られるみたいな感じでした。それが歴史上、初音ミクが企業の広告に出た初めてのものだったんですよね。
佐々木:セガさんと最初に作ったProject DIVAも、最終企画決裁の会議で役員の方が「孫がすごく楽しそうに初音ミクの話をしてるから、やったほうがいいんじゃないの」みたいな意見を出してくださって。やっぱりお孫さんとかお子さんが推しているから知っている・理解を示してくれるっていう話は度々聞くので。昔から若い人たちに支えられてる感覚があります。
今のボカロPさんとかクリエイターさんとかのフォロワーさんたちはかなり若くて。その反応を見てると、素直で無邪気で、でも案外しっかり発言しているんですよね。見習わなきゃなと思います。
そういう意味では、博報堂さんでも若いネットカルチャーありきになってから、実施した企画の効果とか反響ってそれ以前よりも情報としての濃さが上がってたりするんじゃないですか?
須田:生声が明瞭にひろえる感じはします。あとはアクセス数みたいに実数で見られるのがいいですね。
木下:AIラッパー企画の場合は、少し前の時代にやってもきっと「何か出したね」で終わっちゃってたと思うんですけど。TikTok上で、中高生の子たちが「ブラック校則に関して自分たちが思ってることを代弁してくれた」みたいなコメントをしてくれたのを生で見れたことは、とても貴重だなと思いました。
佐々木:反響の内容で印象的だったことは、ありますか?
木下:ラップ動画の内容だけでなく、毎日新聞さんが発信すること・行ったことに対して、中高生が「草」「これ何」みたいな、親近感を感じながら笑って反応してくれてるのがいいなと。これは今までの新聞には絶対なかっただろうなっていう感覚があって。親御さんから読めと言われて読み始めた、みたいなスタートとは全く違うアプローチができたなぁと。
あとはブラック校則って嘘みたいだなって、動画を作りながらも思ってたんですよ。最近の記事で、部活中に水を飲んじゃいけないみたいな話があって「ほんとかよ、この令和の時代に」と思っていたんですけど、実際に動画を公開したら「うちの学校もそうです」ってコメントが来て。生声を聞けるのが確信になるというか、わからないものが明確に見えてきて、すごくいいなと。
木下:プロジェクト第二弾として井手上漠さんにお話いただいた”ジェンダーレスな生き方”についての記事動画には、みんなの本当にリアルな悩みが寄せられて。おそるおそるながらも自分の悩みを吐露する勇気に触れられたのがすごくよかったです。
「私は男の子。でも女の子として生まれて、バレーをやりたいが男子バレーしかない。女子バレーがない学校だけれど私はどうすればいい。」っていう書き込みに対して、たくさんのコメントがついていて「頑張って先生に言ってみよう」みたいな話になったりとかしてて。
発信するだけじゃなくて、みんなでの会話に発展していくっていう広がり方はすごく今っぽいし。そういう個別具体的反響まで見越して作ったのかって言われると、多分そうじゃないとは思うんですけど、結果そうなったっていう広がりを持てるのは、今コンテンツを作る人にとっては狙ったところ以外でも付加価値が増やしやすいということに繋がるんじゃないかなと。
須田:動画についてるコメントを見て、毎日新聞社さん側の反応も変わったよね。
-まだまだ4人のトークは続く…後編は、ネットクリエイターの台頭とこれからの音楽・文化・SNSについてさらに深く掘り下げていきます。