きっかけは、東日本大震災後のツイートだった。
当時のスタッフが発見したそのツイートは、「東北から出張で東京に来きたが、街がキラキラしていて悲しい」という内容のものだった。この方の住むエリアは、娘さんの通学路がデコボコしているにもかかわらず、まだ街灯すら復旧していない状態なのに、東京にはイルミネーションが灯っていて、カップルなどが写真を撮っている姿を見て、震災が他人事のように思えてとても悲しかったとのこと。
東日本大震災直後は、都内でも計画停電が行われたり、福島第一原発の爆発による放射能の危険が都内を席巻していて、多くの人が否が応にもエネルギーについて深く考えざるを得ない状況をつくっていた。しかし、喉元過ぎればなんとやらで、そのうち街にはイルミネーションが灯り、前述のツイートのような悲しい想いを生んでしまった。。これでは、東京電力(都民の電力確保という命題)による福島の犠牲も、エネルギーについて考えるキッカケも、「原発反対〜!」といった反対運動だけで終わってしまう。デモは民主主義において大切な活動だが、「反対」するだけでは世の中良くならない。しっかりと「対案」を示し、実行しなければ!
イルミネーションのかりは、イルミネーションでかえす。
この想いを胸に我々は、東京電力に頼らない新しい仕組みのイルミネーション・イベントを行うことにした。当初の企画段階では、ソーラーや風力などの自然エネルギーの検討や、水素発電や発電床など、多岐にわたるエネルギー・ソリューションを検討した。しかしこれらは施工費が莫大であり、コスト的に単発イベントには向いていない。「とりあえずグリーン電力でも購入しとく?」的に自分に負けそうになっていたその時、スタッフの一人が発見してくれたのが「バイオディーゼル燃料」というソリューションだった。「バイオディーゼル燃料(BDF)」とは要するに、天ぷら油などの使用済み植物油をご家庭や飲食店などから回収し、精製し直した軽油燃料のこと。
そう、エネルギーは足元にあったということ!
イルミネーションによって街がキラキラしなくても、人は生きていける。でも、遠慮なく使えるエネルギーによって、地域が明るく照らされたら、震災の沈んだ気分も明るく照らされるだろう。まさに、このような日常にとっての基幹的インフラ以外の、地域の単発期間限定イベントの電力にこそ、「エネルギーの地産地消」が必要なのである!
こうして始まったのが、「目黒川みんなのイルミネーション」。当時、JR山手線大崎〜五反田間の約29haのエリアでは、大規模な再開発が進んでいた。そんな中で、このエリアのエリマネさんや再開発組合さんなどから、何かこのエリアを一気通貫するような新たなアイデンティティを開発してくれないか、というオーダーを受けていたところもあり、お互いの利害関係が一致したというわけだ。我々はまず、地域のマンション管理組合や町会に、使用済み植物油回収のお願いに奔走。しかし、発電に必要な油量は、なんと約2200L。到底、地域のご家庭からでる使用済み油だけでは、まかないきれない。そこで、次に地域の飲食店を廻り、協力を仰いだ。それでも全然足りない。。またもや「とりあえず足りない分はグリーン電力でも購入しとく?」的に自分に負けそうになっていたその時、品川区さんが協力を申し出てくれた!。なんと、学校給食で排出される大量の使用済み油を使わせてくれるというのだ。このようにして「目黒川みんなのイルミネーション」は「100%エネルギーの地産地消」を実現することとなった。まさに地域みんなで創り上げたイルミネーション・イベントなのだ。このような意義深いイベントは、地域の人々の誇りとなり、かけがえのないアイデンティティとなっていく。初開催が2011年なので、今年で10年を迎える。当時10歳だった子供はすでに20歳。「100%エネルギーの地産地消」という自分が育った環境で行われている活動が与えた影響は計り知れないだろう。
またこのイベントは、地域企業約30社もの協賛によって成り立っている。「目黒川みんなのイルミネーション」は、商業施設の賑やかしでもなく、大崎〜五反田間の目黒川沿い約2.2kmの地域の遊歩道を明るく照らす、地域の地域によるセルフビルドな「100%みんなの」イベント。2020年はコロナ禍で、残念ながらオンライン開催となったが、それでも、「この灯を来年まで繋いでくれ!」という暖かい応援メッセージとともに、多くの地域企業のみなさまからご協賛いただいた。本当に感謝に堪えない。。
「目黒川みんなのイルミネーション」によって「100%エネルギーの地産地消」という活動を約10年続けてきたが、かのツイッターで見た悲しい思いを、イルミネーションのかりを、イルミネーションでかえすことができただろうか。。。。。。。東日本大震災の鎮魂の想いも込めて、これからも続けていければ、と思う。
イルミネーションのかりは、イルミネーションでかえす。
我々が大切にしている基礎的考え方の一つとして、「こんなんもあるよ〜」的に、違ったアングルやウェイをデザインし、イベント等を通じて実行し、物事を捉え直し行動変容のキッカケを示すというものがある。専門用語では「スペキュラディブ・デザイン」とも言うが、我々は、これからも「はんたーい!」と声を上げるだけでなく、「こんなんもあるよ〜」「こんなんどぉぉ?」てな感じで、ひそかにスペキュラっていきたいと思う(^^)...。