ママリを中心に、多様な家族像を実現するべく事業を展開するコネヒトの代表高橋恭文が、同社のOGでもあり、40~60代女性のセカンドライフ、セカンドキャリア選びを支援する株式会社セカミー代表取締役の増田早希さんと、「家族」の捉え方について話しました。
まずは2人の経歴をご紹介。
増田早希(写真右):早稲田大学卒業後、新卒で講談社に入社。2年目で退職し、社員数10人だったコネヒトに転職し「ママリ」のブランディングを担当。その後、マガジンハウスGINZA編集部、TENGAでirohaのプロモーションを担当し独立。子から母に贈るオンラインカウンセリングサービス「HER LIFE」を経て、2021年8月株式会社セカミーを立ち上げる。
高橋恭文(写真左):株式会社アルバイトタイムスに新卒入社し、求人広告営業を経て、外食起業支援・定着支援事業を立ち上げ。2010年に株式会社カカクコムに入社し、『食べログ』のマネタイズ草創期から、チャネル責任者、ビジネスプロダクトマネージャーとして食べログの課金店舗を拡大。その後、2014年にRetty株式会社に入社し、執行役員、営業責任者として『Retty』のマネタイズに従事。2018年にコネヒトに入社し、営業部責任者、社会発信を担当し、2019年より執行役員として企画戦略室で社会性事業を立ち上げ、2022年4月より代表取締役に就任。
主語が「ママ」から「家族像」に変化したコネヒトの4年間
ー増田さんがコネヒトを退職されて約4年が経ちました。その間、コネヒトはどのような変化を遂げてきたのでしょうか。増田さんがコネヒトにいらっしゃった時の印象も教えてください。
高橋:僕がコネヒトへの転職を検討していた時の最終面接で、ママリのユーザインタビューをさせてもらえないかというお願いを当時の社長にしたんです。そしてそのユーザインタビューに同席してくれたのが増田さんだったんですよね。
入社後の僕のメンターも増田さんが担当してくれたりと、最初から一緒に動く機会が多かったですよね。
増田氏:懐かしいですね。私は当時、ママリのリブランディングやテレビコマーシャル、リアルイベントなどといったママリのブランドをグロースするプロジェクトに携わっていました。ママリのユーザ数がグッと増えたタイミングでしたね。
国内で毎年出産を体験する女性の数十人に1人がママリを使っているという状況から、10人に1人、3人に1人となり、私たちが信じていたママリというサービスを使うことがママたちにとって当たり前になっていったというフェーズでした。
高橋:そうですよね。妊活、妊娠、出産、育児というライフイベントを迎えている多くの女性にママリを使ってもらっているという実感を作ってくれたタイミングでしたよね。
同時に、ママリのユーザが増え、ママたちの生活の現状をより詳細に把握できるようになったからこそ「変えよう、ママリと」というプロジェクトを立ち上げたりもしました。
このプロジェクトは、ママたちの生活に矢印を向けたママリというサービスだけでは家族の日々の生活の課題は解決できないのかもしれないという不安と、集まっているママたちの声を社会に届けることでポジティブな変化を促せないかという期待の両方からスタートしたものでした。
ーママリから少し視野を広げたプロジェクトということでしょうか。増田さんがコネヒトにいらっしゃった時との違いはこの辺にありそうですか。
高橋:実は増田さんも「変えよう、ママリと」のプロジェクトの立ち上げにも携わってくれていましたね。
当時から大きく変わったことというと、ママの声を活用して直接社会変化を促そうというプロジェクトの試みは道半ばで終わりました。このプロジェクトをきっかけに新規事業をいくつか立ち上げたりもしたのですが、悔しい思いをした方が大きかったかもしれないです。
その大きな理由のひとつは「ママの声」という括りが、社外に伝えていく上でどこか「乳児・幼児育児中の特有の悩みだよね」というマイノリティの声の集合体だという扱いを受けたことでした。
企業でいうと、対象者が少ないのでそこだけ解決すべき組織課題としての優先順位をあげることはできない。行政でいうと、母親層の投票率が低いので、そんなに注力しても首長や議員の獲得票に繋がりにくいなどという現実があるんです。簡単に言うと、マーケット規模の話をされているなと感じたんです。道徳的な合意は得られても、短期的にわかりやすいメリットがないと企業も行政も動いてくれない、社会変化を促す力としては足りないんですよね。
そこで、「ママリ」というサービスから広がったひとつのプロジェクトとしてやっていた「変えよう、ママリと」の構想や仮説を大切にしながら、マーケットサイズを広げることに意識を向けました。その結果、会社全体として「ママ」だけでなく「家族」というマーケットを拡大するために「家族像」という多様性を意識した言葉を掲げ、CI刷新をしました。
増田氏:私がコネヒトに入社した理由が「ママリ」というサービスの魅力だったんです。「ママリ」がプレママ・ママたちの日々の生活を変え、その集合体が社会を変えると信じていた人たちと仕事ができていたことが楽しかったのですが、スコープが大きく変わったのですね。
高橋:そうですね。でもそれも、「ママリ」というサービスの成長があって、そこから派生した「変えよう、ママリと」というプロジェクトがあって、そこから様々な翻訳プロセスを経てコネヒトという会社全体が「家族像」に向き合う会社として成り立っているからなんです。
「公」としても「私」としても存在する家族というコミュニティ
ー広義な意味では「家族」に相対する事業を展開している両社ですが、「家族」というコミュニティの捉え方の違いは面白いですよね。
増田氏:セカミーは、40~60代女性のセカンドライフ、セカンドキャリア選びを支援するために立ち上げました。今私が接している人の中には、自分の子ども(たち)が自立し「母親」という役割の先の個人的な未来を模索する方が少なくありません。年代的にはママリのユーザの少し先なのかもしれません。
私は家族というコミュニティに「母親」として属することで削ぎ落とされてきた個の可能性を再発見したいという想いでセカミーを運営しています。役割としての「母親」ではなく、「私」という感覚を取り戻すプロセスを大事にしています。
2022年の5月まで実施していた「わたしたちの部屋」という展示プロジェクトでは、40~60代女性100人のインタビューをもとに、これまでなかなか表に出ることがなかった女性たちのさまざまな暮らしのありようを紹介しました。
高橋:家族内における個の再発見って面白いですね。
数百年後の日本史の教科書に今の時代はどう表現されるんだろうって考えることがあるのですが、ひとつは「公と私の境界線の変化」じゃないかって。コロナの影響が加速した部分もあるのですが、パブリックな領域とプライベートな領域の境界線がどんどん曖昧になってきたというか、融合されてきたというか。そういう表現が今の時代を物語っているのかなと思ったりします。
例えば、「公私混同」という言葉の前提には「公」と「私」という領域が分かれて存在しているという前提があるのですが、「公」の領域に分類される職場で家族の話をしたり、「私」と分類される家の中で仕事をしたり、職場の上司や同僚とコミュニケーションをとったりするのが当たり前になりつつありますよね。「ワークライフバランス」という言葉が流行ったりもしましたが、もう公私の「バランス」をどうとるかという話ではなく、融合した新形態の中でどう幸せになるかという感覚になっているかなと。
そう考えると、家族って「公」と「私」の両方の領域に同時に存在するわけです。増田さんの話に戻ると、家族内における「個」の立ち位置ってどこなんだろうって問いが立ちますよね。
増田氏:私にとっては、「家族」は「公」に入るのかもしれません。私が携わっているサービスの特徴もあるのですが、子育てなどを通じて家族というコミュニティに携わることで削ぎ落とされ続けた「個」があって、それを表面化したいし、そこに可能性や意義を感じています。
高橋:その一方で、社会が家族というコミュニティをどう見ているかというところを意識すると、家族ってどうしても「私」の領域にまだあるのかもしれません。「公私混同」という言葉がネガティブに聞こえたり、「ワーク」と「ライフ」や、「仕事」と「家庭」が対立関係にあるように表現されたりする理由を考えると、外からは家族はまだ「私」の領域のものと捉えられているのかもしれません。
ただ、家族というコミュニティを見ている角度が違うだけなのかもしれません。コネヒトは2020年にビジョンステートメントを作ったのですが、その時「家族」ではなく「家族像」という言葉に拘わりました。固定概念に囚われそうな「家族」ではなく、家族それぞれの多様性を強く意識して「家族像」という言葉を選んだのですが、それは家族の中にいる個の在り方や価値も許容できているのだろうなと話をしながら考えていました。
母親の充実度を高めることで下の世代の自己実現をサポートする
ー多様な家族の理想像を実現しようとするコネヒトと、家族からの個の再発見をサポートするセカミーが交わる部分はどのようなところでしょうか。
増田氏:ひとつは、子どもを持つ女性の生活の充実度を上げることができるサービスを両社ともに提供しているというところです。ママリは、コミュニティとしてたくさんの母親の日常を支えていて、今まで女性たちが1人で体験していた悩みや苦しみを当事者同士で共有することで減らしたり、和らげたりしているはず。そういう意味で、ママリがあることで母親の生活の充実度は上がっていると思います。
高橋:そう感じてもらえるのは非常に嬉しいです。
増田氏:もう少しいうと、母親が充実した生活をおくっているかということは子どもに大きな影響を与えるんです。
私たちが20代後半から40代の子ども世代を対象に実施した「親孝行」に関する調査の結果では、母親の充実度が低いと感じる子どもは、母親の充実度が高いと感じる子どもよりも、自分の就職や転職、結婚や出産といったライフイベントの意思決定を「親がどう思うか」基準でしやすいという結果が出ました。母親の充実度が低いと思う子どもの約半数が親孝行のために結婚・出産を検討したことがあると回答するなど、母親の生き方が子ども世代の選択に大きな影響を与えていることがわかります。
母親が自己充実していないと、子どもが親のために就職や結婚をする自己犠牲が起こりうるということです。このような自己犠牲的な選択は、世代から世代へと引き継がれ低い充実度を繰り返す負のループが続いていく可能性があると考えています。40〜60代女性が自分のために人生を描き直す「セカ活」文化をつくることで、この自己犠牲的な循環に線を引くことが私の目標です。
高橋:コネヒトは、ママリやその他のサービスや事業を通じて母親の生活の充実度を上げていくことができる。
セカミーはママリのユーザより少し上の年齢の女性たちの自己実現をサポートしていく。この両方で自己犠牲と低い充実度という負のループを断ち切っていこうということですね。
ーありがとうございました。