コンセントでは毎年、次年度に入社する内定者のために、その年ごとにオリジナルの内定証書を贈っています。その制作を担うのが入社1、2年目の社員です。
今回は、採用担当の浅野が内定証書の制作した坂本理絵に、企画・制作の背景や思いについて話を聞きました。
/ 登場人物:株式会社コンセント|Human Culture group 人事担当 浅野未空
2021年5月よりコンセントで人事を担当。これまでは金融、ベンチャー企業支援の業界でコンサルティング業務に従事。現在は自社の採用・人材開発戦略、組織制度設計などを担いながら、クライアントの人事課題解決の支援に携わる。
/ 登場人物:株式会社コンセント|User Experience Design group UX/UIデザイナー 坂本理絵
武蔵野美術大学で4年間デザインを学ぶ。あらゆるジャンルや分野に対応できるジェネラルなデザイナーを目指し、2022年に新卒でコンセントに入社。現在はService Design部門 User Experience Design group に所属。UX/UIデザインに関わるプロジェクトを中心に、紙のデザインやコンテンツの企画など、幅広いジャンルのプロジェクトに携わっている。
クライアントワークと人事の仕事を兼務する働き方
浅野 坂本さんは現在、クライアント向けのプロジェクト業務と、人事の仕事を兼務する働き方をしていますね。
坂本 はい、普段は事業部でアプリ開発やコンテンツ企画、グラフィックデザインなどの仕事をしています。入社2年目の1年間は、引き続きクライアント向けのプロジェクトをしながら、人事の仕事も兼務することになりました。主に大学や学生との接点の構築・コミュニケーションデザインを担当しており、今回はその一環として、内定式と内定証書の企画・制作に携わることになりました。
浅野 人事兼務の働き方は坂本さんにとっても新しい挑戦だと思います。実際に人事の仕事に携わってみていかがですか。
坂本 もともと、コンセントという会社がビジョンに向けてどんな人材を求めているのか、どう訴求して迎え入れているのか、入社後にどのような活躍を期待しているのかへの純粋な関心がありました。加えて、それらを考える仕事に携わることで、自分のキャリアへの向き合い方がどう変わっていくかを知りたいと思い、人事の兼務を引き受けました。
実際に関わってみて、デザインを志す学生とコンセントの、出会いやコミュニケーションをデザインする仕事にやりがいを感じています。
先輩から受け継がれた内定証書制作
浅野 坂本さんが内定者だった当時に受け取ったのも、先輩によるデザインでしたね? その当時について聞かせてください。
坂本 当時はコロナ禍の真っ只中だったので、選考も内定式もオンラインで行われました。内定証書も事前に郵送で受け取っていました。内定式の日まで開けないでくださいという指定がされていて、内定式当日に、証書のデザインを担当された方の合図で同期のみんなと一緒にひらきました。場所は離れていても、同じ時間にひとつの体験を共有できるという設計がとても印象的でした。
私たちが受けとった内定証書は、半透明の白いトレーシングペーパーのような紙に包まれていて、その中に少し複雑に折り畳まれた内定証書の本紙が入っていました。
▲2022年卒内定者向けに制作された内定証書
閉じた状態は単色でシンプルなビジュアルでしたが、両端をもってひらくと花びらのように全体が広がって、豊かな色彩が現れるというデザインでした。色や形状の素敵さだけでなく、内定証書をひらくという行為がコンセントのミッションである「デザインでひらく、デザインをひらく」につながっているとわかって、メッセージと表現の一貫性にワクワクしたことを覚えています。
コンセプトのもとになったのは自分の原体験
浅野 そんな経験を経て、坂本さんが内定証書を贈る立場になりました。今回の内定証書がどんなコンセプトで制作されたのかを改めて教えてください。
坂本 今年度の内定式や内定証書も、私が受け取った時と同様、内定者の皆さんにとって驚きや入社への期待感のもてる体験やものにしていきたいという思いがありました。
コンセントという会社を「空港」に見立てて、パスポートのようなデザインにしました。
私はコンセントという環境を、多様なプロジェクトと多彩なメンバーの集まる、ワクワクする出会いに満ちた「港」のようなフィールドだと思っています。これからの飛躍や飛び立つ原点となるようなイメージから、海の港でなく「空港」をコンセプトとしました。
コンセントが空港なら、プロジェクトはフライトかな。内定者のみなさんをコンセントに迎えることを、さまざまな挑戦に送り出す約束と考えるなら、内定証書はパスポートかな。というふうに自然と形式も確定していきました。
パスポートは旅に必要な証明書であると同時に、旅の記録が残っていくものでもあります。そこから、内定式での記録と入社後の配属までの期間、つまり「オンボーディング」の記録を残していけるものとしても設計したいと考えました。内定式で記録した「入社前の気持ち」はコンセントでの挑戦の起点になるはずです。その場限りではなく、継続的な拠り所になっていくといいなと思っています。
▲パスポートを模した内定証書をひらいた1ページ目
浅野 デザインにはどんな思いを込めたのですか?
坂本 この内定証書を通して内定者の皆さんにお伝えしたかったことは2つあります。
1つは、内定者の皆さんがこれからも自分自身の世界をひらいていけるということ、もう1つは、皆さん自身が誰かの世界をひらく力になれるということです。
これには私がデザインの道に進むことになった原体験が関わっています。
高校時代に自分の進路を考える時、総合大学に進んで自分の好きな分野の勉強をするか、美大のデザイン科に進んでデザインの勉強をするかをとても悩んでいました。当時、すでにデザインを仕事にしたいと決めていたので美大に進学しましたが、「これでもうクリエイティブ以外のものに携わる道はなくなってしまったんだな」という寂しさも抱きながらの進学でした。
しかし、友人や知り合いからプロジェクトに誘われたり、デザインの仕事を頼まれたりする中で、音楽や映画、宇宙など、以前までは関わりの薄かった世界に次々飛び込むようになり、「デザインを通じていろんな世界を覗くことができるし、自分の好きな分野ともずっと関わっていくチャンスを得ることができる」と感じるようになっていきました。
それとは反対に、私のデザインを通して、新鮮な発見や驚きに出会えたと言ってくれる人もいました。
私にとってのデザインが、単なる自己表現や仕事の手段でなくなったのは、そんな経験があったからだと思います。
「自分と異なる分野や、そこに関わる人たちは、私の世界をいつもひらいてくれる。私がデザインに真剣に取り組めば、彼らの世界をひらく恩返しができる」という思いが、今でも私にとって大きなモチベーションのひとつになっています。
内定証書本体はホルダーをつけていて、表紙に小さな穴を開けました。
閉じている時には小さな穴からはひとつの色しか見えませんが、ホルダーを開けてみると、本当は多様な色が混ざり合って広がっていたことがわかります。
これが、美大進学直後の私の「ひとつの世界に居るしかない」という思い込みから、「本当はどこにでも行ける」という気付きへの転換を表現しています。
そう気付けた時に感じた、視界がぱっと広がるような感覚が、このデザインの起点になっています。
伝えたいことをどう表現するか、思考と試作を繰り返す
浅野 一連の制作に私も伴走していましたが、コンセプトが決まった後のプロセスを改めて振り返らせてください。
坂本 どんなメッセージを伝えたくてこのコンセプトが浮かんだのか、改めて言語化してから、それらをどう表現するかを考えていきました。
「自由な飛躍」「出会いによる価値観の変化」「期待感」などのキーワードを洗い出すと、それらを伝えるための「色合いは淡すぎず力強さも感じられるように」「グラデーションは均一でなく個々が混ざり合うように」「ライティングは頼もしさと、内定者への信頼も感じられるように」などの具体的な表現方法を考えられるようになっていきます。
それらと併せて、受け取った時の印象や実用性、コンセントらしさなども考慮してデザインを確定させていきました。
浅野 制作の中ではいろいろな試行錯誤や葛藤があったように見えました。最もこだわったのはどの部分ですか?
坂本 メッセージをどう表現に落とし込むかです。
ものをつくる時、コンセプトとビジュアルイメージがはじめからある程度一緒に浮かぶことが多いです。しかし、今回はコンセプトだけが先に浮かんでいたので、そこからビジュアルをつくり上げることにかなり時間がかかりました。
それでも、自分の強い実感が伴う、本当に伝えたいメッセージを贈りたいと思ったので、コンセプトはぶらさず進めようと思いました。
初めは「思考の転換」や「視界の広がり」を1枚の絵だけで表現しようと唸っていました。しかし、内定者の「ひらく」というアクションを借りたらうまくいきそうだと思いつき、この形になりました。
制約の中で発想を飛躍させることの難しさはありましたが、いろいろな人にフィードバックやアイデアをいただいたことで、思いを十分に伝えるものがつくれたと思っています。
▲制作過程の様子
内定者のアクティビティとセットで体験をデザインする
浅野 内定証書が、実際に内定者の手に渡ったのを見てどうでしたか?
坂本 まずはすごく緊張しました。その後に内定者の皆さんの自己紹介を聞いて、それぞれ固有の物語や無二の価値観をもつとても魅力的な人たちなのがわかりました。こんな素敵な人たちの手元に「一緒に旅に出ましょう!」というメッセージを込めた内定証書が収められているのを見ると、照れや嬉しさが胸に迫ってきました。私といつか仕事する時、楽しい旅だと思ってもらうために精進しなければと身の引き締まる思いです。
浅野 内定証書が手渡されるだけでなく、その後の内定者同士、あるいは内定者と社員の対話を生み出せたことも嬉しかったですね。
坂本 今回の内定証書は「パスポート」がコンセプトなので、自分の「旅」について想像してもらうアクティビティを内定式の中に企画しました。コンセントでどんな旅(経験)をしたいか、目指す先はどこか、自分の人生についてはどうか、というような問いについて考えてもらいました。
まずは個人で書き出し、グループで共有し、周りからのフィードバックやアイデアをもらって深めたものを、内定証書の最初のページに書き込みます。
▲内定式でのワークの様子
「旅」について話す内定者の様子を見て、短い時間でこんなに力強い言葉が出るんだと驚きました。自分が何を望んでいるのか、それにどう向き合いたいのかを考えて言語化する力を感じました。日々に追われると、自分の望みやしたいことがわからなくなってしまうこともありますが、向き合うことを忘れず、勇気をもって人に伝え続けてほしいです。
出入国証印を模した内定スタンプの存在もポジティブに働いていたなと思います。
自分の旅を内定証書に書き込んだ後、同じ卓で対話をしていた役員から内定スタンプをもらうというアクションを差し込みました。遊び心的に追加した体験でしたが、自分の「やりたい」とか「楽しそう」という気持ちに素直になってよかったなと思います。
▲内定スタンプを押した中面のページ
デザインに関わり続けることでいろいろな世界がひらいていく
浅野 最後に、内定者やこれからコンセントを目指す学生に伝えたいことはありますか?
坂本 自分の望むこと、好きなことに打ち込んでほしいです。それがいつの間にか、ほかの誰にもない固有性になっていると思います。自分の固有性がどう強みを発揮していくかわからなくても、そこに唯一無二性があることを知っていてほしいです。
仕事や対話を通して誰かの言葉や考えに触れて、新鮮な発見に刺激を受けたり、自分の変化に嬉しくなったり、心が癒されたりしています。コンセントという場は、個々の固有性がとても良いかたちで影響しあう雰囲気があるなと思います。自分の固有性は、歓迎されて、物事の推進のために役立つものであると思えるような信頼感や安心感が土台にあるからかもしれません。そういう場だと感じているからこそ、私も自信をもってこうしたメッセージを発信できています。
皆さんが旅に加わってくれること、皆さんの旅に加われることを心待ちにしています。
一緒にいい旅にしましょう。
内定式の様子はコンセント公式YouTubeで公開しています。