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それぞれのDesign Leadership #02 –「リベンジ」のために掲げた独立運動旗

「Design Leadership」部門は、複数の要因とステークホルダーがからみ合い、一方向からでは解決がままならない硬直化した現状に対して、変革を促すためのシナリオ・プランニング、組織デザイン、新規事業創出などのファシリテーションやリードを行っていくチームです。
そのメンバーは、これまでどんなキャリアを積んできたのか。その1人であるデザインマネージャー、サービスデザイナーの大﨑 優に、これまでのキャリアを振り返りながら、現在のDesign Leadership部門の活動について話を聞きました。

/登場人物:株式会社コンセント|デザインマネージャー、サービスデザイナー 大﨑 優
デザイン経営支援、事業開発支援、ブランディング支援などに従事。2012年にサービスデザイン事業部を立ち上げ、デザイン人材の育成にも携わる。HCD-Net評議委員。Xデザイン学校アドバイザー/講師。コンセント Design Leadership部門 メンバー。コンセント取締役。

「特殊な20年を過ごした」という、デザイナーとしての率直な思い

—最初に、現在の大﨑さんのお仕事について教えてください。

組織に関するデザインコンサルティングをしています。近年、産業へのデザイン貢献が一般に知られるようになったことで、いわゆる「デザイン経営」と呼ばれるように、企業がデザインやデジタルを活用していくための組織づくりが注目されていますよね。私がデザインと経営のアジェンダに統合的に対応できると評価いただくこともあって、デザイン経営に関する相談をいただくことが多いです。

またコンセント社内では、2015年から取締役も務めており、経営企画(事業マネジメントグループ)を経て、2020年からはサービスデザイン部門と自社マーケティング組織を管轄しています。コンセントの多様なデザイナーたちの活動を後押ししながら、クライアントに対してもデザインを用いたソリューションを提供しているというイメージですね。

—そして、現在はDesign Leadership(以下、DL)部門に所属していますね。そもそもDLとはどういう存在なのでしょうか。

DLというのはいろんな捉え方がありまして、「部署」として見ることもできますし、「機能」としても見ることができるんです。なので、私の中では1つの「概念」だと考えるようにしていますね。デザインを武器にビジネス領域や社会でリーダーシップを発揮する活動するような総体、というか。

—また、近年はSNSを通じて積極的に情報発信をしていますよね。

そうですね。2023年に入ってからはnoteでの発信も始めました。書くようになったのには、実はいくつか理由があるんです。社内で使っているMicrosoft Teamsのチャットで毎日の振り返りを発信するようにしていて。組織運営のトレンドの「自己開示」を実験的にやってみようと考えていたんですね。そうやって文章をまとめてみると、意外にもニーズがあるということに気づいたので、「だったら、考えていることをいったん体系化しよう」と思ったのが理由のひとつです。

あと、私のキャリアが約20年ほどになるんですけど、今の時代から振り返ったとき「特殊な20年間を過ごしたな」という思いがありまして。今の時代、「デザイナーは売り手市場」だと言われたりしますよね。昔と比べてみても、デザインのキャリアはすごく多様になりましたし。その一方、あえて乱暴に言ってしまうと、デザイナーになろうとすればある意味誰でもなれる時代にもなりました。私たちが若い頃は、デザイナーになりたくてもなれない人がすごく多かったので。そういう時代の変化の中を生きてきたということを、ある程度まとめておく必要があるんじゃないか、と。

それに、私は今年で42歳なんですけど、人っていつ死ぬかわからないじゃないですか(笑)。「いつか、思うままに自由にデザインを体系化しよう」「いつか自由自在に発信できるだろう」と思っていると、いつまで経ってもその機会は訪れない。思っているうちに忘れてしまう。だから、「今のうちに思ったことは書き残しておこう」と思いました。

自分を突き動かしたのは、デザイン制作事業に対して抱いた失望感

—キャリアのスタートは、エディトリアルデザイナー、グラフィックデザイナーですよね。

そうですね。これまでのキャリアを振り返りますと、学生時代(武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科)はビジュアルコミュニケーションデザインを専攻していて、卒業後にコンセント(当時はアレフ・ゼロという社名)に入社しました。そこからはエディトリアルデザインやビジュアルデザインを中心に活動して、雑誌や広報誌のアートディレクションやデザインをやっていました。

ただ、そうやって仕事を続けていくなかで、デザイン制作事業に対してある種の失望感を持ち始めて。というのも、出版広告業界はお金の流れがある程度決まっているところがありまして。出版社や広告主の先にまず一次請けの会社があって、そこから二次・三次請けの制作会社に発注されていく。間に会社が入るので当然そこではマージンが取られます。巡り巡ってデザイナーのところに仕事が来るときには、利益があまり残らない。当時はそんな感覚がありました。

もちろん、別にお金だけが重要というわけではないんです。でも、実際社内で一番売上を出したとしても、個人的には思ったより大きい数字にはなっていないと感じていました。当時は私に引き合いがあった仕事を、無理をしてでも全部受けていたので、「……あれだけがんばったのに」という気持ちになってしまったんですね。そこから「なぜ、こんなに売上をつくれないのか」「なぜ、デザイナーの仕事はこんなに利益効率が悪いのか」という問題意識につながっていきました。

時を同じくして、そんな問題意識とは別に、デザインによる事業開発やデジタルサービスのデザインのニーズが高まり始めたんです。その状況を目の当たりにして、「このサービスデザインという新しい領域なら、パラダイムシフトを起こせるかもしれない」という思いが私の中で湧き上がって。それをきっかけに、「後の世代のデザイナーたちがもっとやりたいことをやってお金を稼げる道をつくりたい」「デザイナーの社会的価値を上げたい」と考えるようになっていきました。だから、失望した瞬間と、新たな分野に挑戦できる瞬間がうまく重なったんです。このことは、私の中ですごく幸運だなと思っていますね。

「Design Leadership」を生み出すことになった、組織、営業、デザインという3つの背景

—その後、本格的にサービスデザイナーに転身しました。

あの頃は今ほどサービスデザインが盛り上がってない時期。まだサービスデザイナーは日本に20人もいないぐらいだったと思います。その中で、サービスデザイナーとしてプロジェクトを回しつつ、サービスデザイン事業部の責任者として人を育てるということも行っていました。

当時は出版業界がどんどん縮小している最中で、デザイン制作も価格低下の世界に陥っていました。そのため、コンセントという会社自体、創業から続けてきた出版分野の仕事は大切にしながらも、事業領域を変えていかなければならない時期に来ていたんです。

私はというと、サービスデザインの学びを得て、その一方で人に教えつつ、さらには組織全体もトランスフォームしていかなくてはいけない……という多忙な毎日だったんですけど、「このまま行ったら、デザイナーも、会社も、業界も、みんな生きていけない」という予感があったので、とにかく必死でしたね。

ただ、サービスデザインは、これまでの仕事よりも持続可能性が高いという実感がありましたし、これまで以上にデザイナーの能力も活かすことができる。だから、やっぱり楽しいんですよ。

—その後、2018年に社内の新部門としてDLが誕生しますね。

最初、「DLをつくろう」と提言したのは私と代表の長谷川さんだったんです。それには3つの理由がありました。

まず、組織的な側面で言うと、デザインのプロフェッショナルとして成長していくと、会社の構造上マネージャーのような管理側のポジションに寄っていってしまうんです。そうではなく、プロフェッショナルのポジションをつくろう、と。しかも、業務範囲を限定した専門職的なプロフェッショナルではなく、戦略を含めて広範に質の高いアウトプットができるプロフェッショナルです。そういうキャリアをつくらないと、組織がどうしても官僚化してしまう。管理職然として固くなるというか。そういうのは組織としてバランスが悪いので、改善が必要だと考えていました。

2つめの理由としては、営業的な側面で良い効果を出すのではないかという思いがあったことです。デザインリーダーとしてクライアント組織に入り、取締役や事業部長の参謀として一緒にプロジェクトをつくっていくと、クライアントにとってもコンセントにとっても良い仕事を効果的に生み出していくことができます。以前からそういう動きは自然にやっていたんですけど、その形を再生産していくためには新しい部署が必要だろうな、と。

3つめは、デザイナー的な側面です。私はコンセントをある種の「デザインのリーディングカンパニー」だと勝手に思っているんですが、そういう会社だからこそ「デザイナーがリーダーシップを発揮する」部分を、世の中に強く押し出さないといけないと思いがありました。

でも、新部門をつくったものの、最初私は入らなかったんです。そのときは事業マネジメントグループで経営企画のようなことをしていましたので、そちらに全力を尽くしていました。そうしているうちに翌年、DLに加わったという経緯ですね。

デザイナーとしての「リベンジ」のために掲げた、Design Leadershipという名の独立運動旗

—こうしてキャリアの話を聞いていると、長年の間、デザイナーの社会的なポジションを底上げしようとしている印象を受けます。

私の中にあるのはある種の「リベンジ」かもしれません。「職業デザイナーとしてはきつい思いをした」というのがずっと私の中にありますから。もちろん仕事はずっと楽しいですし、尊敬できる良いクライアントにも恵まれてきましたけど、肉体的に辛い時期もありました。あと、当時はデザイナーが「下請け業者」のように見られがちだったのも苦痛でした。だから、私は業界構造に押し込められた「デザイナー奴隷時代の解放宣言」を勝手にしていて(笑)。そこに掲げられた独立運動旗のひとつに書いてるのが、DLという感じなんですよ。

—ちなみに、現在の仕事につながるターニングポイントがあるとしたら、いつだったと思いますか。

2011年ごろに1年だけ「プロデューサーチーム」を経験したことですね。営業メンバーが中心の組織だったんですが、そこで「プロジェクトをプロデュースする」という視点を強化できました。あと、「デザイナー」という存在を相対化できた点が大きいです。チームに入る前からデザイナーという存在を客観的に捉えようとはしていたんですが、プロデューサーという別の立場から見るという経験を経ることで、逆にデザイナーとしてのアイデンティティが強化されたという感じがしました。

もうひとつは、2016年頃にサービスデザイナーとして、あるスタートアップ企業を支援したことです。事業開発がミッションだったんですが、クライアントの代表者と動く中で、事業はもちろん経営や組織づくりにもデザインが有効なことを実感を伴って理解できたんです。以来、クライアントに役立って、なおかつ社会にとっても良いことであれば、デザイナーという自我や制約を持たずに柔軟に活動していこうと考えるようになりました。

—そのような経験は、社内の組織マネジメント業務にも活きていますよね。

そうですね。管理職的な仕事を好まない人もいると思いますが、私はそんなに嫌いなタイプではなくて。マネジメントというのは、言い換えれば一種のディレクションです。アートディレクターというのはデザイナーに指示を出したり、デザイナーが働きやすいように調整したりしますよね。組織の仕事もそれと同じ。だから、アートディレクターの延長としてマネジメントをやっているイメージですね。

自分を更新するために、デザインが言い訳にならない世界に挑戦したい

—現在所属するDLには、どんな魅力があると思いますか。

社会への影響力が大きい仕事をしていることですね。あと個人的には、社内で裁量を持っていることや、裁量があるがゆえに自分が探求したいことを即座に仕事につなげられることがメリットだと思っています。

デザイナーはキャリアが多様であるがゆえに、追求したいものを軸に持って仕事をしないと戦略性に欠けると思うんです。とはいえ、ある程度自分の仕事に裁量を持てる人でなければ、それはできません。その点DLには裁量がありますから、突き詰めたい方向に仕事をつくることができる。それは大きなメリットだと思いますね。

—一方、DLには現在どのような課題があると考えていますか。

再現性の乏しさを解消することが課題です。これは先ほどの「突き詰めたい方向に仕事をつくれる」というメリットの裏返しですよね。そこに再現性を求めてしまうと、DLメンバーの動きが少し重くなってしまう。要するに、人を育成させようというミッションを与えることになってしまうので。このような状況を避けるには、ある程度組織を開いていくようにハンドリングすることが重要なのではないかと思います。DLにジョインしてくれる人が増えてくるという願いも込めて、外に向けた広報活動をもっと増やしていくべきなのかなとは思います。

—最後に、今後のビジョンについて教えてください。

例えばですが、他社の取締役を兼任するとか、行政官を副業でやるとか、コンセント外の実業を当事者として経験していき、スキルを組み合わせていくことは必要かなと感じています。

ひとつは自分の更新というか。これはもう単純にメンテナンスのために必要だと思いますね。世の中のキャッチアップが必要だと思いますし、経営者としてまだまだわからないこともありますから。これでもビジネスのシビアな側面をけっこう見てきたつもりなんですけど、やっぱり経験は重ねたいと思います。

あと、デザインやデザイナーであることが言い訳にならない世界に行ってみたいとも思っていますね。デザイナーというのはいろんな見られ方をしますが、それには色がついていて「デザイナーだからすごい」と言われることもあれば、「デザイナーだから仕方がない」と言われることもあって。私はそういうことがすごく嫌いなので、一度言い訳ができない世界で何かをやってみたいという思いはありますね。

……まあ、本当にやりたいかと言われたら、そんなに今すぐやりたいというわけではないんですけど(笑)。やっぱり、コンセント役員としての仕事にも強いやりがいを感じていますから。ただ、今後の可能性としてはあるかなと思っていますね。

インタビュー/柴崎卓郎 butterflytools
写真/杵嶋宏樹

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