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Penetrator(ペネトレータ)~世界に挑むリーダーたち~vol.4

「宇宙から地球の不動産市場を変えたい!」 衛星データとAIを使って不動産市場の変革を目指すスタートアップ企業、ペネトレータ社の Founder&CEO阿久津岳生さん(以下、阿久津さん)が、スポーツ界のトップランナー、男子柔道金メダリスト・井上康生さん(以下、井上さん)と、「最強かつ最高のチーム作り」について本音で語り合いました。

 (※対談の内容を6回に分けてお届けします) 

対談④ 人生のターニングポイント

―――お2人の『ターニングポイント』についてお聞かせください。

人生を変えた母の死

(井上)

一番大きなターニングポイントは、大学3年生の時。ちょっと重い話になるかもしれませんけど、私の母親が亡くなった時。あれが自分自身を大きく何か成長させてくれたというか…自分をいい意味で目覚めさせてくれたきっかけだったと思っています。

調子乗った言い方になるかもしれませんけど、子供の時から私ずっとチャンピオンだったんですよ。そのチャンピオンであり続ける事の弱さと言うか。一種のエリートの弱さというのがあって、大学3年生の時に大スランプに陥ったんですよね。もう試合に出ても全く勝てない。出れば出るほど、自分の柔道というものが失われていくという状況の中で、全く楽しくない時期が続いてたんですけど、そんな矢先に母親が亡くなってしまって。

子どもの頃から、私が世界チャンピオンになれるって1番信じてくれたのは、母親で…。どんなに負けようが、怪我して苦しんでいようが、「いや、あなたは大丈夫よ」と言い続けてくれた人で…。私は三男坊で“甘ちゃん”だったので、母の死はすごくショックでした。

『初心』を思い出させてくれた母の手紙

母が亡くなった直後に大学の大会があったのですが、父から「これ読め」と、“母が私に出しそびれた手紙”を渡されたんですけど…。「色々と体に気を付けて頑張りなさいよ」みたいな内容でしたが、最後に書かれていたのが、「初心ということを忘れないで、頑張りなさい」という言葉だったんですね。

当時は、勝つこともできない、柔道の面白さなんかも感じられないという時期で…。でも、翌年がオリンピックだったので、「オリンピックに出たい」っていう気持ちだけある状態。そんな中での『初心』という言葉が、物凄く自分の中で突き刺さって、自分自身の『初心』って何だろうと、もう一回見つめ直しました。

その時「あぁ、俺って柔道が好きで、誰よりも柔道が強くなりたくて、そしてオリンピックに出て世界チャンピオンになれるって信じて日々やってたな」と思い出して…。だから、「もう一度その気持ちを取り戻して、小さい頃から小学生や中学生の時でもやってきたように、1つ1つの練習を丁寧に、がむしゃらに、もう1回原点に戻ってやっていこう」という気持ちに切り替える事ができたんですよね。

そして、母が亡くなって2か月ほど後に開かれた世界選手権で、初めて優勝して世界代表になれたんです。それまではボロボロだったのに、何が変わったのかよく分からないくらい凄く調子が上がってきたんです。

それがなかったら翌年のオリンピック、シドニーでの金というのがなかったので、「あの時に、母が死をもって何か私に大事なものを伝えてくれなかったら、今の自分というものは、なかったな」と、改めて感じています。だからいまだにサインを書く時には、その『初心』という言葉を使うんですよね。

それが私の中では本当に大きなターニングポイントだし、力をいただいたものだったので…。シドニーで金を取った時に、表彰台で写真を掲げたのも、その感謝の気持ちを表現をしたかったというのもあったんですね。


(阿久津)

なるほど。かっこいい~。


(井上)

阿久津さんのターニングポイントは、どうですか?


(阿久津)

このタイミングだと、だいぶ薄く感じちゃうな、と思うんですけど(笑)



震災で変わった人生観 社長を辞めてディズニーランドのキャストに転身


(阿久津)

僕の場合は、それこそ「おっ!」に出会った時が、やっぱり一番のターニングポイントでした。東日本大震災があった時なんですけど、1番衝撃を受けたのは、洪水で家が流されていくシーンをテレビで見た時でした。

当時、僕は建築会社を立ち上げていて、家1棟建てる事に凄いドラマがあるんですね。お父さんお母さんが、お金を一生懸命貯めて、土地を見つけて、たくさんの大工さんたちが関わって…。そんな大切な家が、ドンブラコドンブラコと流されて行くシーンを見たら、本当に家を建てたくなくなっちゃったんですよね。

その頃ちょうど『震災の時のディズニーキャストの対応が凄い神対応だった』みたいなニュースを目にしたんです。例えば、お土産のクッキーやポップコーンをゲストに無償で配ったり、被り物とかも配って暖をとってもらったり。

そのキャストが「何でそんな事ができたんですか?」と聞かれて、「理念があったからです」みたいな事を言ってたんですよ。で、「理念って何だろう」と思って、ディズニーの理念を調べたら、『ハピネス』って書いてあったんです。『ハピネス』って『幸せ』じゃないですか。当時、僕、『幸せ』っていう言葉があんまり好きじゃなくて、すごい綺麗事のように見えてたんです。

でも、その一見綺麗事に見える事で、実際に人が行動できて、すごいピンチを脱出したっていうのが、スゴいなと思って。その時、僕はどっちにしろ、もう家は作りたくないし、仕事もしたくなかったので、「じゃあもう一旦やめて、ディズニーに働き行こう」と思って、キャストの面接受けました。


(井上)

え〜(笑)



昼はディズニーで働いて、夜はひたすら理念の勉強 明け方『おっ!』を見つけた事がターニングポイント

(阿久津)

それで合格してキャストになってディズニーに行ったんです。その時の社員の人たちは、たまったもんじゃないですよね。社長がいきなり辞めて「ディズニーのキャストやってくるわ」ると言って、「何考えてるんですか?」みたいな話ですけど、僕は無我夢中なんで。

ベネチアンゴンドラっていう船なんですど、それの漕いだり喋ったりする「ゴンドリエ」という役をやりました。そしたら、働いて1ヶ月後に『ハピネス』を提供したい人間に変わってたんですよ。「これすげえ」って自分でも驚きました。なんでハピネスを提供した人間になったかというと、ディズニーで働きながら、たくさんの気づきがあったんですね。

当時、昼はディズニーで働いて、夜はひたすら理念とか哲学とか宗教学とかを勉強するといった日々が何カ月か続いて…。で、明け方4時ぐらいかな、パッと目が覚めたら、自分が生まれてからの『幸せだったシーン』が、まるで映画のように頭の中に流れていったんです。で、その自分が幸せだった思い出の共通点を改めて考えてみたら、『驚き』とかそういうキーワードだったんです。

でも、『驚き』か…と思って。『驚き』をそのまま自分の理念にしても面白くないなと思った時に、じゃあ『驚き』って何だろうってまた考えて。そしたら、人が驚く時の最初の感情って、『おっ!』って言うわと思って。じゃあ『おっ!』だと思って。で、勉強してるから、いっぱい紙とか鉛筆が転がっている中で、裏紙に『おっ!』って書いたんですよね。

それが本当にターニングポイントになって…。次の日、その紙を見て、『おっ!』か…と、しばらく1人でそれを見つめて。「じゃあ俺、ここに行こう」と決めました。もうそこからっすね。この「おっ!」で行こうと。

それまでは、本当に浅く広くではないですけど、「あれをやっても、これもやっても、続かない」って、なってたんですけど、その時『おっ!』に出会ってから、「もう人生ここに全てかけよう」って。そこがターニングポイントです。


(井上)

いろいろあるんですね、ポイントって。非常に面白い話ですね。



言葉は見た目じゃなくて、どこから出てきたかが大事

(阿久津)

これちょっと余談なんですけど。何か色々な勉強した中で、「言葉とは何か?」という研究の中で、ゴリラの実験があって。ゴリラってやっぱ頭いいから言葉を教えると1つか2つ話せるらしいんですね。で、あるゴリラに「ミルク」っていう言葉を教えたらしいんですね。するとゴリラは、お腹が空くと「ミルクミルク」って言うんですよ。

でも、そのゴリラがそのミルクを全部飲み干した後に、何と言ったかというと…、やっぱり「ミルク」って言ったんですよね。同じ「ミルク」なんですけど、この2つの「ミルク」は…違う意味ですよね。

最初の「ミルク、ミルク」って言うのは、コミュニケーションを取ったり、相手に伝えるための言葉だけど、飲んだ後に「ミルク」って言うのは、「おいしい」と言う意味で…。だから見た目じゃなくて、どこから出てきたかが大事なんだなと。そういう勉強した時に、「幸せ」っていう言葉も、その見た目じゃなくて、この幸せがどこから出てきたかが大事なんだなというのは、すごく解釈できて。


(井上)

面白い話ですね。全然違うでしょうね、「ミルク」っていう言葉でも。


(阿久津)

だからお母様の『初心』も、多分、普通の一般の人が言う『初心』じゃなくて、最期に伝えたいという、全然違うところから来てるから、井上さんに刺さったのかなあと。


(井上)

いや、本当です。普通の時に見ても、たぶんパーッて見て終わりだと思うんですけど、やっぱりあの時だったからこそスゴく深く、その言葉について考えた部分がありましたんで。それ以来、、いい時も悪い時も平穏な時も、常に『初心』を忘れないようにはしたいなって思ってるんです。すぐ忘すぐ忘れちゃうんですけど(笑)。


次回は、「良いリーダーとは?」「ファッションにこだわるワケ」についての対談内容をお伝えします。


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