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Penetrator(ペネトレータ)~世界に挑むリーダーたち~vol.2

「宇宙から地球の不動産市場を変えたい!」 衛星データとAIを使って不動産市場の変革を目指すスタートアップ企業、ペネトレータ社の Founder&CEO阿久津岳生さん(以下、阿久津さん)が、スポーツ界のトップランナー、男子柔道金メダリスト・井上康生さん(以下、井上さん)と、「最強かつ最高のチーム作り」について本音で語り合いました。

 (※対談の内容を6回に分けてお届けします) 

対談② 最強で最高のチームとは?

男子柔道金メダリスト・井上康生さんが掲げた「最強かつ最高」という言葉…“強さ”だけでなく“立ち居振る舞い”や“心構え”までも求めたワケは?

―――阿久津さんは、どうしても井上さんに聞きたい事があるそうですが…

(阿久津)

井上さんが全日本監督時代に打ち出した「最強かつ最高の柔道家」というフレーズに、しびれたというか、共感していて…。僕もやっぱりただ儲けるだけじゃダメで、理念を追求していく事が大事だと思っているので、とことん話したかったんですけど、なぜ「最強かつ最高」という言葉を選んだんですか?


(井上)

これは、“儲け”と“理念”の両方大事という阿久津さんの考えと共通するなと思っているんですけど…代表監督として“勝たせる事”への使命というものはもちろん持っている。でももう一つ、やっぱり追求していかなきゃいけないのは、選手だけじゃなく監督やコーチに対してもそうですけど、いかに柔道を通じて、“自分自身の人生を豊かにできるか“、そして最終的には、“社会に何ができるか“を追求することが、私の中での“究極のゴール設定”なんですね。


(阿久津)

「最強かつ最高を目指せ」というのは、選手たちにも常に言ってたんですか?


(井上)

言っていました。一番最初に私が監督に就任した時、チームを作る上で、“自分たちが目指す場所“というものをリーダーとして伝えなければならない立場だったので、まずこのスローガンというか理念を伝えて。その後に、具体的な目標や、目標を達成するためのプロセスなどを示しながら運営していきました。企業でいう「ミッション」「ビジョン」「バリュー」じゃないですけど、そういうものを作って示してという事は、よくありましたね。



ただ“強い”だけでは価値がない 応援してもらうには“最高”が必要

(阿久津)

僕の中でも、利益と理念は両方同じベクトルを向いているものなんですけど、やっぱりメンバーからすると、相反するように見えてしまうっていう事が結構あって。「で、社長理念と利益どっちが大事なんです?」と聞かれて「どっちも大事なんだよ」とは言うけど、全然お互い理解し合えないという事もあって…。

井上さんは、選手にそういう話をした時、“強さを求める事”と “最高を求める事” が相反していると、選手が捉えていた事はありますか? 


(井上)

いや~、そんなになかったですね。いろいろ考えたところ到達したのが、結局「最高を求めていく事が強い組織を作り、強い選手たちを作る事につながる」というところだったので…。「自分だけ良ければいいみたいな人間に誰が応援してくれるんだ?」「何かやってもらった時に、ありがとうの一つも言えない人に、次、誰が応援してくれるの?」と。長い目で見た時に、今後、柔道が発展していく中で、「もう“柔道強ければ何でもいい”みたいなものに、憧れって持てるか?」と問いかけたり、“サステナブルな柔道界”というものを作っていくっていう目線でも、「(“最高”の部分は)絶対的に必要な要素だよね」って、選手たちに説明したりしていましたね。


(阿久津)

なるほど…憧れ大事ですね。人として憧れられるようになるために“最高”というものが必要だと。


世界と戦うためには“最高の環境”も大事 “やらされてる感”だけでは限界がある

(井上)

世界一とか目指していく中では、“最高の環境”も大事だと思うんですよ。中途半端な環境では絶対戦っていけないので、どうしたら最高の環境を作っていくか。コーチやスタッフも、仕事をしていく中で、“やらされてる感”だけだったら限界がある。きついし辛いことが多いんですけど、「こんなやりがいがある仕事はないよね」っていう風に思って一緒に戦えるか戦えないかで全然変わってくるかなって思うので。そういうものも含めた上で、この言葉はいいな思って使わせてもらいました。


「全日本でしょ?世界で戦ってんでしょ?強ければいいじゃん。勝てばいいじゃん」ってよく言われますけど、今みたいな説明をしながら、「我々が目指すところはそこじゃない。そこに価値はない」というようにチームを作ってきた感じです。


(阿久津)

みんなに応援してもらうためには「最高」。ただ強いだけだったら応援してもらえないって事ですよね。


(井上)

うん、でも強さもやっぱ必要なので(笑)。やっぱ、綺麗事だけでも形作りできないというか、示せないというところもあるので。だから私は最高だけじゃなかったっていう。やっぱり“最強”という強さも求めていかなきゃいけない。そこに、色々な方々が興味、関心、応援というものをしてくれるところもあったんで、そこも絶対我々はブレてはいけないと。


“道徳”だけでは寝言 “経済”だけでは罪悪

(阿久津)

僕の尊敬する人の1人が、二宮金次郎なんですけど、金次郎が残した考えの中に、「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」というのがあって。道徳だけだったら寝言になっちゃうし、経済だけだったら罪悪だよねって。僕の解釈では「お金儲けだけだったらよくないし、理念だけを追求しても寝言にになっちゃう」というような。やっぱり、両方ないといけないというのがあって。「最強かつ最高」っていうのと共通するというか、やっぱすごい人たちってみんな同じ事を考えているんだなって。自分たちも、その境地を目指したいって、すごい思いました。


経営で大事にしている事は「おっ!」 

(井上)

ビジネスの世界も世の中に必要とされるものを求めていくからこそ、それが“勝ち”だけじゃないような気がしてて。何か通ずるものが、いっぱいあるなと感じますが…阿久津さんは、経営していく中で、「これは大事にしてる」っていう事はなんですか?


(阿久津)

僕の理念で言うと、「おっ!」っていうところをとにかく大事にしていて。「おっ!」っていうのは驚いたりとか、喜んだりする瞬間の感覚なんですが、その瞬間の感覚を世の中にたくさん作っていきたい。すると、その「おっ!」から幸せを感じる…というように繋がっていくので、まずはとにかく「おっ!」を作っていこうっていうのを、ひたすら大事にしてます。その一瞬に、全ての時間とエネルギーとお金をかけているというか。


(井上)

なるほど。それで失敗されたことってありますか?


(阿久津)

失敗の方が多いですね。ほとんど失敗ですけど。


失敗は「切り捨てる勇気」で乗り越える

(井上)

失敗した時は、どう切り替えるんですか?(笑) 気持ちの切り替えもそうですし、何か次につなげていくプロセスってどうしてるのかなって。例えば失敗した事に対して「何があったのか」を分析して、「いいものはいい、でもここは改善しなきゃいけない。じゃあ、そこをまた繋げていこう」みたいな形なのか…。


(阿久津)

それでいうと、僕、分析が苦手って言うか、振り返りとかあんまりできない…苦手というか。だから失敗するとするじゃないですか、そしたら、「その失敗よりもっと“おっ!”ってなる事は何かな?」と考えて「じゃあそっちに行こう」って…だから、ちゃんと分析すれば、もっとこんなに失敗してこなかったなと思いますけど…。「おっ!」ってすごいシンプルに喜んだり驚いたりする事なんですが、それを常に探し続けてて。


(井上)

なるほど、面白いですね。最近よく言われている「切り捨てる勇気」というか。ダメだった場合に、それをこうネチネチやる事でいいものができる事も、もちろんあると思うんですけど。でも、「おっ!」てならなかったら「ああこれダメ!はい次!」っていうような、その切り替えというか、捨てる勇気っていうか、断捨離じゃないですけど、それってすごい重要な部分でもあるなって、すごく感じるんですよね。


(阿久津)

そうですね、「得るは捨つるにあり」っていう。例えばで言うと、僕がやっている宇宙ビジネスに関しても、実は以前のビジネスモデルと、今のビジネスモデルで、すごく大きく変えているんですけど、その切り替えの時はちょっと葛藤がありましたね。

以前は、衛星データを使って“世界中の住みやすさを見える化する”というビジネスモデルを、ずっと追求してたんですけど、なかなかうまくいかない。でもすごい時間とエネルギーとお金をかけてたので、うまく行かせようってすごく頑張るわけですね。でも、なかなかビジネス化していかないというのがあって。「どうしよう、このまま行くのか撤退するのか」ってなった時に、実は今のビジネスモデルを思いついたんです。

それは、衛星データをAIで上から画像解析して、不動産取引できそうな物件を自動ピックアップし、それを法務局のデータと連携して、そこは誰が持っているかっていうのを本当に瞬時にできるというシステムなんですけど…。


宇宙技術で不動市場を変えるシステム「WHERE」 誕生のきっかけは「おっ!」



「WHERE」とは…

JAXAで使われていた「衛星画像のAI分析技術」を不動産に応用したシステム。

阿久津さんは現在、このシステムを使って、土地の広さや所有者など、世界中の不動産情報を瞬時に取得できる画期的なサービスを展開中。


(阿久津)

で、ここにビジネスモデルが移ったキッカケっていうのは本当に「おっ!」で。実はこの地球上の衛星データをAIで解析するっていう研究…ビジネスモデルが生まれるキッカケとなったのが、僕がJAXAの宇宙科学研究所で研究をしている時なんですけど。同じ研究室のメンバーが、僕の横で、月の衛星データをAIに画像解析してクレーターを解析する研究していたんですね。で、彼の研究を見て、「これ月じゃなくて地球だったらどうなる?」みたいな話から始まって。

「駐車場とか空き地とか、すぐ見つけられるの?」って聞くと、「多分いけるんじゃないですか」みたな話になって。「じゃあ、ちょっとプロトタイプ作ってみてよ」みたいな感じで始まったんですね。で、何日かして彼がプロトタイプを持ってきたら、無茶苦茶「おっ!」で。パパッてやると、ホントにすぐに駐車場とか空き地とかが出てくるんですよ。

しかも、その時からニューヨークの市庁舎の周りの駐車場とか、パリのエッフェル塔の周りの空き地とか、ドバイとか世界中の不動産が検知できちゃってたので。「わっ、こりゃ『おっ!』や〜!!」みたいな。で、ここに行くしかないと思って、今まで色々なものをかけてきたビジネスモデルを…もう全部捨てて、一気にこっちにコミットできたというか。

だから…そうですね。何かこっちの方が「おっ!」だと思ったから、そっちに走っちゃったんでしょうね。


(井上)

なかなかそれって、できないじゃないですか(笑)。我々の世界でも、もう一超えしなきゃ世界とは戦えないというのがある。でも、これまで築き上げた自分自身の形っていうのがあるから「ここを変えないと、今のままじゃ厳しい」と思っても、なかなか変えきれないと思うんですよね。だから、こういう切り替えって、できそうでできないなって。自分もそうだったんですけど、そこら辺がすごい…もう一つの能力ですよね。


(阿久津)

そう言ってもらえると、嬉しいですけど(笑)


次回は、「短期間でチームを成長させる秘訣」「チームの仲間の集め方」についての対談内容をお伝えします。

前回の記事はこちらから:Penetrator(ペネトレータ)~世界に挑むリーダーたち~vol.1


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