はじめまして、株式会社WALCの代表を務める櫻井です。
我々は、工作機械業界のリーディングカンパニー「DMG森精機株式会社」からスピンアウトした、製造業発スタートアップです。工作機械やファクトリーオートメーションを軸に、AI・IoT・Cloudなどの最先端技術を掛け合わせた事業を行っています。
このストーリーでは、WALC設立の背景やカルチャーのこと、そして私自身の想いについて綴ります。
私はソフトウェアのキャリアを歩みたくて、DMGMORIグループでソフトウェアを専門にするビー・ユー・ジー(今のDMG MORI Digital)に入社しました。
というのも、大学院で専攻していたロボット・制御の研でも、ソフトウェア系の研究が多くなっている感覚があったからです。精密工学そのものが制御系に移り変わり、加工技術も研究としてはコンピュータの内容が多かったように思います。制御技術が最先端になって、今度はロボティクスがついに実用的になってくる。そういうことをするにはまずソフトウェアという分野をきっちり習得する必要があると考えたことを覚えています。
当時、DMG森精機は森精機製作所という名前で、大学の先輩方も数名入社していました。精密系の研究室出身としてはよく知っている名前で、資本関係で関連していることもつながりを感じました。
“工作機械”に、最先端技術を駆使できないか。
その後、どうしてWALCという会社を設立するに至ったのか。そのきっかけをお話しします。
ビー・ユー・ジーに数年ほど勤めた頃、僕は社内教育の一環でマネジメントコース研修を受けました。東京大学名誉教授 松島 克守先生をお招きし、マネージメントとしての一連の研修の最終課題として、「DMGMORIが今後すべきことは何か、そのために自分たちは何をするべきか」を議論するものです。
私自身、いろいろな企業や、DMGMORIの立ち位置や競合をリサーチする中で、AIやIoTといった最先端技術の導入・促進が欠かせないという結論にいきつきました。実はDMG森精機は、同業他社の中ではIoTを最も早く導入していた企業です。工作機械に通信モジュールを取り付け、アラーム情報をコールセンターで取得できるようにする取り組みは、業界の中ではかなり早かったと思います。
他社よりも一歩先を進んでいた一方で、IoTへの取り組みについてはまだまだ伸びしろがあると思いました。2017年にでてきたばかりのAIにはいまだ手付かず、だから、「“工作機械”を軸に、最先端技術の応用に注力すべき。」という最終発表を行い、その実現に向けて設立されたのが先端技術研究センターです。もともと精密加工系の研究室出身で、工作機械は身近でもあり、さらにソフトウェアを学んだ後はもっとできることはある!というのが直感的な思いでした。この気持ちに論理と戦略を付加していただいたのが松島先生との先端技術研究センターでの5年間でした。
研究の次は“ビジネス”として、製造業に貢献する。
その後、先端技術研究センターから会社として立ち上がったのがWALCです。設立には、松島先生から託されたビジネス化への転換と、ロボットとクラウド関連の研究がそれぞれサービスとして成立しそうな背景があります。実際今では、「WALC CARE(ウォルク ケア)」と「WH-AMR10」して展開している製品・サービスです。
先端技術研究センターでは将来ビジネス化を目指せる可能性のある研究をし、3〜5年で事業化を目指せるかを考えて色々なトピックにチャレンジしてきました。会社としてビジネスにシフトしていくにはまた別の形態でのチーム作りが必要になります。この2つの事業化を皮切りに、当時所属していた社員十数名とともに、“ビジネス=仕事”として社会に貢献することを選びました。
製造業の未来の変革。AI・IoT・Cloudを、三拍子で。
WALCが会社として掲げる使命です。
例えば、WebやAIアプリの開発をする人は多いです。需要も人気もあり人が自然と集まるので、良い方向に向かっていく。でも製造業は、ほっとくと何も変わらないし変わりにくいです。
一方で製造業からのニーズはとても多く、言葉を選ばずですが利益も見込めます。世にある工作機械は、古いものを含めておよそ30万台。これらを最新の機械に置き換えるだけで5台が1台となり、それだけでCO2削減や生産性効率が見込めます。そういう伸びしろがまだまだ製造の世界にはあります。機械や工場全体が賢く動けば、電力消費の抑制・業務効率化・人材不足にも対応できる。衣・食・住に関わる製造業を変えるということは、それだけ社会的意義の大きい仕事です。
その製造業のあらゆるところに最先端技術を駆使できれば、挑戦する人にとっても面白い。結論として製造業は、多くの可能性を秘めている領域だと思います。
人材育成の想いも込めて、“WALC(ワルツ)”。
WALCはポーランド語で、“ワルツ”を意味する言葉。ポーランドはDMG森精機の生産拠点があり、松島先生が好きなショパンが愛していた国です。
この言葉には、製造業のアップデートとともに、未来を生き抜く人材育成への想いも込めています。イントラからクラウド化を肌で感じてきた中で、今の技術者に求められるものはプログラミングや専門性だけではありません。専門性をこえた幅広い知識。新しいサービスを生み出すための発想や挑戦。共に高め合うチームです。
実際、製造業を根本から変えるためには、“最先端技術”の融合が欠かせません。自分たちが実現したいこと↔︎製造現場のリアル にはどうしても溝があって、思うように実現できないケースも正直多いです。チームで力を集結させ、実現可能性を高めていく必要が大いにあります。役に立つと思って現場に持っていっても、今までと違うから使えない、みたいな一言もチームで乗り越えていく必要があります。
5つの事業を軸に、多種多様なメンバーが活躍。グローバルな取り組みも。
ここで少しばかり、WALCの事業とメンバーについて紹介できればと思います。
WALCは大きく5つの事業を展開(※)し、上2事業はすでにプロダクト化・下3事業はプロダクト化を目指しているフェーズです。(※)詳しくはこちらをご参照ください。
これらの事業を支えているのが、正社員メンバー25名と学生インターンメンバー25名です。事業にもよりますが、機械・制御系ロボット、情報、エッジコンピューティングに関わる経歴をもつメンバーが多いと思います。海外出身のメンバーも増えましたし、来年から大学で特任助手に挑戦するメンバーもいます。
慶應義塾大学や京都大学など、大学と連携した共同研究も盛んです。ウィーン工科大学と共同の“未来の工場”プロジェクトなど、国内にとどまらないグローバルな取り組みもいくつか進行しています。弘前大学とDMG森精機の共同研究講座「デジタルヘルスケアワークスタイル研究講座」を開設して、製造業におけるヘルスケアの分野でも最先端技術を取り込んだ研究を進めています。
◆事業とメンバー構成
▪マニピュレータ搭載の自律走行型ロボット(WH-AMR10)
自動車業界の経験者が多いです。中でも、メカ・電気設計や生産技術を担当していたメンバーが集まっています。製造業の中でも新しい分野です。フロンティア精神を持っているメンバーが集まっています。
▪工場のモニタリング・予兆保全(WALCCARE)
WALC CAREは、工作機械の主軸や送り軸の異常予知診断を定期的に行い、レポートする機能により、故障の早期発見や予知保全を行い、機械のダウンタイムを短縮することができるヘルスモニタリングサービスです。このプロジェクトは、私がプログラミングを行った最後のプロジェクトになります。工作機械という一つ一つが違う製品を、どのようにモニタリングしていくか、そういう根本的な課題に直面する製品です。工作機械はプラントと車の間とよく言われます。車ほど共通することがなく、プラントほど一個一様ではないということです。従来はエキスパートのサービスマンにしかわからない感覚で修理や復旧を行うことも普通でしたが、徐々にデータとして扱えるような知識も増えてきました。従来は経験豊富なエンジニアが行っていた領域を、データサイエンス的に扱えるようになると、今までのベテランの知識も共有でき、その分で更に新しい領域、特にお客様の先端的な加工技術に注力する余力を生み出すプロジェクトだと思っています。
▪画像分析AI
インターンメンバーを含めた5名で進めています。リードする社員は画像分析の知識はあまりなかったのですが、仕事を通じて身につけていきました。製造業では人の目でチェックすることが多いです、つまりは人の目はかなり優秀であるということも実感しています。前処理や、学習のノウハウなども習得し、現在はかなりの成果を上げています。
▪ヘルスケアAI(MedTech)
次にストーリーを公開予定の梁川さんは、もともと経営学の出身。ビジネス系の知識を持っているメンバーで、ヘルスケアに深い関わりはありませんでした。弘前大学と京都大学との共同研究を行なっています。製造業はこれからも現場作業がほとんどとなるでしょうし、会社が働き方を定義して責任を持つべき領域と考えています。どのように働くことで健康を維持できるのか、ここを突き詰めて実践方法を考えて、現場でのトライとフィードバックを進めていきたいと考えています。
▪LLMを用いたナレッジベース検索システム(MLOps)
東北大学で関連性の深い研究をしていたメンバーを中心に、インターン生数名で構成しています。工作機械は多くのオプションを持ち、同じ機械はあまりないと言われています。それ故にノウハウの共有がしにくい領域でもあります。近年のChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)を用いて、マニュアルやアラーム情報などを自動的に処理し、解決策を提案するチャットボットアプリを開発しています。これにはグローバルサービスをはじめとして多くのグループメンバーも携わり、本格的なAIの製造業での活用を実践しています。
メンバーを信じて任せれば、スピードも上がる。
僕はWALCの設立以降、プレイヤーからは身を引き主にマネジメントに徹しています。時には「ユーザー視点でこういった機能が必要だよね」という助言をすることもありますが、設計段階からほぼメンバーに任せていますね。
実は先日、展示会に出展していまして…。スケジュール的には正直ギリギリだったんですけど 、アップデートの話を直前にしていて。「方法は任せるからやってみて。」とお願いしたら、メンバー主体で完成までこぎつけたんです。
私としても関わりたくはなるのですが、経営者がすべて決めてしまうと何も面白くないんですよね。「これができると何が面白いのか」は言葉で伝えて、あとはメンバーに任せる。すると、スピードも十倍くらい変わってくると思っています。
私個人としては、スピードがとても重要だと思っていて…。「スケジュールが変わるのは当たり前だから、フットワーク軽くいこう。」と、定期的に伝えています。“十倍感”のようなスタンスは、大切にしていますし、メンバーのキャリアを第一に考えたとしても、非常に重要な視点だと思ってこだわっています。日本には一粒万倍日という言葉がありますが、ソフトウェアは考え方次第で何倍にも効率が変わることがあり、その感覚を掴むことがキャリア形成においても非常に重要だと考えています。その機能必要?と思えるようなドメインに対する理解とか、それを言って理解を得られるようなコミュニケーション能力が本質的な能力として評価されるべきと考えています。逆に言うと、綿密なバグのないプログラミングをすることは、AI時代では結果に繋がりにくいとも考えています。
「製造業の役に立ちたい」という仲間とともに、変えていきたい。
まずは製造業について深く考え、情熱をもてる方。そして、技術に精通していて、ある程度タフで責任感のある方とともに仕事がしたいです。誰かを喜ばせる仕事がしたい。その対価として、適切な評価や給与がほしい。こういう方はきっと向いていると思います。
何を言っても、我々は製造業の方々からお金をいただいて仕事をしています。製造業のために何ができるのかを考え抜けないと、現場の課題感を把握できないでしょうし、そもそも現場があること・仕事の面白みも感じていただけないと思うのです。
その他は、本当に自由。技術を極めたい、グローバルに活躍したい、ユーザーの声を自分で拾い上げたい…。どなたでも大歓迎です。現時点で製造業について理解している必要はありません。
ただ、製造業の可能性を伝えていくことも、私の役割だと思っています。少しでも興味をもっていただけるのであれば、ぜひお話ししたいですね。
まとめのようになってしまいますが、製造業はとても可能性のある領域です。まず、人の役にも、世界の役にも立つということ。そして、同じプログラミングをするにしても、Web領域と比べれば多分、、、給料が大きく変わる人も多いと思います。それだけ社会に対して価値があるということだと考えています。
製造業の課題はまだまだ山積みですが、それだけ技術を生かせる場所もある。皆さんのキャリアにもつながると思います。ぜひ我々とともに、頑張りましょう。
今回のストーリーを読んで、一緒に活躍してみたいと感じた方・ご興味がある方がいらっしゃいましたら、こちらより気軽にエントリーしてください。まずはカジュアル面談にてお会いできることを、楽しみにしています!