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ベトナム発ピザ屋「Pizza 4P’s」日本出店に学ぶ、地球とのつながりを取り戻すヒント

2023.11.27公開 IDEAS FOR GOODさんで掲載いただいた記事を引用したものになります。

「Make the World Smile for Peace(平和のために、世界を笑顔に)」──友人たちとのピザパーティーでのピースフルなひとときを、世界中の人とシェアしたい。そんな想いから、人々の心の平穏や、本当の幸せ“Inner Peace”を志し続けるピザ屋がある。ベトナム発のレストラン「Pizza 4P’s」だ。

「Peace(平和)」。4年前、ベトナムのホーチミンで彼らを取材したとき、そのビジョンを聞いて、なんと壮大な物語なのだろうと思った。取材当時の2019年6月、ベトナムで11店舗目をオープンし、軌道に乗っていた大人気ピザレストランPizza 4P’sは、今やベトナム全土、カンボジア、インドなど、グローバルで32店舗を展開するまでに拡大した。

創業以来、「“Delivering Wow, Sharing Happiness”.(驚きを届け、幸せをシェアする)」というミッションを掲げながら、自社工房で作る自家製チーズや生産者のみえる食材調達、詳細なサステナビリティレポートを毎年公表するなど、レストランとしてのサステナビリティを追求する同社。ごみ問題が深刻なカンボジアでは、ゼロウェイストの店舗を立ち上げ、2店舗で20種もの分別を行いながら、リサイクル率91.1%(2022年度)を達成した。そのミッションの通り、常に世界中を驚かせ続けているレストランだ。

そんなPizza 4P’sが初の日本出店を決意し、2023年11月24日、麻布台ヒルズに東京店をオープンした。コンセプトは、「Earth to People -oneness-(地球から人々へ-ワンネス-)」。ワンネスとは、何を意味するのか。なぜ今回、日本出店に至ったのか。カンボジアのゼロウェイスト店舗を立ち上げ、日本プロジェクト チーフディレクターとして東京店の立ち上げ責任者を務める、久保田和也さんにお話を伺った。

話者プロフィール:久保田和也(くぼた・かずや)さん

大学卒業後、アパレル業からシンガポールの飲食系の会社に転職。その後、ベトナムのPizza4P’sで、店舗開発、新規事業、マーケティング責任者などを経験したのち、Pizza4P’sカンボジアの代表を務める。現在、日本プロジェクトのチーフディレクターとして日本事業立ち上げ責任者を務める。


レストランが、訪れた人と「つくり手」をつなぐ媒介者に

「このランプシェードは、和紙と、海藻からできているんです」。取材の席につくなり、頭上にあるランプを指差しながら、久保田さんはそう説明してくれた。

店内の照明。福岡の「ANON lighting」が海藻養殖の「SEA VEGETABLE」と協力し、規格外で販売できない海藻を混ぜ込んだ和紙で製作。 Photo by Pizza 4P’s

「海藻は、海の多様性を守るために重要な役割を持っていて、それは持続可能な漁業につながっていきます。このランプシェードは、そうした海とのつながりや海藻の重要性を伝えるものです。料理や、店内にあるものの素材を通して、地球や自然とのつながりを感じていただきたいと思っています」

日本プロジェクト チーフディレクター・久保田さん Photo by 霜田直人

そう話す久保田さんは、Pizza 4P’sの店内にある椅子やテーブルなどの家具から、テーブルのセットアップまで、すべてのものに地球とのつながりを感じられるストーリーがあると話す。クッションは野菜の皮など食品廃棄物を使って染められていたり、コースターはベトナムのリサイクルブランド「PLASTICPeople」によって廃棄プラから作られていたり……カトラリーは、銃弾の空薬莢(弾を打ち終わった後の薬莢)からプロダクトを作るカンボジアの「Andkow」が製作したものだ。

久保田さんの説明を聞きながらお店を見渡すと、プロダクト一つ一つに作り手の顔が見えてくる。これらの品々は、お店に訪れた人々とのコミュニケーションのきっかけになり、彼らと「つくり手」をつなげていく。

Photo by Pizza 4P’s

私たちはみんな、地球から恵みを受けて生かされている

砂で塗り固められた左官壁や天井。石ころをイメージした丸いテーブル……内装やインテリアには、「直線」がほとんど見当たらない。あえて自然な「曲線」を使った空間にすることで、まるで自然の中にいるように、私たちは地球の一部であることを感じてもらうのが狙いだという。

Photo by Pizza 4P’s

「ベンチやレセプション横のシェルフには国産杉を使っています。現在の日本では、国産杉よりも輸入木材の利用が一般的で、その結果、国内の森林が適切に管理されない土壌を作ってしまっています。日本でいま使うべき国産杉を使用することで、健全な森林を育むことにつなげているんです。また、当店で提供するオリジナルのビールには、山梨県小菅村で伐採された杉とヒノキが使われています。ビールを通じて森林の問題に気づいてもらうための仕組みなんです」

4P’s x Far Yeast KOSUGE WOOD PILSNER Photo by 霜田直人

東京店をオープンするにあたり、農業や漁業、林業など、さまざまな一次産業で働く人々をチームで訪ね、実際に話を聞いたのだという。

「一見、バラバラに見えるかもしれませんが、海や森、人、そのすべてはお互いにつながり合っているんです。森林が適切に管理されていないと、海に流れる栄養分が減り、海の多様性に影響がでますよね。すべてが地球の構成要素であり、私たちはみんな、地球から恵みを受けて生きています」と、久保田さんは東京店のコンセプトである「Earth to People -oneness-(地球から人々へ-ワンネス-)」について説明する。

「地球とのつながりを感じ、私たちが地球からの恵みを受け取っていることに気づいたとき、生きるための思いやりの気持ちである“Compassion(コンパッション)”が自然と生まれてきます」

そのコンパッションこそが、幸せを感じられる体験になる。そうした地球とのつながりを感じる「きっかけ」作りをPizza 4P’sが担うことで、「Make the World Smile for Peace」のビジョンにつなげていく。

Photo by Pizza 4P’s

どこからきて、誰が作ったものなのか?つくり手に想いを馳せる

実際に店舗を訪れて、もう一つ驚いたことがある。メニューの分厚さだ。久保田さんはこのメニューを「Dictionary(ディクショナリー:辞書)」とよぶ。ディクショナリーでは、Pizza 4P’sのビジョンからメニュー、生産者、デザイナー、音楽家、サプライヤーなど、そのすべてが丁寧に説明されている。

メニュー「Dictionary」 Photo by Erika Tomiyama

メニューには、生産者やプロダクトの素材や作り手など、そのすべてが紹介されている Photo by Erika Tomiyama

目にとまるのは、QRコードだ。スマートフォンで読み取ると、生産者へのインタビュー音源が聞こえてくる。

生き物は、海から生まれてる。だから海のミネラルや栄養素は、生き物を育むために必要なもので、海の生態系を支える意味でも重要な役割を果たしています。今、秋刀魚が取れないとか、イワシがたくさん取れたとか、そうした海の変動は海藻が減ってしまったことが、かなりの影響を及ぼしてる。生態系のバランスが崩れてきてるんです。ーSEA VEGETABLE

文章ではなく生の声で聴くことで、つくり手の想いをより心で感じられることに気づく。声の背景では、それぞれの生産者の舞台である森のざわめきや、海の波の音、牧場にいる動物たちの鳴き声が聞こえてくる。

「ディクショナリーで紹介したパートナーの方々は、みなさんPizza 4P’sのワンネスのコンセプトに共感してくださっている方々です。こうしたつくり手の方々に興味を持ってもらうことが、地球をより良くすることにつながると思いますし、知る過程でPizza 4P’sに来てくださる方々の意識が変わっていったら嬉しいです」

店内工房で自家製チーズを手作り 須藤牧場のミルクを使っている。副産物として出るホエイは、捨てずにメニューに有効活用している。

お店のドアを開けると一番最初に見えるのが、このチーズ工房。あえて一番最初に目に飛び込む設計にしたのだという。 Photo by 霜田直人

なぜベトナムから日本へ?外から見えていた、日本の課題

これまで、ベトナムやカンボジアを中心にお店をオープンしてきたPizza 4P’sが、今回日本出店に至ったきっかけはなんだったのだろうか。

「国によって、Pizza 4P’sが焦点を当てる課題は異なります。ゼロウェイストをコンセプトとしているカンボジア店では、リサイクルのインフラが整っていないためにごみ問題が深刻でした。今回、東京店で課題においているのは、幸福度の低さです」

2020年の世界幸福度ランキングで、日本の幸福度は世界156カ国・地域中、過去最低の62位。先進国の中では、圧倒的に低い数値だ。さらに、2022年時点、自殺死亡率はG7の中ではトップという結果に。「豊かなはずの日本で、なぜ?」そう考えた彼らは、改めて故郷である日本での挑戦を決めた。

「僕は海外に移住して9年ですが、その経験を活かしながら日本に貢献していきたいです」──日本には独自の素晴らしいクリエイティビティや伝統、つくり手がいる。そうした日本の可能性は、ディクショナリーで紹介されている、日本で活動する人々を見ているだけで、容易に感じられるだろう。日本にもこれほど、社会を良くしたいと願い、活動している人々がいるのだ。

久保田さん Photo by 霜田直人

また、Pizza 4P’sが「Peace」や「World」などを掲げるなかで、グローバルへのプレゼンスを高める手段として、日本は欠かせない存在だったという。

「僕らの取り組みは、人々に伝わらないと自己満足で終わってしまいます。東京はグローバルで見ても中心都市ですし、感度も高い。Pizza 4P’sが目指すビジョンを伝えていくには、僕らが日本人というのもあり、やはり東京は魅力的でした。ただ、東京のど真ん中で、これまでやってきたベトナムやカンボジアのような、一店舗あたり70人ものスタッフがいるモデルを導入するのは、今回が初出店というのもあり、現実的になかなか難しそうでした。日本のような国で進める上では、少人数のスタッフ、かつ小さい店舗でもPizza 4P’sらしさを表現できるような新しいモデルを創る必要があったのです」

「こうしていろいろな国に広げていくことで、例えばある国の課題が別の国にあるアイデアとつながって解決されることもあります。グローバルに考えることで、できることはどんどん広がっていくのだと思っています」

店内では、五感を研ぎ澄ませて、からだの声を聞いて食べる「Zen Eating」を体験できる。「食べ物がどんなところから、どうやってここまできたのか?」想像しながら食べることで、地球とのつながりを取り戻すことができる。

レストランとして、一次産業に関わる人々に出会える窓口になる

「日本でのやみくもな拡大は、今のところは考えていないんです。この形を何十店舗もすぐにチェーン展開するのは、やはり難しいと思います」

確かに、これだけの生産者、つくり手と一つひとつ丁寧なコミュニケーションを取りながらお店を営んでいくのは、簡単なことではないだろう。そうした中で、Pizza 4P’sが次のステップとして今から構想しているのが、レストランから発信する、エコツーリズムだという。

久保田さん自身も、今回のお店の立ち上げにあたり、一次産業の現場に直接足を運んだからこそ見えた、地球の課題があったと振り返る。

「レストランで“知ること”に留まらず、実際に生産の現場に行って、お客さんにもワンネスを体験してほしいと思っています。レストランが、一次産業の人々に出会う窓口のような存在になったらいいなと。お店でディクショナリーを見て、興味を持ってくれた方と、実際に生産者さんたちに会いにいき、適切にお金を循環させていく仕組みを作りたいです」

「僕たちだけでできる範囲には限界があるので、サステナビリティに真摯に取り組む人々を多くの方に知ってもらう。それが、大きなインパクトにつながると思っています」

Photo by Pizza 4P’s

編集後記

食事をしてお店を出たとき、優しさと温かさに包まれたような気持ちだった。その心地よい感覚を引き起こしたのは、空間細部へのこだわりだったかもしれないし、Pizza 4P’sチームの熱い想いだったかもしれないし、心地よい音楽だったかもしれないし、食事を共にした人々の笑顔だったかもしれない。

そこで確かに感じられたのは、私たちは、取り巻くすべてのものから恩恵を受けて生きているのだということだ。すべてのものの裏側に、想いが見えたからだ。そしてそれは、人に対してだけでなく、海、森、湖、川、地球に存在するもの、そのすべてとつながっている、という感覚だった。

「Make the World Smile for Peace(平和のために、世界を笑顔に)」という壮大なミッション。平和とは、日々の中で人々が「生かされている喜び」を感じる、その積み重ねなのかもしれない。そう強く感じた体験だった。



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