1999年の春、前職を飛び出し、自宅の地下1階を事務所にしてオービットを起業しました。
もともと「将来は自分で」という意識が強かったこともあり、前職における「経営・営業側の論理に、現場のエンジニアが振り回される」構図が我慢できずに飛び出しました。外観検査を自動化するソフトウェアを請負で作ることを想定していました。いわゆるB2Bの仕事です。
当初はホームページやネットの掲示板などを経由して「たまに」入ってくる仕事をこなしていくレベル。1年目の売上は500万そこそこだった記憶があります。今考えると、何の信用もない状況でB2Bの仕事に突っ込んでいくのはかなり無謀だったと思います。
そんな中で最初の転機が。ネットの掲示板で知り合った設備メーカーの方から、受託開発の依頼をいただきました。その案件で指定されたのが「画像処理ライブラリHALCON」の使用。今でこそ、産業用途の画像処理ライブラリとして有名になっていますが、当時はまだ「知る人ぞ知る」なレベル。実際に使ってみて「開発効率が圧倒的に上がる。技術的にも自分一人で太刀打ちできるレベルではない。」ことを実感しました。ここから「作る」よりも「良いものを使い倒す」考え方への変化がありました。
そして、その設備メーカーの方から紹介いただいて、HALCONのサプライヤーのリンクスさんとの付き合いが始まりました。2001年ごろの話です。そこから、しばらくリンクスさんの下請でHALCONを用いた画像処理ソフトウェアの受託開発を行いました。HALCONが高機能なゆえ、入ってくる案件の要求レベルは総じて高く、また「次の方法」「次の方法」が試せてしまうため、非常に手離れが悪くなることに悩まされました。
2004年、次の転機。HALCONのある機能が外観検査に非常に有効であることを見つけました。今までの外観検査の考え方が、画像処理を駆使して「×」を定義して「×」を選別するアプローチ。画像処理を駆使しないといけないため難しく、すべての「×」を定義しなければならない上、対象物が変われば「×」も変わる。それに対して「〇」を定義して「〇」を選別するアプローチを提案。「良品と同じならば良品」を検査する外観検査ソフトウェアFlexInpectorをパッケージ化してリリース。ソフトウェアの受託開発から、パッケージソフトウェアの開発&販売にシフトしました。以降、お客様のさまざまな要求に対して、FlexInspectorを強化していく形で対応していきました。このアプローチは販売本数が増えたとしても、メンテナンスすべきソースコードが増えていかなかったという大きなメリットがありました。
ただ大きな問題が。販売本数に対して価格を安く設定しすぎました。ソフトウェアだけを販売する形では、大きな売上を見込めません。売上が小さければ利益の総額も小さいままであり、成長のための余裕はありません。数千万の検査設備の核となる検査ソフトウェアを担当しても、利益は数十万しか上がらない状況でした。
そこでFlexInspectorを刷新し、カメラやPCなどのハードウェアとセットで販売する「外観検査センサFIS-100」をリリース。ハードウェアの原価はかさむようになりますが、売上高は大きくなりました。またハードウェアとセットとすることでサポートも容易になりました。ここまでやって、ようやくビジネスとして安定。ほぼ10年かかりました。
外観検査の自動化のニーズは非常に高い。でも、予算はかなり小さく、導入までの壁は非常に高い。
なぜ外観検査の自動化はうまくいかないのか?
あとはこの難題を解かなければいけません。この20年、いろいろな競合が参入してきて消えていきました。いろいろな不幸も見てきました。自分自身も答えを見つけられていない状況でした。
そんな中、「人に倣う」というコンセプトで「多関節ロボット+自動外観検査」の検査装置FlexInspector-ROBOを製作し、国際ロボット展という大きな展示会に持ち込みました。検査対象物を掴んで、持ち替えて全面を検査することができます。「外観検査の最終形」だと信じていました。確かに「面白い」とうけました。しかし・・・「人がやったほうが早いよね」。そう、「高い」「遅い」「難しい」、そんな「自動化」なんて必要ない。ガツンとやられました。
結局、投資効果が大きくないと自動化する意味はない。ユーザーにとって投資効果が無ければ、私たちメーカーに落ちてくるわけがない。そこで働くエンジニアの待遇がよくなるわけがない。これで、すべて腑に落ちました。
ユーザーにたくさん儲けてもらう。それを全力でサポートする。それだけ。
迷いがなくなった今、オービットは22年の助走からようやく本気で走り始めます。