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令和はますます「個の力」が輝く時代。キャリアの選択肢が広がり、会社選びの基準も変わりつつあります。
フレキシブルな働き方を支援する環境や、一人ひとりの能力を発揮しやすい制度だけじゃない。「この会社で働きたい」と共感できる魅力ある職場の条件は?
組織も個人も、ハッピーに成長し続けられる組織づくりについて、注目の経営者2人にとことん語っていただきました。
リブランディングした「オルビスユー」が大ヒット、創業33年を迎えてなおフレッシュな組織文化へと経営改革を進めるオルビス代表取締役社長・小林琢磨さんと、女性のためのクリエイティブスクール「SHElikes」運営するSHE株式会社CEO・福田恵里による対談をお届けします。
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――今日は、これからの時代に求められる企業と個人の関係づくりについて、未来志向の組織改革を進める経営者のお二人に語っていただきます。
小林 これからの働き方を一言で表すと、「決められたものがなくなる」ということだと思うんです。全社員に対して一律に会社が決める働き方はなくなっていく。その時に重要になるキーワードは「自由と責任」。一人ひとりが自律して駆動していける組織づくりをしないと、企業としての相対価値も下がっていってしまいますから。特に人材の多様化が進む時代には、従来の管理型ではなく自律支援型の人材育成がポイントになるはずです。組織の成長のためにも、個人の「自由と責任」を応援する仕組みづくりはより大切になっていくと思います。
福田 おっしゃるとおりですね。「自由な働き方」と聞くと、一見、働く人に対してやさしいイメージがあるかもしれませんが、一人ひとりが成果を出すには、自分で自分を律する力が必要。「校則がない学校ほど、生徒が自分たちで考えて行動しないといけない」のと近いですね。
小林 そうですね。社員にチャンスは与えることは会社の役目ですが、その後にどう成長できるかはその人次第。「御社に入ると、私はどのくらい成長できますか?」という受け身の姿勢では難しいかなと思います。成長のチャンスをつかもうとする人には、相応の機会が与えられる。そんな共通認識がより必要になる気がします。
福田 昔は「大企業に入れば研修制度も充実しているから安心だよね」という意識があったかもしれませんが、今は企業環境も変わってきていますし、プロジェクト単位で集合と解散を繰り返すスタイルが増えています。個人が一つの組織の中での成長を追い求めても、市場価値は上がらない。どこに行っても通用するマインドやスキルを養わないと、組織人としても個人としても活躍の場を失ってしまうのではないかと、危機感を抱いているんです。だからこそ、個人のスキルアップを支援する事業に私は本気で取り組んでいるのですが、小林さんがおっしゃったような「自由と責任」のバランスを取れる資質は、ベースとして必須ですよね。これからのビジネスパーソンの基本になっていくのではないでしょうか。
小林 オープンチャンスの企業文化が広がっていくとしたら、与えられたチャンスをものにして成果を出せる人と出せない人で、むしろ差は広がっていく。働き方が自由になり、ダイバーシティが推奨されるほどに、実は個人の自律的な成長が厳しく求められます。この変化に経営者も敏感になって、成長意欲のある人を応援する仕組みをどんどん備えていかないといけないなと思いますね。
――具体的にはどんな施策を始めていますか?
小林 奇をてらったことではなく、とても基本に忠実なことを地道にやっています。大事にしているのは、ビジョンとミッションで組織をグリップすること。つまり、「僕たちは何を目指しているのか、何をお客様に提供していくのか」という目的・意味を明確に発信して、うちで働く一人ひとりと目線を合わせていくことだと思っています。大企業でありがちなのは、いきなり人事制度改革から着手しちゃうパターン。でも、小手先の方法論だけ変えても、「なぜこれをやっているのか」という意図が伝わらなければ、かえって反発を呼ぶ場合が多いんですよね。僕は、まずやるべきは大きな目的の共有であり、「それを達成するには、こういう仕事もやらないといけないよね」と納得感を持ってもらうことだと思っています。そのためにはやはりコミュニケーションの強化が必要だと考え、多い時は四半期に一度、4日間ほど身を完全に開けて「僕と話したい人はいつでも来てください」という期間を設けていました。
福田 4日間も! 年間に16日間ということですよね。その施策によって、社員の方々の意識の変化はありましたか。
小林 一気に変わることはありませんが、徐々に変化は積み重なってきたと思います。今年の春に新型コロナウイルスの影響で混乱した時期、社内の「Slack(ビジネスチャット)」が活発に動いている様子を見て、自発的なアクションをとる社員が増えたなとうれしくなりました。
福田 オルビスのような歴史のある企業で「Slack」を導入されているんですか。意外ですし、すごいですね。
小林 「すごいですね」って言われちゃう時点でダメですよね(笑)。ベンチャー企業に対する歴史ある企業の弱さはまさにそこで、新しい技術を生かしたツールになかなか乗れない。僕はいろいろなしがらみを無視して「えいや」とやっているほうですが、大企業は乗り遅れているイメージが強いから、結果として優秀な人材を獲得するのに苦労しているんですよ。船が大きい分、トップダウンでの決断がないと、時代への柔軟な対応は難しい。
福田 小林さんはそれができる稀有な経営者ですよね。先ほどおっしゃっていた「基本に忠実に、ビジョンで組織をつなげたい」というお話も、とても共感しました。今は、個人のウィルが多様化していますし、ワークスタイルの希望もまちまちです。非常に能力が高い人でも、正社員を希望するとは限らず、契約社員、業務委託などいろいろな選択肢から選びたいと考えています。
ウィルも働き方も違うメンバーをまとめていく共通項は、やっぱりビジョン。個人のウィルと企業のウィルが重なり合う部分を大切にしながら、トップが丁寧にメッセージをしていかないといけない。強いビジョンと柔軟な組織設計は、私自身のテーマです。最近はTwitterでどんどん大それたことを公言しています(笑)。
小林 目線を上げることがとても大切ですよね。稟議を通すための資料を作ったり、計算式を整えたりする仕事は僕自身も好きではないけれど、大きな目的を達成するためには必要な道。その位置付けを認識すれば、大抵の仕事はやり切れるものだと思うんです。
福田 今は、個人でも働ける時代。それでもあえて“組織で働く魅力”を感じてもらえる会社でありたいと思っていて。「早く行きたいなら一人で行け。遠くまで行きたいならみんなで行け」とよく言われますが、大きな目標を成し遂げるにはやはりチームの力が必要。ビジョンを掲げる意味はそこにもあります。
――「うちの会社でこんな人に活躍してもらいたい」というイメージはありますか? あるいは、すでに活躍している人材の共通点があれば教えてください。
福田 うちはスタートアップということもあり、社員に限らず業務委託で活躍している人も多いんです。「いつかは起業したい」と夢を持って来てくれる人もたくさん。個人として輝くためのステップとして、SHEという職場を選んでもらえるのは大歓迎です。フルフレックスのフルリモートで全員働いているので、個人の状況に合わせて柔軟にワークスタイルを選んでもらっています。ただし、先ほど話題にした「自由と責任のセット」は重要。自分で課題を見つけて解決していく自走力を持っている人かどうかは、採用の時点でしっかり見るようにしています。
小林 自走力は必須ですよね。うちの場合は、やはりオルビスという会社が好きで、その可能性を信じている人が活躍していますね。つまり、ビジョン・ミッションに共感している人。単に「化粧品のメーカーに入りたい」とか「消費者としてファンでした」ではなく、オルビスというブランドだから提供できる価値について自分なりの考えや目的意識を持っている人。
共通点としては、話す言葉の大半が“未来志向”なんです。これは実際に僕が面談中にメモを取りながら確信しました。「会社の提供価値について、未来志向で語れるか」はその後の活躍を大きく左右するのではないかと感じています。
福田 未来志向で語れるかどうか。たしかに大事ですね。
小林 当社のような歴史のある組織ですと、どうしても過去の成功体験や長年培った手法にとらわれがちなので、より強く未来を意識する必要があるんですよね。
例えば、オルビスが守り続けてきた「オイルカット」にしても、「とらわれなくていい」という話をしているんです。オイルカットは一つの手段であって、その目的を突き詰めると「肌が自ら潤う力を引き出そう」というもの。そのためには他の新たな手段を打ち出してもいいはずだよね、と認識をすり合わせていくんです。第2創業期を迎えた僕たちのミッションは「スマートエイジング」という言葉に集約して、いつも共有しています。
福田 思考停止になりがちなところを、根本から考え直す。目の前の仕事に一生懸命なほど近視眼的になってしまうから、原点に立ち返る機会を定期的に持たないといけないし、その発信こそトップの役割なのだとあらためて感じました。
実はSHEもミッションを変更した経緯があるんです。創業当初は、料理やヨガのレッスンも備えて“ゆるふわ女子”も取り込むスクール事業を展開していたのですが、だんだんと「人生を本気で変えたい人を応援したい」という気持ちが強くなって。創業2〜3年目でメッセージをガラリと変えたんです。ウェブデザインや動画制作のようなキャリアアップに直結する学習サポートをメインにして、「私たちは全力であなたの人生に伴走するから、覚悟してきてほしい」と発信したら、共感してくれる顧客がしっかりとついてくれて、今に至っています。
小林 そのスピード感はすごい。真似できないな。福田さんが意味づけた価値が強いから、顧客もついてきてくれたのだと思いますよ。
福田 実際、目標に向かう手法が頻繁に変わるのが、スタートアップのリアルです。それが強みでもあるし、痛みでもあるけれど、成長のためには必要なプロセスだと思っています。だから、一緒に働くみんなには「方針が変わる可能性もあるけれど、ついてきてほしい」とあらかじめ伝えることを心がけています。
――最後に、これからの組織づくりとして取り組みたいことや、目指す会社像について伺わせてください。
小林 ダイバーシティが大事と言われていますが、これも目的ではなく手段。目的は、不確実性の高い時代にイノベーションを生み出せる組織をつくることだと思っています。「イノベーション」という言葉をはじめに提唱したシュンペーターによると、その意味は「異なる知と知の融合」。ということは、新しいモノや人を持ってこなくても、組み合わせ次第でイノベーションは生み続けることができる。そんな機会を積極的に提供できる組織にしていきたいですね。
福田 今いる人たちの組み合わせを変えるだけでもイノベーションは起きるということですね。
小林 例えば、プロジェクト型の仕事を増やしていけば、社内の様々なメンバーと出会いながら刺激や学びを交換することができます。同時に、推奨したいのは個人のイントラパーソナルダイバーシティの拡大です。「自由と責任」をセットにしながら、一人ひとりが価値観を磨く学習機会を支援していきたいと考えています。
福田 SHEも、働く人の自発的な成長を応援する会社であり続けたいです。昔は「成果を出さないと給料が下がる」「サボると降格する」といった恐怖ドリブンのマネジメントが主流でしたが、ミレニアル世代が労働生産人口のマジョリティになっていく時代には、やりがいや働く意味を感じてもらえる組織でないと生き残れないと確信しています。社員も株主も顧客も全員がサステナブルに幸せになれる組織をつくっていきたい。誰も傷つけないお笑いを追求する「第7世代」の芸人さんが人気を集めているように、企業も“三方よし”を実践する斬新な経営が求められていると感じているんです。
小林 お笑い第7世代に例えるって、面白いですね。
福田 彼らの活躍は、今の若い人たちの価値観を象徴しているなと思うんです。まずは、中で働く私たちが自然体で楽しく働けることが、長期的な顧客への還元につながるはず。それが可能だと証明していくことが、私たちのミッションだと思っています。数十年後に、「令和時代には、SHEみたいにハッピーに働きながら成果を出す会社が増えたよね」と言われるようになりたいです。
小林 言われたいですね。
福田 そのためには、個人の意識を高めていく機会提供も必要だと感じたので、最近は“経営者マインド”を養う研修を強化しています。マネジャー以外の人でも全員が参加できるマネジメント研修を用意したところ、大好評で。情報格差がなくなるから、同じ共通認識のもとにコミュニケーションができるようになったと喜ばれています。早いうちから経営者マインドを持つことは、個人のキャリアにも絶対プラスに働くはずなので、これからも積極的に機会を提供していきます。
小林 個人の成長意欲に寄り添うって大事ですよね。オルビスもこの5月から人事制度を変えて、管理職を目指すキャリアコースだけでなく、個人の成長目標に合わせて収入も上がっていく制度へと舵を切りました。商品に込めているメッセージ「スマートエイジング」は、そのまま社員へのメッセージにも活かせると思っているんです。「自分にとって最良の人生を、自分の力で積み重ねてほしい」というメッセージですから。
福田 素晴らしいですね。安定した経営基盤もありながら、個人がチャレンジできる環境なんて。私もオルビスに転職したくなりました(笑)。
小林 いつでもどうぞ(笑)。個人としてのスキルをしっかり磨きたい時はSHEがあるよ、と周りにも薦めます。
福田 ありがとうございます。規模も業種も違う組織ですが、とても学びになるお言葉をたくさんいただけました。働く人と共に輝き、成長できる組織をこれからも目指していきます。
いかがでしたか?
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(文:宮本恵理子/撮影:林直幸)