みなさん、こんにちは。
LX DESIGN公式note担当者です。
LX DESIGN 代表取締役社長の金谷が、「少し先の教育業界を創る」をテーマに様々な方と対談する、この企画。今回は、プログラミング教育、コミュニティスクール推進など、教育界でも先進的な取り組みに携わる福田晴一さんとの対談です。
福田さんは公立小学校の校長時代、次世代のモデル的な学校経営を推進してきた方です。2018年に定年退職した後は、61歳でIT業界に転職。2022年4月にはLX DESIGNのアドバイザーに就任しました。いま教育界で起きている変革のリアル、そして教育の「これから」について、二人が語ります。
異色の質問「どうすれば20代で校長になれますか?」
――そもそもお二人は、どんな経緯でお知り合いになったのですか?
福田:10年数年前に時を戻しましょう。当時の私は、杉並区立和田小学校の校長を務めていました。そのころ杉並区では、元リクルートの藤原和博さんが、和田中学校の校長に就任。都内公立中学校で初となる民間人校長が誕生したのです。和田中の藤原さんと和田小の私、ふたりでタッグを組んで、大規模な現場改革を進めていました。そこで母校である東京学芸大学から「現場の校長先生の声を学生に聞かせたい」と講演の依頼があったんです。
講演当日、話を終えて「質問はありますか?」と聞きました。すると後ろのほうの席で「はい」と手が挙がりました。そして、立ち上がった学生の方が「僕、20代で校長になりたいんですけど、どうすればなれますか?」と聞いたんですよ。ええっ!と思ってね。そんなことを聞く学生がいるんだ、って。そのときは「現行の制度下で、若くして校長になるのなら民間採用しかないよ」って答えたと思うんですが、後日質問した学生さんから連絡があって「学校訪問をさせてもらえませんか?」と。そしてやってきたのが、金谷智くんでした。
金谷:当時の僕は、斜に構えている学生だったので、大学が開催しているイベントとかには極力行かないようにしていたんですけど(笑)、現役の校長先生とは話してみたかったんです。和田小・和田中の取り組みは中学生のときから知っていましたし、講演のあと、再び福田先生に会いに行きました。以降は1年に1回くらいお会いして、意見交換させていただいています。普通、そんな質問をしたら「教師にもなっていないうちから『校長になりたい』なんて、失礼で生意気なやつだ」って思われてしまったかもしれません。けれど、福田先生はいろんな個性をもつ生徒たちを育ててきた方だから、僕の性格や衝動も受け止めてくださったんじゃないかな。
目の当たりにしたのは「教育改革のど真ん中」
――この10数年、福田さんと金谷さんは定期的に意見交換をされていたのですね。そして今年4月に、福田さんはLX DESIGNのアドバイザーにも就任されています。
福田:はい。金谷くんと意見交換する中で、彼はLX DESIGNを立ち上げて、教育界も大きな転換期を迎えた。金谷くんのアイデアを聞いて「それは現場のニーズに合っているよ」と言うと、金谷くんはすぐに動き出しちゃうんですよ。こっちがヒヤヒヤするときもあるくらい(笑)。その行動力はユニークだなあと思うし、LX DESIGNに関わり始めたらおもしろくなっちゃったんですよね。
金谷:10数年前、和田小や和田中を見た僕は「ここが改革のど真ん中だ」と思いました。そして今、教育業界ではようやく、GIGAスクール構想と呼ばれるIT活用の大改革や、教員の働き方改革につながるコミュニティ・スクール推進の動きが起きている。あのとき福田先生たちが取り組まれていた現場改革の動きが、ようやく全国に広がり始めたんです。そんなタイミングで、福田先生に僕たちのチームに入っていただいたことを、本当に嬉しく思っています。
■教育改革のTopics
・GIGAスクール構想:1人1台の情報端末を全国の小学校と中学校に配備し、新しい学びの形を実現するための構想。2019年12月に文部科学省から発表され 、2021年度には全自治体等のうち96.1%が端末を整備済みの状態に。
・コミュニティ・スクール:学校と保護者、地域住民がともに知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることが可能になる「地域とともにある学校」への転換を図るための仕組み。
小学校にDSを導入、民間企業とコラボ授業…大改革の裏にある2つの原体験
――福田さんは校長時代、どんなことを課題に感じて現場の改革に取り組まれたのですか?
福田:2つの原体験があるんですね。まずは1つ目。1999年に、私は養護学校の教頭になりました。養護学校には一人ひとり、異なる支援が必要な児童生徒たちがいて、それぞれに適した教材をつくったり、訪問授業をしたりしていました。いわば、究極の「個に応じた教育」ですよね。
そして3年後にはアメリカに渡り、現地校に通う児童生徒たちが休日に補習授業を受ける、補習校の校長を務めます。そこでは当たり前のように様々な人種の人たちが学校運営に携わっていて、飛び級などのシステムもある。「みんな同じ」ではなく、それぞれが異なることを受け止める場所になっていた。今度は究極の「多様な教育」を目撃した、これが2つ目の原体験です。
「個に応じた教育」と「多様な教育」を経験して、本来、学級という集団は、個を排除する(Exclusion)のではなく、その多様性を受け止めて、互いに認め合う(Inclusion)場でなければいけないと感じました。それこそが、あらゆる人が孤立したり、排除されたりしない共生社会のあり方だと。でも日本の公立学校に戻ってみれば、依然として横並び主義が強くて、授業も画一的です。
いまの子どもたちが大人になる頃には、外国人と一緒に仕事をするなんてことは、当たり前になっているはずですよ。だから子どもの頃の、真っ白のキャンバスのうちから、多様性を受け入れられる土壌を育てていくことに意味がある。そのためには、前例を踏襲するだけではなくて、新しい取り組みが必要だったんですよね。
――「みんな一緒」の空気感が強い、日本の教育現場を変えようと思われたのですね。でも、そう簡単に学校に新しいことを取り入れたり、実験的な試みをしたりできるものなのでしょうか?
福田:たとえば、和田中では藤原さんが、50分授業を45分に短縮し、その分強化すべき教科のコマ数を増やして、授業効率を上げました。それで和田小でも45分授業を40分に短縮して、代わりにニンテンドーDSでの学習を導入したんです。そのほうが、楽しく勉強できるじゃないですか。他にも民間企業と組んで特別授業を行ったり、裁判傍聴に連れて行ったりと、外部の企業や機関と連携した学びを取り入れました。学習指導要領は、あくまでもカリキュラムを編成するための“基準”なので、各学校でカリキュラムを変えてもいいんです。
校長という職を“あがり”にしないで、長年の教育知見をもっと経営に生かせば、学校も変えられるし、変えた分の結果はきちんと現れると私は思います。とはいえ、昨今の教員にその余裕がないほど忙しいのもわかる。だからこそ、今、国をあげて「地域も企業も協働して、学校教育を支えましょう」というムーブメントが起きているんです。
金谷:そもそも教員という職業がカバーする範囲が広すぎること、教員個人の経験やスキル、立場に依存せざるをえない業界の構造が問題だと思います。テクノロジーの力を使いながら、先生の仕事をもっと小分けにして分業できるようにしたい。これが今、僕たちが取り組んでいることです。
福田:全体的な教員不足の中、もはや教員だけでは、教育のすべてを担えなくなっている。たとえば日本の教育でも昨今、情報活用能力の育成が全面に押し出されるようになりましたよね。それで、今強く求められているのは、テクノロジーに強い情報科の教員です。でも民間企業のエンジニア自体も売り手市場なので、学生も教員になるより民間に流れてしまうんですよ。教員のなり手が本当に足りない。だからLX DESIGNの『複業先生』のように、非正規雇用で教育に関われる人たちを求める声は、一層高まっていくと思いますよ。
高校生の金谷少年が感じた「教員の働き方」への違和感、今ようやく社会課題に
――最近、公立中学校の運動部活動を地域に移行する改革(部活地域移行)など、教育界の変革が話題に上がるようになりました。変革期にある教育界で、希望に感じること・チャンスだと思うことはありますか?
金谷:本音を言えば、いまだに「ITなんてわからないよ〜(笑)」の状態で止まっている学校も多くて、変化に興味のない先生もまだまだ多いと感じます。だから正直、悲観的な気持ちになることもある。それでも希望に感じるのは、この教育にまつわる社会課題に対して、心を燃やして火中の栗を拾いに行くような人たちが、どんどん増えている実感があることです。
そういえば僕、高校2年生のときに教育委員会に電話をしたことがあるんですよ。両親が教員だったので「親の働き方を見ていて『なんか変だな』って思うんですけど」って聞いたんです。こんなに忙しくて、やらなければいけないことがどんどん増えているのに、生徒や親たちからの尊敬は失われていく一方。このままじゃ、数十年後、教員という職業はなくなっちゃうんじゃないかなと思って。
――高校2年生で教育委員会に電話を?
金谷:はい。そうしたら「こんな世の中で、教員というのは選ばれた人にしかできない仕事だから、応援してやってくれ」というようなことを言われたんですけど。それが最近になって、まるで今日気づいたかのように「教員の働き方が…」とか「部活問題が…」って言われ始めた。いやいや、違うよな。20数年前に僕が電話をした頃から、やっぱりおかしかったんだって思う。
福田:「定額働き放題」って言葉があってね。部活の顧問の仕事に対しても、時間外手当は支払われない。部活の顧問をやりたくて先生になったような人は「いくらでも働き放題だ」と思っているかもしれないけれど、多くの教員にとっては「定額で働かされ放題」になっている。では外部指導者にお願いしましょう、となると、任命から人事異動など、新しい仕組みをつくらなければいけない。人件費の問題もある。ニュースで話題にはなっているけれど、実際のところ、実現までにはまだまだ、たくさんのハードルがあると思います。
■教育改革のTopics
・部活地域移行:教員の長時間労働を改善するため、公立中学校の運動部活動を地域に移行する改革。①地域スポーツクラブ等に移行するケース、②外部指導者が部活を指導するケース、③教員が「兼職兼業」として報酬を得て指導するケースの3つが想定されている。
サービスの受け手でいるより「与える側」に回る幸せ
――そんな中、LX DESIGNとしてはどんな役割を期待されていると思いますか?
福田:従来の、学校という「人・金・ハコ」だけではもう日本の教育はまかなえない。これは確かです。専門職としての教員の仕事は本来、生徒指導と学習指導。この2つだけは、教員免許がないとできません。逆に言えば、それ以外のことは教員免許がなくてもできるということです。どんどん外部委託しなければいけないけれど、でもそこには予算の問題が立ちはだかっている。
そんな中、『複業先生』のサービスに登録している人たちは、別の仕事で生計を立てつつも、“外の人”として学校現場に貢献することに生きがいをもてる人たちです。また、元教員の金谷くんを含め、LX DESIGNのメンバーにはある程度学校文化のことを知っている人も多い。だから、活躍の場はどんどん増えていくのではないかと思います。
金谷:よく「なぜ、一般の企業で働いて活躍している人が、『複業先生』に登録するんですか?」と聞かれるんです。それは、自分がサービスの受け手としてただ消費するだけではなく、自分が「GIVE」する側に回ることで幸せを得たい人たちが増えたことの表れなのではないかと。何かしらの方法で学校教育に携わりたい、貢献したいと思う人たちは、きっと増えていく。そういう“外の人”たちとうまく協働できるかが、教員の新しいあり方、働き方の鍵になっていくかもしれない。だから僕らも「教員のあり方を再定義する」くらいの気持ちで、『複業先生』から得られるデータや知見を、学校現場に還元していきたいと思います。
福田晴一さん
昭和31(1956)年、東京都生まれ。元杉並区立天沼小学校校長。みんなのコード学校教育支援部主任講師。2018年4月NPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。2022年4月にはLX DESIGNのアドバイザーに就任。埼玉県戸田市、栃木県佐野市CSディレクター。日本カスタマーハラスメント対応協会顧問。三鷹市、国立市、特別支援巡回相談(心理士)。
※呼び方は敢えてインタビュー時のものをそのまま記載しています。
取材・文/塚田智恵美