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京都から世界へコーヒーカルチャーを発信するというビジョンのもと、グローバルに事業を展開するKurasu。さまざまなバックグラウンドを持つメンバーの中には、日本語と英語の両方を話す人もたくさんいます。
イギリスの大学院で文芸翻訳を修めたAyaもその一人。立ち上げ初期から現在に至るまで、Kurasuのグローバルな活動を「言葉」で支えてきたメンバーです。「いつの間にか、Kurasuで働いた期間が私のキャリアの中で一番長くなっていました」と微笑む彼女に、入社のきっかけや日々の仕事、今後のビジョンについて聞きました。
国際法律事務所から、イギリスの国立大学大学院へ
——Ayaさんのこれまでの経歴をお聞かせください。
私は兵庫県で生まれ育ちました。父が貿易関係の仕事をしていて家でも英語を使っており、母も英語教育に熱心な人だったので、小さいときから英語が身近にありました。本を読むのが大好きで、小学生のときは休み時間になると図書室に直行していたくらい。通学カバンの中にはいつも本が4〜5冊入っていて、まさに「本の虫」でしたね。
高校卒業後は東京の大学(英文科)に進学。ゼミでは英語教材でメディア表象について学びました。具体的には、広告のビジュアル面でどのようなメッセージが伝えられるのか、言葉以外の要素で見る人とどのようにコミュニケートするかといった内容です。
また、英語演劇部と合唱サークルに所属し、3年生で発音担当を任されました。発音担当は、外国語の楽曲を歌うときに、単語の発音だけでなく、言葉の意味や文化的背景を団員に説明・指導する役職です。振り返ってみると、常に何かしら言葉に触れてきましたね。
大学卒業後は、英語を使った仕事がしたくて、国際法律事務所に秘書として就職しました。海外のクライアントとのメールのやりとりや電話応対、簡単な翻訳などを行ない、その会社で4年半働いた後に、イギリスのイースト・アングリア大学(University of East Anglia)の大学院に留学しました。
——法律事務所を辞めて留学し、文芸翻訳を学ぶというのは珍しいケースだと思うのですが、何かきっかけがあったのでしょうか。
私は昔から『ハリー・ポッター』シリーズが好きで、作中に登場する呪文やお菓子の名前が「どうしてこの名前になったんだろう。元の言葉は何だろう」と気になって、原書と日本語訳を並べて読み比べてみたことがあるんです。
たとえば、「インセンディオ」という火を起こす呪文は、ラテン語で「火をつける」を意味するincendoに由来します。「こういう経緯でこの言葉になったんだ!」と知るのはすごく面白くて、それが翻訳に興味を持つようになったきっかけかもしれません。
大学でゼミを選ぶときに言語学に惹かれながらもメディア表象を選んで、その選択に後悔はないものの、言語学を学びたい、文芸翻訳ができるようになりたい、という気持ちはずっとありました。それに加え、一度は海外に住んでみたいという気持ちもあり、「今行かなかったらきっと後悔する」と考えて、仕事をやめて留学することにしたんです。
イギリス東部、ノーフォーク州の州都ノリッジにあるイースト・アングリア大学は、創作学科(Creative Writing)のコースが有名で、カズオ・イシグロもそのコースを出ています。独立した文芸翻訳( Literary Translation)のコースもあり、私はそこに入りました。翻訳理論も学ぶ専門的なコースで門が狭く、クラスメイトはわずか4人でした。
イギリスの大学院は1年間で修士課程を修了できるのですが、準備期間も含めて18か月のビザが発行されます。私は修士論文を出した後もすぐに帰国はせず、現地でアルバイトをしていました。そして、2016年に帰国し、Kurasuに出会うことになります。
知られざる日本の名品を、世界に広める面白さ
——Kurasuとの出会いについて教えてください。
2016年に帰国しフリーランスとして翻訳の仕事を探していたときに、求人サイトを見て、Kurasuが短期から中長期で翻訳の仕事ができる人を募集していると知りました。
石川県・山中漆器の技術を活かして生み出された木製ドリッパー「安清式ドリッパー」などを例に挙げ、日本のコーヒー器具を世界に紹介したいと書かれていて、ハッとしたんです。こんなコーヒー器具があったんだと驚いたし、まだ知られていない日本の魅力あるプロダクトを世界に向けて発信する仕事ってすごく面白そう!と感じて、応募しました。海外に留学してみて、「日本のことって、意外と世界の人々には知られていないんだな」と思う場面が多く、そのことが心に残っていたんですよね。
とはいえ、私はもともとコーヒーが特別好きだったわけではありません。産地やブランド、使うものによってコーヒーの味はここまで変わると教えてくれたのは、留学時代に同じシェアハウスに住んでいたタイ人の男の子でした。
彼はいわゆる「コーヒーオタク」で、エスプレッソマシンを持っていて、それで淹れたコーヒーを飲ませてくれたり、コーヒーのうんちくを聞かせてくれたりしました。スペシャルティコーヒーという言葉を知ったのもその頃です。
実際にスーパーマーケットのコーヒーと独立系ロースターのコーヒーを飲み比べてみて、こんなにも違うのかと驚きました。そんな素地ができていたから、Kurasuのコーヒーにまつわる翻訳という仕事にピンときたのかもしれません。
——Kurasuに入ってから現在まで、どのような業務を担当されてきましたか。
私が入った2016年は、Kurasuもまだ少人数だったので、さまざまな業務に携わりました。日本の商品を英語で紹介する商品ページの作成だけでなく、倉庫への入庫指示やメーカーへの発注と入庫登録、海外向けオンラインストアの管理、英語でのカスタマーサポートなども担当してきました。
現在もこれらの仕事には携わっていますが、Kurasuのメンバーが増えてチーム体制ができたので、分業・協力ができるようになってきました。最近は商品説明やコピーだけでなく、毎週のニュースレターの作成、コーヒーの定期便の冊子に掲載するロースターやインポーターへのインタビューの翻訳も手掛けています。この規模感の会社で、英語でこれだけボリューミーに発信しているところは珍しいのではないでしょうか。
最初はフリーランスを始めたばかりで、フリーランスといえば単発や短期のプロジェクトを複数抱える、というイメージを持っていました。それもあって最初は短期でもいいという気持ちで入ったKurasuですが、気がつけば、新卒で入った法律事務所の在籍期間(4年半)を超え、私の履歴書の中でKurasuがいちばん大きな存在になっていました。こんなに長くご縁が続くなんて、想像もしていませんでしたね。
あらためて、コーヒー会社で専任の翻訳者を置いて多言語発信しているKurasuは本当にユニークだと思いますし、帰国してすぐのタイミングでKurasuに出会えて私は運がよかったです。
柔軟に、自然に、チャレンジできる社内文化
——Kurasuで働いていて、どのようなところを魅力に感じていますか。
私は2016年からリモートで働いていて、ごくたまに出社する程度です。この働き方を受け入れてもらえているのはとてもありがたいですね。
フリーの翻訳者は、翻訳会社に登録して、仕事を委託されたら自宅で翻訳をし、期限までに提出するといった働き方が多いと思います。基本的に、一人で原稿に向き合う仕事なので、他の人とのコミュニケーションは一切なく、孤独です。
Kurasuの仕事はフルリモートとはいえ、日々Slackでメンバーとやりとりをし、オンラインミーティングで顔を見て話しあうことも多いので、孤独感がありません。同じ空間にいないことを補えるくらい温かいコミュニケーションができていて、嬉しく思っています。
去年の夏イギリスの夫の実家に何週間か滞在したときも、時差を考慮して柔軟な対応をしてもらえてありがたかったです。フルリモートの究極系ですね(笑)。
おかげでプライベートの時間も充実していて、3年ほど前から地元の社会人劇団に所属してお芝居をやっています。趣味の合唱も再開したいな、と考えているところです。
——チームや社内文化については、どんなふうに感じていますか。
Kurasuでは役職や年齢で「上下関係」を意識することがほぼありません。人が増えてきたのでマネージャーのような管理職もできましたが、いい意味でフラットなのがKurasuの良さだと思います。階級や社内政治のようなものと無縁だからか、「出世しなくては」「数字で結果を出さなくては」といった重圧で精神を削られることがあまりない会社かな、とも。
もちろんビジネスなので数字で結果を出す必要はありますが、それは自分の出世がかかっているからでなく、一人ひとりが会社として成長したいとか、Kurasuの目指しているところに近づいていきたいといった気持ちでやっている気がします。
現在は会社が急速に大きくなっているフェーズで、これからメンバー同士の関わり方も少し変わっていくのかもしれませんが、カルチャービルディングもしっかりと始めているので、きっと気持ちいい形で成長していけるでしょう。
——これまでで特に印象に残っていることがあれば教えてください。
Kurasu Ebisugawaのオープン(2020年7月)が、すごく心に残っています。ショールームとしてコーヒー器具を触って体験してもらえるコーヒー屋さんというコンセプトは斬新で、最初に構想を聞いたときから「面白そう!」と思っていました。
新しいけれど、奇をてらったわけではなく、Kurasuが目指している方向性で、「確かに、そういうのあったらいいな」と思うものを自然な流れで形にできるのがすごくいいなって。単に「新しいことをやってやろうぜ」ではない、Kurasuらしい挑戦だなと感じました。
翻訳とCRM、二つの言葉でつながっていく未来
——Kurasuで達成したい目標や、キャリアで成し遂げたいことはありますか。
私はKurasuの立ち上げ初期から「なんでも屋さん」として仕事をしてきました。いろいろな業務に携われることの良さも感じていますが、会社が大きくなって専門的なポジションも増えているなか、翻訳以外にもう一つ、「Kurasuのキャリアでこれを身につけました」と誇れるものがほしいなと思っています。
具体的には、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を、より専門的にできるようになりたいです。今携わっているニュースレターもその一環ですね。
また、2019年に日本全国のパートナーロースターのインタビューと抽出レシピを日本語と英語の2言語併記でまとめた本を出したのですが、Vol.1でストップしてしまっているので、Vol.2を作れたらいいなと思っています。
私の夫は英語話者で日本語を話さないため、家では英語で話しているのですが、日英2言語で同じボリュームのコンテンツがあるメディアって、あまりないんです。映画などでも、いいなと思うものを見つけて、夫に「ちょっとこれ見てみて」と言いたくても、英語字幕がないと諦めてしまうことがあったり……。そういう意味で、2言語併記されていると嬉しいんですよね。職業柄、2言語併記のものを見つけるとつい読み比べもしてしまって、2倍楽しい、というのもあります。(笑)
Kurasuのコンテンツは日本語と英語の両方で情報があって、どちらもおろそかにされていません。情報のアクセシビリティがすごく高いなって思います。Kurasuに限らず、世の中にすこしずつそんなメディアが増えていったらいいですね。
——Ayaさん、ありがとうございました。最後に今お気に入りのコーヒーを教えてください!
8月に西陣の焙煎所に行ったときに飲んだエチオピア ウエストアルシ デカフェが衝撃的なおいしさでした。しっかり中まで火入れをしていて水出しにもおすすめの豆らしく、水出しをいただいたところ、グラスを顔に近づけた瞬間に桃の皮を剥いたときのような芳醇な香りが広がり、飲んでみるとまるでピーチティー。 感激して、その場で買って帰りました。Kurasuオンラインストアでも購入できるので、花やかな香りや、桃やブラックチェリー、シトラスの味わいが好きな方は、ぜひ味わってみてください!