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「京都から世界へコーヒーカルチャーを発信する。」このビジョンのもとKurasuは、グローバルに事業を展開しています。シンガポール、ジャカルタ、香港……各地にカフェをオープンし、コミュニティを広げてきました。
しかし、その道のりはいつも平坦とはいきません。特にタイ・バンコクでの挑戦は、海外展開の難しさを知る機会となりました。2019年8月にオープンさせたバンコク1号店「Kurasu Bangkok」を、私たちは昨年7月にクローズしたのです。
バンコク進出からクローズまでのリアルエピソードと、それでもなおKurasuがタイから撤退せず挑戦し続ける理由を、Kurasu代表・Yozo(大槻洋三)の声を交えつつお伝えします。
変革のさなかにあるバンコクのコーヒーシーン
インドネシアやベトナムといったほかの東南アジアの国々と同じく、著しい成長フェーズにあるバンコク(タイ)のコーヒー市場。コーヒー生産国でもあり、コーヒーは国内でもよく飲まれています。
以前は、東南アジアで生産されるコーヒー豆の大部分が、大量生産向けのロブスタ(カネフォラ)種でした。しかし、近年生産者の取り組みに変化が生まれ、質の高いアラビカ種の豆も流通し始めています。
「質の高いコーヒーがどんどん出てきていて、タイ国内にスペシャルティコーヒーの市場が拡大していることを肌で感じます。消費者が高品質なコーヒーを選んで飲むようになり、適正な価格でコーヒー豆が取り引きされるようになって、よい循環が生まれています」(Yozo)
バンコクから容易に行き来できるタイ北部・チェンライの山岳地帯には、コーヒーの大きな生産地があります。スペシャルティコーヒーロースタリーやショップがコーヒー農園に足を運んで直接やり取りをし、消費者のニーズを伝えて、適正な価格を支払う。そんなネットワークが構築され、スピード感を持って情報のやりとりが行なわれています。
「コーヒー生産国であるタイは、地場産業を守るために海外からのコーヒーの輸入に規制をかけています。他国からコーヒーを輸入しようとすると、非常に高い関税がかかるんです。つまり、タイのコーヒー農家としては、他国の産地と競争しなくてよく、品質を高める必要もありませんでした。
しかし、近年、国内でも質の高いコーヒーを求める人が増えてきたため、コーヒーロースタリーやショップは生産者と関係を築いて、消費者に選ばれるスペシャルティコーヒーを提供するようになりました」(Yozo)
まさに変革のさなかにあるタイのコーヒー市場。2019年、Kurasuはそこに海外展開の可能性を見出しました。
2019年、タイ1号店「Kurasu Bangkok」の誕生
2017年にオープンしたシンガポール店の好評を受けて、Kurasuは海外事業の拡大を積極的に検討していました。そんなとき、Yozoがメルボルン在住時代の知人であるタイ人のPok(ポック)さんから、「タイでカフェをやらないか?」と声をかけられます。
Pokさんはメルボルンのコーヒー業界に長く携わり、ロースターやトレーディングといった経験を重ねた後、タイに戻ってモール内にコーヒー豆の焙煎所を開こうとしていたのです。
「焙煎所の隣のスペースが空いているから、カフェをしてはどうかという話でした。Pokさんはコーヒー豆の焙煎に特化したくて、自分でカフェはできないから、と。
Kurasuがタイに出店する場合、日本で焙煎したコーヒー豆を輸入すると非常に高い関税がかかり、コストが2倍ほどになってしまいます。それを回避するためには、現地で焙煎するしかありません。しかし、自前で焙煎所を用意するには大きな初期投資が必要で、なかなか難しいのが現実です。
そういった課題に直面していたとき、Pokさんの提案を聞いて、焙煎環境があるならKurasuはタイに進出できる!と感じました」(Yozo)
Pokさんが焙煎所を作ろうとしていた場所は、周囲にサッカーコートや住宅街があるショッピングモール「Bambini Villa」の中。実はモール側から「焙煎所だけではもったいないから、カフェを作ってほしい」と言われていたそうです。ただ、Pokさんは焙煎豆の卸売りをメインに展開したいと考えており、隣でカフェをやってくれる人がいたらWin-Winになるだろうと考えたのです。
Pokさんに案内された候補地は、天井が高く、開放感があって、カフェを開くのに申し分ない空間でした。隣に焙煎所があって焙煎をしてもらえますし、直接Kurasuの事業とは関わらなくとも、そこにPokさんがいることが安心材料になりました。
そして2019年8月、「Kurasu Bangkok」がオープン。
地元で焙煎したKurasuオリジナルの「Bangkok Blend」を使ったエスプレッソドリンクや、地元ベーカリーとコラボした日本スタイルのトーストメニュー(あんバタートースト、たまごトースト等)を提供しました。
「日本ではたいていのコーヒー屋さんや喫茶店にトーストがありますよね。でも海外では、そもそも『食パン』が売っていないから、カフェにもトーストメニューがありません。
そこで、日本での修業経験を持つ現地のパン職人さんに食パンを焼いてもらい、カフェで出すことにしたんです。日本の喫茶店文化を感じさせるトースト企画はヒットし、よく売れました。
Kurasuはクラシカルな『和』のイメージではなく、モダン・コンテンポラリーなお店づくりをしています。その中で『日本』や『京都』のテイストをどう表現するかは、ブランディング上の重要課題の一つです。」(Yozo)
2022年、タイ2号店「Kurasu Thonglor」オープン
1号店のオープンから約2年半後、Kurasuはタイ2店舗目となる「Kurasu Thonglor」をオープンします。
こちらはKurasu Bangkokとは違い、オフィスビルの1階にあるコンパクトなコーヒースタンドです。ビルのディベロッパーがもともとKurasuファンで、彼の提案をきっかけに開業しました。
「オフィスワーカーが休憩時間にテイクアウトのコーヒーを買いに来るほか、Grab Food(現地のフードデリバリー)でのオーダーも入ります。小さなスタンドなのでランニングコストが抑えられ、それなりに杯数も出るので、安定した利益を出している状況です。
しかし、スタンドは人がたくさん集まる場所ではありません。つまり、コミュニティとしての『Kurasu』を体現しにくいという課題があります。タイの人たちに、もっと深くKurasuらしさを知ってもらい、Kurasuならではのコーヒー体験をしてもらえる店を作りたい。ずっとそう考えていました」(Yozo)
Kurasuが提供しているのは、単に飲み物としてのコーヒーだけではありません。「Kurasuでコーヒーを飲みたくて、ここに来ました」と言ってもらえるような、Kurasuらしい「場」をつくることが重要でした。
2023年、コロナ禍を経てKurasu Bangkokクローズ
2023年7月のこと。Kurasuはモールのテナント契約を更新するタイミングで、Kurasu Bangkokをクローズする決断をしました。
新型コロナウイルスの流行とともにモールを訪れる人の数が激減し、当然のことながらカフェの売上も低迷。客足が戻ってくるのに想像以上に時間がかかったのです。
「コロナ禍で、立地面の課題が浮き彫りになりました。国やエリアごとに街の構造が違い、それによって人々の行動も異なるというのを実感しましたね。
例えば、Kurasuが海外初店舗を出したシンガポールであれば、コンパクトな街なので、街歩きをしながらお店に立ち寄れます。一方、バンコクは街に広がりがあって、『一つの場所を目指していく』のが一般的。
つまり、コロナ禍で不要不急の行動が抑制されたことが、Kurasu Bangkokではかなり響いたのです。車かバイクでないとたどり着けない、わざわざ目指さないといけない場所にあったからです」(Yozo)
実はKurasu Bangkokクローズを決断した時期、Yozoは「もうKurasu Thonglorも閉じてしまおうか。Kurasuらしい発信や店づくりもできていないし……」とも思ったそうです。
しかし、実際にタイで出店したからこそ、タイの人々のコーヒーに対する熱量や、コーヒー市場の変化をリアルに感じ、コーヒー農園の人たちとのつながりも生まれました。
「出店から2年半で閉店」という事実を、失敗だと捉える人もいるかもしれません。しかしこの経験が、新たな店舗や農園との関係構築につながる布石になっていることもまた事実なのです。
「何事も、予想通りにうまくいくことばかりではありません。僕は、うまくいっても、いかなくても、常に『この経験をどんなふうに次に活かせるだろうか』と考えるようにしています。紆余曲折を経て培った知見は、目指す未来に向かって進む上でかけがえのない財産です」(Yozo)
Kurasu Bangkokは閉店しましたが、Kurasuはタイから撤退しません。むしろ現在、次の店舗を計画中です。そしてこれをきっかけに、コーヒー農家さんとの新たな関係構築にも取り組み始めました。すべての経験を経て、明るい光が見えてきたのです。
タイでKurasuが目指していくこと
現在営業中の「Kurasu Thonglor」では、オープンしてから現在に至るまで、タイ国内で生産・焙煎されたコーヒー豆を使ったエスプレッソドリンクを提供しています。今後、バンコクで店舗展開をする上で、タイのコーヒーとその他をどういうバランスで展開していくかが課題です。
「せっかくタイに拠点があるので、『タイ以外の店舗で、タイのコーヒーを提供する』といったつながり・循環もつくりたいですね。とくに生豆の流通部分には、今後力を入れていきたい。生産者とオンラインではつながっているものの、現地にはまだ行けていないので、農園も訪ねたいです」(Yozo)
農園に足を運んで生産者と話をすることで、業界を取り巻く状況を知ることができ、そこからアイデアが生まれます。人との出会いも生まれ、関係を構築していけるかもしれません。一つひとつの行動は小さくても、点と点がつながれば、未来へと続く線を描いていくことができます。
「Kurasu BangkokもKurasu Thonglorも、人からお話をいただいて出店しました。でも、次の店舗は積極的に企画したくて、Kurasuを体現できるような空間を求めて物件を探しているところです。モールではなく、古民家のような場所が理想で、お客さんにそこを目的として来てもらえるような場所がいいなと思っています。いまはシェアロースターを利用しているので、店内で焙煎もしたいし、イベントやワークショップも開催したいです。
またKurasuでは、日本と世界のコーヒーカルチャーを器具から繋げることを目指す『Kigu』ブランドも展開しており、コーヒー器具からKurasuを知ってくださる方もたくさんいます。実は今、オリジナルプロダクトの開発も計画中です。様々な取り組みでKurasu全体を進化させ、皆さんの生活の一部にフィットする存在になれたらいいなと思っています」(Yozo)
農園の方々と協力体制を取り、Kurasu独自の生産方法、独自のサプライチェーンを構築できたとき、生産国に拠点を置くことの意義が実感できるはずです。
より良いコーヒーの未来を目指して世界各地のコミュニティに参画するKurasu。私たちのチャレンジは、これからも続きます。一緒にゴールを目指したいと思ってくださる方は、ぜひWantedlyからお気軽にご連絡ください。