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「こう生きたい」を“ちょこっと”支える|所長インタビュー 内田繭子[前編]

<インタビュー記事/前編>
今回は、中野ステーションの所長である内田のインタビューです。
前編では、内田が訪問看護師を志したきっかけやステーション選びで大事にしたこと、
自身の訪問看護でのエピソードについて語ってもらいました。

<プロフィール>
内田繭子 うちだ・まゆこ
ケアプロ訪問看護ステーション東京 中野ステーション 看護師(所長)

都内の中規模病院での病棟勤務後、住み慣れた家で暮らし・亡くなる方を支えることを志し、訪問看護の道へ。ケアプロの中野ステーションでスタッフとして訪問看護に従事した後、現在はスタッフ18名の中野ステーションで、所長として現場や教育など事業所のマネジメントを行っている。

今日はケアプロの中野ステーション所長である内田さんにお話を伺いたいと思います。
まず簡単に内田さんのこれまでのキャリアを教えてもらえますか。

はい。私は、新卒で都内の中規模病院で勤務したあとにケアプロに転職し、それからちょうど3年が経つところです。

訪問看護に転職したきっかけは何だったのですか?

元々ターミナルケアに興味があったのですが、新卒ではホスピスには行けないと言われていたので、一般病床に勤務することになりました。一般病床で働く中、ターミナルの方を看させていただいて、病院で穏やかに亡くなることを支援するという素敵な看護の場面もたくさんある一方で、白い壁に囲まれて、看護師も決まった時間にラウンドしてくる、そういう環境の中での死というものに違和感を感じるようになって。それって結局ホスピスに行っても施設という環境の中では変わらないんじゃないかって思った時に自分が目指していた終末期のケアというものに疑問を感じるようになりました。

その時に、たまたま、ある勉強会でケアプロのスタッフに会って、若くても訪問看護をやってる姿に刺激を受けて見学にきました。見学後はすぐに転職したわけではなかったんですけど、ずっと施設の中での死というものに違和感を持っていたので、自宅の住み慣れた場所で暮らす・亡くなる人の支えになりたい気持ちが強くなってきて、訪問看護師になることを決めました。

ステーションを選ぶときは何を大事にしたんですか?

転職を決める前に3箇所くらい訪問看護を見たんですけど、その中でも、ケアプロは若いスタッフが多くてみんな夢を持って働いているというイメージを受けて、自分もそこでだったら何かを目指して、一緒に切磋琢磨しながら頑張れるんじゃないかと思ったのが一つの基準でした。

あとは、ちゃんと24時間365日の対応をしているステーションか。他のステーションを見にいった時に、「日中のケアをちゃんとやっていれば、夜間の緊急コールはならない。緊急コールが鳴る時は看護師では対応できないだろうから、緊急訪問はせずにまず救急車を呼びます。」と説明を受けたことがあって、緊急コールがないように日中のケアをちゃんとやることは大事だけど、自分が療養者だったら何かあった時に頼れる存在として訪問看護師にいてほしいと思うんじゃないかなと感じたので、そこは大事にしました。

内田さんが訪問看護の現場に立つ中で、印象的だったエピソードを教えてください。

えっ。。。たくさんあって選べないです。(笑)どれも印象的なんですが、1つだけあげるとしたら、「何か目に見えるケアをするということだけが看護じゃない」と学んだことですね。利用者さんは、特に疾患があるわけではなく、セルフネグレクトで、床上排泄でほぼ寝たきり、食事も寝たまましている方でした。セルフネグレクトになった原因が分からなくて訪問看護の依頼があったのですが、介入当初は看護師から「体拭きましょう」とか「リハビリしましょう」と声をかけても、「もういい!!」と拒否が強くて何もできなくて。なので、まずは信頼関係を結ぶこと。その人の生活の中に入り込むにあたって看護師の存在がその人にとって違和感にならないように、嫌な存在じゃなくなるようにすることが大事だなと思ったんです。


具体的にはどんな風に関わったんですか?

週2回の訪問の中で、バイタルを図ることすら拒否があったので、家に入ったら、まず本人の横に座らせてもらう、次に本人と同じ目線でテレビを見ながら徐々に話をしていく。実際に何かケアするわけではないことに、「この時間ってどうなのかな」と自分自身悩むこともあったんですけど、一緒にテレビをみながら、家族のこと、昔のことを聞いてくと、少しずつ利用者さんが慣れてきたのか、色んな事を自己開示して教えてくださるようになってきたんです。その話の中で、「今まで娘のために尽くして生きてきた」という本人のこれまでの人生感が分かってきました。セルフネグレクトの状態になっていった時期は、ちょうど娘様がご結婚されて家を出られたタイミングだったんです。恐らく娘さんの喪失感から何もしたくないという状況になっているのではないかと思いました。それで、本人の喪失感を受け止めつつ、「娘さんと一緒に出かけるのを目指してみるのはどうですか?」と声を掛けることで、話し合いを通して本人のニーズを引き出していくことができたんです。


最終的にその方はどうなったんですか?

その後、「娘と出かける」ということを利用者さん自身が目標にされ、保清やリハビリを積極的に行われるようになって、都度できていることをフィードバックしていくことで利用者さん本人も保清やリハビリを肯定的に捉えられるようになり、最終的には自分でトイレ行けたり、身なりも整えられたり、室外リハビリも歩行で行えるようになったり。自律して生活できるようにまで改善することができました。

この経験を通して、医療的な情報収集やケアを提供することはもちろん必要なことだけれど、それだけが看護じゃない、そもそも信頼すらなければ何も進まないということを学んだ気がします。まず、看護師としてではなく、人として対象者にどうか関わるか、どう受け入れてもらうか大事だと感じました。また、看護師が最初に思う「こうしなきゃ!」っていうのは、結構看護師のエゴなことが多くて、本人が何を望んでいるのか、どう生きてきたのか、どう生きたいのかを知った上での看護介入でないといけないなということを学ばせて頂きました。


内田さんが考える「訪問看護の役割・醍醐味」ってなんですか?

私のイメージでは、訪問看護って「その人が生きたいように生きるための伴走者」のような感じです。決して訪問看護が入ったから何かを変えられるということはなくて、その人の中にある「こう生きたい」というのを”ちょこっと支える”ことが大事。訪問看護が前に出てきたら看護師のエゴになってしまうので、あくまで、その人とその人生ありき。そもそも、その人のこともよく知らずに「支援しよう」って思うことすらおこがましいように感じます。
対象者の人生は、もちろん答えがないし、中には希望があっても解決ができないものもあります。それらに対して、その時々のベターを一緒に考え悩み続けていくことが訪問看護の役割だと感じますし、そこに関われることが醍醐味や魅力だと思います。

★後編に続く:利用者と一緒に悩み続けられるチームを|所長インタビュー 内田繭子[後編]

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