オンライン型の不動産仲介サービスを提供しているSHERPA。
一般的な不動産会社と異なるのは、仲介業務を担うのが「不動産エージェント(個人事業主)」であることです。この事業を立ち上げたのは、「SHERPA」を運営する株式会社WANDY創業者の石川倉三さんです。
今回は、石川さんがSHERPAを立ち上げたきっかけとその思い、さらには掲げるミッションビジョンを通して、SHERPAが実現したい未来について伺います。
「不動産仲介業を民主化する」というビジョンの根底にある、思い
──まず、SHERPAを立ち上げた経緯から教えてください。
石川:私が不動産の事業を立ち上げる原点となったのは、家族の土地の売買を経験したことです。土地や建物に関する契約の煩雑さや情報の取りにくさを私自身、身を持って知る機会がありました。
2011年に起業し会社経営をしてきましたが、先述した体験をきっかけに、2018年に不動産業者向けポータルサイト「物件会議」の運営を始めました。
物件会議は不動産業者同士がつながることで、業者間で物件の円滑な流通を促すサービスです。実際5,500社の不動産関連企業に利用していただくサービスとなり、数多くの業者間取引をお手伝いできるようになりました。
ただ、この事業を運営するなかで感じたのは、「業界をよりよくするためには、消費者接点となる部分を変えないといけない」ということでした。
よく言われることですが、消費者が割を食う情報格差がこの業界にはあります。
売買においては家や土地を売却する際に相場が分からず安く売ってしまったり、欲しい物件が仲介業者の都合で囲い込まれてしまったり、賃貸においても必ずしも必要のないオプションが上乗せされていたり、インセンティブが付いていることで営業が都合のいい自社管理物件に誘導したりすることは日常的に行われています。こうした不動産取引の体験を向上させるために消費者との接点を変える必要があると考えたのです。
また、別の観点では、働き手の環境についても問題を感じました。
近年、不動産に興味を持っていて宅建士の資格の勉強をする方の数は増加しており、副業で実務経験を積みたいという相談は私の元にも度々ありました。
しかし、企業側はフルタイムの即戦力となる経験者がほしいので、そうした未経験者が副業で学びながら働ける環境はほとんどなかったのです。
「不動産の業界にももっと自由な働き方を提示すること」、それが業界の一次情報に触れられるすそ野を増やし、消費者の情報格差をなくすことにもつながると考えました。
こうした想いから、メンバーで議論を重ね、新規事業として始めたのがSHERPAです。
誰でも副業で不動産業ができる。新しい働き方を世の中に提示したい
──SHERPAという名前の由来を教えてください。
石川:シェルパとはエベレストの案内人の呼び名です。世界で最も過酷な山に挑戦する登山家とその道のりを共にし、山のことを知り尽くしたプロフェッショナルとして、目指す頂上まで登山家を導く。そんな世界最高の案内人がシェルパです。
未経験から不動産という新しい世界に挑戦する方の、最高の案内人になりたいという想いを込めて「SHERPA」という名前をつけました。
──では、改めてSHERPAのビジョン、ミッションを教えてください。
石川:「不動産仲介業を民主化する」これがSHERPAのビジョンです。「高額な初期費用」「複雑な業務」といった不動産仲介業の敷居をなくし、Uber Eatsの配達員のように、未経験者、副業者でも誰でも不動産エージェントになれるのがSHERPAの目指す社会です。
挑戦者を支え伴走するという意味を込めて、「挑戦の道のりを共にする」というミッションを置きました。
エージェントに挑戦する方々に提供する価値は3つあります。
1つ目は取引サポート(契約業務・システム提供)
重要事項の説明や契約書など、資格がなければできない業務、複雑な業務をSHERPAが担当することで未経験の方でも取引ができるよう必要な業務を最小限にしています。
2つ目は未経験者への教育コンテンツです。
SHERPAでは取引に必要な知識を学べる豊富なコンテンツを用意しています。学習を進める、現場に出ると分からないことが出てきますので、リアルタイムでのチャットサポートを提供しています。
3つ目は仲介希望者の送客です。こちらはお客様をご紹介することで実務を経験してもらい、不動産仲介で報酬をもらうことを体感していただいています。
──不動産エージェントという新しい働き方で、既存の不動産取引はどう変わっていくと思いますか?
石川:顧客のメリットは、仲介手数料が安くなりやすい傾向がある、ということもありますが何より、丁寧で継続的なサポートを受けられるという点です。
これまでの不動産仲介は、店舗型で、広告集客がメインという仕組み上、家賃やスタッフの人件費といった固定費や広告掲載費用がかかり、手数料を満額で取らざるを得ない構造になっていました。
そこで営業にはノルマが課され、契約をいかに早く取るか、1件あたりの契約単価をいかに上げるか、という刈り取り型のビジネスになりがちだったのです。
そのため、ポータルサイト運営会社などが定期的に取っている不動産仲介の消費者アンケートではネガティブな意見が多くなる傾向がありました。
しかし、保険のプランナーのように1人の担当が専属で付き、住まいに関わることを継続的に任せるエージェントなら長くお付き合いすることを前提にしているため、強引な刈り取りのような営業にはなりにくいのです。
日本では、まだ一般的ではない不動産エージェントという働き方ですが、アメリカでは150万人以上の不動産エージェントが活躍しています。
顧客との長期的な関係が念頭に置かれており、住み替えや建て替えのタイミングで不動産エージェントに相談し、ライフプランナーのように長く付き合っていく慣習があります。
こうしたLTV思考のエージェントを日本の不動産業界にも浸透させていきたくことで、不動産取引の情報格差の是正にもつながるのではないかと考えています。
不動産エージェントを増やして、不動産取引の公平性を高めたい
――今後のSHERPAの展開を教えてください。
石川:我々は賃貸仲介領域の総合プラットフォーマーを目指しています。現在はエージェントの仲介のサポートのみですが、電気やガスなどのライフラインの支援、引っ越し領域や、SHERPAで育成したエージェントの転職支援や独立支援など、エージェントと共に賃貸領域で様々展開をしていこうと考えています。
そのために、まずは2024年に1,000人の不動産エージェントの登録を目指します。これは人数規模だけでいえば、不動産賃貸仲介組織としては日本最大級の規模になります。
フリーランスや、副業の市場は今まさに急成長を遂げ、多くの可能性を秘めています。こうした市場の追い風を受けながら「不動産仲介業の民主化」という目標に向かってエージェントの皆さんと挑戦していきたいと考えています。