高齢社会と人材不足によって、早急な対応を求められている医療業界のDX。予約システムや電子カルテなどが普及していく中、手つかずの状態なのが「カルテ作成」の業務です。問診をしながら要点をまとめてカルテを作成するのは、必要なことであると同時に、医師の負担にもなっていました。
そのような負担を取り除くのが、私たちが開発したカルテ生成AI「medimo」。診断のやりとりをAIが要約し自動でカルテを作成してくれるアプリです。カルテ作成の業務から開放されることで、医師をはじめとする医療スタッフが患者の診察や治療に集中できるようになります。
今回は、現役医学生で代表の野村 怜太郎にインタビューを実施。起業の経緯やサービスの特徴、今後の目標について話を聞きました。
「今回が3つ目のプロダクト」カルテ生成AIにたどり着くまでの経緯
―まずは起業までの経緯を聞かせてください。
私が起業に興味を持ち始めたのは、高校時代に遡ります。ものづくりやテクノロジーが好きで、海外でGAFAのような会社が成長しているのを見て、自分の力で面白いことをやってみたい、社会の役に立ちたいと思ったのです。
大学で医学部に進んでからも、理工学部の友達と一緒にプログラミングをしたり、事業を作ったりする活動をしていました。その活動をしている途中で「どうせなら社会の役に立つものを作りたい」と思い立ち、様々な課題が眠る医療分野での事業開発を考えるようになったのです。
本格的に事業を起こすため、2022年に法人を立ち上げました。
―創業時は、どのような事業アイディアを持っていたのでしょうか。
最初に取り組んだのは肩こりを解消するためのデバイスで、患部を冷やしたり温めたりして血流を促進する医療機器です。実際にベンチャーコンテストなどで受賞もしたのですが、医療機器を開発するためのコストや工数を考えると、ソフトウエア開発の方が、自分たちの力をより早く医療業界の課題解決に役立てることができるのではないかと考え、今度はソフトウェアを作ることにしました。
―2つ目のアイディアについても聞かせてください。
次に考えたのはAIを使った美容整形シミュレーターです。当時、自身の周りで美容整形が流行っていたのですが、患者さんの思ったような結果にならず悲しい思いをしたという事例を聞きました。医師も十分に説明に努めていると思うのですが、現状の説明では限界があるのかもしれないと感じ、取り組みを始めました。
具体的には、実際に美容手術をする前に、術後のイメージ画像を見れるようにして、美容クリニックさんに提供しようと思っていました。クリニックさんからの反応はよかったのですが、作っていくうちに100%は目指せないなと思い、さらに面白がって使ってくれる先生方はいたのですが、本導入には至らない、という状況がありました。
当時は技術ドリブンで事業を考えていたのですが、医療分野ではニーズドリブンを徹底しないといけないと感じ 、今の事業アイディアに行き着きました。
「医療」に特化した音声認識AIとカルテ作成AIの可能性
―今の事業アイディアはどうやって見つけたのでしょう。
医師50人くらいにヒアリングしながら、課題を探っていきました。そこで大きな課題があると思ったのが、カルテの入力です。一般的に病院では、医師が患者さんと話しながらPCに打ち込んだり、手書きしたりしていきます。
どちらにしても、医師は手を動かしながら問診しなければならないため、問診に100%集中できません。特にPCを使っている医師の中にも、ブラインドタッチができない方もいて、入力に時間がかかっているケースもあります。
もしも問診の内容をAIが分析し、自動でカルテを作成できれば、医師の負担を大きく減らせますし、患者も「話を聞いてもらえる」という安心感を得られると思ったのです。
―カルテを手書きしている病院も多いのでしょうか?
今でも約半数の診療所がカルテを手書きしていると言われています。高齢な医師の場合、キーボードでの入力を覚えるのが大きな負担になるため、カルテの電子化の大きなハードルになっているのです。音声から自動で入力できれば、電子カルテ導入のハードルも下げられます。
また、手書きカルテの場合、他のスタッフが読めないケースも発生します。医師は問診しながらカルテを書いているため、殴り書きになってしまうことも少なくありません。結果的に、他の方が読めずに、情報共有の妨げになるケースもあるのです。
―既に「AI議事録サービス」などがありますが、それらとの違いを教えてください。
一つは医療に特化している点です。医療の世界は専門用語が数万語ほどあり、医療用語だけの辞書もあるほどです。現在提供されている汎用的な音声認識AIでは、そのような専門用語を正しく出力できません。私たちは医療経験のある人たちにアノテーションをお願いしながら、そのような医療用語のベータベース化と学習を進めています。
カルテに特化した要約ができるのも大きな特徴です。カルテを作るには、特別な知識が求められ、一般的な音声認識AIでは要約が難しいでしょう。他にもワンクリックで診察を始めたり、高齢の医師でも使いやすいよう文字を大きめにしたり、問診に特化した細かい機能が搭載されています。
―他にも医療現場ならではの機能はありますか?
PC以外でも利用できる点です。電子カルテを導入していないクリニックはPCがインターネットに接続していないケースもありますし、カルテは個人情報の塊なのでPCをネットに繋ぎたくないというクリニックも少なくありません。
私たちのサービスは、スマホやタブレットで聞き取りを行い、QRコードを生成、それをPC読み込ませることでPCにネット環境がなくてもカルテを作成できるため、あらゆるクリニックで導入しやすいのです。また、地方の病院では一人の問診に30分かけるようなケースもあります。それだけ長い問診の内容も要約が可能なため、幅広いクリニックで利用してもらえるはずです。
―競合がいれば教えてください。
世界に目を向ければMicrosoftやAmazonなど海外の大手テック企業が、同じようなサービスを作り始めています。しかし、日本ではまだ類似サービスはほとんどありません。開発スピードが求められる領域のため、競合が現れるまでにいかに市場の基盤を確立するかが勝負の鍵ですね。
また、海外のテック企業にとっては、言語の壁が参入障壁になるはずです。彼らが日本に進出してくるまでに、国内の市場を固めたいと思います。
市場を開拓すると同時に、新プロダクトの開発を進めていく
―現在のビジネスフェーズについても教えてください。
既にサービスの提供も開始しており、実際に有料で導入してくださるクリニックさんもいます。しかし、まだ精度が完璧ではないため、市場を開拓すると共に精度を上げていくのがこれからの課題です。
また、音声認識サービスには集音環境も非常に重要です。マイクの性能や置く場所も重要ですが、マイクを置くことで患者さんを不安にしては本末転倒です。患者さんが気にならないようなピンマイクをつけてもらったり、ノイズ除去の精度を上げるなどして、音声認識の精度も上げていきたいと思います。
―将来的には、どのようなサービス展開を考えているのでしょうか。
まだ先の未来にはなりますが、カルテの作成だけでなく、問診自体をAIができるようにしていきたいと思っています。たとえばクリニックによっては、看護師が問診しているケースもあるのですが、知識のばらつきによって問診の質も変わるようです。AIが問診できるようになれば、問診の質を維持しながら、医師や看護師の負担も減らせるでしょう。
また、クリニックにはカルテ以外にも退院時の書類や紹介状などの書類が存在します。それらを書く作業も、音声から自動で書けるようにするなど、支援する範囲を広げていきたいと思います。
―今後の成長目標も教えてください。
3年間、毎年3倍ずつ成長していく計画を立てていきます。今年は200のクリニックでのサービス導入を目標として 、来年は600という感じですね。私たちがターゲットにしている一般診療所は全国に約10万施設あると言われており、2~3年でARR10億円を目指したいと思っています。
業界未経験でも医療に貢献したいエンジニアを募集中
現在、採用で注力しているのが音声認識AIのエンジニアです。大学や大企業の研究室で研究している方などで、医療分野に興味のある方にぜひ手伝っていただきたいですね。また、要約に必要なプロンプトエンジニアリングに詳しい方や自然言語処理の知見を持っている方も大歓迎です。
他に募集しているのはインフラエンジニアです。私たちのサービスは急速にスケールしているため、膨大なアクセスにも耐えられるようなインフラも整えなければなりません。インフラエンジニアの方にとってもやりがいのあるサービスになると思うので、ぜひ興味を持っていただきたいと思っています。
医療業界はデータ活用やAIが遅れている業界で、逆に言えばまだまだ余白があるとも言えます。私たちのサービスを通して、社会に貢献したいと考えている方は、ぜひ話を聞きにきてほしいと思います。
―具体的に、医療業界にどのような貢献ができると思いますか?
まずは医師の負担を減らせることです。医師のカルテ作成業務を省略できれば、それだけ体力も時間も治療に専念できるようになります。また、これまでスタッフがカルテを作成してきたクリニックでは業務効率化にも繋がるため、それだけ医療の質向上につながるでしょう。
医療の質が向上すれば、それだけ患者さんにもメリットが還元されます。私たちに身近な医療だからこそ、業務が効率化されることで多くの方が恩恵を受けられるはずです。
―最後に、興味を持った方々へのメッセージをお願いします。
医療業界というのは、未経験の方からすると飛び込みづらい領域かもしれません。しかし、もしも医療に対する想いがあれば、私たちはそれをプロダクトに還元できるチーム作りをしてきました。
少しでも医療業界に貢献したいと気持ちのある方は、未経験の方でも抵抗を持たずに応募してほしいと思います。
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