2022年1月にジェイエルネスの新オフィスで開催された「フィットネス新年会2022」のレポート号です。あのときの議論内容がすでに現実化してきている内容もあり、いまだからこそ振り返って読んでみたいと思い再掲させていただきます。
(以下再掲)
業界歴20年以上の大先輩やフィットネスベンチャー企業のキーパーソンが集まり、NGなしで240分語り尽くした内容をお伝えしていけたらと思います。
目次
- フィットネス新年会2022開催概要
- 何故やるのか
- 議論が白熱した4つのテーマ
- 議論の中で見えてきた課題と可能性
- 業界を代表する14社が語った240分の収録映像
フィットネス新年会2022開催概要
フィットネス業界の今後を見据えた4つのテーマについて議論したフィットネス新年会2022ですが、参加メンバーがとにかく豪華すぎました。
そして私、株式会社ジェイエルネスの樗澤と法人営業部篠原です。
ということでフィットネス業界アベンジャーズの皆さまに遠路はるばる弊社湘南オフィスまでお越しいただいたのは、理由があります。
何故やるのか
結論、フィットネス業界全体の人材採用力を強化するためです。
''フィットネス業界''と単に言っても様々な業種業態があり、特に業界の変革期にある現状では店舗DXやメディア業、食品D2Cなど多種多様な企業が台頭してきている、というのが業界内の認識です。
しかし、業界外からみる''フィットネス業界’’のイメージは、スポーツクラブやコンセプト型ジムなどのいわゆる店舗業態に限定されているのが現実です。
しかも、グーグル先生に聞いてみるとのっけからネガティブなタイトルばかりが目につきます。
そんな中、僕らジェイエルネスとしてエンジニアやPMポジションの採用を進めているのですが、''マーケットの魅力が全く伝わっていない!''と思うタイミングが多々ありました。
ありがたいことに弊社の場合はリファラルで優秀なCTO / CHROの就任が決まったのですが、採用業務を通して強烈な危機感が残ってしまいました。
一方で、これからのフィットネス業界が大きな社会的役割を担うことはもはや視力検査のようなもので、解像度を高めれば高めるほど明らかです。
世界的にもダントツ1位の超高齢化社会に突入した日本は、国民医療費が国の歳入とほぼ同額となり、歳出の約60%を占めている状況です。
医療保険制度の見直しはほぼ確実で、労働力という観点では高齢者の社会参加が必要不可欠です。
そこでボトルネックになるのが、運動機能・認知機能をはじめとする心身パフォーマンスでしょう。
しかしながら、日本のフィットネス業界への投資は他業界と比較すると全くと言っていいほど集まっていない現状です。
正直、その原因は僕ら業界内の企業にあると思っています。語弊を恐れずにいうならばビジネススキルの偏差値があまり高くない、という現実があります。もちろん弊社ジェイエルネスも例外ではありません。
また、元々トレーナーさんだった方や国家資格持ち専門家の方などが起業するケースが多いので、他業界のビジネスパーソンとのつながりが薄いという理由もあると思っています。
実際に、少しマーケティングが上手な会社や優秀なエンジニアを数名抱える企業が短期間で業界トップシェアを獲る、なんてことは往々にしてあります。
しかも、レガシー企業が多い業界なので消費者のニーズを本当に満たせているのか、と言われれば疑問が残る領域が散見されます。
つまり、社会的意義が高い産業かつ未解決イシューが多く存在するマーケットにもかかわらず、他マーケットとの採用競争力が低いという理由でイノベーションが起きづらいというのが根本的な原因だと思っています。
そこで、優秀なビジネスパーソンやエンジニアの方に向けて、大いなる可能性を語ろうじゃないか!もっと我々の魅力を声を大にして伝えていこう!
と、お声掛けさせて頂いた、というのが当イベントの開催経緯です。
(二つ返事で参加表明をしてくださった全国各地13社の皆さんには、この場を借りて改めて感謝申し上げます。)
議論が白熱した4つのテーマ
1 ジム経営、攻め(マーケ)と守り(バックオフィス)どっちが大事
2 フィットネス企業の新しい組織のあり方
3 フィットネスは本当に社会課題を解決できるのか
4 トレーナーはどこまで社会の役に立てるのか
業界を20年以上牽引してきた業界団体や2022年のトレンドとなりつつある従量課金制の24時間ジム経営者、店舗DXを進めるSaaS企業など様々なポジションから4つのテーマについて、各60分間ずつ議論しました。
日々KPIと向き合っている方々による議論は非常に盛り上がりました。ここからはその内容を少しだけ紹介させていただきます。
1 ジム経営、攻め(マーケ)と守り(バックオフィス)どっちが大事
弊社篠原が質問を投げると完全に二手に分かれた一つ目のテーマ。
マーケティング VS バックオフィス の議論はとても興味深いものばかりでしたが、特に印象に残ったのは人材・組織開発事業を手がける川口さんがマーケティング派だったことです。
川口さんは「ブランド力がないと優秀なバックオフィスを獲得できない」と仰っていて、普段バックオフィス側で従事されている川口さんの言葉だからこそ納得感があると、皆さんの顔色が代わりました。
一方で、フィットネス業界では珍しい資金調達のリリースを発表した株式会社ファノーヴァ CMOの田螺さんは「いくらマーケを加速してもバケツに穴が空いているような状態では、意味がない」と、バックオフィスあってこそのマーケだと語っていました。
両者とも自身の領域ではないところへの重要性を語っているということが、非常に興味深い議論でした。
2 フィットネス企業の新しい組織のあり方
2つ目のテーマでは、議論が多岐にわたる結果となりました。このパートのファシリテーションは僕が担当させて頂いたのですが、あえて一言でまとめるならば「在り方なくしてやり方なし」です。
20年以上業界を引っ張るNESTA JAPANの齋藤さんは「10年単位で見るとフィットネスサービスが、驚くほど大衆化しているのを感じる」と仰っていて、その変化に的確に応えたのが栃木県宇都宮市でフィットネスジムVERUSを運営する横山さんでした。
365日24時間営業しているだけでなく、月額基本料1980円(税別)+1回300円(税別)の従量課金モデルを採用しているVERUSは、これまでのフィットネスクラブの価格と比べると圧倒的に安く、多くの会員さんで賑わっています。
一方で、ブランドとして「安かろう、悪かろう」になってしまうリスクとどう向き合っているかについては「悪かろう」になってしまう要因を絞り込み、徹底的なクオリティーコントロールを実践していると仰っていました。
同じくパーソナルトレーニングの裾野を広げる月額34800円(2022年1月時点)で通い放題のパーソナルジムELEMENTを経営する鈴木さんは、属人的な部分が多いフィットネスサービスにおいて、経営者のビジョンミッションが重要だと話していました。
特に印象的だったのが株式会社GOAL-Bの柳楽さんが仰っていた「伸びている会社は特に特徴が分かりやすい」という言葉で、確かに消費者だけではなく採用マーケットに対しても分かりやすい明確なPRを仕掛けていくことがフィットネス業界全体としての課題だと感じました。
3 フィットネスは本当に社会課題を解決できるのか
このテーマは、本イベントの目玉ともなる議論だった気がします。予防医療市場がなかなか市民権を得ない日本の課題として、日本特有の政治システムなどが挙げらました。
しかし、そこに一石を投じたのはVERUSを運営する横山さんの「国や地方行政が変わってくれないことを嘆いているのでは、ただの他責。フィットネス業界としてやるべきことは、いかにしてフィットネスに夢中にさせるかどうか」という意見でした。
そこに「完全同意」と頷いたPocket Fitnessの開発を進めているNATURE FITNESSの澳本さんは、エンタメと運動習慣が融合する世界が必ず来ると仰っていました。
それと同時に、エンタメフィットネスが一般化した世界では、ただ運動をしにいく場所としてのフィットネスクラブの存在意義が危ぶまれるかもしれないと、改めて未来を見つめ直す眼差しが鋭くなっていったのも印象的でした。
4 これからの社会における運動指導者の役割
このパートでは、20年以上第一線で活躍してこられた2名の大御所の方を中心にトレーナーの職域について盛り上がりました。
ビジネスパーソン専用トレーニングジムReBootを運営する吉田さんは、元々メジャーリーグの選手などを担当する超実力派のパーソナルトレーナーさんですが、今では''ビジネスパーソン専用''と掲げています。
実際にReBootのHPを拝見すると株式会社サイバーエージェントの藤田社長からコメントを寄せられていたり、その実績は本物です。
確かに、弊社ジェイエルネスもコーポレートトレーナーというサービスを法人向けに提供していたことがあり、働く方のパフォーマンスアップにとって心身の健康が重要であることは疑いようもありません。
当時、企業側の投資対効果が見えづらいという点が大きな課題でした。
しかし、コーチングを重視した認知科学的なアプローチを得意とする、株式会社GRIT VENTURESの小島さんはトレーナーの指導スキルも課題の一つだと考えています。
運動指導者が、企業の従業員やその他ダイエット目的ではない方々を対象に職域拡大を果たすためには、身体の仕組みだけではなく人間の内部モデルへの理解が不可欠だと言います。
「一家に一人パーソナルトレーナーを」を掲げる弊社としても非常に学びの多い議論となりました。
議論の中で見えてきた課題と可能性
全4つのテーマを議論する中で、非常に解像度の高い課題が見えてきました。それはやはり、新しいプロダクトを開発するための「技術力」が業界内に乏しい、ということでした。
例えば、フィットネス参加率を高めるためにフィットネスクラブをゲームセンターのようにしてしまおう、というアイディアがあってもその技術的根拠がないので、イノベーションが生まれにくいということです。
しかし一方で、著しく運動機能が低下していて社会参加が困難な方も、フィットネスクラブに通い続けることで180度人生が変わるような事例が実際にあったりと、顧客の生活に与えるインパクトが非常に大きい産業なんだということも再認識することができました。
最後になりますが、ご参加頂いたみなさま。
ご多忙のなかジェイエルネス湘南オフィスまでお越しくださり本当にありがとうございました。
真摯に産業の未来を見据えるフィットネス業界の皆様と、刺激的な毎日を送れていることに心から感謝申し上げます。