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量子アニーリング技術を活用して、「化学業界のDX」に独特のアプローチで挑む。

2021年12月23日、「シグマアイとシグマアイと三井化学 量子アニーリング技術を使い化合物探索等の応用実証研究を開始」プレスリリースを発表。その取り組みについて聞いてみました。


株式会社シグマアイ共同代表
観山 正道(みやま・まさみち)

プロフィール
株式会社シグマアイ共同代表。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士(学術)東北大学大学院工学系研究科客員准教授兼任

幼少期は京都、後に東京で育つも実家は広島のお寺であり浄土真宗本願寺派の僧侶でもある。

東京大学大学院工学系研究科特任研究員、東北大学AIMR助手、東京大学大学院総合文化研究科特任研究員、東北大学大学院工学系研究科特任助教・客員准教授を経て、現職


「材料探索」の工程を「量子アニーリング」技術で最適化する

−まずは、三井化学様との取り組みの概要を教えてください。

一言で表現すれば、「化学業界のDX」です。「材料探索」の工程を「量子アニーリング」技術を用いて最適化する取り組みになります。求められる特性を持った化合物を調合する際、その材料の組み合わせはほぼ無限に考えられますよね。従来は膨大な時間をかけて、実験での試行錯誤を行っていました。そこで、量子アニーリングを用いた「ブラックボックス最適化技術」を活用することで、その試行錯誤の回数を大幅に減らせると考えています。

−「ブラックボックス最適化技術」とは、どのような技術なのでしょうか?

所望の評価値を示すようなパラメタを決めたいのだが、そのパラメタと評価値の間の関係がわからず(ブラックボックス)、パラメタを決めたら評価値だけが返ってくる状況において、少ない評価回数で所望のパラメタを得るための技術です。先程の例ですと、実験すれば材料の物性値はわかる、実験する前にはわからないという状況ですね。この場合、実験して測定する、という行為がブラックボックスになっているということです。この技術は、過去の実験データが少なくても効果が得られるのがポイント。全く新しい分野へのチャレンジを行うケースや、過去のデータを保有していないケースに有効です。

一方で、我々が採用している技術には一定の計算力、特に組合せ最適化問題を解く性能が求められるプロセスがあり、量子アニーリング技術を活用した専用計算機を使えば、この計算のスピードを大幅に高速化できるのです。データが少ないケースでのアプローチが可能ですので、化学業界の「材料探索」に活かせると考えて、今回のプロジェクトがスタートしました。


十分なデータ量が無くても、最適な組み合わせが提案できる

−たしかに、組み合わせが無限にある化学業界とは、相性が良さそうですね。

もともと「量子コンピュータ」という概念について、化学反応は量子力学の範疇に入るので、化学の専門家は取っつきやすい。「量子コンピュータ」には「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」があるのですが、後者は組み合わせ最適化問題を解くことに特化しているので、今回のテーマとの相性が良いのです。

もともと化学業界では、「マテリアルズ・インフォマティクス」という手法があって、情報科学を早い段階から取り入れていました。失敗も含めて大量のデータベースを用意して、機械学習で予測する手法です。ただし、機械学習を用いるための質の良いデータが事前に十分に用意されているとは限りません。化学業界でDXを進める場合は、まずはデータベースをつくるところから始めるケースが多い。

そうなるとかなりの時間とコストが掛かるので、「ブラックボックス最適化技術」を取り入れました。少ないデータから「この材料の組み合わせは適しています」という提案をしてくれる。「答えはこれです!」と明確にするのは難しいのですが、方向性が絞れるだけでも価値があると考えています。


異なる立場の研究者同士をつなげることが、化学業界のDXでのカギになる

−現場では、どのような運用を考えているのでしょうか?

新しい材料発見に至るまでの人類が持っている手法は、大きく3つあります。1つ目は「とにかく作る」という実験的な手法です。作って、測って、という工程を繰り返す。2つ目としては、「計算科学的手法(シミュレーション)」が挙げられます。ただし、シミュレーションを使うのは、かなり限定的です。作ったほうが圧倒的に早いので。そして、3つ目が、最近取り上げられるようになってきた、機械学習などを用いる「データ科学的手法」です。

これらの3者は全く異なるアプローチなのですが、「それぞれの研究者が、もっと協力できたらいいのに」と思っていました。私自身が、大学で材料科学分野の皆さんと共同研究をしていたときも、異なるアプローチを結合するのはなかなかに困難なことだと実感することがよくありました。



そこで、トライアルの回数を少なくして、結果を絞り込むことができるのだったら、異なる立場同士でも連携しやすくなる。それぞれの立場でのリスクが小さくなるので、「じゃあ、一緒にやってみましょうか」となるかもしれない。そういった意味で、今回の「ブラックボックス最適化技術」を使うと、色々な立場の研究者をつなげることできる。これがシグマアイの描く「化学業界のDX」なのです。

現場で働く社員たちの新しい関係性をデザインすることが、私たちが目指すDX

−なぜ、シグマアイで、このようなプロジェクトが実現できるのでしょうか?

同じようなプロジェクトで実証を重ねているからです。例を挙げると、凸版印刷様と物流業務の効率化の実証実験を行っています。量子アニーリングマシンを活用して、在庫管理とトラックの運行計画を最適化するプロジェクトなのですが、その目的は、社員の皆さんの業務を減らすことだけではありません。

荷主さんとドライバー、印刷工場と倉庫と配送先など、それぞれのプレイヤーをデータでつなぐだけでなく、新しい関係性をデザインしているのです。荷物のデータをただ共有するだけでは、何も変わりません。そのデータをどのように現場で活かすのか、それぞれのプレイヤーがどのようにコミュニケーションを取るのか。新しい関係性をデザインすることで、有機的に業務がデジタル化されていく。それが私たちの目指すDXなのです。

化学業界の特徴は、とにかく多くのトライアンドエラーが必要であること。分析、予測、計画の各ステップで、コンピュータが何らかのお手伝いができれば、今までの属人的な手法が効率化されるのではないか。そのような仮説を立証するためにプロジェクトを進めています。「化学業界における新しい関係性のデザイン」を、三井化学さんと創り出していきたいですね。

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