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FDMagazine#19②【事例紹介】PMBOK以外のフレームワーク(PRINCE2)を使ったサイトリニューアルプロジェクト

インフラ調査で難航していたところに追い打ちをかけたのが、仕様書が存在しない既存システムの存在。

企画・提案の段階で、ペルソナ定義・カスタマージャーニー策定をしていたこともあり、インターフェー設計やデザイン制作などは概ね予定通りに進行していたが、インフラ構築のコンサルティングを進める中で、大きな2つの問題が露見して難航することになる。

1つ目の問題は、明確な運用ルールやガイドラインが無かったこともあり、サイト運用を主管する部門が把握していないサーバが存在し、ブランド規定などが守られていないブランドサイトやキャンペーンページも散見していた。サーバと公開されているデータの棚卸を行い、既存のサーバ構成図・ドメインリストを作成し各部門とグループ会社の運用担当者に個別にヒアリングを行った。作成したドキュメントを最新化して現状を正確に把握するまでに数か月を要した。

2つ目の問題は、基幹システムと連携して商品情報をWEBページに表示する既存システムがあり、そのシステムを開発したSIerが仕様書などを残さずに運用業務から撤退してしまい、容易に改修が行えない状態になっていた。

商品改訂などによって新たに表示が必要になった情報も、システム改修を行えないことでWEBページに自動で反映することができず、手作業で変更点を反映するような余計な業務が増え、運用を担当する部門の負荷を高くしていた。

プロジェクト開始当初は、システムテンプレートのデザイン刷新のみを想定していたが、既存システムの仕様を完全に把握できなければ動作テストも不完全なものとなってしまうので、既存システムを破棄して新たにWEBアプリケーションを開発することになった。既存システムに関わる業務内容を関係部門へヒアリングし、業務フロー図を作成して要件定義・設計を進めることになり、想定外の作業が発生し、最終的には予算を大幅に増やし、公開日を6ヶ月後ろ倒すことになったのである。

PRINCE2の体制が、承認フローを円滑に機能させることになった。

通常であれば100周年記念事業として立ち上げられたプロジェクトで、いきなり予算とスケジュールが変更になるような事態が起きた場合、クライアント内は大騒ぎになるところだが、今回のプロジェクトにはインフラ構築のコンサルティングという大きな変動要素を含んでいたので、予めマネージメント手法も考慮していたことで大きな混乱を避けることができた。

本プロジェクトのマネージメント手法として利用したPRINCE2の体制では、プロジェクトマネージャーは、プロジェクト委員会が判断しやすいように、各プロジェクトチームから情報を吸い上げて伝達するような交通整理をする役割が大きい。例えば、定例会のようなオフィシャルな意思決定の場とは別に、プロジェクトマネージャーがプロジェクト委員会の一角であるシニアユーザーやシニアサプライヤーと個別に打ち合わせを行い、プロジェクトエグゼクティブが判断するために必要な情報を事前に引き出し、アドバイスをもらうようなコミュニケーションをすることが多い。日本でいう根回しのようなコミュニケーション方法が、PRINCE2のフレームワークの中で定義されており、プロジェクトマネージャーの特性によってコミュニケーションのクオリティーが左右されにくいメリットがある。

また、プロジェクト委員会には受注側である制作プロダクションの部長がシニアサプライヤーとして存在する。PMBOKの体制に慣れていると、クライアント側のメンバーに受注側のメンバーが紛れ込んでいるような違和感を覚えるが、プロジェクトエグゼクティブが、発注側・受注側双方の意見を聞きながらスピーディーな判断をする体制となっており、インフラ構築のコンサルティングという大きな変動要素を含んだ本プロジェクトでは効果的に働いた。

さらにスピーディーな判断を可能にするために、プロジェクトエグゼクティブにはクライアントの役員に担当していただいた。一般的なプロジェクトではプロジェクトオーナーの上に役員会が存在することが多く、プロジェクト内で承認されたことが役員会で覆ることが頻繁に起こる。プロジェクトの背景や経緯などを十分に把握することなく独善的な判断をされることで、なんとか踏みとどまっていたプロジェクトメンバーの士気低下を惹き起こすことも少なくないのではないだろうか。役員であるプロジェクトエグゼクティブが下した判断が最終決定となり、承認されたことが覆る心配が消えたことでプロジェクトメンバーの士気も高く維持された。

体制のメリットは他にもあった。プロジェクト進行や提出資料について、インフラ・システムやWEBに詳しいプロジェクトメンバーがクライアント側に不在のため、判断しやすいように配慮をして欲しいと、プロジェクト開始前にクライアントから要望をもらっていた。デザイン案だけでなく、サーバ構成やシステム仕様についても、メリット・デメリットが伝わるように複数案を提示し誰が見ても分かるように内容をかみ砕いて丁寧に資料を作成した。その上で、事前にシニアユーザーやシニアサプライヤーに説明して伝わりにくい点や判断ポイントなどについてアドバイスをもらうことができ、プロジェクト委員会の承認フローを円滑に進めることができた。

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