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「ハードであるが、希望はある」。ベクノス創業メンバーが考える、日本初だからこその勝ち筋

日系大手メーカーの倒産危機や買収、第四次産業革命への乗り遅れなど、日本のものづくり産業は徐々に海外から遅れを取り始めている。

一方では、日本のものづくり産業の新しい可能性を切り開こうと、ハードウェアスタートアップに取り組む人が増えている。しかし、調達のしにくさや生産ラインの確保など、成功するためには乗り越えるべき壁も多い。

リコーからカーブアウトして生まれた360度カメラの生みの親、生方秀直率いるベクノスが目指しているのは、世界市場での成功だ。創設メンバーの3人は、それが実現すると確信している。一体何が、夢物語とも思える野望を可能にするのか。ベクノスの勝ち筋と目指す理想像を探る。

黄金世代を経験した3人が考えるものづくり産業の可能性


かつて、製造業に元気があった頃からの隆盛を経験しているベクノスのメンバーたちは、ものづくり産業の現状をどう捉えているのか。

マーケティング本部長の橋本は、多くのハードウェアは中国や韓国、台湾とほとんど技術的差異がなくなっていると指摘する。

橋本:僕らが会社に入る頃は、日本といえば製造業。2005年、アメリカで駐在を始めた時、家電量販店で一番価格が高いのはソニーや東芝、二番目は韓国、三番目以降は他の国のもの。2011年に駐在が終わるころ、日本と韓国の価格差はほとんどありませんでした。メーカーの地図は確実に変わってきています。

マーケティング部長の朝夷も中国が世界の下請け工場から一転、ハードウェアメーカーの雄になりつつあることに同意する。

朝夷:中国の生活水準が上がって、人件費も上がった結果、稼ぐためにはコアの技術から作って利益を上げざるを得なくなった。元々技術を模倣するスピード感はすさまじかったですが、模倣だけでなく中国発信のサービスや製品が出てきてますね。

日本が強みとしていた技術が強みではなくなる中、開発本部長の寺尾は日本に残された二つの可能性を示した。

寺尾:一つ目は、体験価値を上げること。半導体など直接の体験価値を伴わないものは、確かに負けてきていると感じます。一方、カメラの操作性や車の乗り心地など、体験価値に直接紐づくところには可能性がある。日本のものづくりは技術的価値だけなく、情緒的価値も同時に追求してきましたから。

二つ目は、すり合わせ技術。様々なハードウェアが海外のものに置き換わっていますが、例えばコピー機はいまだに日本のメーカーのものが多いんです。それは、搬送技術や電子技術、物理や化学科学技術の集合体だから。多分、テレビを作るより難しい。

橋本:日本人の性格も強みに関係してそうです。日本人は個人主義より、チーム主義。お互いの得意分野を組み合わせて新しい技術を作るのは得意だと思います。すり合わせ技術はゼロイチを作れる技術とも言える。寺尾の指摘するように、そこは日本の強みかもしれません。

ベクノスの勝ち筋は「発想力」×「体験価値」


諸外国に遅れを取りつつも、寺尾や橋本が述べたように、まだ日本がハードウェアで勝てる可能性は残されているのだろうか。日本のハードウェアスタートアップ企業の数は確かに増えている。Cerevoのように販売先の国と地域が60ヶ国を超えるようなハードウェアスタートアップも存在する。しかし、諸外国に比べると勢いはまだまだ。

今ハードウェアスタートアップで注目を集めている国の一つがフランスだろう。フランスには世界初のハードウェア特化型コミュニティベースのベンチャーキャピタル「Hardware Club」や、フランス発のスタートアップを支援する国家プロジェクト「La French Tech」など、目を見張るものがある。

また、中国はスタートアップ分野でも存在感を遺憾無く発揮している。広東省深圳はハードウェアスタートアップの楽園だ。アメリカ発のハードウェアアクセラレーター「HAX」が拠点を構え、秋葉原を模倣したと言われる電気街が広がる。

再び日本に目を向けてみよう。日本のハードウェアスタートアップは風向きが悪く、ここ数年は投資家が付きにくくなったと言われている。途中で生産が止まってしまった企業も少なくない。

こうした環境の中、ベクノスはどこに勝ち目があるのか。

朝夷:投資家を回ったときも感じましたが、THETAを成功させた実績はやはり強みになると思います。世の中に無いものを生み出して、市場を作ってきた。ゼロからはじめる企業に比べて、経験値がある。

寺尾:実績の元となった生方の発想力も強みです。THETAが生まれたのも生方のアイデアから。カメラの延長線上ではなく、そもそもユーザーに提供したい体験価値からプロダクトに落とし込んでいる。普通は思いつかない発想ですよ。

確かに生方の発想力は圧倒的だが、アイデアは得てして真似られる可能性がある。類似商品に追随されたときにどうするのか。

朝夷:そのときは大胆にピポットをします。ハードウェアだとピポットに勇気がいると思いますが、そこでこだわっていてもしょうがない。大切なのはビジョンの達成です。360度カメラの技術を全部捨てることはないでしょうが、手段は柔軟に取るつもりです。

世の中にないものを生み出す発想力を強みとあげた二人に対して、橋本は少し違った視点からベクノスの持つ新規性を取り上げる。彼が勝ち筋と考えているのは、寺尾が先に述べた「体験価値」だ。

橋本:私たちにとって360度カメラは当たり前のものになってますが、まだまだ知らない人は多い。初めて使ったときの感動も色あせていません。皆、一様に驚いてくれます。360度カメラがもたらす体験価値にはまだまだ需要があると考えています。

プロフェッショナル集団で、新しい文化を作る



困難と言われるハードウェアスタートアップ市場においても、勝ち筋があると語る3人。とはいえ、彼らはまだ走り出したばかりだ。これから目指すベクノスの理想像をどのように描いているのだろうか。

朝夷:社名を名乗ったときに「ベクノスね、知ってますよ」と一般認知されていると嬉しいですね。将来自分の子供が誇れるような会社にしたいと思っています。そのためには、ベクノスが新しい文化を作る必要がある。今は、スマホで写真を撮るのが当たり前の時代。その中で、どうやったら二台目のカメラを持ってもらえるか。ハードな課題ですが、解きがいがあると思います。

朝夷の発言に残りの二人も同意しつつ、そのためには圧倒的に人が足りないと強調する。彼らはどんなビジネスパーソンを仲間に迎え入れたいと思っているのか。

橋本:今必要としているのは、非凡な人たち。自分はこれが強みだと言える人です。リコーに入ったとき、会社は凡人が集まって非凡なことを成し遂げる場所だ、と言われましたが、我々にはその時間がありません。プロフェッショナル集団として、お互いに化学反応を起こしていかなければならない。

組織規模を大きくするというより、専門性の掛け算で新しい価値を産み出そうとしているベクノス。ベクノス自体が、日本のものづくり産業の強みである、すり合わせ技術を体現しているように思える。

最後に、どんなマインドの人がベクノスにマッチするのかを伺った。

寺尾:プロフェッショナルであることに加え、何事にも挑戦する人ですね。肩書きは決まっていますが、それに囚われず何でもやって欲しいし、むしろやらないと回らないくらい。

橋本:ベクノスには独特のバイブスがあると思っていて、それが合う人ですね。言葉ではなかなか伝えにくいのですが、生方はじめ個は強いのですが、コアの部分で通じ合うところがある。それがどんなものなのかは、是非会社に遊びに来て確かめて欲しいですね(笑)

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