夢は叶わなかった。
小学生の頃から思い描いていた声優になるという夢。大好きなアニメのキャラクターになれるうえ、もう一つ好きだった歌をうたうことまでできる。エンドロールに流れる文字を見て、「そんな職業があるんだ」と知ってからずっと憧れていた。きっと役に立つだろうと高校生のときにはダンス部に入り、その後は専門学校、養成所へ。同級生たちが社会に出ていったり、大学で楽しんでいるのを傍目に、アルバイトをしながら声優への道を追い続けた。
ただ、タイムリミットがあった。家族と約束した期限は23歳。それまでに必死になにかを形にしようとしたが、せっかくオーディションに合格した声優グループは、活動が予想より数ヶ月遅れることに。ほんの少しのタイミングで道は途切れ、新しい歩みを始めなければならなくなった。
そこで出会ったのがマノア・リノだ。IT業界で働くこと、営業の仕事をすることなんて、少し前までまったく想像できなかった。でも、願っていた未来とは違ったとしても、加藤瑞希の今は、決して悪いものではないという。
【プロフィール】
小学生時代から声優を志し、専門学校へ進学。卒業後は、総合的な演技力を身に付けるため、上京して俳優の養成所へ。3年ほどアルバイトをしながら、夢を追いかけていたが、家族と約束していたタイムリミットである23歳のときに断念。2019年よりマノア・リノへ就職して、SESの営業を行うようになる。現在は入社2年目ながら、新人営業の教育担当を任せられるまでになった。
好きなものを同時に仕事にできると知った
小学生の頃から声優になりたいと思っていたんですけど、その前の夢は歌手だったんですよ。でも、あるアニメの主題歌が好きで、エンドロールをみたら坂本真綾(攻殻機動隊や桜蘭高校ホスト部、東京喰種、鬼滅の刃などに出演)という名前があり、覚えたてのインターネットで調べたら声優だと知りました。「声優って歌もうたえるし、キャラクターにもなれるんだ。すごく夢のある仕事じゃん」と感じたのが、目指したきっかけです。
それから高校でも声優の役に立つと考えてダンス部に入って、卒業後は専門学校へ。さらに、そこを出た後は、上京して俳優の養成所に入りました。目的が声優になることでも、実は普通の演技を勉強してから声優になるというのが一般的な流れなんです。体を使って演技をできない人が、声の演技をできるわけない。たとえば、疲れて息切れをするにしても、実際に走ってみないと感覚がわからないですよね。体で感じたものを声に乗せて演技するというのが、声優なのかなと思います。もちろん、声ではなく体を動かす演技が好きだったということもあります。よく舞台も観に行っていましたし、あわよくば俳優と声優、両方ができれば良いなと考えていました。
夢と現実
上京してからは、基本的に水曜日と金曜日に養成所へ行って、それ以外はアルバイトです。休日は3時間くらいのレッスンが終わった後だけでしたね。いろいろアルバイトは経験しましたが、最後に勤めていたのは100円ショップです。掛け持ちも一時的にはしましたが、朝に他のところへ行って、昼から100円ショップというような働き方は体力的にも厳しくて…。体調を崩し周りに迷惑をかけてもいけないので、一ヵ所に絞って働いていました。
ただ、生活は苦しかったです。そのことも就職をしようと思ったきっかけの一つで、あとは親との約束が一番の理由でした。23歳までに事務所所属や作品への出演など、どんな形であっても、なにか実績をつくらなければいけないと。実は、そろそろ辞めないといけないというタイミングで、アイドル声優のようなグループのオーディションに受かったんです。でも、活動自体が私の理想としていた時期から3、4ヵ月後で…。なので約束を守り、業界から離れることに決めました。
次に目指したのは技術職です。デザイナーやクリエーターみたいになりたいなと。でも、別に勉強をしているわけじゃないし、どうしようかなと思っていたら、知り合いに紹介してもらって、(マノア・リノの)取締役の田中さんに出会い、声をかけてもらいました。ちょうどタイミングが良かったみたいです。本当は技術職で入りたかったんですけど、たぶん役者で培ってきたコミュニケーション能力を評価してもらって、営業を任されたのだと思います。
田中さんはスポーツをやられていて性格がカラッとしています。私も小学校から中学までバレーをしていて、高校もダンス部なのでずっと運動部でした。マノア・リノはITもスポーツも事業にしている珍しい会社で、おもしろいと感じましたし、田中さんとの共通点、フィーリングが合う感覚があったので入社させてもらおうと考えました。
すべてがゼロからのスタート
入社してからは、研修期間の3ヶ月間でIT企業・SESとはどんなものか、どんな言語があるのかイチから教えてくれ、「分からないことがあれば、なんでも聞いて良いから」と言ってもらいました。会社にとって未経験で入社する社員は、私が初めてだったみたいで、たぶん今いる営業の中で一番世話を焼いてもらったと思います。
苦労したのは言語を覚えることですね。これまでの生活で聞く機会がなかったですし、そもそも私がIT企業に入るなんて考えたこともなかったので。だから言語だったり、その言語を使ってなにがつくれるのかとか、そういう業界の知識を身に付けるのが大変でした。最初は営業活動にも同席してもらって、「これはこういうことだよ」とか、細かく教えてもらいました。やっぱり場数を踏むことが、自分にとって一番身になったと感じます。まだ現状はエンジニアみたいにバリバリなわけではなくて、なんとなく聞いてそういうことだなって分かるまでしかできないんですけど…。お客様先に行ったりして、少しずつ学んでいる最中です。
研修が終わってからは、形式的に引き継ぎをしたというより、「このお客さんに提案してみたら、担当しみたら」というところから始まりました。そこから自分で開拓するお客さんも増やしています。とはいえ、数は既存の方が多いですね。新規でお客さんを開拓するのは、やっぱり根気がいるので、2、3ヶ月に1社がちょうど良いペースかなと。新規のときは(HPの)お問合せフォーム、メールからですね。「打ち合わせをしたいのでお願いします」という内容の連絡をして、返事が来たら訪問しています。
そうした中で、一番印象に残っているのは、一回目の受注です。入社して1ヶ月目くらいのときの案件で、ロースキル、あまり技術力は求めていませんという内容。そこにちょうどうちの社員で、ITを始めたばかりの未経験者がいて、その人を紹介させてもらいました。決め手はエンジニアの人柄だったと思います。私の人柄ですか?(笑)自分で言うのもなんですが、ずっと笑っていて、人当たりは良いかな…。
なにも分からない状態で、教えてもらいながら取り組んでいったら、うまく進んで契約まで至った仕事でした。でも、自分がなにも分からなくても、サポートがあれば契約まで至れるんだと知れましたし、成果を残せたんだという実感が入社してから初めて湧いた出来事でした。
一番丁寧なやり取りを心掛ける
マノア・リノに入って1年と11ヶ月。みんな年上ですけど、今は後輩もできました。基本的に新しく入ってきた人には、私が最初に簡単なことを教えています。SESとはどういう流れなのかとか、この会社のやり方はこういうものだというのを伝える役割です。後から入ってきた人は、すべてが未経験という人もいれば、営業経験者もいますが、全員がSESは初めてですね。みんな大体2、3ヶ月でひとり立ちしています。
いろんなメンバーがいる中、私はお客さんと一番丁寧なやり取りを心掛けていると思っています。スピードはもちろん大事なんですが、それだけでもいけません。他人やお客さんに迷惑はかけられませんし、メールの内容、言葉遣いとかはすごく意識していますね。ミスゼロを目指して取り組んでいます。
職場自体は、チームで営業をしているイメージですね。一人の契約のためにみんなで協力して、契約に至ったときにはみんなが喜び、拍手してくれるような感じなんです。そういう社風なので、周りからおめでとうと言ってもらえるのがうちで働くこと、仕事の醍醐味だと思います。エンジニアさんも技術レベル、コミュニケーション能力が高い方ばかりですね。(プロジェクトのアサイン時など)私が心配するようことは特にないんですけど、やっぱり本人が希望されていることは把握しておきたい。だから、エンジニアとのコミュニケーションをメインに担当する上長から情報をもらって、希望に沿ったところを探すようにはしています。
新しい環境で見る新しい夢
今はアルバイトで生活していたときより、休日や自分の時間がありますし、掛け持ちをしなくても安定的な収入を得られています。残業は普段ほとんどしないですね。社内に女性は私の他に二人、営業では唯一の女性ですが、早めに会社へ来て早めに帰るタイプです(笑)定時ピッタリで帰宅することもありますね。それで週末は友達と遊んだり、ゲームをしたり、動画、アニメを観たりしています。昔は使えるお金が少なかったのですが、だいぶ余裕ができて貯金もできるようになったし、自分のために使えるお金が増えました。
親も「やりたいことをやりなさい」とずっと言ってはくれていたものの、金銭面で手伝ってもらっていたので、それがなくなり安心してもらえているんじゃないですかね。自分で自分の管理、生活ができるようになったので。まあ“昔よりは”ですけどね(笑)
そうした中で、常に自分に目標を立てていきたいなとは思っています。覚えるのに苦労した言語は、これからも新しいものが増えてくると思うんですけど、それ対しては聞いたことがなければすぐに調べるようにしていますね。独学もそうですし、お客さんにも「これって新しい言語ですか」っていうのを聞くようにはしてきました。
あとは、もともとのデザイナー、技術者になりたいという想いが今もあって、自分が好きなものにも挑戦したいです。営業はもちろん続けていくつもりではいるんですけど、時間さえあれば技術者の勉強もしていきたいです。そうすれば、もっとエンジニアにも寄り添えるはずですし。まだ勉強段階なので、なにもできていないんですけど、自分のパソコンの中にはAdobeを入れていているので、PhotoshopやIllustratorを使い、Webデザインやイラストを描けるようになれれば良いなと思っています。