臼杵市を拠点に、地域資源を活用した電力小売事業・再生可能エネルギー事業を展開する「うすきエネルギー株式会社」。その代表取締役である小川拓哉氏は、地域の課題解決に挑みながら、持続可能な未来を描いています。今回、小川氏のこれまでの歩み、うすきエネルギー設立の背景、そして地域に対する想いについて伺いました。
東京から臼杵市へ:「地域の現場で挑戦したい」という思い
臼杵市に移住されるまでの経緯を教えてください。
小川: 私は東京大学大学院で森林政策を学んだあとに、卒業後は東京の大手コンサルティング会社で環境・エネルギー分野の調査業務に従事していました。しかし、次第に「現場で地域の課題に向き合いたい」という思いが強くなっていきました。学生時代に、富山県・岐阜県といった雪深い山村地域にフィールドワークにいき、地元の方々の生の声を聴き、交流を深めていったという忘れられない経験が、芯の部分にあったように感じています。
そんな時、知人から「臼杵市で新たに林業事業を立ち上げるプロジェクトに参加しないか」という話をいただきました。幼い頃から自然環境に関心を持ち、いつか地方で働きたいと考えていたこともあり、家族とともに移住を決意しました。30歳になる直前という、今後のキャリアを考え直すタイミングであったことも影響していたかなと思います。
福岡出身なのですが、転勤族で同じ場所に長く住んでいたことがなかったので、いまでは「臼杵市」が本当の故郷のようになっています。
臼杵への移住当初は、林業事業の立ち上げということで、ワタミエナジー株式会社の林業事業部で働き始めました。
うすきエネルギーの設立と臼杵市バイオマス産業都市構想
「うすきエネルギー株式会社」を設立するに至った背景を教えてください。
小川: 臼杵市は2015年に「バイオマス産業都市構想」に認定されるのですが、この構想の策定にワタミエナジーの社員としてお手伝いをさせていただきました。臼杵市のバイオマス産業都市構想は、臼杵市内の未活用であった木材資源や、醸造業などの廃棄物を活用して持続可能なエネルギー循環と新産業創出を目指す取り組みです。その中に、バイオマスを活用して発電した電気を地域に供給する「地域エネルギー会社」が位置づけられています。
この構想と連携する形で、2016年、ワタミエナジーの子会社として設立されましたのが、うすきエネルギーです。うすきエネルギーは、エネルギー会社として地域内で発電した電気を含む形で、臼杵市内及び周辺地域の皆さんに電気を供給しています。その後、地域資本を取り入れてワタミグループからは独立します。
2021年には小型の木質バイオマス発電所の稼働がはじまり、臼杵市内の間伐材を利用して電力を供給する循環型のエネルギー事業も手掛けています。この発電所は、地域資源を活用した象徴的な存在であり、環境教育の場としても機能しています。
電力市場高騰による危機と「地域に必要とされる存在」への転換
うすきエネルギーとして最も困難だった時期について教えてください。
小川: 2020年末からの電力市場高騰は、当社にとって存続が危ぶまれる危機でした。調達コストが小売価格を大きく上回り、一時は債務超過の状態に陥りました。この状況を乗り越えられたのは、地域の皆さんの支えがあったからです。
お客様には電気料金の値上げをお願いしましたが、「ここにあってほしい」という声をいただき、何とか事業を続けることができました。この経験を通じて、うすきエネルギーが地域にとってどうあるべきかを再確認しました。
「地域とともに未来を創る」ビジョン
小川さんが目指す未来像を教えてください。
小川: 私たちは、「まちのエネルギー、まちをつくる」ことをコンセプトとしています。エネルギー事業から「まちづくり」へということで、事業を行うことを通して、地域経済の活性化や持続可能な社会の構築を目指しています。
また、臼杵市の脱炭素化に向け、地域の企業や行政と連携した新しい取り組みも進めています。これからも地域に根ざしたエネルギー事業を通じて、臼杵市を持続可能で災害に強いまちにしていきたいと考えています。
新しい挑戦への展望
最後に、今後の展望を教えてください。
小川: うすきエネルギーを地域の信頼を得られる存在に成長させたいと思っています。再生可能エネルギーの普及を進めるだけでなく、地域での雇用を創出し、若い世代が臼杵に戻ってきたいと思えるような魅力ある地域づくりを目指しています。
これからも、地域に必要とされる存在であり続けるために、挑戦を続けていきます。