スタンフォード発「ワイヤレス給電技術AirPlug®」を支える開発の舞台裏。【Vice President of Engineering(VPoE)小舘直人】
米・スタンフォード大学発のスタートアップである、エイターリンク株式会社。
現在のIoT(Internet of Things)社会の次は、IoE(Internet of Everything)といわれており、センサーが必要なモノの数は爆発的に増えるはずです。そして来るべきloE社会に欠かせないのがワイヤレス給電技術であり、エイターリンクの持つ技術は、欠かせないインフラになると注目されています。
今回は、ワイヤレス給電AirPlug®の開発現場の中枢で活躍する、VPoE 小舘直人が、創業までのキャリアや開発の舞台裏、仕事への思い、やりがいについて語ります。
「大企業で働くチャンスはこの先もある」。大手半導体メーカーからスタートアップに転身
―これまでの経歴を聞かせてください。
中央大学大学院で電気電子情報通信工学専攻を修めたのち、半導体メーカーである、ザインエレクトロニクス株式会社に新卒入社しました。ここでは半導体の開発に3年間携わったのち、技術的なセールスマーケティングの支援のため、1年間はアメリカを往復、もう1年間のうち半年は台湾に駐在していました。その後、オランダに本社を置くNXPセミコンダクターズ社の日本支社を経験したのち、エイターリンクに創業メンバーとして参加しています。
―エイターリンクにジョインを決めたきっかけは。
代表取締役兼COOの岩佐とは、小学校からの幼なじみです。地域の文化活動に一緒に参加したり、野球のライバルチームだったり、中学時代は選抜チームで一緒にプレイもしました。社会人になってからはSNSでつながるくらいでしたが、ある日、岩佐が投稿した起業宣言を目にしたのを機に久々に連絡を取り、会って話を聞きました。これがきっかけになって、エイターリンクに少しずつかかわるようになったのですが、代表取締役兼CTOの田邉とディスカッションを重ねるうち、エイターリンクにしっかり身を置いてみたいと思うようになり、いまに至ります。
―せっかく転職した会社を半年で辞めてまでフルコミットしたその決断の背景には何があるのでしょうか。
私が加わった当時のエイターリンクは、よいお客様に恵まれてはいたものの事業はまだ立ち上がっておらず、会社の存続自体も不安定でしたので、自分の身を投じることでそのリスクを低減したいと考えました。また、前職は日本でいう、ソニーのような大企業です。この規模の会社が潰れることはまずないですし、市場価値も簡単に下がることはありません。自分がもう一度そこで働きたいと思ったら、チャンスは何回でもあると思いました。一方、エイターリンクのような会社は世の中にそうそうなく、技術的にも珍しい分野です。そして、私自身もまたNPOで事業を立ち上げた経験があり、ベンチャーやスタートアップの取り組みに関心がありました。こうした考えや経験を基に、これまでとは違う働き方に挑戦することは、自分のキャリアを広げるうえでよい糧になると思えたこともまた大きかったです。
スタートアップならではのスピーディ&ユニークな開発現場
―お仕事について聞かせてください。
最初はエンジニアとして田邉とともに開発にかかわっていましたが、2020年10月から国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成金を受けられることになったので、協力会社や外注先など関係者を増やすことになりました。このタイミングで、田邉は技術開発により注力することに。私はエンジニアリングを行いつつ、チームビルディングを担う役割へとシフトしました。この体制で半年、一年と進めるうちに関係者がどんどん増え、2022年のいまは国内外合わせて20人程度のエンジニアが開発にかかわっています。プロダクトマネージャーも数人抱えるようになったので、いまはVPoE(Vice President of Engineering)として、田邉とともにチームの技術を極めていく立場にいます。
―1年半のうちに、エンジニアが当初の二人から20人程度に増えるとは相当なスピードですよね。
そうだと思います。一般的には、「1グループ・1製品・1技術」なら、5人前後のメンバーで最後までつくりあげる体制だと思います。エイターリンクのように個人が「複数グループに所属・多数製品・多数技術」を担当する体制で、「技術の確立を目指す」「いろいろな可能性を探る」という両方の側面から、相応の人数が確保できるように、人員を強化し、開発を進めています。
―大企業と比べ、開発スピードはいかがでしょうか。
決められたものを決められた工程でつくる、ということなら大企業に分があると思いますが、決まっていないものをつくるという意味では、ベンチャーならではのスピードを感じます。うまくいかないものを早い段階で諦め次に進む潔さ、方向修正の速さ、技術を突き詰めるためのルートを見定める速さには、目を見張るものがあると自負しています。
―取捨選択してより確度の高いものを追求するスピードのなか、フローを組み立てていく大変さもありそうですね。
そうですね。ワイヤレス給電は、最適なアンテナの形状すら誰も知らないような段階にあるので、ウォーターフォール型の開発も含め、いろいろな方法も試しながら、プロセス設計を大切にした開発を進めています。最近は「タスクフォース」型の開発フローを試しています。一つのタスクに対し、3~4人でチームを組み、期間と予算を明確にして進めるスタイルです。日本ではソフトウェアのスタートアップを中心にアジャイル開発が行われていますが、「タスクフォース」はそれに似た一つのメソッドです。このほうがリモートワークの社員やインターン生もスピーディに動けます。
―こうした進め方は、小舘さんにとっても新鮮ですか。
半分は新鮮で、半分は経験済みという感じでしょうか。社会人経験で新規製品の開発プロセスを長い時間かけて考察したことがあり、その経験がいま生きていますし、これをベンチャーのリソースでどう実現していくのか、カスタマイズする部分は、新しい取り組みです。
グローバルな環境だから培える開発のノウハウ
―スタンフォード大学のチームとも連携しています。具体的にどのようなやり取りをしているのでしょうか。
当社アドバイザーである、Prof. Ada Poon(エイダ・プーン)、Prof. Simon Wong(サイモン・ウォン)とは、週に一回1時間のミーティングを設けています。ここでは開発上の相談はもちろん、製品コストや開発期間の目安、チームビルディングに必要な視点、プロジェクトのスタートポイントなど、あらゆることをディスカッションしています。毎回、たくさんの示唆を得られる貴重な機会であり、日本人にはない発想や考え方に学びがあります。外注先に対する考え方一つをとっても、日本では「契約期間に対して報酬を支払う」という考えがまだまだ主流ですが、アメリカでは「成果への対価」という考えが基本です。ですから、「結果が出るまでしっかり携わってもらいなさい」というアドバイスが飛ぶこともあります。このように、日本とアメリカの視点を組み合わせながら、ヒト・モノ・カネ・情報の最適化を図れる点はとてもユニークだと感じます。
―そのほか、カナダや韓国、台湾をはじめ、フィンランド、イスラエルなど、グローバルコラボレーションも多いと聞きます。
カナダはアメリカ同様、社内のメンバーとして、そのほかの国とはパートナー企業や顧客として、一緒にビジネスを模索しています。電気電子分野のものづくりをしているところはグローバルでみても数は多くありません。優秀なパートナーを探すなか、自ずと彼らと組むようになりました。
―さまざまな国の企業やパートナーとコラボレーションすることで得られるメリットはどんなところでしょうか。
たとえば、イスラエルは地理的な近さからヨーロッパで求められている技術を開発していますが、実はそれが日本でも使えるんじゃないか、という発想に至ることはありますね。特定の国が良い技術を持っていることもあり、日本にはない知見を得られる良さがあります。
未来の技術を自分たちが創るやりがい
―仕事の楽しさ、醍醐味を聞かせてください。
ワイヤレス給電AirPlug®は今後世の中に必要とされる技術です。イーサネットケーブルがWi-Fiに置き換わったように、いずれ給電もケーブルからワイヤレスに変わり、それが当たり前になると言われています。これからすそ野が広がっていくプロダクトに自分自身がかかわることにワクワクしていますし、先端技術を扱う楽しさも感じています。
そのなかでも一番の醍醐味は、ワイヤレス給電のルール作りを我々が主導していることです。新規事業や新製品を生み出すうえで、ルールメイキングは一番の要諦です。歴史を振り返ってみても、VHSとベータの戦い、ブルーレイとHDDVDの戦いがありましたし、Wi-FiやBluetooth®のように日本の会社が開発したプロダクトが、追随するアメリカ企業によって、そのルールを塗り替えられた例もあります。なかでも、ブルーレイは日本の企業間で争われましたよね。せっかく開発した技術がこのような形で消えていくことほどもったいないことはありません。ワイヤレス給電は、こうした過去の教訓を踏まえ、我々がルールメイキングをしています。良い意味で競合と争わず、誰しもが疲弊せず、上手く市場をつくっていきたいと思っています。
―今後のエイターリンクは何を成し遂げていくのでしょうか。小舘さんならではの視点で聞かせてください。
まずは、ワイヤレス給電の仕組み、ワイヤレス給電AirPlug®のプラットフォームをつくることが我々のミッションだと思っています。たとえば、アマゾンは電子通販のプラットフォームを、メルカリはフリーマーケットのプラットフォームをつくってきました。そこを基点に各社はいま、『AWS』や『メルペイ』など、新しいビジネスに挑戦しています。我々エイターリンクも、ワイヤレス給電でセンサーを動かしたり、医療の助けになったりなど、あらゆる側面で社会実装を進め、それまでの不便が解消できるテクノロジーとして受け入れられることに挑戦しています。ベンチャー企業ならではの柔軟性のもと、早期実現を目指していきたいです。
―最後にエイターリンクで一緒に働きたい人物像があれば教えてください。
「変化を求めている人」です。大企業で働く人にとっては、ベンチャー企業というだけで新鮮さがあるでしょうし、そのなかで長距離マイクロ波ワイヤレス給電を手がけている会社は少ないと思うので、当社を選ぶだけでも変化を感じていただけると思います。ハードウェアのエンジニアリングの経験がある人も、当社の開発現場にはそれまでとは違うおもしろさがあると思います。いろいろな意味で変化を求める人にとって、エイターリンクはうってつけの環境だと感じています。また、個人的には、「自分はできるんだ」「自分は優秀なんだ」「自分の能力に会社が追いついていないんだ」くらい、自分への自負や自信のある人と働きたいですね。少ない人数ゆえ、仕事をどんどん回す能力が求められる当社は、意欲のみなぎる人にとって非常にやりがいある会社だと思います。