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《はじめに》
令和5年11月17日、当社東京支社のTFBR(Tokyo Fudec Branch Renovation)
プロジェクトが完成し、完成披露会を開催。
東京支社を13年ぶりに全面リニューアルし、新東京支社として、新たな一歩を踏み出した。
今回第一弾として、私たちの仕事を、特徴のある部屋毎に、皆様にプロジェクトストーリーとして紹介させて頂く。
まず第一弾は、新東京支社につくられた「光の茶室」(和楽庵)。
この茶室は、電気設備工事を生業とする当社が、450年前の千利休の思い(侘び)を我々の技術や経験そして創造力をもとに、現代風に創り上げ、三畳の空間を「光の茶室」として完成させるという挑戦の物語。
《茶室の歴史》
茶の歴史は平安時代までさかのぼる。
室町時代には日本最初の茶室ができたとされている。
15世紀からは「禅」の影響を受け、「草庵の茶」(侘び茶)が、16世紀後半に千利休によって確立され、お茶を飲むという行為を通して日本的な芸術性、世界観を示す茶の湯が成立・発展してきた。
現在茶室として思い浮かべる小さな空間は、千利休が確立した草庵茶室から発展してきたもの。
東京支社の3階には、基本的に大会議室とそこに付随する日本庭園、応接室、茶室が配置された。
茶室があった空間は、もともと小さな和室で、物置のような用途で使用されていた部屋であり、ここに新たな試みとして茶室をつくり、お客様や社員の皆さんにも楽しんでもらえるような空間をつくることになった。
《空調をどう考えるか?》
この部屋は東京支社の3階の南西角に位置しているため、基本的に夏は暑く、冬は寒いという部屋であった。わずか半世紀ほど前までは、本来茶室の明りは窓からの光、室温は自然任せという形式で利用されてきたものである。もちろん現代の自然環境とこの部屋の建物における位置付けから考えても、今回のプロジェクトでは空調は必要不可欠であるが、茶室の雰囲気を損なわないためにも、可能な限り機器類を目に付くところから外したいと考えた。結果として空調機器を茶室内に設置しないことが決定する。
冷気、暖気を確実に茶室に送り、効率的にもいい方法として、隣接する会議室(天井高は2920mm)の室内機の吹き出し口の一つから茶室までをダクトで接続することとし、快適な空気の流れをつくることにした。
茶室に冷気、暖気を送るため、会議室に設置する空調機の一方の出口を塞ぐことで、必要な容量を満足できないことを考慮し、当初、空調の容量が6.3KW×2台だったものを7.1KW×2台に変更し、全体の必要な容量を確保した。
《最初の難問》
当初茶室の入り口に梁(RC)があり、梁を貫通することができないので、ダクトの敷設ルートを梁下で通すことになったが、①茶室に直接ダクトが入っている状況は見るに堪えない。また、②茶室内に入ったダクトが茶室内にいる人から見えてしまうという問題もあった。
① の解決策として、茶室のダクトが通るルートに会議室の倉庫をつくり、その倉庫を経由
することで、ダクトが直接茶室へ入るという視覚的な問題を解決した。因みに倉庫には、音響設備関係の操作卓や必要なものをストックする場所として、とても役立っている。
また②の解決策として、茶室の入り口にある梁より下に茶室の天井高を設定(1825mm)し、茶室の天井内を通すことで茶室内からも一切ダクトを見えなくすることで解決した。
茶室という性質上、天井高は低めにつくることができることと、会議室の天井高が少し高めでありそのギャップを利用できたことも幸いした。
更に考えられる問題は、ダクトを通して茶室内の音や会話が会議室に絶対に漏れないようにできるかという事。
音の問題を解決するために、ダクトには、「フレキダクト」を採用し、音漏れを防ぐ技術的な対応を行った。フレキダクトの唯一の欠点はダクト自体の見栄えがあまりよくないので、空調機から倉庫までの部屋全体の雰囲気を損なわないように部屋にマッチした最適な色のラッキング(ダクトカバー)で仕上げ、完成度を上げた。
茶室内の空調の吹き出し口は茶室内で最も目立ちにくい、床の間横の床脇スペース上部のふかし壁の中に設置した。この場所は入り口のすぐ近くでもあり、お入り頂く人に、まず涼しさ、温かさを感じて頂けるように、又、床の間付近が部屋の中でも一番大切な場所であることからも、“常にこの辺りが快適に”という思いもあった。
また、茶室が密閉された空間だと考えると、排気口があると吸気口が必要となるが、これは空気を循環させる必要もないので、換気設備で代用することとし、この茶室を2~3人で利用する想定で換気の容量を考えると、コロナ禍の基準であるが、一人当たり30㎥/hの換気が必要なため、100㎥/hで設定し機器の選定を行った。
換気口も勿論見えにくい場所に設置するということで、勾配のある網代天井と杉の竿縁天井が接する場所に2つの天井の勾配の違いでできた空間を上手く利用し、畳に座られるお客様の目線からは殆ど目立たない位置に設置し、空気の流れ的にもいい場所を選定できたと考えている。
《照明をどう使い分けるか?》
この茶室で最も現代的な部分が“照明”ということになる。
ここは、茶室本来の形や雰囲気を壊さないということよりも、如何に伝統的な茶室を現代にマッチさせるかということが最大の課題。
基本的な照明のコンセプトは間接照明を使うということと、どうしても使わなければならない直接照明に関しては、小さな光で、見た目的に目立たない器具を必要最小限で設置するという事。
調光は明るさを調整し、茶室の聚楽壁の色合いや風合いを最大限に引き出すための現代の最適な技術だと考えている。光の色温度は2700K(ケルビン)で調光は0%~100%まで1%ずつの設定が可能。
調光設備は大光電機の「SENMU」を採用し、形状的に難しい茶室の和天井での配線を軽減し、メンテナンス的にもとても有効な技術を、当社大阪別館に引き続き採用した。
今回茶室の使い方は2つ。一つは、ギャラリーとしての茶室。会議室に隣接しており、茶室と会議室は透明の仕切りで接しており、外から茶室全体を見渡せる構造になっている。
訪れる方々が、街角のギャラリーのように気軽に鑑賞し楽しんで頂く。
この場合は、なるべく照明を明るく、外から(遠くからでも)茶室の内部やつくりが見える様にする。
一方、もう一つは、茶室本来の使い方で、お客様や社員の皆さんに茶室本来の良さを存分に味わって頂くというもの。その場合は、昔のろうそくで明りを取った位の明るさまで照度を落とし、また各々の照明の点灯パターンや明るさに変化をもたせて(減光)、落ち着いた中に伝統的な茶室の雰囲気を表現するというもの。
茶室内は6パターンのシーンに設定されており、必要な雰囲気に合った設定をいつでも選択することができる。
《瓢箪(ひょうたん)を灯す》
もう一つこの茶室には、古くから縁起がいいとされ、茶室にも用いられることの多い瓢箪を照明でどう表現できるかを追求した。
瓢箪を上手く照明で表現するために、最も気を使ったところは、瓢箪を均等に照らす事。
照明器具は、内照方式のため、設置場所によっては、陰が出たり、光の明るさにむらが出来たりと均等に照らすことの障害がいくつも考えられる。
瓢箪自体がかなり大きいこともあり、空間の高さ、奥行きなど建築とのすり合わせ、設計上のすり合わせに時間をかけた。
光の出る部分に和紙貼りの素材を使い、和の雰囲気を表現。
内照する器具の光は基本的に反射板に光を当て、その反射で瓢箪全体を内照させるということを考えつくっていったが、それは光がよりマイルドになり、和紙を下から美しく照らすということを最大限に考え、何度も試行錯誤の上完成させた。
瓢箪自体、調光で明るさを調整できるが、部屋の明るさに対して、瓢箪を上手く浮かび上がらせるためにも、少し他の光に対して強めに点灯し、その形を強調している。
壁の中に器具を仕込む関係上、将来に渡りメンテナンスが容易にできるかという点もしっかり協議検討した上で、茶室の雰囲気を守り、見た目に分からないような点検口を設置し完成させた。
《シーン設定》
茶室点灯のシーン設定は以下の通り。因みにろうそくを灯した茶室の想定は、6番の部屋の間接照明を5%にした時。
1, 部屋全体の間接照明及び瓢箪を100%の照度で点灯
2, 部屋全体の間接照明を70%、瓢箪を100%
3, 部屋全体の間接照明を50%、瓢箪を100%
4, 部屋全体の間接照明を30%、瓢箪を100%
5, 部屋全体の間接照明を30%、瓢箪を50%
6, 部屋全体の間接照明を5%、瓢箪を50%
何度も打ち合わせを行い、照度や組み合わせの検討を行い、最適な6つのシーンが完成した。状況に応じて楽しむことが出来る。
《マイクロダウンライトの輝き》
直接照明は、主に床の間の花器(床柱のかけ花入れ、置き花入れ)を照らす局所照明を間接照明の直横でお客様には見えない位置に仕込み、花や花器が最も綺麗に映し出されるように設置した。
床脇の地袋の下に照明を配置、玉砂利を置き強調する照度と、床脇の上部の間接照明の照度を変えることで、床脇全体の光の強弱を付けている。地袋の下の照明は常時100%点灯させている。
また、畳上に観賞用として置いている漆の長板上の茶道具を主に照らし、器具自体はなるべく目立たないように、そして和天井の雰囲気を限りなく損なわないように照らす局所照明として、16度の狭角で配光し、対象物までの距離に光が到達できる、マイクロダウンライトを設置した。局所を照らす明りであることから、あえて照度は常時100%としている。
和天井(特に網代天井)に上手く器具の開口をすることに細心の注意を払い、時間と手間をかけて施工した。
《茶庭もライトアップ》
茶室西側の雪見障子から見えるところに、小さな茶庭がある。
灯篭や、苔山、御簾垣、飛び石などを生き生きと照らすために、アッパーライトの照度と角度を調整し、茶室から見える茶庭も照明の明りで茶室と一体的な景色として完成させた。
その奥に広がる日本庭園全体も照明の工夫が様々なされているが、次回「会議室」の紹介でプロジェクトストーリーとして説明させて頂く。
《感謝》
今回は自社物件ということもあり、コスト等に左右されず、いかに技術的に、デザイン的に、そして使いやすさ的にも、電気設備工事の会社がつくる“究極のモノづくり”を追求するという観点で挑んだプロジェクトです。社内外の様々な人を巻き込み、英知を結集した、450年の歴史への挑戦でもあります。
時代が変わっても、人が感動したり、感心したりすることに変わりはありません。
私たちが挑戦したこのプロジェクトが、「光の茶室・和楽庵」を訪れる方、実際に見た方々の心を捉え、何度も何度も行きたくなるような茶室であり続ける事ことを、期待してやみません。
ご協力頂いた、社内外の関係者の皆様に心より、感謝申し上げます。