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【土木にAI、新しい雇用をつくる】代表:森川より

【きっかけは何気ない夫婦の会話】

建築・土木業界の人手不足が深刻だ。しかし、それは技能や経験が必要な仕事であり、誰もが簡単に出来るものではなかった。オングリットは、AIを駆使したシステムで、老朽化したインフラの損傷調査・点検を効率化。未経験者でも建築・土木業界で働ける機会を創出している。

これからますます人材不足が深刻化する建築・土木業界において、いかに効率よくインフラの点検を行い、安全を維持するのかが課題になっている。オングリットが2018年3月、福岡市で創業。主に、橋や道路、トンネル、標識・照明といった老朽化したインフラの点検を行っている会社だが、特筆すべきはテクノロジーを駆使して作業の効率化を実現しただけでなく、専門知識のない未経験者でも仕事が出来る雇用を創出したことだ。開発のきっかけは何気ない夫婦の会話だった。「シングルマザーになったお友達の仕事がないんだって。」妻のこの一言がきっかけとなり、当時。ゼネコンに勤めていた夫の森川歩氏は考えた。自分が開発した技術を使えば、建築・土木業界に新たな雇用を生み出せるかもしれない。もともとIT業界で働いていた歩氏は建築・土木はイノベーションが起こしやすい業界と考えていた。なぜなら、異業種ではすでに陳腐化した技術でも、建築・土木では最新技術になる場合もあるからだ。そこで歩氏がシステムのベースを作り。当時専業主婦だった春菜社長が、5万点ほどあった国土交通省の点検要領のデータを丸5年かけて入力。歩氏がAI化して、未経験者でもCAD図面を作成できるようにした。これにより、担当者は点検や撮影といった外での作業から、調査報告書の作成など屋内での仕事までを1人で担当することがなくなる。深夜に及ぶ長時間労働を強いられていたのが、現場で撮ってきた損傷写真をオングリットのクラウドにアップするだけで、残りの作業をアウトソーシング出来るようになった。

【ビジネスコンテストの登壇は10回以上、チャンスをつかむ】

果たして、このシステムは、社会にどのくらいのニーズがあるのだろう。企業する前の2018年2月、たまたまタイミングの合った「福岡よかとこビジネスプランコンテスト」で春菜社長が登壇したところ、ファイナリストに選出。すると会社の登記前だというのに各種問い合わせがあっただけでなく、銀行の支援も受けられる事に。そして2018年3月、春菜社長が代表取締役となってオングリットを設立。働き方改革、ソーシャル・ビジネスとしても注目されその青も次々と声がかかった。数々のビジネスコンテストに登壇し、これが縁で様々な出会いがあったという。「コンテストの登壇は、この1年で10回以上。それも福岡のビジネスコンテストに留まらず、東京で開発された日本最大のソーシャルビジネスコンテストでは優勝を果たし、ついにはドイツの世界最大のソーシャルビジネスサミットに日本代表として登壇するまでになりました。しかし、何回登壇してもなかなか慣れませんね」と苦笑いする春菜社長。歩氏のよれば、「うちには営業マンが1人もいませんが、東証一部上場企業さんと直接お取引出来るようになりました。すべて社長がビジネスコンテストに登壇したことで出会えた人たちのおかげです。これも福岡の風土でしょうか。出会った人たちがまた別の人を紹介してくれて、どんどん横のつながりができていきました」という。

【M&Aを成長の足掛かりに】

一見、順風満帆に見えるオングリットだが、会社を設立してからの半年間はなかなか認知されず、仕事が無いときもあったそう。それでも次の半年で3600万円を売り上げた。

「まず、会社設立3ヶ月で建設コンサル会社の調査部門を買収しました。これは顧客ネットワークが手に入ることと、調査技術部を設けて現場に出ることで生きた情報を研究開発事業部にフィードバックするためです」(春菜社長)同時にオングリットが開発した「AI橋梁損傷診断システム」を利用して福岡市内の163橋の点検図面を作成した。「これは専用アプリをダウンロードするだけで全国どこでも作業が出来ますし、橋梁損傷部分の線をなぞるだけでCADの図面が作成できます。このときは日本語も話せない外国人3人に作業してもらいましたが、通常の図面よりもクオリティが高いと評価を頂きました」(春菜社長)

【将来は途上国の雇用も創出?】

まだまだ膨大にあるインフラ点検作業。最近えは産学官の連携を図り、オリジナルのポールカメラや世界初・小規模付属物点検ロボットを開発し、橋梁だけでなく道路やトンネル、標識、照明等の点検を行い、AIによる損傷チェックを行っている。このような点検ロボットを駆使することにより、時間短縮はもちろんのこと、誘導員も要らないので人件費は半分で済み、高所作業車も必要ない。コストは1日あたり9万以上の削減につながるという。

さらにアウトソージング事業も次の段階に進み、教師データ(AIに学ばせる為のデータ)の入力に移っているとか。「当初の事業計画では今年度は6500万円、来年には1.2億円という数字を掲げています。当面が自社で請け負える範囲で事業を進め、5年後ぐらいにはオリジナルの専用ロボットを量産して自治体などへのレンタル事業を検討中です。すると、5.5億円ぐらいの収益が見込めるのではないかと示唆しています」(春菜社長)

そうなれば、アウトソーシング事業の勢いもますます高まり、現在のシングルマザーや障がい者の雇用だけでなく発展途上国も雇用も創出できるのではないか。オングリットの快進撃はとどまることを知らない。

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