こんにちは。any株式会社でデザイナーをしている三宅佑樹( @Yuki_Miyake )と申します。
弊社any株式会社は、10月17日付のプレスリリースにて、企業のナレッジマネジメントを支援するクラウドサービス「Qast」のリブランディングを発表しました。
今年の1月に一人目デザイナーとして入社して以来、担当デザイナー兼PMとしてずっと走らせてきたプロジェクトがようやく日の目を見ることとなり、心の底からほっとし、感慨もひとしお、ようやく少し落ち着けたのでじっくりとこれまでを振り返るためにも筆をとりました …と言いたいところですが、そこはスタートアップの一人目デザイナー。そんな余裕なはずがありませんよね!(笑) この記事はもちろんリリース前夜に書いていますし、来週に開催される展示会のブース装飾やら配布物の入稿期限が列をなして待ち構えている中での執筆になりました(笑)。
さて、本noteでは、スタートアップのデザインに関心のある方や、スタートアップのブランド構築、事業推進・経営に関わる方(にもぜひ読んでいただきたい)に向けて、弊社が運営する「Qast」のリブランディングの過程、そこに込めた想いはもちろん、リーン(LEAN)が正義とされるスタートアップの世界に身を置いていて日々感じる「資産となる(ならない)デザイン」というテーマについても書いてみたいと思います。
Before-After
まずは結論からということで、リブランディング前後のBefore-Afterの比較画像を載せたいと思います。
ご覧の通り、ガラッと変えています。親しみやすさ、新しさ、信頼性を兼ね備えたデザイントンマナを目指し、すべての要素を一新しました(リニューアルが追いついていないものも順次差し替え予定)
経緯
1.入社前の状況
私は入社前の昨年一年間、業務委託の立場でanyに関わっていたのですが、「可能性のある会社ではあるが、その可能性をデザインによって感じさせることができておらず、非常にもったいないな(本来の企業や事業の価値よりも低く見られるような見え方になってしまっている)」と感じていました。
またもう1つの課題として、「自分たちはどんな性格で、どんな世界が作りたい人たちなのか」「どう見られたいのか」といった会社の思想・思考・哲学、簡単に言えば「想い」が、デザインの見た目からあまり伝わってこないな、ということも感じました。
シリーズAの資金調達を終え、シリーズBに向かっていくにあたり、特にエンタープライズ企業からの受注を促進するためにさらに信頼性を高めていく必要があること、また、採用活動が加速していくことを考えると、直接会ったり話したりしなくても、外に出るビジュアルなどを見て「この会社魅力的だな」「伸びそうな会社だな」と思ってもらい、優秀な人材が向こうから寄ってくるような状況を作らなければならない。そうした会社の置かれたフェーズを考えると、今のタイミングで一気にデザインレベルを引き上げる必要があると考えました。
2.すべてはロゴから始まる
入社を決意すると同時に、真っ先に変えたい、変えなければ、と思ったのが、運営事業「Qast」のロゴです。
以前書いたnoteでも「ロゴは神である」と書きましたが、あるブランドのデザインの雰囲気やクオリティは、そのブランドのロゴで決まるといっても過言ではありません。ロゴのデザインクオリティは低いが、その他のクリエイティブのクオリティは高い、というケースはほとんど見たことがありません。ロゴがデザイン全体に与える影響力はそれほどまでに大きいものです。
これまでのQastのロゴは、シンボル(マーク)の形の可愛らしさは魅力的ではあるものの、直線と曲線の調和、シンボルとロゴタイプのサイズバランス、文字1つ1つのシェイプなど、多くの点でブラッシュアップの余地があるものでした。
また、造形の観点だけでなく、「どんな世界が作りたいのか」といった思想哲学も、そこまで伝わってくるものではなかったかなと思います。
自分が入社して、anyのデザインを作っていくとなると、まずはこのロゴを変更あるいは調整せねば・・そう考え、入社前からロゴを変えることを役員陣に提案し、合意を得ていました。
もし「ロゴは変えるつもりがないです」と言われていたら、入社しなかったかもしれません(笑)。それくらい、企業や事業のデザインをつくっていく上で、ロゴのクオリティというのは重要なものだと考えています。
アウトプット
ここからは具体的なアウトプット、その中でもロゴ、モーションロゴ、サービスサイトについて簡単にご紹介していきます。
1.ロゴ
Qastは、誰かの「?」(どうしたらいいのだろう?)を、「!」(わかった!なるほど!)に変えるサービスです。新たなロゴは、まさに「?」と「!」の組み合わせで構成されており、Qastというサービスそのものをカタチで表現したものとなっております。
また、「?」と「!」が形づくるのは、人の笑顔。「わかる」ことで仕事を前に進め、成果をあげられる喜びを、そして自分の知識や経験を誰かに教え、感謝されたり称賛される喜びを表現しています。さらに、人と人が向かい合い、支え合っている様子にも見てとれ、anyが掲げるビジョン「チームシップが根付いた世の中に」に込めた想いとも一致した造形となっています。
プレスリリースより
まずシンボルを考えるにあたり、(よくやられるやり方でもある)頭文字の「Q」をかたどったマークを考えようとしましたが、どうにもうまくいかず。そうなってくると本質を見つめるしかなく、「Qastって何なんだろう」ということをひたすら考えていきました。そこで思いついたのが、Qastは「?」を「!」に変えるサービスである、ということ。
次に「?」と「!」で、何を表せばよいのか、を考えていきました。それはつまり、自分たちanyはQastという事業を通して一体何をしたいのか、ユーザーの方にどうなってもらいたいのか、を考えるということになります。anyは、個人と組織がともに成長し、幸せのサイクルが回る社会をつくりたいと願う会社。そこで浮かんだイメージは、やはり「笑顔」。「?」と「!」を回転させて笑顔をつくる、というアイデアに辿り着きました(この後にご紹介するモーションロゴが分かりやすいのでぜひご覧ください)。
笑顔の形が出来上がった後で、これは正直なところ後付けではあったのですが(笑)、よく見ると人と人が向かい合い、支え合っている様子にも見えることに気がつきました。制作時にその点を意識していたわけではなかったですが、結果として会社のビジョンである「チームシップが根付いた世の中に」と符合する造形となり、リブランディングにあたって自分が目指していた、「会社の思想哲学を感じるロゴ」が実現できたのではないかと感じています。
2.モーションロゴ
モーションロゴは最近のスタートアップのリブランディング発表では定番となりつつありますが、やはり「?」が「!」に変わる、という流れ・ストーリーを説明するにはアニメーションが最適だよね!と社内で盛り上がり、リブランディングと展示会、プロダクト開発、その他もろもろの制作が並行する中で非常にタイトなスケジュール感ではありましたが急ピッチで制作を進めました。
最後の「ニコッ」が個人的な一押しポイントです。「ニヤッ」に見えた方は気のせいです。「ニコッ」です。
制作にご協力いただいたのは株式会社パラゴンさん。動きに関してのニュアンスの伝達はどうしても感覚的な言葉のオンパレードになりがちなのですが、こちらの雲を掴むような言葉のフィードバックにも協力的にご対応くださり、調整案も複数ご提案くださったりと、非常に柔軟にご対応いただけてとても感謝しています。
3.サービスサイト
URLはこちら https://qast.jp/
ファーストビュー
前職での担当ブランドのリブランディングの経験から、「サービスサイトのデザインが、その後のBXデザイン/コミュニケーションデザインの核になる」「クオリティの合格基準を作ることになる」と考えていたので、サービスサイトの制作は非常に力を入れて行いました。
ファーストビュー(上画像)の丸や四角、三角の3Dオブジェクトは、社内に眠る個人ひとりひとりのナレッジを抽象化して表現したものです。当初は立体風に見せた静止画(2D)を上下にぷかぷかと動かすくらいをイメージしていたのですが、今後のQast、そしてanyのデザインを考える過程の中で、また他のメンバーと話す中で、やはりここは本当の3Dでいこう、と決まりました。
3月下旬にはTOPページのデザインイメージがすでに出来ていたのですが、ロゴの方向性がまだ決まっていなかったことや、別プロジェクトにリソースを当てていたこともあってしばらく期間が空き、6月上旬に実装・コーディングをお願いするパートナー企業の選定、そこから急ピッチで下層ページのデザインを進め、7月中旬に実装のキックオフ、9月下旬から調整作業、そしてようやくリリース、と、7ヶ月近くに及ぶ長期プロジェクトでした。
SP(モバイル)版も含めるとかなりの量のページをデザイン
もちろん自分ひとりではなく、壁打ちや相談は役員陣と、構成やテキスト、導入事例の制作はマーケティングチーム、同じく導入事例の制作および掲載に関わる顧客とのコミュニケーションはカスタマーサクセス、規約系やセキュリティ認証の確認はBusiness Operations、環境構築や本番反映、セキュリティページの内容調整は開発チームと連携。全社をあげて取り組み、完成させたものです。
実装・コーディングは株式会社GIGさん。前述の理由からクオリティを落とすことは避けたく、多くのフィードバック・やりとりをさせていただきましたが、ご協力のおかげで素敵なサイトに仕上げることができました。また、ファーストビューの3Dアニメーション化もGIGさんによるもの。今後のanyデザインの核の1つとなる要素の制作にご協力いただきました。
デザイン資産を積み上げる
ここからはリブランディングそれ自体というよりは、その過程で私が考えていたこと、感じたことを書いていきたいと思います。
1.資産になるデザイン、資産にならないデザイン
「技術的負債」という言葉がソフトウェアエンジニアリングの世界にはありますが、これはデザインにも同じことが言えると思います。「資産になるデザイン」を意識しなければ、いつまで経ってもベースが積み上がらず、作っては消え、を繰り返すことになってしまう。どこかで一度、しっかりとしたベースを築く必要があります。
資産化したデザイン(品質が一定確保され、しばらく変更しなくても大丈夫なもの、パーツなどが再利用可能な状態で整えられたもの)は、デザイン工数の削減、スピードアップ、コミュニケーションの円滑化、さらなるクオリティアップの可能化(という日本語はないかもしれませんが)、デザイナーはもちろん感度の高いビジネスパーソンの惹き付けなど、非常に多くのメリットをもたらします。
「リーン(LEAN)=善」とされるスタートアップの世界ですが、「リーンで考えるべきところとそうでないところ」の使い分け、その両者にどのようにリソースを配分するか、というテーマは、もう少し議論がされてよいテーマのように思います。
2.ないない尽くしの中でやってきた先人たちへのリスペクト
そんなことはわかってるよ!やれたらやってるよ!という話かもしれません。1,000人規模のメガベンチャーのデザイン組織から、20人弱(入社当時)のスタートアップの一人目デザイナーとして転職してきた者として、「ベースがあることの有り難み」「ゼロイチの大変さ」はこの10ヶ月で何度も感じました。
資産(ベース)があるところからそれを磨いていくのと、ないところからベースを積み上げるのとでは必要な労力が全く違う。スタートアップの日々は崖から飛び降りながら飛行機を組み立てて作り上げるようなものだという喩えがありますが、17か18番目の社員、正社員デザイナーとしては一人目の入社の私ですら、それまでのanyを作ってきた多くの先輩社員、パートナーの努力の恩恵を受けているのだと思います。
ないない尽くしの中でその場その場を必死に乗り越えようとして作られてきたこれまでのデザインを見て、そうした先人たちへのリスペクトを感じつつも、湯水のごとく溢れ出るタスク(笑)の中で何とかデザインの資産化に向けた第一歩を踏み出すための作業、それが私にとっての今回のリブランディングプロジェクトでした。
3.これは始まりに過ぎない
もちろん、これは始まりに過ぎません。今回のリブランディングによるアウトプットも、クオリティの向上はまだまだ可能であり必要だと感じますし、単純にリニューアルできていない制作物もまだ大量にあります。
しかし、一歩は踏み出せた。
今回のリブランディングを機に、Qast、anyのデザインは大きく変貌していくはずです。
それを必ず、事業、そして会社の成長に繋げていきます。
お読みくださり、ありがとうございました!
今回のリブランディングはもちろん私一人では完遂することはできず、全社員に協力あるいは連携をお願いしないと進められない大規模なプロジェクトでした。anyの社員、関わるパートナーの方たちへの感謝を最後に記しておきます。いつも本当にありがとうございます。
来週、10月25日から幕張メッセで開催される展示会「Japan IT Week 秋 クラウド業務改革EXPO」では、リブランディング後の新たなトンマナでのブース展開も行いますので、ぜひ足をお運びいただけたら嬉しいです。
新しくなったQast、そしてanyの今後に、ぜひご期待ください!
(本記事は2023年10月17日に公開された三宅のnoteからの転載です)