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代表インタビュー。空間作りの新しい手立てを提供する「toolbox」の原点を深堀り。

2010年に創業した内装建材をECで販売する株式会社TOOLBOX 。「日本の住空間に楽しさと豊かさをもたらす」をミッションに、住み手主導の家づくりを提唱しています。創業メンバーの1人である代表取締役荒川公良に、自身のキャリアや、住み手の視点に立って事業を展開することとなったきっかけについてインタビューしました。


荒川 公良(あらかわ きみよし)
1979年福井県生まれ。早稲田大学大学院にて建築学を専攻。デザイン会社を経て、2007年に「東京R不動産」を運営する株式会社スピークに入社。リノベーションの設計に携わりながら、2010年にオンラインストア「R不動産toolbox」を立ち上げ、内装建材や住宅設備の企画・販売に従事。2013年に株式会社TOOLBOXを設立、2019年より代表取締役に就任。


学生時代に出会った「社会学から建築を見る視点」や「オープン・テック」の活動が事業の原点

── どのような学生時代を過ごしましたか。

福井県で生まれ育ち、大学進学の進路を考えていた時に、たまたま手に取った建築雑誌の模型写真に強く惹きつけられ、建築学科に進みました。芸術と理数系という一見相反する要素を兼ね備えている建築の世界が、とても魅力的に映ったんです。授業では工学よりも社会学の方が楽しかったことを覚えています。ハリーポッターはなぜ流行るのか、とか、社会問題になっていた「引きこもり」を住宅の個室論として捉えてみたり、学問としての「建築学」だけでなく社会学とのつながりのある講義は面白かったですね。

大学院の研究室では、合理主義ではなく人間味のあるものをデザインしていくポストモダンの時代に活躍した先生の元で学びました。研究テーマの一つに「オープン・テック」という、一般に技術を開放し、みんなが作りやすい住宅をデザインするという活動があり、この発想が今の事業につながっていると感じます。


── 大学院の卒業後はどのような仕事に携わってきましたか?

大学院卒業後は、都心の再開発オフィスビルの内装設計を手掛けるデザイン会社に就職しました。仕事をするなかで、良いデザインを提案してもクライアントに理解してもらえないもどかしさを経験し「デザインが正当に評価される世界を作りたい」というモヤモヤを感じながら20代を過ごしていましたね。

そんなとき、友人の紹介で出会ったスピーク代表の林厚見氏が、「デザインと経済性を掛け合わせた設計部門を作りたい」と語るのを聞き、これまで沸々としていた気持ちが晴れ、やりたいことはこれだ!とその場で転職を決意したんです。その後、「toolbox」立ち上げに参画し、2019年に代表取締役になりました。


求めている空間を選び取れる仕組みをつくりたい

── オンラインストア「toolbox」を立ち上げたきっかけを教えてください。

「toolbox」は、不動産のセレクトショップ「東京R不動産」を運営する株式会社スピークの事業の一つとして始まりました。「東京R不動産」はマーケットでは見落とされてしまう、古くて味わいのある物件や改装可能な物件を紹介し、ニッチだけれども住み手が求める空間を届けている不動産サイトです。スピークには、不動産仲介事業と建築設計事業を軸として、あたらしい価値観やビジネスモデルを生み出す、というマインドが強くありました。

当時のスピークの事業に、不動産を仲介したお客さんに向けたリノベーション設計と物件オーナーに向けた原状回復工事を行うサービスがあり、私は、住宅の内装デザインから賃貸の事業企画までを担当していました。

そんななか、たくさんの案件に携わるうちに、設計者と施主の間にあるギャップを感じるようになりました。図面や模型で説明しても原寸大になったときのイメージ共有が難しかったり、提供できる選択肢や情報に限界があり、設計者も施主も互いに満足はしているものの、危うさがあることに気がついたんです。どうしたらそのギャップを埋められるのかを考えたときに、住み手自身がより手軽に自由に求めている空間を選び取ることができる「仕組み」を作れば良いのではないか?というアイデアが浮かんできました。そしてそれは、建築や空間づくりの面白さをもっと多くの人に知ってもらうことに繋がっていくのではないか、と。


業界構造を商流から変える「toolbox」の事業が誕生

林と二人三脚で新たな事業の構想を進め、2010年にオンラインストア「R不動産toolbox」が誕生しました。「自分の空間を編集するための道具箱」を掲げ、内装材料の販売、職人サービスの提供、空間事例やDIYのノウハウを伝えるメディアを併せ持つウェブサイト。最初にウェブサイトに並んでいたのは、使いこまれた足場板や塗るだけで黒板になる塗料、特殊塗装をする職人サービス、ワンルーム内装パッケージなど。自分達がやってみたいけど、どこで手に入れたら良いか分からなかった商品やサービスでした。



── 不動産や設計以外のビジネスを手掛けることになり、どのような変化がありましたか?

元々、デザインを軸にしてビジネスを展開することに憧れがあったので、設計にはない広がりを生み出せる!という大きな期待感がありました。現実は、仕入れ先に会いに行き、ネットで販売するので卸してほしい、という交渉をするのも一苦労で、商社を通さなければ販売はできない、と門前払いに合うことも多々ありましたが...。販売に漕ぎ着けた商品も、1通1通メールで注文を受け、自分で梱包して発送する、というアナログな作業を繰り返したり。当初は設計業務と兼務しながらスタートした事業でしたが、事業が拡大していく中でECビジネスを一から勉強したり、スタッフが増えていき組織としてマネジメントしていかなければ、と責任感が強くなっていきました。


── その後、2013年には株式会社TOOLBOXとして独立し、今では40人近いスタッフと事業に取り組んでいます。理想の組織像はありますか?

これまで私自身が、いわゆるピラミッド型組織と、その真逆ともいえる独立分散組織の両方で働いてきました。その経験から、中間のような組織を目指しています。それぞれに目指すものがあり、その実現のために会社を手段として利用してくれるような人と一緒に働きたいと考えています。


施工サービスから家づくりのハードルを下げる、あたらしいチャレンジ

── 今後の展望を教えてください。

事業の中で次に目指しているのは「部分リノベの世界」を当たり前にすることです。自社で施工チームを抱えて工事請負業も行ってきているのですが、住宅の施工業界は、まだまだ新築主義を前提とした産業構造で、住み手ではなく、作り手主導で作られたものに囲まれています。そこで、デザイン性を含んだリフォームの在り方を確立していくことが、次なるチャレンジだと考えています。部分的に手を加えることがもっと当たり前にできるようになると、家づくりのハードルが下がり、手を加えることが楽しいという価値観が広がっていくのではないでしょうか。

これまで大きなビジネスチャンスがないと言われてきた領域ですが、職人と施主の距離が近いところでビジネスを展開している私たちなら、そこに今までにない価値を生み出すことができるのではないかと感じています。私たちのミッションである「日本の住空間に楽しさと豊かさをもたらす」に一歩近づくことができると思いますし、その世界は楽しくなりそうだなと。

僕自身、デザインと経済性の掛け合わせには、いまだに挑み続けています。デザイン業は基本的にニッチな産業。その中で、私たちが良いデザインだと思うものを広めていきたいです。これまではビジョンの実現に向けて、良いデザインのものを販売して「事業をつくる」ことに力を注いできました。これからはあたらしいことに取り組むことで、もう少し視座を高めて、自分らしい家づくりという「カルチャーを生み出す」ことにチャレンジしていきたいです。

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