今回は、みんなのコードが取り組む、ダイバーシティの取り組み「研修編」をご紹介します。
小学校の女性教員向けに特化したプログラミング教育の教員養成プログラム
この夏、みんなのコードは、小学校の女性教員に特化したプログラミング教育の教員養成プログラム「Step(Step by step for teacher’s programmingの略)」を開始しました。
「SteP」は、プログラミング教育において小学校の女性教員の積極的な参画を促進することで、最終的には学校教育における「ITや理系は男性が選択するもの」といったアンコンシャスバイス(無意識の思い込み)やジェンダーギャップをの解消することを目指しています。
研修概要は以下のとおりです。
- 期間:2021年8月〜2022年3月(うち3日間)
- 参加条件:全国の小学校の女性教員
- 参加費用:無料
- 開催場所:オンライン
- 参加人数:60名
第1回:2021年8月11日(水)14:00〜16:30
-プログラミングってどう教えるの?
-ジェンダーステレオタイプに関する講演1(一般社団法人Waffle Co-Founder & CEO 田中 沙弥果)
第2回:2021年8月12日(木)14:00〜16:30
-プログラミングの授業を考えてみよう
第3回:2022年1月〜3月の間に開催予定
-実践した授業について共有しよう
-ジェンダーステレオタイプに関する講演2
第2回と第3回の間に、各先生の所属校にてプログラミングの授業を実践していただきます。
なぜ女性教員に特化したの?
みんなのコードでは、2017年からの3年間、現役小学校教員向けの「プログラミング教育指導教員養成塾(以下、養成塾)」を開催し、未経験の教員が効果的な授業を実施できるよう支援してきました。のべ2,100名超の小学校教員に参加いただきました。
一方、小学校教員の61.6%(*1)が女性にもかかわらず、養成塾の参加者は約80%が男性であり、ジェンダーバランスの不均衡に問題意識を持ってきました。*1https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/03/28/1395303_03.pdf
▼養成塾の様子。3年間で2100名以上の参加者がいる中、女性は2割。
なぜ、これまで女性の先生が研修に参加していなかったのでしょうか。
StePに参加いただいた先生方にアンケートを取ると、以下のような回答がありました。
- 産休育休中だったため。
- これまでに参加するように言われたことがなかったから。
- プログラミング教育に難しさを感じていたから。
- このような研修があることすら、知らなかった。
学校現場におけるジェンダーのアンコンシャス・バイアスは根深い問題です。
なかには、「学校内の管理職は基本的に若い男の先生をICT担当にさせたがります。おばちゃんは補佐してあげて、と言われるばかりです。」という声も聞かれました。
そこで私たちは、女性の先生方にも安心してテクノロジーを学べる環境があれば、プログラミングを教えることに自信を持てるようになるのではないかと考え、テクノロジー分野のジェンダーギャップ解消の活動をしている「一般社団法人Waffle」と共同で、小学校女性教員限定の「SteP(Step by step for teacher’s programmingの略)」を提供することに決めました。また、アドビ株式会社の助成金プログラム「Adobe Employee Community Fund(ECF)」にもご支援いただけることになり、無償で提供することができています。
活動を支えてくれた方々
StePでは、アドバイザーに、現役の女性の先生方6名をお迎えすることができました。
- 塚本 まゆ(愛知県情報教育アドバイザー)
- 田中 萌 (埼玉県川越市立新宿小学校 教諭)
- 前川 智美(東京都板橋区立高島第二中学校 主任教諭)
- 牧山 奈弥(東京都私立文化学園大学杉並中学高等学校 教諭)
- 山口 禎恵(茨城県教育庁学校教育部特別支援教育課 指導主事)
- 渡邉 祐子(北海道札幌市立新発寒小学校 教諭)
アドバイザーの先生方は、養成塾を卒業した先生や、みんなのコードが提供しているプログラミング教材開発の際にご協力くださった先生です。
プログラムの設計段階から、実施時期・時間帯、参加しやすい内容等のアドバイスをいただきました。
たとえば、養成塾では、実践した授業を発表する報告会の時間を設けていたのですが、「報告会」と表現すると女性教員は参加しづらいという声をもらい、養成塾で特に違和感も持たずに実施していた内容を、見直すことができました。
研修当日の模擬授業を担当してくださっただけでなく、ブレイクアウトルームに分かれての相談会や、受講後のコミュニティでの受講生からの質問への対応など、きめ細かいフォローもご担当頂いています。なかには、県内の先生方を集めて、リアル会場をご用意くださったアドバイザーも。
アドバイザーの存在なくして、StePは実現不可能だったと感じています。
第1回・第2回を終えて
研修の成果を測るために行った研修前後のアンケートでは、受講生の満足度の高さがうかがえる結果となりました。 *2 研修前は51名・研修後は46名の受講生が回答
例えば、「あなたはプログラミング教育の授業をする自信はありますか」という設問。「自信がある・多少自信がある」の割合は、研修前後で22.9%上昇しました。
▼研修前 ▼研修後
先生方からは、熱い感想もいただきました。
- 機器の操作が苦手な自分にも、温かい雰囲気で教えていただき、参加してよかったです。
- プログラミング教育は、自分の世界が広がる教育だと思いました。自分で問題を解決していき、どんどん外へと広がっていく自信と度胸を子どもに与えていく。そんな可能性を感じました。
- 楽しかったです。この楽しさを子どもたちとも共有したいです
- 難しく考えないで、ちょっと一歩を踏み出してみよう!わからない時は聞くことができる!ここを見ればいい!を得られてよかったです。
- 分かりやすく教えていただいてありがたいと思いました。常にフォローがあり、かゆいところに手が届く感じがとてもよかったです。難しいと感じていたプログラミング教育ですが、今後職場に広めていきたいです。
- 私たちが主体的に学んでいくべきだし、知りたい、そして中心となって周りを巻き込んでいきたいと思った。
- はじめは苦手意識をもっていて、不安な気持ちで参加をしておりましたが、やってみると楽しい!もっとやりたい!という気持ちがどんどん出てきて、沢山の教材を教えてもらいたいへん有意義な時間となりました。
また、ジェンダーギャップについても、下記のような感想をいただけました。
- 学校でも、ジェンダーギャップは無意識のうちに行われていると思いました。女子生徒だから〜、男子生徒だから〜、こういった言葉は普通に職員室でも使われていたように思いますし、私も別に疑問を抱くことがなかった気がします。今にしてみると、それはとても怖いことなのではないかと思います。
- ジェンダーギャップについて具体的にはっきりと話があり、実際の影響を改めて思いました。私は自分の子どもや学校の子ども達に、男女にとらわれずに生きることを伝えているつもりですが、社会全体の前に、職員室でさえそうでないなと思います。
- 一般的なICT研修やプログラミング研修では女性の参加率が低いと感じましたが、今回、女性だけで行ってもらったら、安心できたし、心強いと感じました。
- 女子生徒たちが受けた言葉に驚き、自分ではどうすることもできないことなのにどう感じたのだろうと悲しく思います。
- 女性限定の研修はなかなかなかったので、参加しやすかったです。先日参加したICTの研修も男性がたくさんいて、真っ黒でした、、、(´;ω;`)異動したばかりの今の学校では、知識があるほうだと思っていますが、情報教育担当はやはり男性。わきまえずにどんどん発信していきます。
- 女性が学びにくい環境だから学ばない。という先生が少なからずいると思います。この現状を多くの先生が知り、今後女性が積極的に学べるようになるといいと思いました。また、自分も積極的にプログラミングの研修に参加したいです。
企画担当者の想い
参加された女性の先生方の中には、家事や育児と両立されながら働かれている先生が多くいらっしゃいます。そんな女性の先生が、全国から約60名、夏休みの貴重な時間を割いて、自主的に参加してくださったことがとても嬉しいです。
また、研修後もコミュニティでの交流が盛んに行われており、「micro:bitの繋ぎ方、もう一度教えて下さい〜。」というご相談や、「さっそく1年生の授業で実践しました!子どもたちが楽しんでいて、本当に嬉しいです。」といったご報告をいただいています。
交流を楽しんだり、安心して質問・相談ができるコミュニティを作れたことを大変うれしく思います。
今後、StePを卒業した先生方がプログラミングを楽しみながら教えている姿を周囲に見せることで、他の先生方や児童が「テクノロジーは男の子のもの」というアンコンシャス・バイアスを抱かなくなることに繋がると嬉しいです。
みんなのコードは、これまでもこれからも公教育でのテクノロジー教育をサポートしていきます。私たちは、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組み始めたばかりです。「すべての子どもがプログラミングを楽しむ国」を実現することに興味のある方、私たちの仲間になりませんか?