ビジネスレザーファクトリー(以下、ビジレザ)の「はなみち」こと、原口瑛子です。
今回は、「ビレッジ構想」について、お話します。ビレッジ構想は、創業当初から私たちが、理想としていた社会像。その構想が、ついに動き出したので、みなさまにもその裏側を、少しだけお伝えしたいと思います。一歩一歩ではありますが、理想をひとつひとつ実現していく、そんな私たちの姿を見守り、応援してくださると嬉しいです。
「ビレッジ構想」とは?
私たちビジネスレザーファクトリーの事業目的は「バングラデシュの雇用創出」。そのため、私たちのソーシャルインパクトは「自社工場の直接雇用者数」です。この「直接雇用者数」(バングラの工場メンバー)を増やし続けるために、私たちビジネスレザーファクトリーは存在しています。2014年、創業期の工場メンバーの数は、たったの2人からのスタートでした。
これが最初の工場、ゼロからのスタート
2020年2月現在、私たちのソーシャルインパクトは、630名にまで増やすことができました。工場では他のOEMも承っているので、全体では約800名以上のメンバーたちが働いています。彼ら/彼女らが、安全で安心できる労働環境で働き、安定的な収入を得ること。そして、やりがいや誇りを持って働くことができること。そういう社会を、私たちは創っていきたい、と考えています。こうやって、彼らの「働く」場をつくること自体は、少しずつ実現してきました。でも私たちは、もう少し先の「理想像」を描いています。
工場で働くラインのメンバー
「働く」×「生きる」=「ビレッジ」
私たちが描いている、理想像。それは、「働く」だけでなく「生きる」ことも、同時に実現できる、ひとつのでっかい村のような、「ビレッジ」を創りたい。工場には、食堂があって、住む家があって、学校があって、病院があって。そんなビレッジを、みんなと共に創りたい。これが、私たちがいま描いている理想の社会、「ビレッジ構想」です。
バングラ工場を上から見た写真
ちなみに、この理想像は、日本でイメージする「福利厚生」ではありません。工場で働くメンバーたちの、これまでの「人生」が、大きく影響しています。
例えば…なぜ食堂なのか?
工場メンバーたちの多くは、これまで貧しい生活を続けてきました。十分に三食を食べられずに生きてきたメンバーも多いのが現実です。だから彼らは、慢性的な栄養失調にある状態です。体感温度は40度を超える工場で、これまで栄養価の高い食事を摂取してきた私たちなら、それでもなんとか働くことができます。だけど、彼ら/彼女らは、働いている途中で、急にフラっと、時にはバタっと、倒れてしまう。特に女性は、本当にバタバタと倒れちゃう。働き始めて収入を得ても、まずは子どもや家族の食事を優先して自分は食べない、という選択をするからです。私がバングラで働いていた時に一番驚いたのは、この事実でした。だから、彼ら/彼女らが、永く、健康的に、働き、生き続けるには、健康的な食事が必要です。だから、工場に食堂をつくりたいと思っています。
例えば、なぜ教育なのか?
工場には、シングルマザーのメンバーが、多く働いています。彼女たちは、旦那さんに逃げられたり、家族に暴力を受けたりしてきました。彼女たちが、村から首都ダッカに来て、働く場所を探す時、身寄りがいないため、幼い子どもを預ける場所がなく、働きたくても働くことができない、という状況に陥ります。だから、工場には託児所が必要なのです。例え、子どもが小学校に行くようになっても、女手一つで育てるシングルマザーたちが働いている時間は、子どもたちは一人で留守番をしなければなりません。バングラでは、子どもに対する暴力やレイプの危険性も、いまだに存在します。だから、工場に(日本でいう学童のような)アフタースクールが必要なのです。もちろん、教育という観点で、質の高い教育を提供できる学校を、という環境も大切です。だけどその前に、貧しい生活を送ってきた、彼ら/彼女らだからこそ、整えていきたい、労働環境があるのです。
いつも志をともにするマスンさん(左)とファルクさん(右)
そういう思いで、バングラの工場メンバーがひとつひとつ、実現してくれた労働環境があります。一つ目は、2017年に完成した「託児所」です。
工場内にできた託児所
二つ目は、つい先日、2020年2月に完成した「アフタースクール」。
工場近くにできたアフタースクール
こうして今、私たちはバングラのメンバーとともに、彼ら/彼女らの働く(WORK)と生きる(LIFE)に必要な労働環境をひとつひとつ、整えています。そうやって労働環境を整えながら、それをコミュニティーまで拡大し、みんなで働いて、みんなで生きる、ファミリーのようなコミュニティーを、そういうビレッジを、創っていきたい。その理想像を、ひとつひとつ、実現していきたいと考えています。そうすれば、彼ら/彼女らにとって、本当の意味での、「安心・安全」な環境になるはずだ、と信じて。
アフタースクールの子どもたち
非効率かもしれない、それでも「共創」にこだわる
創業5年目、事業が軌道に乗り、ようやく始動できるようになった「ビレッジ構想」。2019年9月、BCT(Bangladesh/Business Leather Factory Co-creation Tour)担当のあぜとたばこに、「BCTを通して、ビレッジ構想を始めよう」、そう伝えました。でもまずは…「何からビレッジに創ろうか?」。
彼らと話し合って、バングラと日本メンバーの全員から、アイディアを募ることにしました。効率的な方法を考えると、代表である私とバングラのマネジメントチームで、「えいや」と決めてしまってもいいのかもしれません。だけど私は、なんだかそれは違うなぁと、私たちらしくないなぁ、と感じていました。やっぱり、一人じゃなくて、みんなで「共に創りたい」。それが、いくら非効率でも、そうしたい。それが、私たちの「共創」のあり方、だと考えています。
最初のアイディア出し
だから、日本では社員もアルバイトからも、バングラではマネジメントチームもラインのメンバーからも、みんなからアイディアを募りました。そこで出てきたアイディアは、私一人では考えられないような、多様なアイディアがありました。それぞれのメンバーが、ビレッジに必要だと思う、渾身のアイディア。
そして、その中から、9つのアイディアに絞っていきました。選ばれた9つのアイディアは、こちら。(1)食堂(2)宿舎(3)図書館(4)託児所(5)IT教育ルーム(6)植林(7)太陽光発電(8)浄水場(9)女性専用施設。
そして、そのアイディアに対して、全員で投票する「総選挙」を開催しました。これまた、非効率な方法かもしれない。だけどやっぱり、みんなで決めたいから。
そしてそして、総選挙を開催した結果…ダダダダンっ!
過半数以上の支持を得て、「食堂」を作ることに、決定しました!
「食堂プロジェクト」始動!
そうやって、総選挙で決定した「食堂プロジェクト」。ですが、実は、土地や施工やらの外部要因で、「食堂」という箱、物理的なインフラは、今はまだ作ることができませんでした。だから、BCT出発前にアゼと話し合って、こう決めました。
今回のBCTでは、未来の食堂で必ず使う、テーブルを作ろう。
そして、栄養価の高い食事をとる目的を、メンバーみんなが知る機会にして、みんなでその食事を食べる体験をしよう。
テーブルを作る私(笑)
ということで、未来の食堂用のテーブルと、約800人分の「いなり寿司と卵焼き」を作ることにしました。食事は、日本の食文化かつ栄養価が高いもの、現地でも食材が手に入ること、などを考えて、レシピを決定。お米やいなり用のお揚げ、ひじきやゴマなど、スーツケースにいっぱい詰め込んで、準備万端!
私たちにとっても、800人分の食事を作るのは、初めての経験でした。この大量の食事を限られた時間に作るという、完全に「ミッションインポッシブル」な状態。お米を炊いても水が蒸発してお餅みたいになるし、卵焼きを作るのにフライパンが2個しかないし…(笑)!とにかく、アクシデント連発でした!
でも…普通だったらピリピリするような場面も、ビジネスレザーファクトリーのみんなは違います。みんなで替え歌でも大声で歌いながら、ものすごいスピードでつくっていく(笑)。大変なのに、だからこそ、その状況をめちゃくちゃ楽しんでしまってる(笑)。(←こういうところがみんなの大好きなところ)。
卵焼きを作るマスンさんとバングラメンバー
生産リーダーのウディンバイも手伝ってくれてる
とはいえ、最後は本当に間に合わない、危機的状況になったので(笑)、BLJ Bangladesh代表ファルクさんも、工場長マスンさんも、みんなみんな総出で、800名分の食事を作りました。まさにファミリーワーク。そして、みんなの協力のおかげで、食事は、ギリギリで完成!!!
渾身のファミリーワーク
そうやって、みんなでつくった「いなり寿司と卵焼きセット」を、ラインのメンバー一人一人に「ドンノバード(=ありがとう)」と言いながら、配っていきました。
はじめての見る食べ物に、恐る恐る口に運ぶみんな笑。でも、「モジャ(=おいしい)」と言いながら、みんな笑顔で食べてくれました!第一回目の「食堂プロジェクト」は…大、大、大成功(だと思う笑)!
初めて食べたいなり寿司(笑)
理想を実現していく、みんなとともに
初めてのビレッジ構想「食堂プロジェクト」は、こうしてスタートを切りました。これから毎年、日本メンバーはBCTを通して、バングラデシュへ渡航しますが、BCTメンバーがバトンパスをしながら、この「食堂プロジェクト」を実現していきます。食堂もまだ何もない。そんなゼロから、何もないところから、創っていこう。きっといつか必ず、実現する。
「食堂プロジェクト」が完成したら、また次のプロジェクトを始動させます。まだまだ実現したい理想像がある。食堂ができたら、その食材は、ヴィレッジの畑で安全な野菜を作りたいし、卵やお肉もいるから養鶏などもやりたい。バングラのメンバーはもちろん、日本のメンバーやお客さまも泊まれる宿舎もあったらいいし、学校も、病院もあったらいいな。子どもたちのために、公園も図書館もつくりたいし、すべてのエネルギーを供給できる、再生可能なエネルギーも。全部全部、実現しよう。
いつか、ある先輩の経営者の方が、教えてくれました。
「経営者の仕事は、理想をひとつひとつ、実現していくこと。やると決めたことを、必ずやること。それが、経営者の仕事です。」
私も、そうありたいな、と考えています。あの頃は、きっと遠い夢だと思っていたことを、理想だと思っていたことを、一つ一つ実現していく。それは、一歩一歩かもしれないけど、必ず実現する。いや、実現させる。
あわせて、私はこの言葉が、とても大好きです。
「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」
やっぱり私は、理想の社会には、一人じゃなくて、みんなと行きたい。みんなとならば、もっともっと遠くにいける気がしているからです。これから、ビジネスレザーファクトリーは、社会のロールモデルになっていきます。こんな工場が、こうやって、みんなが楽しく働くことができる社会が、社会の当たり前になるように。