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「人事」として大きな社会課題に向き合う。「介護×HR」の可能性と面白さ。

Blanket インタビュー #2 野沢悠介

1983年生まれ。東京都出身。立教大学コミュニティ福祉学部卒。ワークショップデザイナー。2006年株式会社ベネッセスタイルケアに新卒入社し、採用担当・新卒採用チームリーダー・人財開発部長などを担当。介護・福祉領域の人材採用・人材開発が専門。2017年にJoin for Kaigo取締役に就任。介護・福祉事業者の採用・人事支援や、採用力向上のためのプログラム開発などを中心に「いきいき働くことができる職場づくり」を進める。

インタビュー2弾目は、株式会社Blanket取締役を務める野沢 悠介さん。彼が、いかなる「可能性」を胸に抱き、11年勤めた大手介護施設運営事業社を離れたのか、そして今、「日本で一番難しい雇用問題」と言われる介護業界の採用支援事業に乗り出したのか、その軌跡をお伺いしてみたいと思います。

大手企業採用担当からベンチャーへの転身

_____それではまず、現在のBlanketでの仕事内容を教えてください。

会社としては、広く介護領域の「人」にまつわる様々な仕事をしています。 カテゴリーとしては、大きく二つに分かれていて、 一つは、KAIGO LEADERSという日本最大級の介護領域のコミュニティ運営___そこでは介護に関心を持つ人たちを増やしたり、実際に現場の中で課題を持っている人たちの解決力を高め、エンパワメントしていくこと。もう一つは、介護・福祉事業所の人的課題解決の支援___採用、人材育成、離職に向き合うことです。

具体的なアプローチとしては、コンサルタントとして介護・福祉事業所の個別の課題をヒアリングしながら解決に向けてアドバイスをしたりナレッジを提供したり、一緒になって考えます。 さらに個別の事業所というより広く業界全体の中で、人材採用・育成などのHR領域をレベルアップできるように自社でKAIGO HRというプロジェクトをやっています。オーダーによっては私自身が採用とか人材育成にまつわる研修とかセミナー、講演、執筆などをやっていますね。

一貫して、介護業界で働く「人」が活き活きしたり、より良い環境で働くことができるようにということを意識した仕事をしています。

_____野沢さんのJoinにより、Blanketが業界全体のHR領域の底上げを担う「介護業界の人事」としてのポジションを築いておりますが、そこに至るまでの前職でのキャリアを教えてください。

この業界の「人事」というところでのキャリアは結構あるかな。

新卒で介護事業や保育事業を手掛ける会社に採用されて、老人ホームで1年と少し介護職として経験を積んだ後は、ずっと「人事」です。2017年までいたから約10年間、採用を中心に介護・福祉・保育領域の人事の仕事をしていました。

特にキャリアとして長かったのは、介護職の新卒採用です。兼務期間やマネージャーの時期も合わせて、10年間ほぼずっとかかわり続けてきました。私自身が入社した頃は80人規模だった採用数を、事業拡大に合わせて500人くらいまで増やしていくというのを目標として掲げて、どうやって多くの学生に興味関心を持ってもらうか、ということを考えて戦略を立てて、プログラムを作って、ということを繰り返してきました。その経験が今の仕事に活きているように思えます。


______Blanketとはどのように出会ったのでしょうか

Blanketと出会った2015年頃は、「一人ひとりの学生・内定者・新卒社員と、丁寧に向き合う」ということを、採用チームとしてそれまで以上に意識し始めていた時期でした。そんな中で、入社後も縁が続き、悩んで壁にぶつかっている新入社員達の相談にのることが増えてきました。

大きな会社なので、採用と新人育成は別部門ということもあり、採用担当としてはなかなか入社後の一人ひとりのサポートは難しい。でも、それぞれの理由で介護の仕事に関心を持ち、この会社の理念に共感し、入社を決めてくれた一人ひとりが、その想いを大切により活き活きと働くサポートもしていきたい。そんな想いが強くなっていきました。

その時、たまたまWebのメディアでBlanket代表の秋本のインタビュー記事を読みました。その記事で紹介されていた、超高齢社会をよりよくしていこうとする若者たちがつながり、共に学び、ポジティブなアクションを起こしていこうというKAIGO LEADERSの活動に興味を持ちました。

そこから、その記事で募集されていた、ワークショッププログラム “KAIGO MY PROJECT ”に参加し、秋本や参加者の皆さんと対話をしていく中で、組織の垣根を越えてつながるコミュニティの重要性を強く感じ、興味を持ちそうな会社の若手人材も誘いながら、ボランティアで運営をサポートするようになりました。

(当時参加したKAIGO MY PROJECT同期メンバーとの集合写真)

ただその時点では全然転職までは考えてませんでした。自社だけでなく、業界全体がよい方向になるように働きかけたいとは思っていたけど、当時のKAIGO LEADERSメインの事業では、自分が入ってもそんなによいインパクトを出せるイメージはなかったので「まあ、いつかご縁があれば」くらいなイメージでした。

採用担当としての自信。そして自分の心が踊る選択へ。

______そこからBlanketへの転職という大きな挑戦に乗り出したのはどのような経緯だったのでしょうか

きっかけは大きく二つあって、前職での立場の変化とBlanket側での役割の自覚です。

まず前職での立場としては、採用部門の責任者を任されることになり、マネジメントが主な仕事になったことでした。もちろんマネジメントの仕事もやりがいはありますし、期待と共に大きな役割を任せて頂けるのは、本当にありがたい気持ちでしたが、その一方で「人事」のプレイヤーとして、採用業務に携わる機会が少なくなったことは、少し物足りなさも感じていました。

そしてちょうど転職を決める前年、2016年くらいに、今後のBlanketの事業展開を考える中で、介護・福祉事業者の採用・育成の支援を本格化するという話が出てきました。業界全体の採用・育成にBlanketが本格的に関わるのであれば、自分の得意分野でもあり、やりたいことでもあり、イメージできたので「(転職も)ありかな」と思いはじめました。一事業会社では解決しきれない社会全体の大きな課題に、より横断的に関わるのも面白いだろうなと。

そんなタイミングで、人事以外の部門への異動の内示をいただきました。その時、この会社で「人事」以外の様々な経験を積んで成長していくか、「人事」の専門家として介護業界に携わるか、「どっちをやりたいかなぁ」と考えて、後者(Blanket)がより私自身にとってわくわくするなと思い、転職を決意しました。

______これまで人事として一事業所の採用に携わってきて、これからはBlanketとして事業所の支援という形で業界全体の採用へ踏み込むということに不安はなかったのですか?

当時二つの感覚があって、まず一つは「新卒採用なら、これまでの経験を絶対に活かせる」という自信です。多くの学生にとっては馴染みが少なく、不人気な仕事でもある「介護」に、どのように興味を持ってもらい、仕事として選んでもらうかということを10年間のキャリアの中で常に考え、戦略を立て、様々なアクションを実行してきました。「介護業界はもちろん、他業界と比較してもそうそう負けないぞ」という自負があり、新卒採用のニーズに対しては、どのようなものであっても、ある程度答えられるかな、と。

もう一つは、「一事業所の人事担当者とコンサルティングでは求められることは違うけど、やってみないとわからないな、とりあえずやってみよう」という感覚でした。


______これまでのキャリアを確実に次の仕事に活かせるという自信があったのですね。
そしてついにBlanketにJoinされたのですね?

はい。ただ、2018年4月にBlanketにフルコミットするまで、短い期間でしたが、前職の老人ホームで介護スタッフとの兼業をする時期がありました。「人事・採用」のことはわかるけど、介護の仕事からは随分は慣れてしまっていたので、今まで以上に介護の現場の人材育成に携わるのであれば、「介護」そのものと、もう一度向き合いたいと思ったんです。

これがすごく大きかったな。現場を久しぶりにやって、介護職員の皆さん、利用者さん、ご家族と関わり、見えてきたことが結構ありました。

ターニングポイントとしての祖父様に襲った悲劇 当事者意識と業界全体への眼差し

______これまでのキャリア変遷の中で、野沢さんの介護業界に対する向き合い方、ひいては野沢さんの仕事観と言えるものを垣間見させていただいて、一つ、介護を行う実際のプレイヤーである「人」への視点____当事者性という観点を感じました。もともと介護業界へは強い思い入れがあって入られたのですか?

いや、たまたま「働きたいな」と思って内定をもらった会社の主な事業が介護だった、本当に「たまたま」でした。そして、たまたま配属されたのが「人事」だった。

そこで向き合っているなかで「そこで働いている___それぞれの理由で『介護』を選んだ人たちが幸せであってほしいな」というのはずっと思っていました。


______野沢さんがBlanketと現場の兼業を行なっていた2018年の3月、新潟で在宅介護を受けながら暮らしていたお祖父様が亡くなりました。僕は当時野沢さんのFacebookの記事でその痛ましい事件を知りました。当時の心境はいかがでしたでしょうか。

他の祖父母を早く亡くしていたこともあり、それまで自分は身内の中で介護に携わったことがなく、当事者ではありませんでした。

新潟に住む父方の祖父は、軽度の認知症があり、叔父夫婦の介護を受けながら暮らしていたのですが、ある日家族が誰も見ていないところ外に出て、そのまま行方不明になり、2日後に凍死体で見つかったので

そのときに、これだけ介護業界で仕事をして介護領域のいろんなケースを見てきて、「課題が多くなるからなんとかしなければ」と、高齢社会の当事者としての意識を持って取り組んでいたつもりだったけど、「その瞬間」がくるまで,自分が「家族」として、そういった課題の当事者になるという覚悟も意識もなかったことに気づかされました。

それまでは介護業界も、人事の仕事も、「たまたま」めぐりあって、何となく性に合ってやっていた仕事に過ぎなかったけれど、この一件があってからこれから介護業界で携わるということの意味が変わったように思います。

今まで以上に、超高齢社会が抱える課題の解決に、よりよい超高齢社会をつくることに貢献したいと強く思うようになりました。

その携わり方として「自分に何ができるか」と思ったら「やっぱり人事だな」とおもったんです。介護業界で働く人を増やしたり、活き活きと働き続けられる組織や環境を整えるということが、結果としてこういうケースを減らすんだなと思ったら、今まで以上にこの仕事をする意味が深まりましたね。

採用コンサルタントは、大切な仲間を迎えるという活動を進めるチームの一員

______兼業期間を経て、2018年4月にBlanketにフルコミット。事業所支援・採用コンサルに取り組む中で、前職での経験が活きている実感はありましたか?

これまで一事業所の人事担当としての約10年のキャリアの中で、会社自体も変わっていくフェーズをいくつも体験してきました。すると、事業所の相談を受けて話を聞いていると、その会社の状況に合わせながら、課題の整理や必要な施策がなんとなく見えてくることが多いです。そういったアドバイスやサポートが、クライアントの課題解決や目標達成につながり、共感や信頼を頂ける実感がありました。

______野沢さんの考える採用コンサルタントとはどのような存在でしょうか?

採用コンサルタントの仕事は、採用のスキルを「教えてあげること」だったり、採用できるように「お手伝いすること」ではないと思っています。組織にとって本当に大切な「新しい仲間」を迎えるという活動を進めるチームの一員となって、「どんな人を仲間に迎えたいのか」ということをクライアントと一緒に考えて、そのための戦略や戦術を一緒に考え形づくっていくことが本質だと思っています。

本人たちも気づいていない、その会社・事業所の大切にしている想い、他にはないユニークな強みを私たちが入ることによってしっかり言語化して、そこに共感した人が入ってくるというのが理想です。そのためのプランを練り、成功まで伴走するチームの一員でありたいと思っています。

一番最初に、コンサルティングに入らせて頂いた会社は、初の新卒採用に挑戦するにあたり、「何をやったらよいのかわからない」というところからスタートしました。

「新卒一期生として、どんな人たちを迎えたいか?」「新卒採用をすることで、会社をどのように成長させたいか?」採用計画に入る前に、代表や採用担当の方々と議論を重ね、その会社らしい採用コンセプトをつくり、採用活動でも一貫してそのメッセージを伝えていく中で、その理念に共感した学生が選考に参加してくれ、目標を達成できました。

その会社では、新卒の入社時や入社6ヶ月時研修の企画・講師もやらせてもらったのですが、一人も辞めずに残ってくれていて、さらにそこでの発表で、採用時に皆で作ったコンセプトを新入社員たち自身が「これからも大事にしたい」と言ってくれた。これは嬉しかったですね。


また、ある会社からは「採用サイトをリニューアルしたい」という相談がありました。同様に「採用ターゲットは?」「採用を通して、どういう組織をつくりたいか?」と掘り下げていくと___採用担当者の方は「そんなことを考えたこともなかったな」と言いながら、少しずつ「こういう人を採りたいんだな」というのが見えてきました。

それと合わせて施設の見学やヒアリングをさせてもらう中で見えてきた「法人らしさ」をベースに「このようなメッセージを出してみては?」と提案してみました。そうすると、「自分たちの中にも漠然としたのはあったんだけれども、まさにこれが『うちらしさ』だ!」となり、そのメッセージがそのままサイトにも採用されました。

社会福祉法人 昴(すばる)

単なる採用支援、下請けではなく、その法人のよさとか、そこで働く人たちの想いを一緒に言葉・形にし、まだ見ぬ未来の仲間に届ける。今のお客様は僕らのことを「パートナー」としてみてくれているように思います。それはすごい嬉しいですね。

理想は、「私たちがいなかったら採用できない」という状況ではなく、「(自分たちだけでも、)もう大丈夫」という状況を作っていくこと。採用のコンサルティングをやりながら採用担当とか人事担当のスキルアップをお手伝いして、一年後二年後とかに私たちを頼らずともよりよい組織づくりを自分たちで考えられるようになる組織を増やしたいですね。

未来について まだ見ぬ未来の仲間に向けて

______Blanketの「まだ見ぬ未来の仲間」について、どんな人を採用したいですか?

まず「人」や「組織」というものに対して興味がある人。自分以外の誰かとか、自分が所属する以外のチームの変化・成長を面白く思えるかどうかはポイントだと思います。「人事」とは「ヒトゴト」だけれども、ある意味他の人の事を自分の事みたいに面白がれるかどうか。「ヒトゴト」に本気になれること。

「うまくいかないですねえ、どうしたらいいんだろう」というのも一緒に考えるし、「うまくいきましたね、よかったですね」も、その組織の人と一緒に喜ぶ。あとは、Blanketという会社自体も、介護領域の人的課題の解決のアプローチ方法についても、どっちもまだ型というものがないので、「決まったことをする」ということが好き、という人よりも、道なき道を行き、新たなものを生み出していくことに「挑戦したい、面白そう」と思える人が向いていると思います。

______そんな仲間を迎える上で、Blanketの未来をどのように描いておりますか?

実績的にもブランド的にも「介護領域の『人』にまつわることだったらJFKだね」という存在になることですね。

そうなっているためにも一つ一つの事業所の課題にも向き合いつつ、抜本的にこの領域の人的課題の解決に貢献するアイディアとかリソースを作っていきたいです。

そうなると私だけの力だけでは絶対に無理なので、「もっとこの介護業界に人が来るためにどうしたらいいんだろう?」「介護業界で人が育つためにはどうしたらいいんだろう?」「人が辞めずに活き活き働く介護業界、事業所を作るためにどうしたらいいんだろう?」と一緒に考える仲間が増えるといいなと思います。

手段として一つひとつの事業所の課題を解決するコンサルティングもあるけど、最終的にはそれにとどまらず、介護業界全体をよくしていくことを目指したいです。私たちがやりたいのは、介護の仕事に関心を持ってこの世界に入ってきた人たちが、その想いを大切にしながら働き続けられる環境を作ることです。


______団塊の世代が75歳を超えて、国民の3人に1人が65歳以上という未曾有の超高齢化社会を迎える日本、その高い壁を前に、Blanketの担う役割について教えてください。

このテーマはあまりに課題が大きすぎて、「普通にやっていてもどうにもならない」と悲観的に考えてしまがちです。そういった課題の「壁」みたいなものに穴をあけたいと思っています。

私たちの掲げているミッションは「介護から人の可能性に挑む」__その可能性というのは「潜在的な発展性」を意味していて、可能性の先は、未知なんです。

潜在的なものが発揮された先はまだ何があるのかわからない。だけど、みんながその潜在性的な発展性を発揮できる社会は、きっと面白くなるのではないかと思うんですよね。様々な形で介護や高齢社会に携わるプレイヤーたちが可能性を発揮できる環境をつくり、大きな大きな「壁」を壊していく。それが我々の役割ではないかと思います。

Blanket自体が世の中を大きく変える訳ではない。だけど、世の中を変える人やチームをたくさんつくるサポートがしたいと思っています。

______最後に、この記事を読んでくださったみなさまに一言をお願いします。

「介護の採用業務や、採用コンサルタントって面白いよ」ということですね。

確かに介護領域の採用とか育成とか本当に難しい課題です。答えもないし、事業所によっても課題が全然違う。ただそういったすごい難しい課題に向き合って、力になれている感じは面白い。

それに、力になりたいな、応援したいと思える事業所はどんどん増えています。一緒にこの業界をよくしていこうと思える仲間を増やしている感覚はすごい楽しいです。

本当に難しいけれども、挑戦しがいのあるテーマだなと思います。興味を持ったら、是非Blanketに遊びに来てください。


インタビュアー 野崎 麻央
慶應大学大学院で文学を研究後、Blanketとの出会いを経て、物語あふれる介護の魅力に惹かれる。KAIGO LEADERSのKAIGO MY PROJECTの4期メンバーとして、介護業界への就職というMy Projectを掲げ、大手介護施設運営事業社へ。現在は、医療と介護を結ぶ架け橋となる相談員として働きながら、医療・介護に携わる方々の想いを、言葉に紡ぐ。
インタビュアーである野沢さんと私には「前職が同じ」という共通のルーツがございます。私が新卒で入社した会社の採用部門の部長を務めていたのが野沢さんでした。
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