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「PR視点のクリエイティブ」って何だ?PR会社のプランナーが考えるこれからのコミュニケーション

これまで企業の広報部やPR担当者は、メディアプロモートやプレスリリースの作成・配信、記者発表会のコーディネートなどの活動を行ってきました。しかし今、広報部であってもメディアプロモート以外の仕事 ― たとえば広告制作やイベント企画、インフルエンサーマーケティングなど、アウトプットとしてクリエイティブ制作が必要な仕事に携わることが増えています。

そのような背景を受け、今の時代の“クリエイティブ”にはどのようなことが求められているのか、弊社のシニアコミュニケーションプランナー・茅野に話を聞きました。

ソーシャルメディア時代には、PR的コミュニケーションが効く

ー 茅野さんは約10年前にビルコムに入社されていますが、当時と今ではコミュニケーション領域でPRが担う役割は変わりましたか?

まったく変わりましたね。もちろん今でも、弊社ではメディアプロモートや記者発表会などの業務もコアな領域として行っていますが、ソーシャルメディアの運用や広告制作などの領域の仕事は圧倒的に増えています。

実際にそういうエビデンスもあるんですよ。日本パブリックリレーションズ協会がPR会社を対象に行った調査によると、2015年と2017年で比較すると『オウンドメディアやソーシャルメディアの企画・運営』や『動画の制作・プロモーション』の業務取扱いが大幅に伸びているんです。

ー その背景には何があるんでしょうか?

やはりソーシャルメディアの影響は大きいですよね。マスメディアが全盛の時代は、テレビや新聞などによって共通の価値観が社会に形成されていました。しかし、今はインターネットで個人同士がつながって、いくつもの小さなグループができています。それぞれのグループは違った価値観を持っているので、各グループの空気感にのっとった情報を投げかけて初めて生活者に振り向いてもらうことができます。

PRは「パブリック・リレーションズ」の略で、もともとメディアだけでなく、社会や生活者、企業株主などすべてのステークホルダーと良好な関係構築を行うことを指しています。なので、それぞれのステークホルダーに合わせたコミュニケーションをとるということがその本質なんですね。

昨年、遅ればせながらPRの公的資格「PRSJ認定PRプランナー」の資格を取得したのですが、そのための勉強をしていても「PR=ステークホルダーとの良好な関係構築」という考え方がすべての基本になっていると感じました。

そんな背景もあって、複雑化するターゲットに合わせたコミュニケーションをとりたいと考える企業では、広告やイベント、Webコンテンツなどを広報部が手がけたり、PR会社に依頼したりすることが増えたのではないかと考えています。

必要なのは、クリエイティブ自体に“拡散要素”をもたせること

ー PR視点のクリエイティブは、何が肝になるんでしょうか?

クリエイティブそのものに“拡散される要素”をもたせるところではないでしょうか。広告は枠を購入すれば、その中でクリエイティブが発信されることが確約されています。だからどちらかというと、広告のクリエイティブには「どうしたら拡散されるか」というより、「いかに中身を洗練させて、おもしろいものをつくれるか」ということが求められていたと思うんです。必ずしもフィクションであるわけではないんですが、いかにインパクトを残すか、どう印象を残すか、ということに注力していた。

一方で、PRは発信されること、生活者に伝わることが確約されていません。なので、企業が伝えたいことを一方的に伝えるのではなく、世の中で起きている問題や生活者の興味関心から着想を得て、ターゲットが必要としている情報にあわせてメッセージを伝えていく必要があります。だから、世の中の波に乗りながらも企業の伝えたいことを伝え、その波を大きくしていけるような拡散要素を持ったクリエイティブでなければならない、というのがわたしの持論です。

ー 発想の起点が違うということですね。

そうですね。たとえば、弊社で活動をお手伝いさせていただいた大手化粧品メーカー様のプロジェクトでは、ツイッターでターゲット層にぽつぽつとつぶやかれていた言葉を活動の大きな柱にしたことがありました。広告でも生活者の視点や社会的課題から作られたクリエイティブが多く存在しますが、社会ゴトや生活者ゴトからクリエイティブをつくるというのはPR的視点ですよね。

世界に目を向けるとそういう事例はたくさんあって、2017年のカンヌライオンズ(*1)で話題をさらった「Fearless girl」という作品も、まさにそういう視点で作られたクリエイティブでした。

ニューヨークの金融街であるウォール・ストリートには、雄牛の銅像が象徴として立っているんですが、その雄牛に立ち向かうようなかたちで少女の銅像が設置されたんです。これは、すでにウォール街で課題とされていた男女不平等に対する問題提起でした。社会課題から着想を得ていること、メディアで取り上げられやすい“画=銅像”を用意していること、さらに、3月8日の「国際女性デー」という男女不平等の話題に世の中が注目するタイミングで実施されたことなど、PR的視点がふんだんに盛り込まれています。この作品は、PR部門はもちろん、カンヌライオンズの最高賞に当たる「チタニウム」でもグランプリを受賞しています。

(*1)カンヌライオンズとは、世界大規模の広告・コミュニケーション関連のアワード。毎年6月にフランスのカンヌで一週間にわたって開催される。正式名称は「Cannes Lions International Festival of Creativity」。

複雑化している時代だからこそ、PESOメディアの統合を意識しすぎない

ー PR視点でクリエイティブをつくるうえで、大事なことって何でしょうか?

「誰が、どう拡散するのか?」ということはいつも意識しています。わたしたちPR会社には、ニュースになる企画やソーシャルメディアで拡散したくなる企画が求められています。メディアだったら、どの媒体で、どういう風に取り上げられたら成功なのか。ツイッターであれば、リツイートされる企画なのか、リツイートはされなくても“いいね!”をされる企画なのか、誰が“いいね!”をするのか、誰がリツイートするのか、どういう風にリツイートされたら成功なのか、という部分を突き詰めて考えています。

PRでは多くの媒体で取り上げられるように詳細なペルソナ像をつくらない場合もあるのですが、「マニア」や「コアファン」と呼ばれるような熱量が非常に強い人たち、いわゆる「ホットセグメント」のペルソナを想定してプロジェクトに活かしていくことも多いです。

そして、今はメディアも生活スタイルも多様化していて情報波及の流れが読みにくい部分もありますが、理想の状態を設計しておくことは大事だと思います。PESO(Paid、Earned、Shared、Owned)メディアを統合させることの必要性は以前から言われていますが、今はそれが当たり前のように求められていると考えています。

その背景としては、生活者の中でPESOの垣根がなくなってフラット化していることがあると思うんです。生活者は、どれがPaidで、どれがOwnedで、どれがEarnedなのかということは正直そこまで意識してないんじゃないかなと。なので、「PESOすべてを活用しなきゃ!」と意識しすぎるのではなく、生活者にどういう風に情報に触れていってほしいのかを考える必要があると考えています。

ー 情報波及の設計をするうえで注意することはありますか?

PRの目的や商品・企業の認知フェーズなどを踏まえて、軸となるコミュニケーション戦略をまずはしっかりと立てること。そして、常にその原点に立ち返ることが大事だと考えています。

わたしは、PESOメディアごとの連携の仕方はプロジェクトの数だけ無限にあるんじゃないかと思うんです。目的や認知フェーズによって、「まずはソーシャルメディアで生活者起点の火種づくりを行う」というパターンもあれば、「アーンドメディアで世の中の空気づくりをしておいて、そのあとに広告で大きな波をつくる」というパターンもある。そういう意味では、生活者のなかでPESOがフラット化しているように、つくり手もPESOを意識しすぎず、原点の軸をぶらさず柔軟に設計図を描いていくことが必要だと思います。

ー そうなると、企業の広報部と宣伝部など、これまで存在していた“垣根”もこれからどんどんフラットになっていくことが考えられますね。

そうですね。PR活動をご支援させていただいているお客様でも、広報部と事業部、広報部とマーケティング部など、部署をまたいでプロジェクトを行うような案件が増えています。

これまで広報は、プレスリリースを出したり、商品の正しい情報が外部に出ていくことをサポートしたりというような“守り”の部分が多かったと思います。一方、宣伝は繁忙期にどんなキャンペーンを打って売り上げにどうつなげるか、という“攻め”の活動を行っていました。でも、「同じく情報発信を行う広報と宣伝が全然違う方向を向いているのはもったいない」と感じている企業が多かったことも事実です。弊社のお客様でも、広報と宣伝が共同のプロジェクトを実施するようになり、部署間の連携がだんだん強まっていく、というケースがありました。

これはわたしたちのようなPR会社と企業の関わり方にも同じことが言えて、今後、PRが必要とされるコミュニケーション領域の課題はますます増えていくと思うんです。それこそ、サービスや商品を開発するのもコミュニケーションのひとつだと考えれば、PR会社が商品開発を手がけることが当たり前になる時代がくるかもしれません。弊社でも、インフルエンサーや生活者、メディアの意見を反映して商品・サービスを共創するプロジェクトをいくつか手がけています。広報部、宣伝部、事業部などの垣根をこえたチームワークをサポートできるような柔軟な姿勢が、パートナーとなるわたしたちPR会社には求められていると考えています。


<プロフィール>

茅野祐子(ちの・ゆうこ)

2009年に新卒でビルコムに入社。メディアプロモーターとしてキャリアをスタートし、媒体の記者やディレクターと共に企画をつくり上げる経験を積む。その後、記事コンテンツやタイアップ記事の企画、オウンドメディアの構築などディレクション業務を経て、クライアントのコミュニケーション施策全体のプランニングを担当。ラグジュアリブランドから消費財ブランドまで、メディア横断(IMC)でのコミュニケーション戦略立案・実行を手がける。PRSJ認定PRプランナー。

【受賞歴】2014年カンヌライオン Lions Health Bronze受賞/2013年2014年Webグランプリ優秀賞/Asia-Pacific SABRE Awards Finalist


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(書き手:ビルコム株式会社 高橋)

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