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Vo.5:オリンピックに警察庁!? 大チャンスに背水の陣で挑んだ開発秘話

今や建設、道路、鉄道、製造、製鉄、物流、航空、電力、警察、消防、海上保安、スポーツ、災害復旧など、さまざまな現場で多くのプロフェッショナルたちにB-EARはご愛好頂いておりますが、製品の開発、そして納品にあたっては常にドキドキハラハラの連続です。

今回は、この開発と納品にまつわるお話です。

熊の暴走で、巨大プロジェクトのお取引先様が大激怒!?

2017年、東京オリンピックに向けて建設が始まった新国立競技場。

国を挙げての巨大プロジェクト、新国立競技場の建設には、とてつもない数のクレーン車が導入されました。そのため、従来のトランシーバーではチャンネル数が足りず、混信※してしまうことが予想され、現場での円滑なコミュニケーションの確保が大きな課題となっていました。

※混信とは、他の使用者と電波がぶつかって通信ができなくなることをいいます。「混線」という言葉もありますが、無線の場合は混信、有線の場合は混線だそうです。

この混信問題を解決するトランシーバーとして白羽の矢が立ったのが、当時のB-EARの主力商品『BRIDGECOM X5』でした。

X5は従来のトランシーバーとは異なる周波数や通信方式で、また豊富なチャンネル数を備えているため、複数のクレーン車を同時に稼働させてもクリアな音声通信が可能です。

こんな大舞台のチャンスを逃すまいと、お話を頂いた取引先から現場での使用テスト要請に応えるべく、何度も新国立競技場の建設現場へと足を運び、現場の責任者の方々にX5の性能をしっかりと説明させて頂き、実際に使ってもらいながら細かな調整を重ねていきました。

そして、晴れてX5の採用が決定
新国立競技場の建設を担う大手ゼネコンT建設の下請けである、クレーン会社のT重機とU運輸の2社で60台ほど導入していただきました。

そのT重機の担当者Oさんが、私、ベアと同じ自衛隊出身で、さらに自衛隊内にある同じ学校の卒業生でした。世代こそ二回りほども違うOさんは自衛隊で幹部職を全うされ、定年退職したのちT重機に再就職された大先輩です。
当初はスムーズにお仕事できるかな?と淡い期待をしていたんですが、長年自衛隊で幹部を務めてこられた硬派なOさんからすると、自衛隊を3年半で辞めてしまっている軟派な後輩、それもちっぽけなメーカーをしている私が生意気に見えたようで、私への当たりが次第に強くなり、『やりづらいなぁ』というストレスを感じながらも(ハッ🫢)なんとかX5を導入して頂くことになりました。

新国立競技場の建設という巨大プロジェクトでのX5の採用は、B-EARの知名度アップの絶好のチャンス
そのことをもっと世に広めていきたい私としては、この実績をなんとしてもB-EARの宣伝に活かしたいところです。

しかし、T重機のOさんにその旨を相談しても、私の思いなどまったく興味をもってもらえず、テキトーにあしらわれてしまいました。

私はなんとしても、新国立競技場での実績を自社サイトに載せたい! そこでピッコ~ンと閃きました。

「オリンピック委員会に、直接交渉しちゃえばいいんじゃん!」

新国立競技場建設の施主であるオリンピック委員会にお願いし、OKが出れば誰も文句言わないでしょ、と我ながら名案だと思い、さっそくオリンピック委員会HPのお問い合わせフォームから、

「新国立競技場の建設において、弊社の無線機を使っていただいているのですが、そのことを弊社HPに掲載してもよろしいでしょうか?」

これが後々えらい目合うなんて、この時は知る由もありませんでした……。

オリンピック委員会へ問い合わせした2日後、T重機のOさんから電話がかかってきました。

「君、何をやらかしてくれたんだ!!」

それはそれはものすごい剣幕で怒鳴られました。
私の問い合わせた内容がオリンピック委員会からT建設へ、そしてT重機へと、伝言ゲームのように伝わったようで。

Oさんの叱責で、私はみるみる血の気が引いていきました。

「あぁ、やってしまったぁ、終わったぁ……」

建設業界、とくに大きな案件において、そういったスタンドプレーのような行為がタブー中のタブーだと全く知らず、向こう見ずな行動が大切な取引先を激怒させてしまいました。

私はすぐに菓子折りを持って、T重機へ謝罪のため東京へ向かいました。

「せっかくここまでやってきたのに、スーパーゼネコンを怒らせたら建設業界ではもうやっていけない、あぁ、もうおしまいだなぁ……」
東京へ向かう新幹線の中、自分のお通夜にでも向かう気分でした。

そして、冷や熊汁を流しながらT重機へ到着すると社長室へ通されました。
「どんな叱責を受けても、とにかく甘んじよう」と思い、

K社長にお会いすると、
なんと激怒しているはずのK社長は、笑顔で向かい入れてくれました。

そして、「そんなに気にしなくていいよ。ちょっと勇み足になっちゃったね。建設業界は施工中のものに対してみんな敏感だから、誰が何をやっているかはあまり周りに話してはいけないんだよ。今回T建設さんには私の方からうまく言っておいたから、心配しなくていいよ。次から気を付けてね」と、私の行動に理解を示す、やさしい言葉をかけてくださいました。

X5を世に広めていきたいと必死になるあまり、勢い余って暴走してしまった熊でしたが、懐の大きな先輩経営者さんに救われた出来事でした

(T重機のK元社長(ご勇退されております)、その節は本当にありがとうございました🙇)

のしかかる開発費! 社運をかけた挑戦

その後、建設業界では建機レンタル最大手のA社のお取扱い採用も頂き、徐々にシェアを広げていくことができ、しかし決して甘んじることなく私は気を引き締め、さらなるB-EARの拡大を目指していました。

そんなある日、MK社から「警察庁の入札公告が実施されたんだけど、その内容にB-EAR製品がいけるんじゃないかなぁと思って」と連絡が入りました。

ちなみに、MK社は「詐欺師に騙された同志」という、奇妙なご縁から一緒にお仕事をするようになった会社。

警察庁が求めているものは、「警察航空隊が使用する救難救助用連絡装置」です。

ケガや遭難した登山者を山岳部で救助したり、災害や水害で建物や川の中州などに取り残された方々を救助する際に警察航空隊は出動しますが、その際、ホバリング中のヘリコプターからワイヤーで降下する救助隊員、上空の隊員、またパイロットとが同時通話できる高性能なトランシーバーが必要なのですが、従来のものは「通話ボタンを押さないと通話ができない」「誰かが話している間は他の人は話せない、同時通話が出来ない」「ホバリング音で聞こえない」「音質が悪い」「大きくて重い」などで、使い勝手の悪さから実際の現場では使用しないことも多かったようです。

そのため、現場が絶対に使用する「使えるトランシーバー」が必要でした。

そこで弊社にお声がかかったんですが、しかし当時の主力製品だったX5では、耐久性、完全防水仕様、傍聴防止機能が警察庁の要求する性能に足りず、大幅なアップデートが必要でした。

写真:警察航空隊のヘリコプター

そこで、B-EARの開発元である韓国のスティーブン社長に相談したところ、「ちょうどそういう製品を考えている」との返答がありました。
すぐさま韓国へ飛び、新たな商品開発の打合せを始めました。

新製品は、X5にはない性能。
・完全防水
・10人同時通話可能
・連続12時間以上通話可能
・衝撃構造

これはすべて警察庁が求めるスペックを軽く超えていました。
しかし、そこで上がった一番の問題が、開発費。

その額、1,200万円以上
当時年商1億にも満たない売上の弊社にとって1200万もの資金を捻出することは不可能でした。

次回、「Vo.6:続・オリンピックに警察庁!? 大チャンスに背水の陣で挑んだ開発秘話」の巻

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