2022年、これまで様々なスターを世に送り出してきたエイベックス株式会社が、新たな発掘・育成組織「avex Youth」をスタートさせた。
avex Youthは、エイベックスがこれまで蓄積してきた新人発掘・育成ノウハウを生かしつつ、新たな才能・オリジナルIPの育成を目指して立ち上げた発掘・育成組織だ。そのミッションは大きくわけて二つ。一つは「エイベックスのオリジナルIPでヒットを創出する」こと、そしてもう一つは、「世界を舞台に活躍出来るスターを輩出する」ことだ。
今回はエイベックス・マネジメント株式会社IP発掘育成本部の取締役本部長の都築裕五、新人発掘・育成を統括する三上雄亮、新人発掘を担当する北垣光啓、新人育成を担当する藤井宏典に、世界のエンタテインメントを見据えた組織づくりについて、話を聞いた。
(左から)北垣 光啓/都築 裕五/三上 雄亮/藤井 宏典
グローバルスターを連続的に輩出することを目的に
従来のシステムを見直した新たな組織づくり
都築「近年のAMG(エイベックス・マネジメント)では、AAAがドームで活躍できるアーティストになり、Da-iCEも次に控える一方で、『IPをゼロからイチへ生み出すこと』がなかなか続かない状況がありました。そこで立ち上げた育成組織がavex Youthです」
三上「昨今のSNSの時代では、個人が世界中の人々と繋がることが可能になります。そんな時代だからこそ、世界中で愛されるIPやコンテンツ、スターを送り出したい。ある意味、社会にムーブメントを起こしてきた、エイベックス・グループの原点に回帰したプロジェクトでもあると思っています」
avex Youthでは、「世界でいちばん愛される星になる。」をフィロソフィーに掲げ、最先端の育成カリキュラムを活用しながら、世界で活躍できるスターの発掘・育成を行なっている。同時にこのプロジェクトは、エイベックスの新人発掘・育成のあり方を変える取り組みでもあるという。
新人発掘・育成の過程を透明化
三上「社内的には長年、新人発掘・育成の仕事はあえて『ブラックボックスであるべき』という考え方がありました。そのため、これまでの新人発掘・育成は、社内の人間にも秘密裏に進められることが多かったんです。しかし、エイベックスのリソースをフル活用して、本気で世界を相手に活躍できるIPをつくるためには、これまでと同じ方法ではいけません。新人発掘・育成の過程を透明化し、各所と柔軟に連携を取りながら進められる組織に変える必要がありました」
才能の形はそれぞれに異なる
個性を尊重したカリキュラム
秘密裏に活動していた精鋭部隊から、関係各所と連携して柔軟にアイディアを交換し合うより開かれた発掘・育成チームへ――。こうした変化だけでなく、avex Youthでは世界を意識した改革が行なわれている。まずは、参加者それぞれの「思いの強さ」を可視化すること。近年、育成組織・エイベックス・アーティストアカデミーでは、本気でプロを目指す若者と趣味でレッスンを受ける若者が同じ環境で切磋琢磨していたが、avex Youthの始動などにより、その「本気度」が可視化されることになった。
韓国プロダクションの育成法から肌で感じたこと
北垣「これまで、才能ある様々な子たちをたくさん見てきましたが、やはり本人のやる気や想いの部分が強くなくてはうまくいきません。これは我々がavex Youthを立ち上げる前、XGALXプロジェクト(グローバルアーティストの輩出を目指すプロジェクトhttps://xgalx.com/)を進めていく中で、韓国のプロダクションの育成法などを学びながら肌で感じたことでもありました。韓国では、毎日朝からスタジオに入って、夜遅くまでトレーニングをしていることが当たり前になっていて。その結果が、K-POPアーティストのスキルの高さや、現在のムーブメントに繋がっている。もちろん、私たちの仕事は才能がある子たちのやる気を向上させることでもあるので、その辺りのバランスは丁寧に進めています」
都築「僕らは『アーティストは立派な職業だ』と思っていますから、それを目指しているavex Youth生や保護者の皆さんへのケアも特に気を遣いながら、プロジェクトを進めています」
そしてもう一つの大きな変化は、同じチームが2軸で行っていた新人の「発掘」と「育成」を、二つの部署にわけたことだ。
北垣「以前は新人発掘においてのライバルは日本国内のみでしたが、近年そこに韓国のプロダクションなども加わったことで、競合他社は世界に広がっています。また、育成しながら発掘も担当すると、育成人材と日々コミュニケーションをとって向き合う中で、どうしても発掘の優先度が下がってしまうことがありました。そこで、avex Youthでは発掘と育成を二つの役割にわけ、『発掘専任のチーム』を組織化することで、どちらの軸にもより力を入れられる体制が整いました」
藤井「僕らの仕事は『次の10年をつくる』ことですから、そのためには先を見据えて動かなければいけません。さらに育成の面でも、より世界を見据えた最先端のプログラムを用意していますし、そのための語学習得に関しても本格的なカリキュラムの導入を準備しているところです。『職業として本気でアーティストを目指す人』を預かるという意味で、責任もより明確になった気がします」
そしてもうひとつ、重要なポイントは、「将来的にどうなりたいか」を見据えて発掘・育成を進めていく「出口戦略」だ。これはavex Youthの大きな特徴となっている。
三上「現在のエイベックス・グループには音楽だけでなく、アニメ・映像事業などを担当するAPI(エイベックス・ピクチャーズ)など様々な事業がある中で、近年エイベックスをレコード会社として捉えている人は少なくなってきていると感じます。しかし、出口が多彩になった一方で、新人のデビューにおいては、『本当に向いているのは何か』という本質的な議論の前に、先に声をかけた人が人材の方向性を導いていく構図がありました。avex Youthでは、それを発掘・育成の段階から考え、何より本人の気持ちを大切にしながらサポートを進めています」
ゴールを見据えてカスタマイズする育成カリキュラム
藤井「また、カリキュラムを一人ずつパーソナライズ化していることも大きな特徴です。例えば、グローバルアーティストグループを目指す子の中には、元々ダンスしかやってきていない子がいたり、歌を重点的に学んできた子がいたりします。そういった子に全員同じように歌とダンスのレッスンを与えるのではなく、ゴールを意識しながらそこに持っていく為に必要なスキルを逆算し、付与するレッスンを考えます。『弱点を補う』、『長所を伸ばす』という2点について、本人たちとしっかり話しながら、それぞれが持つ個性を踏まえてサポートすることが最も大切だと思っています。」
世の中に出た瞬間に競争社会の一員になる
都築「さらに、avex Youthは「Tier1」「Tier2」「Tier3」……という形でレベルが区分けされており、その中で上がったり落ちたりというシステムも出てくる予定です。というのも、彼、彼女たちは世の中に出ていった瞬間に競争社会の一員になるわけですから、それぞれの個性を大切にする一方で、心地良い競争も同時に感じながら活動してもらいたいと思っています。また、仮にそのシステムの中で座席に座れなかった子がいたとしても、エイベックス・グループの出口の広さを生かして、『このプロジェクトなら個性が活かせる』と可能性を横展開していきたいと考えています。その結果、多方面でそれぞれの個性を生かしたスターが現れ、そのスターたちを手本に才能が集まる、『才能のエコサイクル』が生まれることを目指しています」
世界一のマネジメント集団を目指して
誰も見たことのない新たな才能を届ける
こうしたシステムに加えて、本場のエンタテインメントの空気に触れることができる海外での研修なども充実している。その一方で、最近では海外出身の若い才能が、所属先としてAMGを選択するケースも出てきているという。
日本だけでエンタメが成立する時代は終わりを迎える
三上「活躍する場所の選択が、日本だけという時代は終わりを迎えつつあります。そうではなくて、avex Youthに所属する子自身がもっと外に目を向けて、世界で起こっていることを肌で感じながら、様々なものをインプットしたり、活動したりしていくことが必要だと思っています」
世界のレベルに身を置くことで、自分の現在地を認識し、より高い目標を目指すようになる。そして世界の様々な人々・場所と連動しながら、よりグローバルな活躍が出来るアーティストを育成できる。avex Youthの最大のミッションは、国や言語の壁を越えて、あらゆる人々の心を震わせるアーティストを輩出することだ。
都築「エイベックスには1990年代~2000年代初頭にかけて全盛期と言われていた時代があり、自分も当時は会社の外側で、一人のファンとして様々なアーティストの活躍を見ていました。僕らは、avex Youthを通して『連続的にヒットコンテンツを創出する』という強い気持ちでいます。最初の目標は、いい意味で、様々なプロダクションの方々の驚異になっていくこと。これが出来れば、世の中全体のエンターテイメント自体が盛り上がっていくはずです」
三上「その結果、世界で一番の発掘・育成組織を目指したいと思っています。僕らはあくまで、才能を探して、磨いて、育てるところまでを担当する人間で、僕らだけではヒットはつくれません。ですから、その磨いた才能をしっかり世に送り出してくれる社内のメンバーとも密にコミュニケーションを取り合いながら、エイベックスを支えるヒットを生み出していきたいです」
都築「そもそも、エイベックスは『誰も出来ないことをやる』ことを大切にしてきた会社です。歌謡曲が中心だった日本の音楽シーンにまったく異なるジャンルでヒットを生み出すことができました。『誰も見たことのない新たな才能を世界に届ける』という強い気持ちを持って、プロジェクトを進めていきたいと思っています」
目指すべき目標や理想のゴールを意識し、個を大切にした育成を続けることで生まれる次世代のオンリーワンな才能たち。ニーズが多様化しつつあるエンタテインメントの世界において、多くの人々を魅了してくれることだろう。
日本から世界を目指す才能を輩出するためにスタートしたavex Youth。このプロジェクトから、エイベックスを背負って世界のトップを獲るようなグループが生まれる日も、そう遠くはないだろう。