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小売領域の第5回テーマは、「リテールテイメントとショールーミング」です。
EC化によっていつでもどこでも物が買えるような時代になり、小売実店舗のあり方が変わり始めています。
今回は、実店舗での新たな提供価値として注目されているコンセプト、リテールテイメントとショールーミングについてご紹介します。
リテールテイメントとは、実店舗での購買体験にエンターテイメント要素を取り入れた概念です。
店舗で商品を手にして試すだけでなく、その店舗でしかできない体験を顧客が体験することにより、購買意欲を掻き立てる効果や、顧客のロイヤリティ醸成、LTVの最大化など様々な効果があります。
ショールーミングとは、実店舗で商品を実際に手にとって確認し、購入はECで行う購入方法を指します。
店舗側は、商品を展示する程度の在庫しか抱えないため、在庫面積が削減され、売場面積を最大限活用することができます。顧客側も荷物の持ち帰りが少なく済むなど、双方にメリットがあります。
なぜ近年リテールテイメントとショールーミングが流行しているのでしょうか。
小売領域の連載初回でご紹介したように、米国ではEC化、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実店舗での販売をメインとした小売事業者の業績不振、事業縮小、破産の事例が増加しています。
こういった背景を踏まえ、小売事業者は、EC上では難しい「実際に手に取って試す」「店員とのコミュニケーション」「商品との偶然の出会い」など、モノを売るだけではない実店舗ならではの体験価値を提供することで生き残りを図っています。
また、実店舗のあり方が変化し、米国でリテールテイメントとショールーミングに対応したイベントや店舗が流行した要因の一つとして、ミレニアル世代の台頭が挙げられます。
2019 年にはミレニアル世代(20~38歳)の人口が 7,210 万人に増加する一方で、かつて米国最大の成人世代であったベビーブーム世代(55~73 歳)の人口は 7,160万人に減少し、ミレニアル世代は米国の成人人口の最大数を占める世代になりました。
主たる購買層として注目を集めるミレニアル世代は、消費動機に「体験」を求めると言われており、リテールテイメントとショールーミングに対応する動きの拡大を牽引しています。
日本国内でも、総人口の約22.3%がミレニアル世代と言われており、ターゲットユーザー層として無視することのできないボリュームとなっています。
このような背景を受け、国内外ではリテールテイメントとショールーミングを提供する様々な企業が出てきています。
今回はリテールテイメントとショールーミングを業界別に①家具家電②食品③アパレルの3種類に分類しました。アパレルでは、さらにD2Cブランドを区分して企業をご紹介します。
ここからはリテールテイメントとショールーミング型店舗の注目事例を紹介していきます。
IKEAは、巨大な店舗空間に家具を中心とした格安な商品を揃え、人々の生活を想起させる展示手法を用いて販売を行う世界最大の家具量販店です。
IKEAの各店舗では、抽選で選ばれたIKEA会員限定の「パジャマパーティー」を不定期で開催しています。
パジャマパーティーは営業時間後に実施され、ベッドの選び方セミナーやレストランを貸し切ってのビュッフェディナーなどIKEAの商品や世界観を体験できる内容となっています。
さらに、様々なセミナーやアクティビティを体験した後、売り場に展示してあるベッドを使用してIKEAに宿泊することができます。
普段であれば店舗が閉店している時間に滞在したり、抽選で選ばれた人だけがパジャマパーティーのアクティビティを体験したりするなど、“ここでしか経験できない”限定体験を通して顧客のロイヤリティを高めるほか、その特別感が話題性や口コミを促進するマーケティング戦略の一つとしても機能しています。
ワコールは、女性用下着販売を事業の中心とする日本の衣料品メーカーです。
ワコールでは、2019年5月より、セルフサービスで計測、商品の検索、試着、購入までできる体験型店舗「ワコール3D smart & try」の展開を開始し、現在、関東、甲信越、北陸、近畿、九州・沖縄と導入店舗を広げています。
体験型店舗では、ワコール独自の3Dボディスキャナーと接客AIにより、サイズ、体重、悩みや好みのデザイン、シルエット等に対応した最適なインナーウェアを提案してもらえます。
3Dボディスキャナーでの採寸にかかる時間は約5秒と非常に手軽で、2回目以降の採寸では、既存データと照らし合わせ、自らの変化を客観視できるということで、人気を博しています。
また、従来型の接客では「販売員にサイズを測ってもらうのが恥ずかしい」という課題がありました。
ワコール3D smart & tryでは、セルフで採寸できるほか、採寸後はAIが自分にぴったりのサイズの下着を提案してくれるため、恥ずかしさを感じずに計測することができます。また、採寸後は、計測データやレコメンド商品のQRコード、カウンセリング情報が記載されたパーソナルシートが発行されるため、ECへの接続もスムーズになっています。
また、コロナ禍において、人と人との接触が極力控えられている中、ワコール3D smart & tryショップでは、アバターを介してビューティーアドバイザーと対話できる「遠隔接客システム」も導入。この取り組みによってさらにECとの接続性を高めています。
b8taは、VRやIoT家電をはじめとしたイノベーティブな商品を販売しながら、ベータテストと呼ばれる製品の運用試験ができる「Retail-as-a-Service(サービスとしての小売)」を提供する小売店舗です。
アーリーアダプター層を中心に注目が集まっているVRゴーグルやIoT家電ですが、ウェブサイトや動画上だけでは、その製品の良さを完全に理解することは難しく、なかなか購買に繋がりにくい現状があります。
店舗で実際に体験してみても、店員に接客をされると買わないといけない雰囲気を感じてしまうなどの課題がありました。
そこで、b8taは、商品との体験機会を創出することを主な目的として出店を始めました。
製品の仕様や特徴は設置されたタブレット上で確認できるようにすることで、来店客はストレスフリーに製品を体験・購入できるようになりました。
2020年時点で、消費者と商品の接点を5,000万件以上創出し、世界中のリアル店舗に年間300万人以上が来店しています。
b8taは、店舗の価値観を「モノを買ってもらう場」から「商品との体験機会を創出する場」へと変容させることに成功しました。
では、なぜたった創業5年のb8taが、こんなにも急成長したのでしょうか。
その背景には、特徴的なビジネスモデルがあると言われています。
b8taは、店舗内の区画を定額で提供する委託販売モデルを採用していますが、一般的な委託販売モデルとは異なり、商品売上から販売手数料を差し引かず、売上の100%を出店企業に渡しています。b8taが受け取るのは定額の月額委託販売料のみです。
月額委託販売料の中には、来店客の行動分析データの提供や、テスターの手配と接客応対、在庫管理、販売代行、イベント実施、POSなど店舗運営に必要なサービスも月額に含んで店舗内の区画を提供しています。
また、店内に複数設置されたカメラを使用し、複数の角度から来店客の動態検出や、製品まわりの手の動き、アイトラッキングなどを実施し、取得したデータを出店企業にマーケティングデータとして提供しています。
本来、店舗出店を行う際、店舗を借りるための敷金・礼金が約1年分かかったり、商品の売れ行きが分からない状態で出店することになったりと、初期費用に加え、出店後の見通しも不透明な場合が多くあります。
そんな小売店の初期費用における不安を解消し、商品に自信を持って出店できるようサポートをしているのがb8taなのです。
このように実店舗で販売したいブランドの負担を軽減し、手軽に出店ができる仕組みのおかげで、顧客のみならず出店者にもメリットのある関係が構築されています。
GU STYLE STUDIOは、2018年11月、原宿に新しくオープンしたオンラインとオフラインを繋ぐ次世代型OMO店舗です。
GU STYLE STUDIOは、専用のデジタルサイネージ、スマホアプリを活用したバーチャル試着、アバターなどのデジタル体験の楽しさに加え、ECと連動し、手ぶらで買い物ができる利便性などを追求した「次世代型OMO店舗」であることが特徴です。
店舗内では、ショールーム的にサンプル商品(全型、各サイズ、1色展示)が置かれており、購入はECで行うようになっています。
マネキンに付属するQRタグの読み込みや、商品を持った試着室への入室により、自動的に自身のアプリ上で当該のアイテムがお気に入り登録される仕組みもあります。
同店専用のデジタルサイネージでは、その場で撮影した顔写真をもとにオリジナルアバターを作成し、アバターに対して好みのアイテムを合わせて様々なコーディネートを楽しめるほか、アプリ連携で退店後もアプリ上でアバターの着せ替えを楽しむことが可能です。
この取り組みは、GUにおけるEC化率を向上させる目的がありました。
そして、GU STYLE STUDIOで試した施策を反映する形で、2019年3月に渋谷店がオープンします。
渋谷店はGU STYLE STUDIOのように店舗で商品を確認し、購入はEC上で行うショールーミング型店舗としてではなく、従来型の既存店舗の良さである店員に接客してもらい、その場で商品を購入して持ち帰ることができるなどのオフライン要素を活かしつつも、GU STYLE STUDIOで活用されたデジタル要素を取り入れたショールーミング型店舗を実店舗運営に当てはめた初の事例となっています。
オフラインで商品を試し、オンラインで商品を購入するという、両者の役割がはっきりと分かれていた「GU STYLE STUDIO」に対し、GU渋谷では、オフラインでの顧客体験の完結を目指しています。
オンラインへの誘導は欠品や在庫切れの際にのみ行い、店舗内の各部に設置されたECサイトへの誘導用のQRタグの案内文は、特別サイズを希望する来店者向けの内容となっています。
GU渋谷では、特別サイズの在庫を置く必要がなくなったことで、すっきりとした空間に、マネキンを用いてバラエティに富んだスタイリング例を提示することが可能となりました。
他にも、順番待ち管理アプリ「Airウェイト」の導入により、試着室前の混雑緩和や待機時間の削減が可能になったり、試着室内に備え付けてあるタブレットから持ち込んだ商品に対する口コミの確認やカラーバリエーションの確認が可能になり、今までの通常店舗にはない新しい買い物体験を提供できるようになりました。
IKEAの「パジャマパーティー」のようなリテールテイメント施策は、商品を実際に体験するということ以上に、施設での楽しかった思い出からブランドのファンになってもらう戦略があると言われています。
リテールテイメントとショールーミングに対応した顧客体験設計を行う際には、単に一過性の楽しさだけを提供するのではなく、その後、顧客とどのような関係性を築いていきたいのかを視野に入れたシナリオを作っていくことが必要でしょう。情緒的な側面を考慮する一方で、GUのように当日試着した商品をECでスムーズに購入できる体験設計や、ワコールのように一度店舗で測定してしまえば、その後ECで自分にあったサイズ商品を購入できるなど、退店後の顧客導線まで視野に入れた、機能的な便益を考慮することも重要です。
小売業界において新たな体験が重視されるようになり、国内外でリテールテイメントとショールーミングに対応する店舗が増加している一方で、「GU STYLE STUDIO」のように新たにショールーミングにのみ対応する店舗へ投資することは、新型コロナウイルスやEC利用増加によって業績不振や事業縮小などの影響を受けた多くの小売業者にとっては投資負担が大きく、現実的な選択肢になりにくいと考えます。
まずは既存の店舗、店員によるハイタッチな接客など、従来の店頭オペレーションを活かしながら、テクノロジーでより良い購買経験をサポートできる要素を見極め、柔軟に取り入れ、ミレニアル世代を中心とした顧客ニーズに適応していくことから取り組み始めるのはどうでしょうか。小さな試行錯誤を数多く繰り返し、自社独自のノウハウを段階的に積み重ねていくアプローチが求められてくるでしょう。
いかがでしたでしょうか。次回は、「省人化ソリューション」についてご紹介します。