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小売領域の第4回テーマは、「店舗向けソリューション」です。
アパレルや小売業者などの企業を中心に、カメラを通じて取得した映像をAIが分析し属性の推定などを行う、店舗向けの画像解析ソリューション市場が年々拡大しています。
従来、実店舗というオフラインの場において、顧客導線を把握し、購買までどのようなストーリーがあるかを把握するには、買物客にインタビューをするなど、定性的手法が多くを占めていました。また、データを元に顧客行動を分析する場合も、従来は来店カウンターとPOSデータを突き合わせ、「来店者のうちどれくらいの人が商品を購入したのか」などの大まかな分析しかできていませんでした。しかし、AIカメラを設置することで、特定のエリアに何人の人が来たのか、また、どれくらいそのエリアに滞在したのかなどを定量的に分析できるようになっています。
具体的には、顧客が来店してから購買するまでの導線の中で、AIカメラでは「店の前の通行状況」「来店」「売場の立ち寄り」を補足することができます。
一方で、AIカメラを使った分析では、来店人数は分かっても、来店したのが何回目なのかはわかりません。また、推定年齢や性別は分かっても趣味嗜好は分からないなど、AIカメラを使えばすべてのデータが揃うというわけではありません。より深く来店顧客を分析したいと考える時に登場するのがビーコンやWi-Fiトラッキングなどの手法です。
例えば、店内にビーコンを設置しておけば、通知設定をONにしたユーザーが来店した際に、アプリを通してクーポンなどの通知を送ることができます。どのユーザーが来店し、クーポンを受けとったのかを分析することで、より深い顧客分析が可能になります。
また、携帯電話キャリアなどが提供している来店分析サービスでは、Wi-Fiスポットを利用したいユーザーが、店舗のWi-Fiに接続することで来店者の属性を可視化できます。
このように、様々なデバイスや手法で取得した情報をもとに、多面的な店内顧客分析が可能になってきました。
今回はそんな「店舗のDX」とも言えるような、店舗のオフライン行動分析をサポートする企業をご紹介します。
ABEJAは小売店向け来店客導線分析ツール「ABEJA Insight for Retail」を提供する、ディープラーニング技術を得意とした企業です。
カメラ映像を元にした画像解析技術をいち早く事業化しており、「ミック経済研究所」によるとABEJA Insight for Retailは、業種別に分析した小売・卸売AI市場の2019年度の売上高の49.2%を占め1位となっています。
ABEJA Insight for Retailは、店舗に設置したカメラを通して来店者数や来店客の年齢・性別、店内の回遊状況など、従来取得できなかった消費者行動を可視化、分析するツールです。さらに、POSデータとの連携により、来店と売上が連動しているかなどを確認することができ、その後の分析支援やコンサルティングまでを一気通貫で行っています。
Flow Solutionsはカメラなどの端末で取得したデータを統合し、分析・可視化・予測などが可能な小売業界向けプラットフォーム「InSight」を提供しています。
ABEJA同様、来店客の属性分析も可能ですが、AI予測によって、予測来店客数に合わせたスタッフスケジュールの作成もできる点がユニークです。
最大30日間の売上と交通量データ、および地域の天気、休日等を加味し、当日の店舗状態の予測も提示するなど、売上向上に対するアプローチだけでなく、ネガティブな事象を事前に予測しコストを抑えるサジェストを行う機能も備えています。
Followupは3Dカメラ、センサーなどのIoTデバイスにより、店舗への入店カウントや顧客行動のトラッキング、滞在時間の計測などを行うリアル店舗分析ツール。
データをPOSシステムと連動させることで、購買率の把握・営業時間の効果測定・商品陳列棚の最適配置などのデータ取得が可能。モバイルネットワークとクラウドを活用することで、簡便かつ低コストでの導入が可能で米国・中国・チリ・ペルー・コロンビア・ブラジル・メキシコ・インドなど、世界中で4,000店舗以上が導入している
Beacon端末からクーポンやセール情報、特別なメッセージなどを、LINE公式アカウントを経由して配信できるサービスです。
一定の距離に近づくと顧客のスマートフォンに通知されるため、買物中の顧客にリアルタイム配信できることが強みです。クーポンは公式アカウントを友だち追加すると受け取ることができ、その後来店客に対するリテンションのためのコミュニケーションも可能です。
全国のソフトバンクWi-Fiスポットから獲得したユーザー情報をもとに、店舗のWi-Fiと接続することで、来店客の属性を可視化するサービスです。
匿名化したソフトバンクの契約者情報と全国のソフトバンクが提供しているWi-Fiスポットの接続情報をもとに、顧客属性を300種類にカテゴライズしており、ペルソナが見えやすくなっているのも特徴の一つです。行動パターンなどから来店時間帯、属性を予測することで、ユーザーのニーズに合った商品やサービスの提供が可能になります。
Googleが保有しているユーザーの行動データをもとに、Google広告配信が「実店舗への来店」につながっているかを把握できるサービスです。
過去に辿ってきた地点を追って確認することができる「ロケーション履歴」を利用して「来店した」などの情報を収集しており、クリックなどのオンライン上でのコンバージョンだけでなく、広告を見たことによる来店など、オフラインでの効果も見ることが可能です。
従来の赤外線による人数カウントからカメラの映像による画像解析へ、ここ数年でオフラインでの顧客分析手法が大きく変わってきました。単純な来店人数のカウントだけでなく、属性の推定や特定エリアにどのくらい滞在したかなど分析できる項目が増えたことにより、顧客への理解も深まっています。
また、昨今の状況から混雑回避のために来店客カウントが利用される、サーモグラフィーで体温を測定するなど、店内の分析のみならず公衆衛生の観点からもAIカメラの導入が各小売店で進められています。
ABEJAの提供するInsight for Retailでは、POSとも連動するため、来店と購買がきちんと相関しているか、相関していなければどんな原因があるのかなど、詳細な分析も可能となってきています。これにより、施策の検証がデータに裏打ちされ、顧客導線や売場の改善サイクルが加速していくのではないでしょうか。
AIカメラだけでなく、ビーコンやWi-Fiを通じたユーザーデータの取得など、オフラインの顧客に対してより多面的な分析が可能となってきています。来店客全体の人数や属性を捉えることのできるAIカメラでは、顧客個人のパーソナリティまでは見えてきませんが、ビーコンやWi-Fiスポット分析を使えば、顧客ひとりひとりの深い部分まで分析をすることができます。
しかし、情報を取得することができる手法が増えていく一方で、すべての施策を実行することはコスト面を考えると現実的ではありません。今後は、手法ありきで闇雲にデータを取得するのではなく、店舗のコンセプトを元に「どのような顧客データを集めるべきか」という議論からスタートして、集めるデータやその手法を取捨選択していくことが重要になってくるでしょう。
店舗内のユーザーの行動、来店したユーザーの情報が定量的に取得できるようになったことにより、離脱率や回遊率、売場での滞在時間などが可視化されるようになってきました。これにより、店舗の価値を効率よく伝えるためにはどのような導線を通ってもらうべきか、またはどんな情報を提供すべきかを、より科学的に検討・構築できるようになりました。
オフラインでも、ECのような導線分析が主流になり、売場の見せ方などや店舗什器の配置を変えるビジュアルマーチャンダイジング(VMD)施策が盛んになっています。今後はこういったリアル店舗での施策を、取得したデータにより検証することが当たり前に行われるようになっていくのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。次回は、”リテールテイメント・ショールーミング型店舗”に関するトレンドについてご紹介します。