小売領域の第3回テーマは、「ECにおける新潮流」です。
前回はEC市場の拡大に伴う、EC構築支援サービスへの需要の高まりについてご紹介しました。今回は、Amazonや楽天等の総合モール型ECとは異なる、新たなEC形態の興隆と、そこから読み取れるECのトレンドをご紹介します。
ECにおける売り方の多様化
前回のブログでもご紹介しましたが、現在Amazonは、EC業界で圧倒的なパワーを誇っており、日本においては約55%のマーケットシェアを占めているという調査結果もあります。これに加え、楽天やYahoo!ショッピング等、国内EC市場は総合モール型ECの存在感が非常に大きい状況です。
一方で、近年、ユーザーの消費行動の変化や、既存の総合モール型ECの課題に着目・対応した新しいECが登場しており、その種類も多様化しています。例として、環境問題に特に配慮したエシカルコマースや、ユーザー間の繋がりを活用したソーシャルコマース、商品分野を特化したバーティカルコマースなどがあります。これらが台頭する背景として、以下の5つが代表的な要因として挙げられます。
消費行動の変化
1.環境問題への意識の高まり
近年、産業廃棄物問題や労働者の人権問題等の社会的課題に対する意識が高まっており、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みに注目が集まっています。このトレンドはアメリカを中心に存在感を強めており、社会的価値や倫理的価値を事業価値と一致させる動きが世界中で加速しています。
2.SNSコミュニケーションの浸透
Facebook、Instagram、twitterに代表されるSNSは世界中の人々の生活に欠かせないものになるまで浸透しました。これに伴い、購買の意思決定に対して、SNSを通じた一般人の発言や投稿が大きな影響力を持つようになっています。
総合モール型ECの課題
3.イメージと実物との齟齬
ECで商品を購入したとき、Web上の画像や文から想像した商品のイメージと、実際に手元に届いた実物が異なるケースがあります。特に衣服の場合、「思っていた色と違う」だったり、「サイズが合わない」といった不満を抱いた経験がある方も多いのではないでしょうか。
4.ベーシックな品揃え
総合モール型ECは圧倒的な品揃えが大きな特徴ではありますが、商品のバリエーションはベーシックなものが多い傾向があります。したがって、日用品などの購入には向いている一方、嗜好性の高い専門商品や買回り品にはやや不向きです。
5.実店舗並のリアルな購買体験ができない
ECでは、購入時に視覚・聴覚以外の五感で商品を感じることができず、また、そこから得られる情報も限定的です。実店舗のように手触りを確認したり、匂いを嗅ぐといったことができないという点でリアルさに欠けていると言えるでしょう。
こうした様々な要因により、新しいEC形態が次々に誕生してきました。本ブログでは、その中でも以下の5つの類型についてご紹介していきます。
1.バーティカルコマース
バーティカルコマースは、個人の趣味・嗜好性の高い商材を扱う、分野特化型のECです。代表的なサービスとしては「BUYMA」や「ロコンド」などが挙げられます。最近ですと、ギフトECである「TANP」のような使用用途を特化させたサービスも登場しています。
2.エシカルコマース
エシカルコマースは、環境保全や社会貢献を考慮した、永続的な取り組みを推進するECです。代表的なサービスとしては「Allbirds」や「RUKAMO」などが挙げられます。
3.提案型コマース
提案型コマースは、専門家が顧客の趣味嗜好に合わせて適した商品を提案してくれるECです。より実店舗の“接客”という購入体験に近づくことを目的としています。代表的なサービスとしては「airCloset Fitting」などが挙げられます。また、2018年にソフトバンクが設立した「ストライプデパートメント」など、大企業の参入も見られます。
4.VR・ARコマース
VR・ARコマースは、VRやAR上での購入体験を提供するECです。5Gの普及やCOVID-19の影響もあり、EC文脈以外でも、VR・AR市場は成長しています。代表的なサービスとしては、「STYLY」などが挙げられます。また、Alibabaが2016年に「Buy+」というVRコマースをローンチし、話題になりました。
5.ソーシャルコマース
ソーシャルコマースは、ユーザー同士の繋がりやダイレクトコミュニケーションといったSNSの特徴を取り入れたECで、大きく5つに分類されます。
SNS型
Instagramが今年の夏に導入した機能「Instagram shop」など、SNSのUIからダイレクトに商品購入が可能なEC
共同購入型
中国のユニコーン「Pinduoduo」など、他ユーザーと協力することで商品の割引を受けることができるEC
CtoC型
「メルカリ」や「ジモティ」、「アマゾンマーケットプレイス」など、個人同士が直接コミュニケーションを取り、売買することができるEC
クラウドファンディング
「kickstarter」や「CAMPFIRE」など、不特定多数の人々から少額ずつ商品開発等の資金を調達できるプラットフォーム。資金援助したユーザーへ商品を提供する場合も多くECの1。
ライブコマース
「17Live」など、ライブ動画を見ながら動画で紹介されている商品をリアルタイムで購入できるEC。ただし、一般的にプラットフォーム内で商品の販売は行っておらず、ユーザーはAmazonや楽天といったECへのリンクにアクセスして商品を購買する。
新しいEC形態に属する主なプレイヤー
ご紹介した5つの新しいEC形態に属する主要なプレイヤーを下記のように整理しました。
注目サービス・動向
ここからは、新しいEC形態のなかでも注目のサービス・事例をご紹介します。
1. サステナビリティを兼ね備えたスニーカーのエシカルコマース「Allbirds」
Allbirdsは、環境・倫理認証を受けたウールや、サトウキビなどの天然素材を中心に製造されたサステイナブルスニーカーを提供しています。デザイン性、快適性の点でも優れており、現在9シリーズを展開しています。
スニーカーの材料は、環境に配慮した独自開発の素材や、リサイクルしたペットボトル等を使用し、サステナビリティを徹底しています。今年5月にはAdidasと提携し、スポーツパフォーマンスシューズ史上最もカーボンフットプリント(CO2e・温室効果ガス)の排出量が低いシューズの開発を開始しました。
また、Allbirdsがサステナビリティ追求において他社と一線を画すポイントとして、独自開発した資源活用技術を、外部に無償公開している点が挙げられます。自社の利益より社会の利益を優先する姿勢を見せており、業界の環境意識をリードしているといえるでしょう。
このような、徹底したサステナビリティ追求の取り組みが環境問題や社会情勢などに関心の高い層から支持されており、現在EC販売に加え、全世界に19店舗展開しています。
2. ゲーム性の高い共同購入型ソーシャルコマース「Pinduoduo(拼多多)」
Pinduoduoは、共同購入による安さを売りにした中国発のソーシャルコマースです。中国を中心に爆発的な人気を誇り、2018年、設立からわずか3年でNASDAQに上場し、その時価総額は296億ドルにのぼりました。
本サービスの注目すべき特徴は3つあります。
・シームレスな購買体験
PinduoduoはWeChatミニアプリ上でも提供しており、WeChat上でのコミュニケーションを通じて共同購入が行われます。さらにWeChat Payでの決済も可能であることから、ユーザーは商品探索から共同購入の招待、決済までシームレスに行うことができます。
・非常に安い商品価格
Pinduoduoが破格の安さで商品を提供できる要因として、生産者と消費者を直接繋ぐことで物流コストを大幅に削減している点、共同購入で発注ロットが大きくなることによる生産コストの削減が挙げられます。
・ゲームをクリアするような楽しさ
Pinduoduoでは「共同購入するためには制限時間内に共同購入者を集めなければならない」というシステムによりゲーム性を高めています。共同購入者を多く集める分だけ安く商品を購入できるので、ユーザーは「制限時間内にいかに人を集められるか」というゲームとして購買を行います。このシステム以外にも、宝くじ機能やランキング機能、2時間という短い有効期限で発行されるクーポン機能など、ゲーム性を高める仕組みが随所に搭載されています。
3. パーソナルスタイリストによる提案型コマース「ストライプデパートメント」
ストライプデパートメントは、「earth music & ecology」等のアパレルブランドを展開するストライプインターナショナルとソフトバンクが合弁で2018年に設立した、高品質ブランドのファッションに特化した提案型ECです。設立から約1年で約800ブランド、10万点以上のアイテムを展開し、10万人のユーザーを獲得しています。
ストライプデパートメントの象徴的な機能が「Personal Styling」です。これは、ユーザーのサイズ、好み、予算等のアンケートをもとに、パーソナルスタイリストがチャットによる接客を通じて商品やコーディネートの提案を個別に行うサービスです。
アンケートでは上述の項目以外にも体型や希望のスタイリング、地域、サイズ、フィット感など、かなり細かくヒアリングを行うことで提案の精度を高め、購入後に違和感が発生することを防ぎます。
4.SNSの要素を取り入れたC2Cソーシャルコマース「Depop」
Depopは、SNSのようなUI/UXを取り入れることで、Z世代を中心に多くのユーザーを獲得しているファッション特化型ソーシャルコマースです。ユーザー数は全世界で1,500万人以上を誇り、9割以上が1995~2009年生まれのZ世代となっています。
アプリには、Instagramのようなフォロー機能、いいね機能などが多数実装されています。これにより、Depop内では、一般的なSNSと同様に強い影響力や発信力を持つインフルエンサーが多く誕生しています。そのため、商品そのものの魅力だけでなく、誰が発信しているかによって商品購入の意思決定がされることが少なくないそうです。
ターゲットユーザーであるZ世代を獲得する仕組みとして、その他にも、独自の
世界観/スタイルを表現できるUIや、コミュニティ形成機能などを搭載しています。
まとめ・考察
総合モール型ECの顧客提供価値は、膨大な商品が揃い、欲しい商品を時間と場所を問わず容易な購買フローで獲得できるという利便性にあります。一方、今回ご紹介した様々なECに共通する1つの要素は「商品だけでなく、購入動機も提供している」という点です。エシカルコマースでは”環境に良いから”、ソーシャルコマースでは”みんなが買うから”、提案型コマースでは”専門家に提案されたから”といった理由が購入の大きな動機付けとなっています。
総合モール型ECの存在感が非常に強い中、これらの新しいECが成長している点を踏まえると、ユーザーは商品を購入する分かりやすい理由や、購入を迷った時の自分自身に対する説得材料を求めていることがわかります。
今回紹介した新しいECでは、それぞれ商品の販売という機能的価値だけではなく、様々な情緒的価値も提供していることが見て取れます。例えば、ソーシャルコマースやライブコマースは視聴体験の楽しさ、クラウドファンディングは商品の開発ストーリーを知る楽しさ、C2Cコマースや共同購入型コマースなどは、コミュニケーションや駆け引きのような楽しさを提供しています。
このことから、新しいECはメディアやコミュニケ―ションとしての機能も果たしており、出品者にとっては、各ECサービスが販売チャネルであると同時にマーケティングチャネルにもなっていると言えるのではないでしょうか。ネット上の膨大な情報の中で自社の商品が埋もれてしまうことを避けるために、今後もこのような体験価値を向上させる取り組みは加速していく可能性は高いでしょう。
いかがでしたでしょうか。次回は、”店舗内分析ソリューション”についてご紹介します。