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イノベーション組織研究18: ウォルマート Store №8

小売をアップデートするウォルマートのイノベーションラボ「Store №8」

EC化への流れが加速する小売業界において、Amazonが圧倒的な存在感を示しています。過去10年の間、Amazonは時価総額を20 倍にまで成長させた一方、米国の主要な小売業者たちは軒並み大きく時価総額を落とす結果となりました。2016年には、Amazonの時価総額は、3,559億ドルとなり、米国の主要小売業者8社の合計額よりも高くなっています。

このように小売業者には苦しい環境の中で、唯一10年間ほぼ時価総額を落とさなかったのが今回紹介するウォルマートです。小売業界においてAmazonに対抗できる最右翼と目されています。

ウォルマートが「Amazonization」の中でも時価総額を維持できた要因には、積極的な買収戦略や、新規事業創出を中心に、デジタルシフトを強く推進していることが挙げられます。その中でも、ウォルマートの次世代ビジネスを開発するために設立されたのが、イノベーション組織「Store №8」です。

Store №8は、スタートアップ創出・育成のためのインキュベーションラボで、2017年3月に設立されました。小売のデジタル化においてAmazonに遅れを取ってしまった同社が巻き返しを図るため、特に、VRや自律型車両、ドローン配送、人工知能などの最新テクノロジーを用いて、未来のショッピング体験をアップデートするというミッションを掲げています。ウォルマート社内にはウォルマート・ラボと呼ばれる小売デジタル化のための研究組織もあり、こちらの組織が短期的な成果にコミットしている一方、Store №8は比較的長期目線で研究開発を行う組織と位置づけられています。

「Store №8」という名称は、ウォルマートの創業者Sam Waltonが創業前にウォルマートの事業アイデアを試していたアーカンソー州のある場所にちなんで命名されました。

インキュベーションのプロセス

Store №8におけるインキュベーションは下記のプロセスで進みます。プロセスを通じてビジネスアイディアをブラッシュアップしつつ、外部人材の採用や、企業買収も実施して事業開発を進めます。

DESIGNフェーズ

Store №8メンバーがアイディエーション、マーケットリサーチ、ビジネスプラン構築を実施し、ビジネスアイディアをブラッシュアップしていきます。このフェーズで初期顧客の発見やステークホルダーの巻きこみをしていきます。

INITIATEフェーズ

CEOおよびファウンディングチームの組成を行います。Store №8の最大の特徴として、このフェーズで任命するファウンディグチームに外部人材を積極的に登用する点が挙げられます。単にスペシャリストを採用するだけでなく、CxOにいたるまで、外部から最適な人材を採用します。人材獲得のため、場合によってはスタートアップや制作会社を買収し、チームを組成するケースもあります。チーム組成後にはより緻密なビジネスプランの作成に移ります。

BUILDフェーズ

独立した事業体としてビジネス開発を推進していくフェーズです。チームを拡大させながら、MVPの開発、ローンチを目指します。

ITERATEフェーズ

ベータ版をローンチし、顧客に対する小規模テストを繰り返しながらプロダクトをブラッシュアップします。

LAUNCHフェーズ

サービスの正式提供を開始し、企業・サービスの拡大を目指します。


これまでのプロジェクト事例

ここからはStore №8によって開発された事業例について紹介していきます。

JET BLACK

「会話型コマース」を取り入れたEC。チャットボットとユーザーの会話を分析してユーザーに商品をレコメンドする機能や、チャットボット内完結型のショッピング機能がある。共働き世帯を主なターゲットに、サブスクリプションモデルでサービスを提供。Store №8から生まれた初のサービス。高級ファッションレンタルサービス「Rent the Runway」の共同創業者であるJenny Fleiss氏を登用したことで話題となった。

SPATIAL&

VRアニメの中でキャラクターと交流しながら、ストーリーの終盤にバーチャルギフトショップで関連商品の購入ができるサービス。2019年2月にアニメーション制作を手掛けるDreamWorks Animation社と共同でローンチ。SPATIAL&は、元々はエンタープライズ向けのVRアプリを開発するVRコンテンツスタジオだったが、開発途中に買収されたことでStore №8と統合した。

イノベーション組織マッピング

これまでビジネスシーズとなるスタートアップを外部から買収している点や、ポートフォリオ企業のCxOを外部から獲得している点からも、オープンな組織と言えます。また、5年から10年後の次世代小売体験の創出を目指しているという点で、既存事業からは比較的近いドメインと言えるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はウォルマートのイノベーション組織Store №8を紹介しました。Store №8は小売体験のアップデートを目指し、比較的長期スパンで最新テクノロジーを活用したビジネス開発を目指しており、ウォルマートの新規事業創出への強い意志を感じます。

各々のプロジェクトを独立した事業として切り出している点や外部人材の採用を積極的に実施している点は注目すべきでしょう。


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