1月に入りエイシングに2人の期待の新人が入社した。
私をはじめ既存の社員には新人に対してエイシングの文化やAIの専門知識を教える役割が任せられる。しかしながら、教育というものは一般的に困難なものと言えよう。
教える際には、3回情報を処理する場面が存在する。教える側が内容を頭の中で整理し、その内容を言語化して相手に内容を伝える。そして相手は頭の中でその情報を理解しようとする。
その3回の情報の伝達が上手くいって初めて相手に教えられたと言える。社員皆必死にいかにして教育者となり得るかに頭を悩ませ、その方法を模索している。
ところで、世界一優れた先生と言えば誰を思い浮かべるだろうか?
近代教育の父ヨハネス・アモス・コメニウスや、また自分たちが中高生の時に教えてもらった先生が一番だと答える人も少なくないだろう。
世界では世界の教育に大きく貢献した教師を表彰する「グローバルティーチャー賞(Global Teacher Prize)」なるものが存在し、日本でも過去5年間で3人の入賞者を生み出している。
過去に1番に選ばれた先生ももちろん優れた先生ではあるが、私はアメリカの物理学者「リチャード・P・ファインマン」を一番に推したい。
ノーベル物理学賞受賞の偉大な科学者 ファインマン
ファインマンが優れた科学者であることは誰もが認める事実であろう。
ファインマンはMIT、プリンストン大学大学院を卒業。その後ロスアラモス研究所でマンハッタン計画に参加し、ロバート・オッペンハイマーをはじめとして、ニールス・ボーア、エンリコ・フェルミ、ジョン・フォン・ノイマンらとともに原発の開発を行った。
その後は、専門分野であった量子電磁力学において経路積分やファインマン・ダイヤグラムを発案し、1965年に量子電磁力学の発展への貢献が認められ、ジュリアン・S・シュウィンガーや朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を共同受賞した偉大な科学者である。
そんなファインマンだが、日本においては先生としての評価はあまり聞かない。
ファインマンが大学で教鞭をとった際の記録をまとめた「ファインマン物理学」は物理学徒であれば誰もがご存知の教科書であるが、よく聞くのはその程度のものであろう。
今回は教育者としてのファインマンに焦点を当てて考えてみたい。
学問に対して誠実であり続けたファインマン
まずファインマンの持つ教育者としての資質において挙げたいのは、学問に対して誠実であり続けたという点である。
ファインマンがブラジルの大学に招かれて、授業を行っていた時の話である。当時のブラジルでは物理学で大成した研究者がおらず、それを見かねたブラジルの教育委員会がファインマンに白羽の矢を立てた。授業においては、ブラジルの学生たちは素晴らしく、ファインマンが問うた質問に対して皆正確に答えることができた。
しかし、ファインマンはこれに違和感を感じた。ファインマンはある生徒を呼び出し、ある事象に対して教科書と異なった見方から質問をした。すると、先ほどまで正確に答えることができた生徒は、その質問に対して答えを述べることができなかったのである。
これが、教科書丸覚えの教え方にあると気づいたファインマンは、ブラジルのお偉い大学教授たちが聞く中で、「この国では科学教育が行われていない」と厳しく言い放った。
この言葉は大学教授たちには耳が痛い言葉であったに違いないが、ファインマンの言葉はブラジルの教育に一石を投じたものとなった。
またファインマン・テクニックはブラジルの学生のように、丸暗記するのを防ぐために、ファインマンが日頃からよく利用していた物事を深く理解する方法の一つである。
以下にファインマン・テクニックの簡単な方法を紹介しておく。
ステップ1|「子どもに教える」つもりで紙に書く
ステップ2|再学習する
ステップ3|再検討と単純化
ステップ4|実際に人に伝えてみる
生徒の視点から優れた教育者の姿を探求
次に挙げたいのは、自身が生徒として学び、様々な先生の師事を仰いでいたという点である。
もちろん、最初に説明したような物理学の世界において数多の有名な先生から教わったことは間違いないが、好奇心旺盛なファインマンは物理以外にも様々な事柄にチャレンジを繰り返し、その度に生徒として学んでいた。
ファインマンがある日パーティーでボンゴを披露している際に、風変わりな男が乱入し、その後意気投合した。その男は芸術家であり、ファインマンと芸術と科学をテーマに議論をぶつけ合っていたが、意見が衝突しまとまることはなかった。
ファインマンは意見が衝突する理由を「それぞれの得意領域に対して知識が足りないからである」と考え、ファインマンはその男に物理学を、男はファインマンに芸術を教えることとなった。当時のファインマンは、その男を良い先生であると評し、それは「自分の気づいていない部分を気づかせてくれるのが上手い」と分析した。
このように、ファインマンは常に生徒の視点からも学び続けることにより、優れた教育者であるためにはどうすれば良いかを考えていたと思われる。
ファインマンの父が真の教育者?
このように数々のエピソードが存在するファインマンであるが、このような人物は如何にして生まれ得たのだろうか?実は、ファインマンの父親であるメルビンにその謎が隠されている。
メルビンはセールスマンであり、特別物理や科学に優れていたりや家庭的に裕福であった訳ではない。しかし、メルビンはファインマンに対していつも「何かの名前を知っているということと何かの意味をほんとうに知るということの違い」を教えていたのである。
それを象徴するエピソードとして、メルビンとの公園での会話が挙げられる。
公園の木々に鳥が止まっているのを見つけたファインマンは「あの鳥はなんて名前なの?」とメルビンに尋ねたのに対して、メルビンは、フランス語やスペイン語など様々な言語でその鳥の名前を答えた。(でたらめに)
そして、またこのように付け足した。「それよりもあの鳥が何をやっているのかよく観察しよう、大事なところはそこだからね」
教育はいつ何時においても、次世代の動かす人材を生み出すために必要不可欠な存在である。優れた教育者が増えることは、その人自身が優れた人物であり続けるよりも何倍も価値があることだろう。
大学や会社において、人に教える機会があれば、良い教育者になるためにはどうすれば良いかというのを考えてみるのも良いかもしれない。
(参考文献) ご冗談でしょうファインマンさん(上・下)
ファインマン初級者向けの増田おすすめの本。文章中で紹介した以外にもファインマンの奇想天外なエピソードが数多く収録されている。そのエピソードは2冊の本には収まらず、スピンオフとして「困ります、ファインマンさん」や「聞かせてよ、ファインマンさん」などが存在。
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