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【出張インターン体験記 Vol2】長野県須坂市 ゲストハウス蔵での研修を終えて

宿場JAPANで長期のインターンをしていた大学3年生のエミュー(本名:小河恵美里)です。今年の3月まで立教大学の観光学部に通いながら、約半年前からこちらでインターンをしていました。

今回も前回の記事に引き続き、姉妹店ゲストハウス蔵での出張インターン体験記をお伝えしていきます。ゲストハウス品川宿と姉妹店との関係性については、1つ前の記事で解説をしていますので、ゲストハウス萬家の体験記(リンク)をまだ見られていない方は、そちらからご覧ください。


目次

①ゲストハウス蔵開業ストーリー

②ゲストハウス特徴と品川宿との比較

・立地と地域の特色

・施設

・客層とニーズの違い

・イベント

③まとめ


①ゲストハウス蔵の開業に至るまで

▲中国で日本語教師をされていた山上さん(中央)


2011年5月から「Dettiプログラム」の1期生として、地元である長野県須坂市でのゲストハウスの開業を目指し、宿場JAPANで修行を積んだ山上万里奈さん。大学卒業後に東京や中国、千葉など、場所を転々としながら、約5年間にわたり日本語教師を勤めていました。その後、東京の商社で2年間、岐阜県の飛騨高山での旅館の仲居として1年間働いていた経験もあります。その旅館で働くうちに、「より一人一人に寄り添った接客がしたい」という思いが日に日に芽生え始め、ゲストハウスの開業を志したそうです。

万里奈さんの地元須坂市は、明治から昭和初期にかけてシルク産業で栄え、現在もその風情ある街並みと地域の歴史が継承されています。その一方で、課題としては人口減少による空き家問題が浮き彫りになっていました。その当時、山上さんは須坂らしさを伝えられ、地域とゲストをつなぐゲストハウスを開業したいという想いを持ってました。「Dettiプログラム」に応募した万里奈さんは、約3ヶ月間の品川宿での修行を終え、宿場JAPANのサポートのもと、物件探しや資金調達、古民家のリノベーションなどの開業準備を行い、2012年10月に「ゲストハウス蔵」を開業しました。

現在はファームステイや移住の斡旋、語学教室の開催など、須坂とそれ以外の場所をつなぐ、地域にとっても重要な場所となっています。

「Dettiプログラム」や、万里奈さんの開業に至るまでの秘話は、先日発売された書籍『ゲストハウスがまちを変える』の第5章「開業支援事業のケーススタディ」(p.208~)の項目に詳しく記載されていますので、そちらも合わせてご覧ください。


②ゲストハウスの特徴と品川宿との比較

【立地と地域の特色】

▲ゲストハウス蔵スタッフ(3月時点)


ゲストハウス蔵は、長野電鉄線須坂駅から徒歩12分のところにあります。須坂市は明治から昭和初期にかけて養蚕業で栄えた町です。国の有形文化財に指定されている建物も多く、今でも「蔵のまち」として、一昔前の歴史が目に見える形で受け継がれています。ゲストハウス品川宿や萬家と比べて、宿の周辺に大規模な商店街がないものの、豊かな田畑を持つ長野では、新鮮な食材を使った美味しい料理を提供する飲食店や、店主のセンスが光り輝くおしゃれな雑貨屋さん、おばあちゃん手作りのおやきが食べれる和菓子屋など、個性的な個人店が散在しています。

▲地獄谷野猿公苑(ゲストハウス蔵スタッフ ゆかさん撮影)


宿から車で5分圏内のところには天然温泉、車で1時間半の場所には、コロナ前は外国人利用客も多かった白馬八方尾根スキー場があります。他にも、車で1時間圏内の場所に雪景色と共に、温泉に浸かる猿を見れることで有名な地獄谷野猿公苑、隣町には「栗のまち」で有名な小布施があるなど、観光資源にも恵まれています。

また、蔵も萬家と同様、周辺に宿が少なく、ゲストハウスが須坂市に滞在ををするきっかけや、ゲストハウスが地域の入口としての役割を果たすことで、移住の促進や地域の観光を活性化させる一つのきっかけを生み出していると感じました。


【施設】

蔵の物件自体は、実際にまゆ蔵として使われていた築年数の古い民家をリノベーションしたものです。「まゆ蔵」という客室では、窓が多いことがその特徴として見られます。

客室は個室とドミトリーの2タイプがあり、ドミトリーは都内では見ることが珍しい、敷き布団式になっています。この場合、完全に隣と仕切ることが難しいため、ドミトリーは男女別になっています。隙間風から冷気が部屋に吹き込みやすい古民家宿ならではの防寒対策として、各部屋に灯油ストーブとエアコン、布団の下に敷く電気毛布が完備されています。部屋の前に広がる縁側からは、降り積もった雪とともに風情ある庭園を望むことができます。

▲万里奈さんのお母さん手作りの絶品タルトタタン(エミュー撮影)


また、ゲストハウスのコモンルームのすぐ隣にはオーナーの万里奈さんのお母様が営む、おしゃれなカフェも併設されています。人気メニューは、日本にタルトタタンを普及した方からお母さんが特別にレシピの一部を教えてもらったという、本格 ”タルトタタン” 。一つのホールケーキにおよそ12個ものりんご使用し、2日間じっくりと煮込んだこだわりのケーキです。ケーキ1ピースにりんごが丸ごと一つ入っているというので驚きです。金・土・日曜日限定の営業ですが、インスタ映えを狙いに来る多くの若い客層でいつも賑わっています。店内にある家具や、コーヒーのマグカップ、お皿なども地域の雑貨屋や、陶芸家から取り寄せたものを扱っており、お母さんの物や素材に対するこだわりや、地域愛を感じられます。

▲2日間カフェのお手伝いをさせてもらいました。


ゲストハウス蔵のコモンルームは、エントランスと直接つながっており、部屋に行くまでに必ずそこを通過する動線になっています。また、入り口も前面ガラス張りになっているように、前回紹介した萬家と設計が似ている部分があります。ただ、規模感としては品川宿よりはもう少し広く、萬家に比べるとやや小さいサイズになっています。また、椅子ではなく、ソファーが置かれているのも特徴的です。まるで家にいるかのような、あまりの居心地の良さに、多くのゲストさんがなかなか立ち上がれずに長居をしてしまいます。ゲストさんとの交流時間が長いのが蔵の特徴でもありますが、その秘訣はこのソファーにあるのかもしれません。

▲古民家の温かみを感じられるゲストハウス蔵コモンルーム(エミュー撮影)


【客層とニーズの違い】

前回の品川宿と萬家の比較では、違いがあまり見られませんでしたが、蔵に関しては少し特殊で、泊まりにくる方のほとんどが長野県民の方という特徴がありました。その理由としては、県民のコロナウイルスに対する危機感が都心に比べて強い傾向にあるからです。スタッフや県内に住むゲストさんのお話を聞いていると、「旅行をしたくてもなかなか外に行く勇気がでない。」という声や、他県からきたゲストさんがある居酒屋に飲みに行こうとした時に、スタッフが「そこのお店では、県外から来たことを口にしない方がいいです。」とお伝えするシーンも見られました。コロナというタイミングもありますが、県民が外に行きづらく、県外の方が長野県に来るのも受け入れ難いという状況でした。

それに加え、長野県では現在も県民割が実施されていたり、長野県内の6つのゲストハウスが連携し、「ナンドモナガノ」というイベントを行っているなど、マイクロツーリズムを加速させる動きが見られました。このイベントは6つのゲストハウスを全て巡り、スタンプを集めると非売品の風呂敷がもらえるというものです。現在セカンドシーズンに突入中で、参加者もかなり多いそうです。

また、蔵の場合は「ADDress」と提携をしていないことも、極端に他県の方が少ないという理由に関係しているかと思います。

ニーズに関しても品川宿と異なる傾向が見られます。蔵の特徴としては、スキー場が宿から比較的近いところにあるため、冬の時期は特にスキー客の需要が多い傾向にあります。また、沢山のファンや、リピーター客に支えられている蔵では、その方々の宿泊頻度が高かったり、オーナーの万里奈さんに会いに泊まりにくるという方も少なくありません。

さらには、長野県内での移住を考えている方の宿泊も多く見られます。その場合、「地域おこし協力隊」という移住支援コミュニティと関係性を持つ万里奈さんが、話を聞きたいという移住検討者をそこに繋げたり、地域との繋がりを活かして仕事探しを手伝ったりするなど、手厚いサポートをボランティアで行ってくれます。これは地域との長年の関わり合いがある、ゲストハウス蔵だからこそできる取り組みだと思います。


【イベント】

蔵では定期的にゲストハウス主催のイベントが行われており、ゲストさんと地域の方を巻き込んでの「クリスマス会」や、「年越し蕎麦作りイベント」、正月には「羽付大会」が催されるなど、季節にちなんだ様々なイベントが開催されています。私が滞在中は、自身が2年間クレープ屋でバイトをした経験を活かして、クレープイベントを初めてやらせてもらいました。長野名物の野沢菜を使った ”野沢菜ツナチーズ” や、長野県産のりんごを使用した ”アップルシナモンカスタード” など、長野ならではの食材を使ったクレープは見事に約60枚分を完食。ゲストさんやスタッフのみなさんにもレクチャーをし、個々でオリジナルのクレープも作ってもらいました。コロナ禍で小規模のイベント開催にはなりましたが、地域住民の方も何人かお誘いして大盛況のイベントとなりました。

▲クレープイベントでゲストさんに作り方をレクチャー


また、他の日にはゲストさん主催のパエリアディナー会が催されたり、蔵スタッフなおちゃんが企画をするサイクリングイベントや、おやき作り体験付き宿泊のプランがあるなど、タイミングもありますが、泊まったその時々で異なったイベントに参加できるのも蔵での滞在を楽しめるきっかけになっていると思います。

▲ゲストさん主催のパエリアディナー会(飲食・撮影時以外はマスクを着用しています。)


③まとめ

2回にわたってインターン出張の体験記をお届けしました。今回は蔵編ということで、ゲストハウス蔵の開業にまつわるストーリーから、品川宿との比較を立地・施設・客層とニーズ・イベントの4つの要素に分けてお伝えしていきました。

私が出張に行った時期はちょうど3月の前半ということで、宿泊業全体が閑散期であったと同時に、コロナによる蔓延防止措置が出せれていたことも相まってなかなか集客が難しい期間でした。しかし、それにも関わらず、毎月宿泊される蔵のリピーターさんや、ゲストハウスによく遊びに来られる地域の方の紹介で泊まりに来てくださる方がいるなど、多くの蔵ファンに支えられていると感じられました。またゲストさんに限らず、ゲストハウスでイベントをする度に参加してくださる地域住民の方や、仕事終わりに立ち寄ってくれるイタリアンのシェフがいるなど、蔵が多くの地域の方から認知され、時にはそこがサードプレイス的な場所になっています。さらに、「いつもお世話になっているから」と手土産やデザートのサービスをしてくれる飲食店の店主がいるなど、地域からも愛され、支えられている存在であることをさまざまな場面で感じることができました。

このように蔵が多くの人から愛される理由としては、万里奈さんがこれまでに築きあげてきた地域の方との関係性はもちろん、地域の入口としてゲストハウスが移住者の支援を行ったり、ゲストさんと地域の仲介役として、まちを楽しんでもらうために観光案内所のような役割を果たすことで、地域にとっても、ゲストさんにとっても頼れる、かけがえのない存在となっているからではないかと思いました。また、蔵のスタッフはお世話になっているぶどう農家さんのところでお手伝いをしたり、ゲストハウス近くのチョコレート屋さんで定期的に働きに行くことがあるなど、ゲストハウスの仕事だけに留まらず、地域のお店で出稼ぎをしているのも、持続的な関係性を維持するための一つのきっかけになっていると感じました。

▲ぶどう農園IWABUCHI FARMに枝拾いのお手伝いにも行きました。


次回は、このインターン出張を通じて感じた、「様々な ”きっかけ” と ”つながり” を生み出す地域融合型ゲストハウスの可能性」についてお伝えします。お楽しみに!

▲ゲストハウス蔵のオーナー万里奈さんと

(執筆:小河恵美里 企画・編集:今津歩)

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