“自己効力感偏重”の落とし穴
ーーいま、組織効力感を再構築する理由
実際、ここ数年の人材開発やキャリア支援のトレンドは「自己効力感(Self-Efficacy)」に大きく偏りがちで、「自分ができる」と思えることばかりにフォーカスされ、「私たちならできる」と思える組織効力感(Collective Efficacy)が見落とされやすい状況にあります。
自己効力感と組織効力感のバランスの問題
最近では、多くの企業が個人のキャリア自律や成長支援が重視される中で、「自己効力感(=自分にはできるという感覚)」を高める取り組みが行われています。たとえば、自己理解を深めるワークショップや、1on1・コーチングなどが代表的です。
一方で、組織全体として「私たちならできる」と感じられる組織効力感への注目が薄れてしまっている問題があると思う。こちらは、心理的安全性のある風土づくりや、共通のビジョンの浸透といった、組織開発的なアプローチが鍵。余談だが、心理的安全性を度々履き違えている人を見るが、それは個人に目が向きすぎるためだとも推測していいます。
自己効力感と組織効力感──どちらも必要なもの
つまり、この2つのバランスが崩れると、組織の中で、以下のような問題が生じやすくなっていませんか?
- 自己効力感ばかりが強調されると…
個々の成長は進みますが、チームとしての一体感や協働意識が希薄になりがちです。
「自分は成長しているが、組織はバラバラ」という感覚が生まれてしまうこともあります。 - 逆に組織効力感だけが強まると…
共通の方向性は保たれますが、メンバー一人ひとりの主体性や挑戦心が抑制され、
「言われたことをやる組織」になってしまうリスクがあります。
重要なのは、自己効力感と組織効力感の両方をバランスよく育むこと。
個が活き、チームも強い──そんな状態を目指すことが、組織の持続的成長につながるんだと考えています。私たちも全然まだまだできてないんですけど、そんなことを考えています。
「自己効力感偏重」が招くリスク
- 個人主義が進み、「組織への貢献は自己犠牲」と感じられてしまう
- チームワークよりも「自分の成果」が優先される空気になる
- 組織の成長に対して当事者意識が薄れ、変化対応が鈍化する
- 成功や失敗の帰属が「自分のせい or 他人のせい」になりやすく、相互支援が減る
なぜ「いま」組織効力感の再構築が必要なのか?
■ 変化のスピードが速く、「正解」がない時代だから- 不確実性が高まる中で、個人では太刀打ちできない課題が増えている
- 「このチームでなら乗り越えられる」という感覚が心理的安全性を生む
- 組織効力感がないと、「自分の身は自分で守る」という空気になりやすい
■ 組織の一体感が失われやすくなっているから
- リモートワークやジョブ型人事の影響で、チーム意識が希薄化
- 「貢献=自分の成果」という捉え方が強くなり、連帯感が育ちにくい
- 特に若手層にとっては、「この組織にいる意味」が不透明になりやすい
組織効力感を構成する3つの要素
- 自信:「私たちでなら乗り越えられる」という実感(成功体験の蓄積)
- 希望:「この先もやっていける」という前向きさ(成長の兆し)
- 連帯感:「一人じゃない」と思える関係性(信頼・支え合い)
これらがそろっていると、
チームで挑むことが、“しんどさ”ではなく“喜び”に変わっていきます。
この3つがあるからこそ、「私たちでなんとかできる」と信じられる状態が生まれる。そんな組織を作りたい。作らなければならないと思っています。
組織効力感を再構築するためのポイントの整理
1. 過去の成功体験を掘り起こす- 「あのときチームで乗り越えたこと」などを振り返りの場をつくる
- 成果よりも“どう乗り越えたか”のプロセスを言語化・共有する
2. 未来に向けた小さなチャレンジを共に設計する
- 「この変化に、私たちならどう挑むか?」を対話ベースで考える
- たとえば、生成AIが台頭する中、私たちはどう挑むか。
- 個人ではなく“チームとしての意志”を育てていく
3. 連帯感を育てる仕掛けを増やす
- 1on1や雑談、感謝を伝え合う場づくり
- 役職や部門を超えて、“共通の敵”※を設定して協働する(例:業界変革、新規PJ)
(※ここでいう共通の敵とは、組織が乗り越えるべき“課題”や“外的な壁”のことを指す)
「共通の敵」はなぜ必要か?
1. 目的意識と団結力を高める- 人は“何のために”働くのかが明確になると、自然と動機づけられます
- 「自分たちはこの課題に向かっている」という方向性が一致すると、バラバラになりにくい
2. 組織効力感の“起爆剤”になる
- 困難や外部要因を前にして「自分たちで変えよう」という意識が生まれる
- 共に立ち向かう経験が、「このチームでならできる」という感覚を育てる
3. 連帯感を生むストーリーになる
- 「あのとき、みんなで〇〇に挑んだよね」が、後々の語り継がれるストーリーになる
ストーリーは組織文化や帰属意識にとって大きな意味を持つ
プロジェクトマネジメントにも”共通の敵”の存在は重要だ
「共通の敵(課題・壁)」
■ ゴールが曖昧だと、タスクは作業になる
- プロジェクトの成功って、結局「何を達成すること?」が曖昧なままだと、
→ メンバーは“とりあえず自分のやることだけ”にフォーカスしてしまう - 逆に、「〇〇という大きな課題を突破するためのプロジェクトだ」と明確になると、
→ 各自の動きが目的に向かって整合される
■ 主体性と当事者意識を引き出せる
- 「自分の役割が、この“敵”にどう立ち向かうためのものなのか」が腑に落ちると、
→ ただの指示待ちじゃなく、提案・工夫が生まれる
■ モチベーションが継続しやすい
- 困難に挑む物語があるからこそ、「やりきろう」「仲間と乗り越えよう」となる
- 成果物や納期そのものより、「目的達成までの道のり」に人は熱を持つ
“敵”と“団結”はセット
たとえば、「このプロジェクトは、"敵(課題)”を解決するためにある。
ーー簡単じゃないが、乗り越える価値がある。この課題を解決し、みんなが笑顔になる未来をつくる」
こんな言葉をかけてくれるPMがいたら、みんなついていくのかな。と
重要なこと
“共通の敵”は目的ではありません。
あくまで、未来の価値をつくるための「きっかけ」にすぎない。
自己効力感と組織効力感。
どちらか一方だけでは、組織は持続的に強くなれないと感じています。
「個が活きて、チームも強い」
こんな気持ちで働ける環境をつくりたい
“誰かのために動く”ことが、“自分のキャリアにもなる”
──そんな組織で働けたら、私たちの仕事はもっと豊かになると思う。
そんな組織を目指して、私たち自身も日々、模索と模索と実践と模索とを続けています。
さっ!やってやろうぜ!!