クルージングヨット教室物語217
Photo by Manuel Weber on Unsplash
「今、空いているから先にヨットを上げてしまおうか」
隆は、ラットを握っている香代に言った。
ラッコは、良い風の中、観音崎まで走って来てから横浜のマリーナまで戻って来ていた。
「せっかく香織がフェンダーとか準備してくれたけど」
香織や瑠璃子が、ラッコを横浜のマリーナのポンツーンに着岸するために舫いロープやフェンダーを船体のサイドに取り付けていた。
「今、マリーナのクレーンが誰も上下架していなくて空いているから、上架してもらおう」
「そうね」
陽子も隆に頷いた。
「そしたら、お昼ごはんは船台の上に載ったラッコのキャビンで食べる感じ?」
麻美子が隆に聞いた。
「うん。それかクラブハウスの2階の厨房設備で料理して、クラブハウスで食べてもいいけど」
「クラブハウスの2階はクルージングヨット教室をやっているから場所空いていないんじゃないの」
麻美子が隆に言った。
「そうか。それじゃ、ラッコのキャビンの中でお昼ごはんだな」
香代が、横浜のマリーナの船を上下架するためのクレーンが設置されているスロープにラッコを挿入すると、横浜のマリーナの職員がクレーンで上げてくれる。
「今日は、お早い帰りですね」
職員は、隆に声をかけた。
「午後からクルージングヨット教室の引き取りだから」
隆は職員に返事していた。
「どんな子が来るんだろう?」
ラッコの艤装を解いて、片付けをしながら香織が隆に聞いた。
「優しそうな子だといいな」
一緒に片付けをしていた陽子も言った。
「1人だけなんだよね」
隆とラットやコクピット周りの片付けしながら香代が隆に聞いた。
「うん。1人だけの方が香代がちゃんと教えられやすいだろう」
「私のために、1人だけにしてくれたんだ」
「そうだよ」
隆は、香代に答えた。
「うそ〜、本当に?」
陽子が隆に聞き返した。
「うちの船って、もう結構人数が多いから1人しか取れないからじゃないの?」
「まあ、それもあるけど・・」
隆は、陽子の言葉に頷いていた。
「さあ、片付けが終わったら、キャビンの中に入ってお昼にしよう」
キャビンの中では、麻美子に瑠璃子、雪がお昼ごはんの準備をしていた。
「なんか美味しそうな匂い」
「シチューか」
中目黒の家でも、よく出て来る麻美子特製のシチューの匂いに隆が答えた。
「シチューっていうか、私としては肉じゃがを作っているつもりだったんだけど、うちのお父さんの貿易会社の肉とかジャーキーを使っていたら、肉じゃが感が薄れてシチューっぽくなっちゃったの」
「でも、これ美味しいんだよね」
隆が答えた。
「隆くんお気に入りの麻美ちゃん特製シチューってところ」
雪が言った。
「麻美子の特製っていうか、お父さんの会社の輸入した肉の缶詰が美味いんだよ」
隆が言って、麻美子に頭を小突かれていた。
「なんかすごい懐かしいんだけど」
瑠璃子がラッコのパイロットハウスの窓から見える眼下の横浜のマリーナ敷地を見下ろしながら言った。
眼下の敷地内では、ちょうどクルージンヨット教室の午前中の授業が終わって、お昼休みで敷地内のあっちこっちでお昼ごはんを食べている生徒たちがたくさんいた。
「去年のクルージングヨット教室でも、お昼はあそこで食べていたな」
香織が言った。
「私も。まだラッコに配属される前で誰も知り合いがいないから、あの辺の船台に腰掛けて、コンビニで買ってきたおにぎりを1人で食べていたな」
陽子が言った。
「私、あそこで朝作るの失敗した卵焼きと生姜焼きのお弁当を食べていた」
香織がステラマリスの船台を指差した。
「それでアクエリアスに配属になったんだ」
「うん。私以外みな男性ばかりだったの」
香織が答えた。
「え、そうなんだ。アクエリアスって香織以外みな男性の生徒だったんだ」
「うん」
隆に答えた。
「ラッコって女の子ばかりだったんでしょう?」
「そうね。麻美子が迎えに行ったから女性ばかりになったのかな?別に、女性だけ割り振ってくれなんて頼んでいなかったんだけど」
「私が迎えに行ったからじゃないよ。だって、私が迎えに行く前から、ラッコの配属って決まっていたみたいだもの」
麻美子が隆に言った。
「たまたまなんだろうね」
隆は答えた。
「でも結果的に、ラッコの配属がこのメンバーで良かったね」
陽子が隆に言った。
「そうだよね。私も最初からラッコが良かったな」
香織が言った。
「でも、今はラッコのメンバーなんだから良いじゃないの」
麻美子が香織の頭を撫でた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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