「もう目の前だから、セイルを下ろそうか」
ラッコが本船航路を無事渡り終えると、隆は皆に指示を出した。
メインとミズンのマスト根元に行くと、セイルのハリヤーどのシートを緩めて、上がっていたメインセイルとミズンセイルを下ろした。
ヨットのセイルは、ハリヤーどと呼ばれるマストに沿って、セイルを上げ下げするシートを引いたり、緩めたりすることで上下する。
「エンジンの速度を上げます」
香代は、皆がセイルを下ろし終わったのを確認してから、エンジンのスピードをあげて、保田の漁港内に入港した。
「ここで、到着時間になります」
漁港の中にラッコが入ると、鈴野さんが言った。鈴野さんの声を受けて、瑠璃子は、スマホにラッコの到着時間を記録した。
「代わろうか」
港内に入ってから、隆が香代とラットを代わった。
保田の漁港には、ゲストでやって来たボートやヨットが停泊するためのポンツーンが付いているのだが、既にラッコと同じ横浜のマリーナから出航して来た船がいっぱい泊まっていて空きがなかった。
「アンドサンクの横に泊めさせてもらおうか」
隆は、既にポンツーンに停泊しているアンドサンクの横付けしようと考えていた。
「アクエリアスの横は?」
ラットを握っている隆の背後に香代と立っていた麻美子が、隆に聞いた。
「アクエリアスって、ポンツーンの向こう側じゃん。あっちに回り込むの」
「大変?」
「別に、大変ではないけど」
隆は、麻美子に答えた。
「だったら、アクエリアスの横に泊めてよ」
麻美子は、隆に指示した。
「アクエリアスと離れたところだと、香織ちゃんがこっちに来るの大変になってしまうじゃない」
「わかった」
隆は、麻美子の指示で、ポンツーンの反対側に回り、アクエリアスに横付けした。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など