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クルージングヨット教室物語107

Photo by Winston Chen on Unsplash

「え、何を持ってきたの?」

隆は、衣装バッグを持って、横浜のマリーナにやって来た瑠璃子に聞いた。

「だって、向こうで卒業式なんでしょう」

瑠璃子は、持っていた衣装バッグのジッパーを少しだけ開けて、隆に、中に入っているピンク色のワンピースを見せた。

「え、卒業式に出るための服をわざわざ持って来たの?」

「私、デニムしか持って来ていないんだけど・・」

陽子が、隆に言った。

「いや、皆、ヨットで乗っていた服のままで卒業式だって参加しているよ。わざわざ、卒業式のために着替える人なんかいないよ」

隆が、陽子に答えた。

「麻美子、ここにも、もう1人麻美子みたいな考えの人がいたよ」

隆は、瑠璃子の持っている衣装バッグを見せながら、麻美子に言った。

「え、どんな服にしたの?」

麻美子に聞かれて、瑠璃子は再度、自分の遺書バッグのジッパーを少し開けて、麻美子に見せた。

「かわいい!瑠璃ちゃんに似合いそう」

麻美子は、衣装バッグの中を覗き込んで、笑顔になった。

「向こうに着いたら、着ている姿を見せてね」

麻美子に言われて、瑠璃子も嬉しくなった。

「さあ、出航しようか」

横浜のマリーナ職員に頼んで、ラッコをクレーンで下ろしてもらった。といっても、他のヨットも、横浜のマリーナ主催の保田クルージングに参加するので、クラブレースの時と同じように、クレーンの順番待ちで下ろしてもらうのを待つこととなった。

「そろそろ出かけるよ」

アクエリアスの中村さんが、ラッコのグループと一緒にいた香織のことを迎えに来た。アクエリアスは、ラッコのようにマリーナ敷地内に上架しているのではなく、マリーナ近くの海上に浮かべて保管されているので、出航時に、いちいちクレーンで下ろしてもらう必要がない。

そのまま、千葉へ出航できてしまうのだ。

「それじゃね、バイバイ」

「向こうで会おうね」

麻美子は、アクエリアスで先に出航する香織に声をかけた。

「どうせ、クレーンで下ろしてもらうまで、まだ時間かかるし、アクエリアスの舫いを外して、お見送りに行こうか」

隆と陽子たちも、香織と一緒にアクエリアスが泊まっているポンツーンへ行った。

「雪、アクエリアスの舫いロープを外してあげなよ」

雪は、隆に言われて、アクエリアスのもやいロープを外した。

「結び方がまだ多少アヤフヤなだけで、別に舫い結びを外すのはどうってことないのよ」

雪は、アクエリアスの舫いを手に持ちながら、隆に言った。

「それはそうだね、外すのは、誰でも問題なくできるか」

隆は、雪に答えた。

「雪が、何の問題もなく舫いロープを扱っているところを見せたら、アンドサンクの上野さんお墨付きで卒業できるかと思ったんだけど、アンドサンクは今、自分の船の出航準備で雪の舫いどころじゃなかったわ」

隆は、アンドサンクのデッキ上で、出航準備している上野さんたちの姿を確認しつつ、雪に言った。


作家プロフィール

主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など


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