クルージングヨット教室物語102
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「どうしたの?」
隆が、ポンツーンにやって来て、雪に聞いた。
「上野さん、うちの雪がどうかしましたか?」
「いや、もう半年ぐらい経つでしょうに、舫いもぜんぜん結べないから」
「そうなんですか。すみません、私の指導不足です」
隆は、上野さんに謝った。
「そっちじゃないよ、下から通さないと・・」
隆は、雪の結ぼうとしているロープの一方を取ると、雪の持っている側の下側に通してみせた。
「後は、わかるだろう?」
隆に言われて、隆からロープを受け取ると雪は、それを全然違う方向に結ぼうとして、結ばれずにするりと抜けてしまった。
「じゃ、いいよ。クリート結びはできるだろう」
隆は、雪が結ぼうとしていたビットの手前にあるクリートを指差して、
「そっちのクリートに八の字でクリート結びすれば良いだろう」
「それならばできる」
雪は、くるくると舫いロープをクリートに結んでみせた。
「まあ、今回はクリートがあったから、クリートに結ぶのでも良いけど、舫い結びぐらいは基本なのだから、ちゃんと結べるようになっておけよ」
上野さんは、雪に言った。
「すみません、しっかり結べるように教えておきます」
雪と一緒に、隆も上野さんにお辞儀した。
「ほら、ラッコも来たよ。ラッコの舫いも取って結んできて」
隆は、雪に言った。
ポンツーンには、アンドサンクや他の船もいっぱい泊まっていて、ラッコが泊められる場所の空きが無かったので、ヘルムを取っていた香代は、ポンツーンに泊まっていたうららの横に泊めていた。
雪は、ラッコの舫いを結ぶために、一旦ポンツーンからうららのデッキ上に乗ってから、ラッコの舫いを香織から受け取り、うららの船首のクリートに結んだ。
船尾のクリートには、陽子が舫いロープを結んでいた。
「雪、そこのクリートはクリート結びでなくて、舫い結びで結ぼうか」
隆が、クリート結びで結んだ雪に言った。
「え、ここって舫い結びで結んだ方がいいの?」
「いや、そうじゃないけど、舫い結びで結ぶ練習」
隆にそう言われて、雪は必死で舫い結びで結び直そうとしていた。
「私、結ぶよ」
瑠璃子が、もたもたしていた雪を見て、代わりにもやいロープを受け取ろうとした。
「瑠璃ちゃん、いいから手を出さないで。そのロープは雪に結ばせて」
隆は、代わろうとしていた瑠璃子に伝えた。でも、1人では結べそうもなかったので、陽子が雪の側に行くと、雪に結び方を教えていた。
「どうしたの?なんかあったの?」
麻美子が、隆に聞いた。
「え、なんかさっき怒られちゃったんだよね。雪ってまだ舫い結びも結べないんだって」
「え、そんなことないでしょう。ちゃんと結べるよね」
麻美子は、雪のことをかばって言った。
「ううん、結べなかったの」
「え、結べていたじゃない。前に、初めてラッコのキャビンで出会った時」
麻美子は、ヨット教室の初週の時のことを思い出しながら言った。
「あの時は結べていたんだけど、あれ以来、全然結んでいなかったし」
「そうなの」
「なんか、私が結ばなくても、陽子ちゃんとか皆が代わりに結んでくれちゃっていたから」
「あ、そうか。確かに、私たちが岸壁とか乗り移る前に、若い子たちが着岸とかだと真っ先に岸壁とかに飛び移って結んでくれていたものね」
麻美子は、雪を擁護していた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など