「まだクレーンの順番が来るまで時間がかかりそうだね」
「あんなに下ろす船があるんだものね」
土日の横浜のマリーナの朝は、ヨットやボートを出航する人が多いから、クレーンで海に下ろすボートやヨットの数も多く、下ろすためのクレーンが順番待ちになっていた。
「ベンチにでも腰掛けて、のんびり待っていよう」
隆と陽子、瑠璃子、雪は、マリーナ敷地内に置かれているベンチに腰掛けてお喋りしていた。
「まだ当分かかるよ。あれだけの船が皆、下りるのだから」
「でも、来月で本当に卒業なんだね」
「私も、卒業してもラッコに乗りに来るからね」
さっきの香代の話を聞いていた瑠璃子が、隆に念を押していた。
「私も乗りに来たい」
「私も、隆さんと麻美ちゃんの迷惑でなかったら乗りに来たい」
陽子が言った。
「陽子ちゃんは、迷惑なわけないじゃないね」
隆の方を見ながら、瑠璃子が陽子に言った。
「ね、そろそろ順番来そうだから、私、先にポンツーンに行っているよ」
雪が、隆に言った。
「わかった、お願いします」
「ラッコがポンツーンまで来たら、向こうから手を振るから、来てね」
「了解!」
雪は、一足先にポンツーンに向かった。
もうあと少しでラッコのクレーンの順番といっても、まだもう少し下ろしてもらえるまでには時間がかかりそうだった。
ラッコが下りてくる前に、上野さんのアンドサンクというヨットがクレーンで下された。海上に下りたアンドサンクに、オーナーの上野さんやクルーたちが乗り込むと、ポンツーンへ着岸するために近づいて来た。
ポンツーンには、雪以外にもう1人いて、彼がポンツーンに近づいて来たアンドサンクから後ろ側の舫いロープを受け取り、ポンツーンのクリートに結んだ。
ポンツーンには、彼以外には雪しかいなかったので、必然的に雪がアンドサンクの前側の舫いロープを受け取ることになって、舫いロープを片手に持ったまま、アンドサンクの船体を抑えていた。
「どうした、結んでくれる?」
アンドサンクの上野さんが、自分のヨットの船首にやって来て、ポンツーン側で舫いロープを手に持っていた雪にお願いした。
「はーい」
雪は、持っていた舫いロープをクリートに引っ掛けて、立ち往生していた。
「どうしたの、そこに舫い結びしてもらえれば、こっちでロープの長さを調整するから」
「はい、わかりました」
雪は、上野さんに元気よく返事はしたものの舫い結びがうまく結べずにおろおろしていた。
「何、うまく舫い結びができないのか?」
上野さんは、アンドサンクのデッキ上から雪に聞いた。
「あ、はい・・」
「君は、ラッコさんのとこの生徒さんだよね。まだ舫い結びもできないのか」
上野さんは、雪に呆れていた。
「とりあえず自分で思うように結んでみな」
上野さんは、自分のヨットのデッキ上から雪に結び方を指示していた。
「そっちじゃない、下をくぐらすんだ。右から下に向かって通す」
雪は、上野さんの指示を聞きながら、必死に舫い結びをしようとしていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など