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「島内観光ってどこに行くの?」
「わからん、麻美子の聞いてくれ」
タクシーの中で、隆と陽子は話していた。
後ろの座席に座っている3人には、どこへ行くのかわからないままに、タクシーは港、海ぎわから島の内部へと山道を上っていき、時鉈温泉に到着した。
「どこか、もっと面白いところに行くのかと思ったら、いきなり時鉈温泉なんだ」
隆は、タクシーを降りると温泉の入り口から中へ入りながら、麻美子に言った。
「私だって式根島なんてきたことないし、初めてなんだもの。そんなあっちこっち知らないわよ」
麻美子は、隆に答えた後で、
「それじゃね、バイバイ」
と男湯と女湯で別れているところで、隆に手を振った。
「なんだ、俺1人だけか」
「1人じゃ寂しいよね。私も、そっちに行こうか」
ちょっと寂しそうに隆が言っていたので、陽子が言った。
「こっちに来るか」
隆に言われて、陽子が男湯に入りそうな素振りをして見せていたので、麻美子が慌てて陽子の腕を女湯の方に引っ張っていた。
「陽子、男湯に入ってきても大丈夫だったよ」
隆が、お風呂に入ってきた後にエントランスに戻ってきて、そこで涼んでいた陽子に伝えた。
「そうなの、何で?」
「だって、男湯に人が誰も入っていなかったもの」
「そうなんだ」
陽子が答えた。
「へえ、隆以外に誰も入浴していなかったの?」
「誰もいない。1人で両手両足をめいっぱい伸ばして入浴してきたよ」
隆が自分の両腕を大きく伸ばしながら答えた。
「女湯は、けっこう混んでいたよね」
「麻美ちゃん、香代ちゃんがサバ焼き定食を食べたいってさ」
「本当、美味しそうな定食ね」
瑠璃子が、香代と奥にあった食堂のメニューを見てきた感想を伝えた。そこの食堂のメニューは、エントランスのソファにもチラシが置いてあったので、それを眺めた麻美子が言った。
「夕食、ここで食べていってしまおうか」
「雪ちゃんも一緒に来ていたら、ここで食べていちゃっても良いのだけどね」
隆が言ったが、麻美子に止められた。
帰りは、表の道路に出るまで、のんびりブラブラと歩いてから、またタクシーを拾って戻って来た。漁港に到着する少し前でタクシーから降りると、魚屋さんでお買い物をしてラッコに戻った。
「雪、もしかして酔ってる?」
隆は、メインサロンで頬を少し赤くしてビールを飲んでいた雪に聞いた。パイロットハウスで宴会をしていたアクエリアスのメンバーたちも、既に結構飲んで出来上がっていた。
「飲み組は、夕食でなくてもお酒とつまみで何とかなりそうね」
麻美子は、温泉組を中心に夕食の準備をした。
「え、サバ焼き!」
香代は、今日の夕食を見て、叫んだ。
「そう、温泉でサバ焼き定食を食べたいって話していたでしょう」
麻美子は、香代が言っていた言葉を覚えていて、今夜の夕食はサバ焼きにしたのだった。
「明日は、懐かしの大島に行って、その後に横浜に帰るんだよね」
「あーあ、横浜に帰りたくないな」
「もっと、あっちこっちクルージングしていたいよね」
陽子と瑠璃子が話していた。
「これから八丈島とか行くか?」
「八丈島より隆さんが行きたがっていた御蔵島に行こうよ」
「そうするか、御蔵に行くか」
隆は、陽子に賛成した。
「陽子ちゃんって、週明けから会社に行かなくても大丈夫なの?」
「会社はあるけど」
「それじゃ、御蔵なんて行けないじゃないの」
麻美子は、陽子に言った。
「行きたいなって話をしていただけだよ」
隆が、麻美子に言った。
「隆の言い方は、話だけじゃなくて、本当に会社サボりそうにしか聞こえないけど」
麻美子の言葉に、隆は苦笑するしかなかった。