クルージングヨット教室物語46
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「陽が落ちて暗くなる前に、ちょっと新島の街を見てこようか」
キャビンの中で寛いでいた皆に、隆が声をかけた。
「うん。遊びに行ってこよう」
皆は、小さいバッグを肩から下げて、出かける準備をしていた。
「アクエリアスも一緒に行くかな」
麻美子が、背後に停泊しているアクエリアスの中を覗き込むと、もう出かけてしまった後みたいで、アクエリアスの船内には誰も残っていなかった。
「ちょっとだけ出かけてきます。すぐに戻ります」
隆が、岸壁で宴会をしていた隣のヨットの人たちに声をかけてから出かけた。
「行ってらしゃい」
漁港を出ると、島の海岸沿いの道路を街の方へ向けて、ぶらぶらと歩いていた。
「なんだか、すごい人の数ね」
新島の中心街の通りは、海岸沿いから島の上の方に上がっていくように伸びていた。中心街の目の前には、海岸、ビーチがあって、ビーチは、ものすごい人の数で溢れていた。
青やら赤やらの派手な水着を着た男女で、ビーチは満杯だった。
「なんか皆、すごく若い人ばかりじゃない」
「ああ、夏の新島や式根島は、高校生や10代の子たちでいつも溢れているよ」
隆は、麻美子に答えた。
「歩いている子たちが皆、香代ちゃんよりもさらに若い子ばかりよね」
ラッコの皆は、街の中心街の目の前のビーチまでやって来ていた。
「水着、今回のクルージングに持って来ている人はいる?」
「一応、私も持っては来ているけど」
陽子が隆に答えた。
「私も持って来ているけど、このビーチで水着を着る自信はないかな」
瑠璃子も答えた。
「私が持って来た水着ってワンピースだし」
「だよね、私もワンピース。ここで着ている子たちってビキニばかりだものね」
瑠璃子と陽子は、話していた。
「ここで、おばさんが水着を着てうろうろしたら完全に場違いよね」
麻美子と雪も話していた。
「それじゃ、ビーチは諦めて、商店街の方へ行ってみるか」
隆の提案で、ラッコの皆は中心街の坂道を上っていた。坂道の両端には、商店が並んでいた。
「お店で売っているものが観光地らしくない」
瑠璃子が、店の中を覗きながら、感想を言った。
商店街のお店の中には、お土産屋さんみたいな店もあるのだが、おしゃれなアクセサリーやらアパレルを販売しているお店の方が遥かに多かった。
まるで、東京の原宿のお店が新島に移動してきたみたいだった。
「これは、なんかわざわざ伊豆の島までやって来た感がないわね」
麻美子は、新島の商店街に呆れてしまっていた。
「新島と式根島は、熱海からも高速船で来れるから、夏休みの高校生が多いんだ」
隆は、麻美子に説明した。
「香代ちゃん、迷子にならないでね」
麻美子は、横にいる香代の手を握った。
「私も、なんか迷子になってしまいそう」
「陽子ちゃんも、手を繋いであげようか」
麻美子が、笑顔で陽子に言った。
「まあ、迷子になっても、漁港まで戻れば良いだけだよ」
隆は、陽子に答えた。
「これは、香代ちゃんの島だね」
雪は、新島の様子をラッコで一番若い香代を例としてあげていたが、当の香代自身は、こういう場所があまり得意ではないようだった。
「新島でも、もっと静かな場所もあるから、明日の午前中は次の島への出航前に、ちょっとそっちの方も散歩してみようか」
隆が言った。
「なんか買うものがあるなら、必要な食料品だけ補充してからヨットに戻ろうか」
麻美子が、魚屋とかに立ち寄って、今晩のおかずだけ購入すると、皆はヨットに戻った。